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どうすべきか

  目次

 王都シュペールヴァルクの中枢、森の意志と交感する端末たる玉座の間にて、女王シャラウは厳かに座していた。
 その傍らには、第二王女シャイファが控えている。
 左右には騎士と祭祀たちが立ち並び、しわぶきひとつ立てずにフィン、烈火、総十郎の三名を見ていた。

「陛下、我ら三名、お招きに応じて参上いたしました。」
「い、いたしましたであります……」
「あー、うん、で、何か用か? 俺いま乳ゴリラの腰から骨盤、太もものラインを視姦する作業で忙しいんだが……」

 宙をカッ飛んできた〈異薔薇の姫君シュネービッチェン〉が烈火の額に直撃。吹き飛ばした。

「ふふ、心配しなくても、そうお時間は取らせませんよ、レッカさま。さぁ、お掛けになって?」

 三つの椅子が、幽骨の床からにゅっと生成された。

「では失敬。察するに、王国の今後についてのお話ですかな?」
「はい……御三方には、伝えておくべきと思いまして」
「伺いましょう。」

 玉座にて、シャラウは膝の上に乗っているけろぴーくんをぎゅっと抱きしめた。不安を持て余すように。

「あの人の……ギデオンの凶行によって、王国は大きな傷を被りました。それはもちろん許されないことではありましたが……しかし彼の主張のすべてが的外れだったとも思えません。今までと同じように、安穏と森に逼塞するばかりでは、あの人の苦悩と絶望を軽んずることになってしまいます」

 フィンと総十郎は、深くうなずいた。額をさすってぼやきながら烈火も席に着く。

「このまま手をこまねいていれば、人族の力は我々を圧倒し、隷下に置かれるしかない……そうなる前に、何か手を打たねばなりません。さもなくば、ギデオンの生は無意味となってしまう。ここ数日、わたしと祭祀、騎士たちは会合を繰り返し、意見を出し合いました。どうすれば、エルフ族の主権と尊厳を未来永劫にわたって守ることができるのか」

 シャラウとシャイファは視線を交し合う。

「やはり、人族の力をもっと積極的に学び、彼らの時間感覚に追い付かなければならない。自然と調和するのではなく、屈服させる彼らのやり方に盲従するのは危険ですが、それでも今後世界を掌握してゆくのが彼らのやり方であるならば、わたしたちはそれを身に付けなくてはならない。自らを守るために」

 女王は憂いに眉を煙らせる。

「しかし、人族の技術は、森の中で暮らす分にはほとんど不必要なものばかりです。そんなものをわたしたちが必死に真似ようとしたところで、平民たちの間に根付くことはないでしょう。そもそも重要なのは、技術そのものではなく、「自らの努力によって今の暮らしはもっと良いものに変わってゆくはずだ」という彼らの信仰、哲学、在り方です。そこを飛ばして小手先だけ真似たところで無意味であると考えます」
「妥当であるな。」
「わたしたちには、今の暮らし向きを変えたいなどという欲望がまったくありません。ないものを無理矢理かきたてたところでどうにもないらない。ではどうするか。その答えを言う勇気を持つ者は、いませんでした。――たったひとりを除いて」

 シャラウは顔を上げ、

「シャーリィ、お見せしなさい?」

 そう呼びかけた。
 すぐに幽骨の壁の一角が口を開け、一人の少女が軽快な足取りで玉座の間に入ってきた。
 その姿を見た瞬間、フィンは目を丸くした。
 金髪碧眼の半神的な美貌。見慣れたその姿は、しかし見慣れない装いに身を包んでいた。
 上は袖なしシャツにベスト。上腕から先は革のロンググローブ。下はデニムのホットパンツに革のサイハイブーツ。
 それらの上から麻の簡素なマントを羽織っていた。
 フィンはこの世界の一般的な人族に会ったことはないが、なんとなくそれが帝国の旅人のファッションであるらしいことはわかった。
 そして、自然に流すにまかせるままだった金髪は、サイドテールにまとめられている。

「おや、なか/\活動的な御召し物であるな、シャーリィ殿下。」

 総十郎は相好を崩す。

「これはこれで良くお似合いである。」
「あー、うん、いんじゃね? 何が何でも腋は出すという鋼の意志を感じるわ」

 烈火も鼻の穴かっぽじりながら同意する。
 にへら~、と笑い返すシャーリィ。両手を広げてくるくる回りながら、フィンを流し目で見てくる。

「……え、えっと、すっごくかわいいでありますよっ!」

 途端、姫君の白磁のごとき頬に赤みが差した。
 そわそわと落ち着かない様子でマントを引っ被って体を隠し、口を波線形に閉じながら目をそらす。
 あれ、なんだかご機嫌斜め?
 まずいことを言ったかな、と焦り始めるフィン。ぐるぐると思考が空回りするが、有用な結論は出てこない。

「あゝ、大丈夫だ、フィンくん。殿下は決して気分を害してゐるわけではないので安心したまえ。」
「そ、そうなのでありますか?」

 ひそひそと小声を交わす。

「むしろ問題があるとすれば……いや、まぁ、良いか……今は……。」

 彼にしては歯切れの悪い言い回しである。

【続く】

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