かいぶつのうまれたひ #8
――あらゆるバス停は、その身に漲る〈BUS〉の強さによって、九つの階級に分けられる。
第九級バス停が最弱で、その基準は「コンクリートの壁を一撃で粉々にする程度の力」。
数字が小さくなるほど、その身に漲る〈BUS〉の出力は高くなる。
バス停ごとに固有の性質を持っている場合もあるので一概には言えないが、階級の高いバス停ほど強いのだ。
そして――
「天と地を斬り裂き、歴史を創るほどの力」
そんな冗談のような基準で語られるバス停が存在する。
第一級バス停――通称、《楔》。
最高位の神樹。
ひとつの国が収まるほどの範囲で、〈BUS〉の流動を制御し、管理し、自然や文明の(言い換えればあらゆる熱的活動の)守護者となるバス停。
そういうものが、全国に八柱ほど点在している。
淵停、枢停、殲停、聖停、終停、龍停、極停、皇停。
このうち四つは『神樹災害基金』が保有し、二つは《ブレーズ・パスカルの使徒》が確保、ひとつは所在不明で、最後のひとつはここ朱鷺沢町のどこかにあるという。
――皇停、『禁龍峡』。
ヴェステルダークほか四名の十二傑たちは、この最後のひとつを入手するべく動いているわけだが……
何故か、見つからなかった。
●
「やっぱり『基金』の連中が何らかの妨害をしているんじゃないですかニャン?」
「そう思って、ディルギスダークにはポートガーディアンどもを締め上げるよう言っておいたのかもな」
「うわぁ……さすがに同情しますニャン、それ……」
ヴェステルダークは緑茶を一口飲んでから、刃物のような切れ長の目をタグトゥマダークの頭部に突きつけた。
「……で、頭のそれはなんなのかもな。ジャパリパークが本当にすべてを受け入れてくれるとでも思っているのかもな?」
「ニャ、ニャはは……」
タグトゥマダークは頭をかきながら事情を話した。夢月に対して一度しゃべっているので、さすがにもう落ち着いている。
「……と、いうわけなんですニャン」
「ふむ」
ヴェステルダークは緑茶をもう一口すすった。
「前例が、ないわけではない、かもしれない、のかもな」
「ほ、ほんとですかニャン!?」
できれば二重否定の上に疑問系を二つも重ねないでほしいと思った。
「私が生まれる前の記録なのだが……今から五十年ほど前、この地域で起きたことかもな」
ヴェステルダークは、ぽつぽつと語り始めた。
「当時からここらへんはどうしようもないド田舎だったのだが……ある時、まったく突然に、極めて局地的な地震が発生したのかもな。建物はほぼ全壊し、絨毯爆撃でも受けたかのような有様だったという。火災や地すべりなどの二次災害も頻発し、多くの人々が致命的な被害を受けたのかもな。恐ろしい災禍だったのかもな」
持っていたタッチペンを弄びながら、言葉を続ける。
「だが、本当に恐ろしかったのは、その後なのかもな……」
なんで怪談みたいな語り口なんですかと突っ込みたかったが、空気を読んで黙るタグトゥマダーク。
「人間がな、歪んだのかもな」
その言葉の響きに、寒気を感じた。
「……歪んだ? どゆことですニャン?」
「比喩ではないのかもな。精神ではなく、肉体が、本当に歪んだとしか思えない有様に変異したのかもな。生き残った人々は、変わり果てた自分の姿に悲鳴を上げたという」
「い、一体、どんな姿に……?」
「直立二足歩行のタヌキになった」
「超かわいいーー!?」
「もっさもっさの毛皮に包まれた住民たちは、そのお陰で家がなくとも冬を乗り切ることができたらしいのかもな」
えらくメルヒェンな光景がタグトゥマダークの脳内に広がった。
「よ、よかったじゃないですかニャン」
「だが、本当に恐ろしいのはそこからだったのかもな……」
「まさか元に戻らなかったんですかニャン!?」
「『神樹災害基金』の前身である軍属研究機関が、事態の解明を期してこの地域を数カ月にわたって封鎖し、調査部隊を派遣したのかもな」
「そ、それで……?」
「タヌキとなった住民たちに身体検査および質疑応答を行い、さらに一帯の地質を調査した結果、さまざまな事実が浮かび上がってきたのかもな」
そこで緑茶を飲み干すと、ヴェステルダークは声を低くした。
「局地地震とタヌキ化が起こった範囲が完全に一致していたのかもな。つまり、この二つの現象は同じ原因によるものだったらしいのかもな。さらに、タヌキ化した住民たちの話によると、地震の直前に『山の向こうで巨大な光の柱が見えた』というのかもな」
光の、柱。
バス停使いたちにとっては、何らかの攻撃にしろ、召喚時の余波にしろ、そういった現象は見慣れた存在だ。
「バス停、ですかニャン?」
しかし、山の向こうからも見えるほどの光とは、ちょっと尋常ではない。
「結論から先に言おうか。この地のどこかに《楔》が安置されている、と仮定すれば、辻褄が合うのかもな。事実、被災範囲は、当時すでに存在が確認されていた他の《楔》の管理面積とほぼ等しく、さらにこの異変において地中の〈BUS〉が一切流動しなくなっていたことも確認されているのかもな」
ヴェステルダークは息を吐き、こちらを見た。
「この『地脈の流れが消失する』という性質から、推定上の存在である《楔》には皇停『禁龍峡』という名が与えられたのかもな。一連の事件の原因は、この《楔》が暴走を起こしたことにあったのかもな」
皇停『禁龍峡』。すべての原因と目される、仮定上のバス停――
それからの顛末は、極めて意味不明なものであった。
皇停『禁龍峡』の位置を特定すべく、調査部隊とタヌキ住民たちは山々を虱潰しに探し回ったのだが、二週間が経過しても手がかりは一切見つけられなかった。
「そして、本当に恐ろしいのはここからかもな……」
気に入ったんですかその言い回し。
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