どんぐり農家を続けるべきか・・・#14 僕らの山に今年も雪が降る
どんぐり農家を続けるべきか・・・。
この山も雪が積もり外出がなかなかに困難な状況だ。
ウチの家も戸は開いて外には出れたが、道につながる、キチンと道として踏み固められた出入り口の所だけに信じられないほど雪が積もっていた。
表に出てみると、太郎がようやく仲直りしてもらった季楽々ちゃんをソリに乗せて引っ張って遊んでいたが、こちらに気付くと、
「なんだお前の家は立山アルペンルートっちか!」
とゲラゲラと笑った。
「他の家はこんなことになってないっちか?」
と聞くと太郎は、
「まあまあ積もってるけど、いくらなんでも・・・」
と言いかけて黙り込んだ。
「地蔵下に雪がねえ・・・コレやったのは、またアヤツだぞ、こりゃぁ・・・」
と竜也の家を指差した。
外に駆け出して竜也の家を見ると雪が一切なく土がむき出しになっている。
それどころか竜也の家から山の下へ向かう共用の山道までもがきれいに除雪されていた。
「なんだ山の上までやってくれたら良いのに、アヤツらしいな・・・」
太郎が呆れるように言った。

竜也がうちの敷地の出入り口を雪捨て場にしやがったことに文句を言いに行くのを太郎に付き合って貰おうと思ったが、
季楽々ちゃんが寒さで赤くなったほっぺたをプクーと膨らませて、布袋寅泰のスリルの様に
「ソリ、ソリ、ソリ、ソリ、ソリ、ソリ、ソリ、ソリ、ソーリー!」
と怒り出したので太郎は「竜也にちゃんと文句言っとけー」と無責任に笑うと、季楽々ちゃんの乗ったソリを引っ張って走り去っていってしまった。
大体からして、竜也という男は昔っから自己中心的な奴なのだ。
昔、小学五年生の頃『三好商店ポニーズ』に順也、幸次、幸三、自分の4人で行って踏み台昇降を3時間もやらされた(#2)のも、言い出しっぺは竜也だったが当日すっぽかしたのだ。そして、踏み台昇降もさせられていないのに、
「なんち、ちょっと練習したぐらいで、足が痛てーっち、だっらしないのー!」
と笑いながら言い放ち、癇癪を起した幸次と掴み合いになったのだ。
他にも自己中心的なことばかりだ。
「少年サッカーチームの『大和田・川俣ユナイテッド』に入ろうぜ!俺がカズで幸次はなんか怒りっぽいからラモス瑠偉な、お前は柱谷でいいか!」
と自分にも柱谷にも失礼なことを言い放ち、竜也に誘われるまま『大和田・川俣ユナイテッド』に入団することになった。
しかし、大和田のグラウンドまで、山を降りるのに徒歩40分、そこから大和田まで徒歩50分で片道でサッカー1試合と同じ90分もかかるのだ。
三回も通ったところで、やはり『遠すぎて、無理だな』という結論に至り、辞めることになったのだが、竜也が面倒臭いことを言い出した。
「あの監督さんはとても熱血漢で良い人なので、ちゃんと報告して、謝って退団しなきゃ男としてダメだ!」
『男として』と言うなら途中で投げ出さずにサッカーを続ければいいのだ。
ろくにポリシーもないくせに、竜也が格好をつけたために、『大和田・川俣ユナイテッド』に退団を告げに行くことになった。
自分はあの監督は笑って話していたはずが、実はキレていたり、機嫌がいい時は『たとえ負けてもフェアプレーを貫け!』と教えてくれたのに、練習試合の審判の判定に納得がいかない時に
「審判にスライディングタックルしろ!」
レッドカード確定の指示を出したり、あいつはヤバいと感じていたのでわざわざ謝りになど行きたくなかった。
ただでさえ時間がかかるのに、アホみたいに3人がそれぞれ小石をドリブルしながら大和田のグランドの近くの公園に向かい、到着すると竜也がまた格好をつけて、
「俺が言い出したから俺がまず男としてケジメを付けて謝ってくる!」
グランドに向かって歩いて行くと、5分程で帰って来た。
「クッソー!なんか怒られた!『最初に遠いけど大丈夫か?って確認したら、僕ら本気でプロ目指してるっちから、遠いことなど関係ないのです!と言っただろうが!』って昔のことをグチグチ言いよりやがった!」
『昔のことをグチグチ言った』というか、一週間ぐらい前のことなのだが、竜也は面白くなさそうに石ころを全力で蹴りながら言った。
(怒られんのかぁ・・・嫌だなぁ・・・)と思っているうちに、幸次がスタスタとグラウンドに歩いて行ってしまい、5分程で帰ってくると、
「なんだあの監督は!遠いからって理由がダメだから、『膝が痛いから辞めます』って言ったのに、何も言わずに凄い目で睨んできよったし、なんかプルプル震えて怒ってる感じがしたぞ。」
何故か怒る資格もないはずの幸次もプルプル震えて怒っていた。
(嫌だなー、怒られたくないなぁ・・・)逃げ出したかった。
1人なら逃げ出したかも知れないが、鬱陶しいことに竜也も幸次もいる。
自分だけ監督に伝えないわけにもいかず、『親に辞めろと言われた』ってことにしようかな…と考えながらグラウンドに向かった。
既に怒りMAXの赤ら顔になって震えている監督は、
自分が短時間で一生懸命考えた退団理由を聞いてくれる間もなく
「お前もかぁーっ!」
怒鳴りつけると同時に力一杯、左頬を殴られて地面に転がった。
時は昭和、場所はこの独特な山奥村である、このぐらいは「こんにちは!」ぐらいの日常的なコミュニケーションとも言えなくはないのだが、取り敢えず声を上げてワンワン泣いた。

クッソー!クッソー!クソ&クッソー!
痛かったのもある、いくらなんでも監督が酷い、しかしそれ以上に竜也に対する釈然としない何かモヤモヤしたものが止めどなく込み上げて来て、その度に「おあぁぁぁっあああ」と嗚咽となって悔しさが溢れ出した。
更に殴られてもいなければ、普段特に男らしくもない竜也が帰り道に「男ならそれぐらいで泣くなっち!」と言いやがったことも、今でも半年に一回ぐらい思い出して眠れなくなるほど腹立たしい思い出だ。
大人になっても竜也は本当に自己中心的な奴で全然変わっていない。
昨年もスイカの皮を自分の敷地に大量に捨てるなど問題を起こした。
スイカやメロンの皮を撒くと地域のカブトムシやクワガタがそこに集まってしまうのだ。
カブトムシやクワガタはこの地区の皆の収入源なので、竜也が独占することになってしまう。これにはみんなが激怒して竜也に詰め寄ったが、
「お前らのカブトムシだったら、名前を書くか、名札でもつけといたら良かろうが!どれが誰のカブトムシか言うてみよ!」
と開き直ったものだから、大乱闘になってしまい、女衆に法螺貝サイレンが鳴らされる事態となり、後日、山主様に全員往復ビンタされる羽目になったのだ。
色々思い出してしまい、イライラするうちに、家の戸が開き竜也が出て来た。
『人の敷地の出入り口を雪捨て場にして、立山アルペンルートの様な雪の壁を作りやがって』と一発引っ叩いてやろうと雪の壁の端っこをグリグリこじ開けながら駆け寄っていくと、竜也は満面の笑顔で
「お前、小四の時社会科の教科書の立山アルペンルートの写真見て『スゲーもんだなぁ!見てみたいのー!』言うとったろう!お前に見せてやろうとして6時間もかかりよったぞ!」
竜也に屈託のない笑顔で言われてしまい、小四の時のことなど全く覚えていないし、家の敷地の出入り口なのだが、怒るに怒れなくなり、またしても何とも釈然としない竜也に対する何かに震えることになってしまった。
