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どんぐり農家を続けるべきか・・・#22 まわりがダサくて嫌になる

どんぐり農家を続けるべきか・・・。

団栗地区の地区評議会の前半戦はお偉さんばかりが格好つけやがって、団栗の皆は”死んだ魚の目"のまま終わった。
しかし、後半戦は地区議題の評決だ。

守先輩を地区に戻したい優しいエピソードなどを発言して、なんとしても碧さんの前でちょっとカッコいいところを見せたいところだ。

地区の評決が始まった。

「それでは団栗地区の議題『鯉渕 守君を団栗地区に受け入れるか』について多数決としたいがよろしいか?」

富彦が偉そうに立ち上がり仕切りやがってと、イライラしたその時、

「異議ありっ!」
幸三が右手を指先までピンと伸ばし挙手しながら、甲高い声を張り上げた。

皆が幸三に注目したが、幸三は一向に異議を言わずに、前髪をかき上げながらチラチラと碧さんを見ていた。

幸三の考える『カッコいいところ』を碧さんに見せつけていたのだ。

「お前、後でちょっと来い。」
そのせいで山主様に呼び出しを食らい、先程まで30秒に1度伊達メガネをクイっとやっては碧さんをチラ見してた幸三はすっかりうなだれてしまった。

「異議がないなら多数決とする!団栗地区の議題『鯉渕 守君を団栗地区に受け入れ』に賛成する者、挙手せい!」

富彦の偉そうな言い方に再びイラっときたが、当然、皆、守先輩を受け入れるので挙手した。


は?・・・・・挙手していない!


自分の他で挙手しているのは、守先輩の同級生の滉さんと、ポニーズの後輩だった順也と太郎、自己中でカッコつけの竜也の計5人。

「反対する者、挙手せい!」
実良、幸次幸三兄弟、保さん、長太郎、博文の6人が手を挙げていた。

信じられないことに、5 対 6で『守先輩を受け入れない』と決まってしまった。

何が起こったのすら整理がつかなかった。思ってもいない結果に呆然とした。

「なんばしようとかぁ!おまえら守を追い出すとか!」
滉さんが思わず大声を張り上げて立ち上がった。

「幸次!寝とぼけとうとか!なぜ守を追い出したいか言え!」

滉さんが睨みつけると、幸次も真っ赤になり滉さんを鋭く睨み返してプルプル震えて叫んだ。

「守先輩が俺の悪口言うからっち!許せん!絶対に許せん!」

「守は地区の誰が好き嫌いだの、そんな小さい世界に生きてなか!悪口なんか言うものか!誰がそんなくだらんこと言うとうとか!」

滉さんのお言う通りだ、守さんはそんなスケールの小さい人間ではない。


「幸三!おまえは何故、守を団栗から追い出したい?言え!幸三!」

幸三は滉さんのあまりの剣幕に驚き、イスからずり落ちそうになりながら、実良と富彦の顔を何度も交互に見たが、実良も富彦も絶対に目を合わせないように視線を泳がせていた。

この無能な味方のおかげで、この企みの首謀者があぶり出されていた。


「実良、貴様は腹黒か男っちゃね。何で守を追い出したいのだ!」

今にも掴み合いが起こりそうなピリピリした空気の中、実良は落ち着き払い、

「守先輩は山を捨てて出て行ったのであろう。今さらトラブルを起こしたから戻らせろは通せぬな。本来、山を捨てたら戻れぬのだ!」

実良が憎たらしいほど、つらつらともっともらしい説明をしてみせると、

「そうっち!通せぬっちな!」
幸三まで勢いづき、得意げな顔をしながら言い放つと、碧さんをチラッと見た。


「俺も九州帰り、こいつも親が山に出戻り、実良は俺らのことも受け入れてなかったとか?ずっと仲間ではなかったとか!」

滉さんが自分のことも引き合いに出して実良に詰め寄ると、実良は気まずそうに言葉に窮していた。

「そら滉さんもこいつも、受け入れてるっちが・・・それとこれとは・・・」


「もうよか!キサンらなど頼らん!守はウチに住まわせるばい!」

滉さんは親友の守先輩を追い出すと言う地区のむごい仕打ちに肩を震わせて怒鳴るように言った。

「滉さん、貴子さんに一応話を通しておいた方が良いっちですよ・・・」
太郎が滉さんをなだめるように言うと、

「おう!嫁と話付けちゃるから、おまえら、ちょっと待っとれ!」
スマホを手にして怒りに震える指で電話をかけた。

滉さんは見たこともないほど殺気立った様子で長いこと大会議室の隅で話していたが、電話を切り振り返ると、

「ウチじゃダメだって・・・」

拾った子猫を返しにいくような重い足取りで、席に戻ってくると、
滉さんのいかつい肩が無くなってしまったのかと思うほど肩を落として、席に座ってうなだれてしまった。

パンッ パンッ パンッ!


会議室のあちこちで守先輩受け入れる派と追い出す派で言い争いをしている中、富彦が大きく手を叩いて注意を引いた。

「もうよかろう、仲の良いおまえらの争いは悲しゅうて見とれんのだ。
一旦、席に戻れっち!のう!」

思いもしない優し気な富彦の言葉に、髪を掴みあっていた幸次と太郎も取り敢えず矛を収め、席に着いた。


「ここは地区評議会長様のわしが預かろうではないか。地区長代理の実良が守を受け入れられぬと言うのは重い、しかし親友の滉は戻したいと言う。」

富彦は困った様に顎を押さえてみせると、たった今、思い付いたような表情で、ポンと手の平を叩くと、

「そうじゃ!守は団栗には置けないが、山から追い出すのはあまりに忍びない。」

苦渋の選択をするような表情になると、

「よしっ!ここは三好商店で守を預かろうではないか。三好寮に住まわせてやろう!団栗地区は出るが、皆がいつでも会える!これぞ『大岡裁き』ぞ!」

高らかに笑う富彦を前に皆が顔を見合わせ、これなら折り合えるかというホッとした空気が流れた。


待て待て待て待て!

非の打ち所がない様に聞こえるが、自分の中では富彦が描いた安い絵図の全貌が見えてしまったぞ。

ここは大人ならグッと飲み込むべきだろうか・・・

しかし、富彦の『決まった!』という感じの『したり顔』が憎たらし過ぎたことと、

自分はまだ爪痕を残せていないのに、地区評議会のおいしい所を、富彦に全部持って行かれた気がして、どうしても我慢ならなかった。


「富彦よ!」
ゆっくり立ち上がり、右に三歩、左に三歩と往復してやってから、一気に畳みかけた。

「過酷労働で逃げた新太の代わりに、三好商店で守先輩をこき使うために、碧さんとの合コンを使って『守先輩追い出し派』を結成し、票を集めたことは明らか!この俺がまるっと全てお見通しっちぞ!」

富彦をビシッと指差してやった。

(決まった・・・間も、声の張り具合も、ポーズも完璧に決まった・・・)


「な、何のことっちか!貴様ぁ!折角、大岡裁きが決まったと言うのに!」

図星を突かれた富彦は顔を真っ赤にして、声を荒げたが、

「三好屋!おなごを使っち票を集めたか!問答無用ち!潔く腹を切れい!」

地区評議会投票で富彦に敗れた関谷学園校長の樫椎錦太校長が、白い布に包まれた短刀を富彦に突き出した時だった・・・

碧さんが立ち上がり、ハンカチで顔を押さえて駆け足で大会議室を飛び出して行ってしまった。

大会議室の全員が何が起こったのか、傷つけたのか、怒らせたのか、どうして良いか分からずに、暫く固まっていた。


「碧さんを泣かせたっち!富彦と校長が、碧さんを泣かせたっち!」
幸三が一人で碧さんを泣かせたと憤慨する中、


「あんた達、山主様含め全員、来賓の若いおなごの前でカッコよく決めたつもりなんだろうけどダサすぎるんだよ!」

和美さんが呆れ顔で役員と我々団栗衆を見下すように言った。

「碧は最初から咳払いしたり、下を向いたり、ハンカチで口を押えてたろう!評議会のアホらしさにずっと笑うのをこらえてたんだよ!」

公民館長の和美さんの思いもよらない言葉に役員含め全員が下を向き、自分の行動、言動がダサかったのか、怖くなって振り返っていた。

富彦が小さな声で、「あとは守君と話してみます。以上でーす。」と言って散会となった。


「何が大岡裁きちか!腹黒が!そういうのがダサいと言われるのだ!」

「こんな所でドス出す方がダサいっちろう!何を考えとるちか!」

会の後、大会議室に残り富彦と校長が罵りあい、

折角、自分はバッチリ格好良く決めたはずなのに、他の者がダサいのですっかり恥をかかされたと富彦と校長はじめ、山主様と前山主様や、実良と滉さんなど、皆が罵りあっていた。

こいつらは何を言っているのか!
自分以外は全員が格好も、行動も、言動も、ダサかっただろう!

名推理を台無しにされた上、恥をかかされたのは自分である。


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