事案
「さぁ、始まりましたお二人が服を脱ぎ始めましたよ! あーっと殿下! ここで衣服の上から肌着を羽織って中で脱ぐ作戦に出たーっ! さすがにフィンどのの目の前で着替えるのは照れ臭かったのでしょうかーっ!」
「なんで急に実況風なことになってんだよツッコミキャラどうしたおめー」
「そしてフィンどのも脱ぎ始めたーっ! 意外にも躊躇なくひょいひょい脱いでゆきますっ! 恥らうかと思っていましたがこれは少々意外な展開ですっ! 解説のレッカさん、これは!?」
「あー、これはですねー、あのクソガキはなんか軍人的なサムシングですからねー、俺『スターシップトルーパーズ』とかで見たんだけどあいつらわりと平気で共同シャワーで全裸さらしてゲラゲラ笑い合ってるような連中なんで、裸見るのも見られんのも慣れっこなんじゃないでしょうかねー」
「何を言ってるのかよくわかりませんが軍人というのは色々と刺激的な身分のようです! さぁ、ついにフィンどのの…裸体が…現れたーっ! おぉ、これは……!」
「んー、腹筋ぐらい割れてんのかと思ったら、意外にただのヒョロガリだなオイ」
「まだ手足が伸びきっていないのでちょっと寸胴気味の子供体型ですっ! いやぁ、関節部分にくびれがなくてとっても愛らしいですねえ! あ、下履きはく体勢でちょっとバランスくずした! カワイイ!」
「とりあえず鼻血拭けよ。真剣に事案だよおめーの反応」
「さぁ、ここで両者、同時に川に足を踏み入れたーっ! 緊張の一瞬です! 滑って転んだりしないでしょうか! 心配です!」
「しっかし貧乳は本当に貧乳だなオイ。何あのまな板ナメてんの? ……って、いきなりグーで殴んなやァーッ!!」
「殿下の流線型の肢体はこの世の極美なのです! それが理解できないとか実に使えない解説です!」
「……おぬしら楽しそうだな。」
●
足先に小川のせせらぎが触れ、フィンはちょっと緊張した。
冷たい水で体をきれいにするのは初めてのことだ。風邪ひかないように気を付けなきゃな、と思った。
シャーリィ殿下は、ゆったりとした肌着をつけている。水着代わりなのだろう。
そろりそろりと足を進める。水面は膝のあたりであった。信じられないほど透明度が高い。
水の抵抗と、川の流れが、両足を包み込む。水の底で砂が舞い上がる。
それに反応して、小さな魚の群れが一斉に動いた。
「魚っ!」
水槽の中でしか見たことのない存在である。通常のヒレの横に、架空質のヒレが生えているのがかすかに見えた。
「いっぱいいるであります!」
ざぱざぱと追いかけるが、四方に逃げ散ってしまった。
「あー」
水音とともに殿下がやってきて、フィンの腕を取った。
引かれるまま、その場に腰をおろす。おしりが冷たい。
二人で並んで三角座り。
殿下は干した果実のスポンジを水で濡らし、皮袋からトロっとした液体を垂らした。わしわしと揉むと、たちまち白い泡が立ち始める。
ふわりと微笑み、フィンの体を洗い始めた。
「わっ、ふふっ、くすぐったいであります」
身をよじって逃げようとするフィンを膝立ちで追いかけるシャーリィ殿下。
やがて後ろから抱きすくめられる。
――こーら、おとなしくするっ。
そして容赦なくスポンジで擦られる。
「あぅ、じ、自分でやるでありますよ……ふふふ、あははははっ」
肌着ごしに、彼女の体温が伝わってくる。少し照れくさいけれど、優しい暖かさに、フィンは逃げるのをやめた。
くすくす笑いながら、シャーリィ殿下に身を預けた。
●
「つかこの世界洗剤とかあんの? あの泡立ってんのなに?」
「あれはクリカの実から煮出した灰汁だな。洗濯にも沐浴にも重宝するぞ。……あーっと殿下ここでフィンどのの頭にとりかかり始めたーっ! クリカの灰汁は目に沁みます! 果たしてフィンどのはちゃんとおめめをつむれるのでしょうかーっ!?」
「クレイス氏にラズリ氏よ、リーネどのが完全におかしくなってしまった。我々はどうすべきなのであろうか。」
「おう、ロリコン的に貧乳には反応しねえわけ?」
「いや……あのように腰がくびれてしまってはもはや小生が愛を捧げるべき対象ではないな……もっと幼い、ぽっこりと出っ張ったお腹ならば愛せたのであるが……」
「テメーも大概業が深ぇよ!!!! はーっ、もうなんなんだよマトモなのはこの超天才だけかよ嘆かわしい!!!!」
「それだけはない!!」「無礼な。極めて不快である。」
●
全身の垢を落とし、さっぱりしたフィンは、シャーリィ殿下と一緒に川から上がった。
「はーい、いらっしゃいませー」
そこには大きな木綿の布を広げたリーネが待ち構えていた。にへらー、と締まりのない笑顔である。
足取りも軽くそこに飛び込む姫君を前に、フィンは少しまごついた。
「ほら、フィンどのも早く。お風邪を召しますよ」
「了解でありますっ」
二人まとめてわしわしと全身を拭かれた。
「ふふ、お二人ともさっぱりされましたね。お着替えはあちらに用意しておきました」
「あれ、小官の軍服は?」
「あぁ、あれもオークの血で穢れていましたので、今晩洗濯しようかと思うのですが」
「そうでありましたか。お手数かけて申し訳ないであります」
「いえいえ、ふふ」
というわけで畳まれて置いてあった衣服を広げる。
鮮やかな緑に染められたチュニックと、ゆったりとしたクリーム色のズボンである。
下着はないようだ。エルフはそういうものを使わないのだろうか。
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