見出し画像

総十郎パイセンのスタイリッシュ推理パート

  目次

 促されても、彼らの顔には悲哀の色しかない。

「人族とは、良い関係が築けていると思っておりました……」
「然り。いったいなぜ急に態度を硬化したのやら、心当たりがなくて困惑しております」

 裏切られて怒るのではなく、なにか自分たちが相手の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのではないか、と、反射的に考えてしまう思考回路。
 危ういまでの善良さ。
 姿かたちこそ人間に似ているが、本質的にはかなり異なる存在であるようだった。

 ――彼らと付き合ううえで、肝に銘じておくべきであろうな。

「まあ、そのあたりはおい/\考えるとして、目下対処すべきはこの事態の元凶とも言える存在が三人ゐるという点である。」

 総十郎は顔の前で互い違いに指を組み合わせ、円卓に座す一同を見渡した。
 エルフの騎士たちは固唾を呑んでこちらを見ている。約一名、烈火バカが居眠りをしていたが、とりあえずほうっておく。たまにビクッと痙攣したかと思えば「グゴッ」とかイビキなのか何なのかよくわからない音を立てるので非常にうっとおしい。そこの窓から放り出してくれようかとわりかし真剣に検討する。

「第一の元凶。傑出した力でオークの部族を複数束ねる大族長、ヴォルダガッダ・ヴァズダガメス。彼に関しては特筆すべき裏など何もないようだ。突然変異めいて高い戦闘能力を得てしまったがゆえに、ありえざる数のオークを従えることに成功。オブスキュア王国を突破して人族の領域に暴虐と殺戮を振り撒こうとしてゐる。ま、こやつに関してはそこの烈火バカでもぶつけておけばよい。一瞬で片が付くであろうよ。」

 尖った顎で烈火を示す。
 グゴッ、ズモモモォォォォォォ……とイビキが轟く。

「問題は二人目だ。〈道化師〉と名乗る白いローブの少年。さきの会話から察するに、帝国の人間なのは間違いないようであるが、単にオブスキュア併合の裏工作を進めるための密使と考えるには、いささかその言動は不可解である。振るう力の埒外さと言い、なぜかフィンくんの姓名を知ってゐることと言い、得体が知れなさすぎる存在である。」
「そ、そういえば……!」

 リーネは目を見開く。

「今日この世界に来たばかりの少年の名を、どうやって知ったのか? 我々が知らぬ事実を、〈道化師〉は多く知ってゐるようである。なにより、あの金縛りめいた術に対抗する手が現状思い浮かばぬ。計算の立たない難敵と言えるな。ただ――」

 背もたれに体重を預け、腕を組む。

「小生の見た所、〈道化師〉とヴォルダガッダとの間には、対等の同盟関係が成立してゐるように思えた。むろん、オーク族の気性は小生もすでに承知しておる。相手が自分より強いからと言ってへこ/\と媚びへつらうような可愛げとは無縁の種族である。しかし、己が力ではどうあがいても勝てぬ存在に対して、あそこまで自然体で、何の屈託も見せずに振る舞えるものであろうか? 殺したい、しかし殺せない、そのような者を前に、何の鬱屈も抱かずに済むほど精神的に達観しているようにはとても思えぬ。」
「つまり、『本気でやりあえば勝つのは自分だ』と考えている?」
「さよう。かの悪鬼の、戦闘者としての見立てを、小生はある程度信頼しておる。〈道化師〉の力は絶対ではない。なにがしかつけ入る隙があるのだ。」

 ギリギリギリギリギリ……グギッ。
 烈火の歯ぎしりが響く。
 そこからおもむろにボボブッと放屁。
 総十郎は滑らかな挙動で立ち上がると、ツカツカと烈火に歩み寄ってその首根っこを掴み、そばの窓から外へと無造作にポーイした。
 あーーーーれーーーーと遥かな下方へ落下してゆく烈火に目を向けることなく、再びツカツカと元の席に戻り、着席。

「――そして、三人目である。」
「はい……さきの会話に登場した謎の人物ですね」
「各々方、率直に言って、第三の人物の声を聞き、どう思われた?」

 ふむ、と考え込むエルフたち。

「何か……非常に忌まわしいものを感じましたな。尋常な種族では到底出せぬ声、と言いますか」
「それに、底知れぬ憎しみがを常にこらえつづけているような口調でござった」
「しかし、これも困惑する事態ですね。どうしてそこまで憎まれているのか、正直な所心当たりがない」

 総十郎は、組んだ手の上で指をトントンと動かしながら、しばし思案に暮れた。
 そして、ぽつりと、言う。

「――〈鉄仮面〉。」
「えっ?」
「そう、呼ばれておったな。」
「そ、そうですね。でも、それが何か?」
「それがあだ名なのか何なのかは不明であるが……そう呼ばれておるからには仮面をつけてゐるのであろうな。」
「まぁ、そうでしょうね。素顔をさらしているのだとしたら、この呼称はおかしい」
なぜ、顔を隠す?
「え……」
「〈道化師〉くんの言葉を信じるならば、〈鉄仮面〉氏は誰にも存在を察知されたくなかったようである。そして、仮面をつけてゐる。それはつまり、素顔を見られただけでも不都合が生じるような秘密を抱えてゐるということではあるまいか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! つまり〈鉄仮面〉は――!」

 立ち上がってテーブルに手を突き、身を乗り出すリーネ。
 ゆさり、と重量感たっぷりに胸が揺れる。実に自己主張の激しい奥ゆかしくない乳房である。あれも正直何とかならんかなぁと思わなくもないが、あそこまでブクブクと無様に肥えたのは別に彼女の罪ではないわけで、寛容な心で受け入れねばならんなぁと思い直す。
 こちらに強い視線をやるリーネに向けて、総十郎は手のひらを突き出した。

「まぁ待ちたまえリーネどの。結論を急ぎすぎてはいかん。まだ我々は〈鉄仮面〉氏に会ってすらゐないのだ。たゞ――」
「ただ?」

【続く】

こちらもオススメ!

私設賞開催中!


いいなと思ったら応援しよう!

バール 小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。