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着地狩りはやめろォ!!

  目次

 そして――バネ仕掛けのように、解き放たれる。
 高速回転した紅い刃が絶叫を上げながら円盤を形作り、飛翔。赤黒い鎖がその後を追随する。
 円盤はシャイファたちの潜む大樹の幹を、何の抵抗もなく通過。ついでに横にあった木々も勢い余って次々と伐採してゆく。

「殿下! 失礼をば!」

 険しい声とともに、シャイファは腰を抱えられた。
 不気味な軋るような音とともに傾いでゆく大樹の幹を、ケリオスが素早く駆け下ってゆく。
 その小脇に抱えられながら、シャイファは魔弓を引き絞って速射。悪鬼の王の動きを牽制する。

「っ! いかん!」

 混沌飛竜ケイオスワイバーンが咽喉部を膨らませ、こちらを見ていた。
 溶解液を放射。狙いは切断された大樹の根元。必ず通過しなくてはならない場所だ。
 ケリオスの手に光が収束し、螺旋状の紋様が刻まれた大槍が出現する。神統器レガリア黎明を貫くものロンサール〉。
 その権能は単純。伸びる。ただそれだけ。
 神代の威風をまとった大槍が、下方に伸長。大地に突き刺さり、そのまま二人を棒高跳びめいて大跳躍させた。
 〈黎明を貫くものロンサール〉には溶解液がかかってしまったが、むろん神統器レガリアがそんなものでどうにかなるはずもなし。
 シャイファとケリオスは地面に投げ出された。素早く一回転して跳ね起きる。
 瞬間、紅い刃が横薙ぎに襲いくるのを、ケリオスは得物を掲げて防いだ。
 だが受け止めきれず、そのまま吹き飛ばされる。

「じぃやっ!」

 ケリオスは背中から樹に激突し、崩れ落ちた。
 そして――シャイファは、自分がたったひとりで悪鬼の王と対峙していることに気づく。
 オークどもと戦っていた騎士たちは、姫君を守ろうと慌てて駆け寄って来ていたが、目の前の敵がシャイファを八つ裂きにするほうがどう考えても早そうだった。

「死ねヤ」

 大戦鎌が、振り上げられる。大樹すら両断する一撃だ。防ぐ手段などない。
 〈天道駆ける濫觴星セレスティアル・ロア〉を二つに分離させ、双剣として構える。気休めにもならない備えだったが、最期まで戦うつもりだった。
 朱い落雷のごとき一撃を、シャイファは辛うじて横跳びにかわした。だが、地面が爆裂し、衝撃波で吹き飛ばされようとは予想できなかった。

「きゃんっ!」

 砕けた石や木片が全身を打ち据える。完全にバランスを崩し、地面に倒れ伏した。目尻に涙を溜めながら、起き上がろうとする。
 冗談みたいな破壊力だった。恐らく魔法的な現象ではない。純粋に腕力だけで今の破壊を成したのだ。当たればシャイファは原型などとどめまい。

「チョこまか動いテんなオラァッ!!」

 顔を上げた時には、すでに第二撃が振り上げられていた。回避などどう考えても間に合わない。

「おォッ!!」

 だが――横合いから白き閃光が幾条もオークに襲い掛かった。黒い魔鎧が激しく火花を散らし、わずかに体勢が崩れる。
 ケリオスが、こめかみから血を滴らせながらも〈黎明を貫くものロンサール〉で攻撃を始めているのだ。
 刺突を繰り出す速度に、槍自身が伸びる速度が乗って、致死の閃光と化した。

「殿下! お下がりを!!」
「う、うんっ!」

 慌てて起き上がり、オークから距離を取る。双剣を合体させ、魔弓を構えた。だが、手元に矢がない。足元の手頃な石を拾ってつがえた。オークのなめし皮のような表皮を貫通することはできないが、それでも顔面で火球を炸裂させれば目くらましにはなる。
 見ると、他の騎士たちも鬨の声を上げて悪鬼の王を取り囲み、幽骨の剣で一斉に斬りかかっている。
 意を決して、シャイファは火球の宿った石ころの狙いを慎重に定めた。

「――うぜェよ!! カス雑魚どモ!!」

 オークが大戦鎌を振り回す。朱い軌跡が追随する。刃の打ち交わされる硬質の悲鳴と、体勢を崩して吹き飛ばされる騎士の苦鳴。シャイファは機を見計らって石を射込み、敵の顔面で炸裂させる。

 ――なに……?

 不可解なものを感じる。
 このオーク個体。確かに強い。明らかに大族長ウォーボス級だ。他の一般オークと比べても別格の存在ではある。
 強い。確かに強いのだが……

 ――思ってたほどじゃ、ない……?

 巨体ではある。怪力ではある。武技の冴えも大したものだ。だが――今現在オブスキュアを襲う未曽有の規模のオーク侵攻を率いているにしては、常識の範疇に収まっている。
 どういうことか。
 オーク族には、権威に恐れ入るという発想がない。彼らを従わせるのは、ただひたすらに即物的な実力のみである。
 あるときオーク社会に戦闘能力の高い勇者が現れ、それに付き従う形で彼らの部族は形成される。
 部族の規模が大きければ大きいほど、それを率いる族長は強い、と考えて間違いない。
 そして、正確な数はわからないが、今森に侵入してきているのは千を超えるほどの大集団だ。これまでは多くても百体程度であったのが、最低でもその十倍。当然それを率いるオークは史上類を見ない異常な強さであることが予想されていたのだが――

 ――勝てる……!?

【続く】


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