ひとつめのよすが
「――やあ、翠蓋を透かして降り注ぐ光も美しいが、こうして晴れ渡る空もまた趣深い。」
「うわっ!?」
すぐ近くから唐突に声をかけられて、フィンは飛び上がった。
見ると、ソーチャンどのが大枝のひとつに腰掛けて、緩やかな笑みとともにフィンと同じものを見ていた。
――絵になる人だなぁ。
崩したあぐらで、ともすれば粗野にも見える座り方なのだが、不思議と品格のある佇まいであった。
というかこの人は、立っても座っても歩いても戦っても一挙手一投足がいちいちカッコいい。それでいて、すべてがごく自然体である。いったいどうすればそんな立ち振る舞いができるようになるのやら、フィンにはわからない。
「おはよう、フィンくん。体の具合はどうかね?」
「お、おはようございます! 御心配には及ばないであります!」
優しい目で見守ってくれる人に、フィンは嘘をついた。
一瞬、ソーチャンどのの眉が哀しげに下がったような気がした。だが、すぐに包み込むような微笑みが、フィンの心をじんわりと温めてくれた。
「うむ、君が元気になってくれると小生もうれしい。本当に、無事でよかった。」
「ソーチャンどのが来てくれたおかげであります。とてもお強いのですね、ソーチャンどのは」
「……これでも六度ばかり世界を救っておるからな。嫌でも荒事の手妻は身についてしまうものである。」
ふぅ、と遠い目をして息を吐くソーチャンどの。
そのさまがなんだかおかしくて、フィンは小さく笑った。
「いや/\、これが笑いごとではないのだよ。三度目の危機などは、本当にもう、小生は探偵をやめようかと思ったほどの惨事であった。」
「たんてい……?」
「あゝ、迷子を探したり、子猫の里親を探したり、食い逃げをひっ捕らえたり、旧世界の邪神に再封印を施したりするお仕事である。」
最後かなり飛んだな。
「た、たいへんなのでありますね……」
「うむ、大変である。収入は安定せぬし、頻繁に命を狙われるし、最近なんだかただの便利屋のような扱われ方であるし、収入は安定せぬし、公権力からは睨まれるし、迷惑な戦闘狂どもにはよく懐かれるし、収入は安定せぬし、収入は安定せぬし、美しい女と知り合えたかと思えば仇として命を狙われるし、収入は安定せぬし、祀くんは怖いし……」
言葉を重ねるたびに、秀麗な面がだんだんとうつむいていった。ぶつぶつとその後も何ごとかを呟く。
だが、ふたたび顔を上げた時、しみじみと深く噛みしめるような笑みがあった。
「だが、まぁ、なんやかんやで楽しい生き方ではある。さまざまな奇縁に恵まれて、小生はけっこう幸福なのではないかなと思うよ。」
胸に宿る、たくさんの絆を味わうように、彼は目を閉じた。
――不思議な人だな。
ソーチャンどのの声と笑顔には、どこか深いところで人を慈しみ、安心させる力がある。この人は、目の前の人間に対し、無意識のうちに感謝しているのではないだろうか。小生と出会ってくれてありがとう、とでも言うように。
きっと、根本的に人間というものが好きなのだろう。
「フィンくんは、どうであろうか。」
「小官でありますか?」
「きみにとって、小生のことが良き縁となっているのなら、こんなにうれしいことはない。」
フィンは目を輝かせた。人に見せるためではなく、胸の底から溢れ出てくるような笑みが浮かんだ。
「小官はソーチャンどのと出会えてとってもうれしいでありますっ!」
「良かった。では我らはすでに友達であるな。」
「ともだち……」
それはフィンにとっては、新鮮な響きであった。上官と部下ではなく、戦友でもなく、親子でもない。ただのともだち。
何か理由があって培われたものではない絆。
「ともだち……ともだち!」
体の不調も、今は気にならない。
「えへへ、ともだち」
素敵な宝物となって、「ともだち」という言葉はフィンの胸に大切に仕舞い込まれた。
芽生えたばかりの絆を確かめるように、ちいさなこぶしを胸に当てた。
すこしはにかみながら、ソーチャンどのを見上げる。
見上げようとする。
瞬間。
「あ……?」
視界が傾いた。両脚から不意に力が抜け、そのばに崩れ落ちる。
その背に、優しくも力強い腕が回された。
一瞬でソーチャンどのがこちらに肉薄し、フィンの体を支えたのだ。
「あ……も、申し訳ないであります……」
こちらもオススメ!
私設賞開催中!
いいなと思ったら応援しよう!
小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。