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どんぐり農家を続けるべきか・・・#21 山で死んだ魚 

どんぐり農家を続けるべきか・・・。

地区の問題を協議して、方針を決める、年に一度の地区評議会に仔馬宿公民館にやって来た。

今年は特に問題も無いだろうから、はじめに山主様のお言葉を聞いて、
都会から逃げ帰って来た守先輩を地区に受け入れる採決をして終わりだろう。

それよりも、地区評議会を見学に来る『アイドル様』碧さんだ。

碧さんが同じ部屋で自分達を見ると思うと、嬉しさ半分、ド緊張半分だ。

あれほど皆、面倒臭いから普段の作業着で行くと言っていたのに、公民館の三階大会議室に入ると、既婚者の数人こそ派手な格好をして山主様より目立つと面倒臭いと、いつも通りの服を着て来場していたが、

アホの幸三はタキシードを着て四角い黒ぶちメガネをかけているし、
幸次もチョッキ(ベスト)に蝶ネクタイ姿で、若ぶって髪を降ろしているので、とっちゃん坊やみたいな格好だ。

おとなしいはずの博文などは、本人曰く『漆黒色』の信じられないぐらいロングなコートの襟を立てて、なんなのだか知らないが、『漆黒色』の手袋までして目を押さえていたので、

「どうしたっち博文、"ものもらい"か?」

心配して聞くと、博文は凄く嫌そうな顔をしてどこかへ行ってしまった。


しかし、それよりも酷いのは、むせかえるギャッツビーの香りである。

わざわざ昨晩、暗くなってから山を降りてまで三好商店なんぞに大枚を払い、ギャッツビーを買って、折角、いい香りをさせて来たのだ。

しかし、あれは適量であればこそ爽やかな香りがするのだ。

ところがアホな富彦が三好商店にメンズのフレグランスをギャッツビー一種類しか置かないせいで、皆がギャッツビーを振りかけて来やがったものだから、大会議室にむせ返るほどのギャッツビー臭が充満していたのだ。

案の定、顎を突き出してイキがって山主様が会場にお成りになるとすぐに、

「くっせー!臭せーんだけど!オラァッ!窓開けろっ!くっせー!」

お怒りになり怒鳴りつけられて、折角の暖房も台無しにして、実良や竜也が慌てて窓を開けた。


まず、牛みたいな鼻ピアスをしてイキがる山主様

次に、シャキッとした小柄で腹黒い爺さんの前山主様

皆を睨みつけながら、教育者には見えない、いかつい親分風の関谷学園校長

ひょこひょこと、仕入れセンスがない、三好商店のガマガエル富彦

皆を見下す様に、公民館長で碧さんの伯母の和美さん

そして、 陰鬱な山に舞い降りた『アイドル』都会の大学生の碧さん

順に会場に入ってくると一列に並び、こちらを向いて着席した。


富彦ごときが偉そうに団栗地区 地区評議会の開催を宣言して、
まず山主様のお言葉を頂くのだが、例年通り、嫌なお言葉で始まった。

「お前ら頭が高いわい!何様だ!俺を舐めちるのか!団栗風情が!」

まずは権力の誇示の為なのだろうか、ストレス解消なのだろうか、
毎年恒例の山主様の『かまし』に皆、頭を下げ、机の一点を見つめて
終わった後の飯のことでも考えながら、死んだ魚の目で『かまし』終わるのを待つのだ。

念の為、言うがこれはパワハラではなく、山のちょっと嫌な伝統行事だ。

「俺が部屋に入って来た時、全員礼をしたか思い出してみろ!」

「闇リス(密告者)から俺の悪口を言った者がいると聴いているぞ!」

「全員目を閉じろ!怒らないから俺の悪口を言った者は手を挙げてみろ!」

「いないわけなかろうが!本当のことを言え!」

「本当に俺の悪口を言ってないのか?」

「おまえら全員、気持ちがたるんでいる顔をしている!」

「どんぐり農家風情が立場をわきまえろ!」

今年はよりイキがっているのか、かかっているのか、例年の倍ぐらい20分間近くも怒鳴り散らし、

「もうおまえらなんか団栗農家なぞ辞めてしまえ!」

ガンッ

自分のパイプ椅子を蹴りつけた。


山主様が自分のイスを蹴るのが合図になっているのだろう、毎年のことで山主様がイスを蹴ったタイミングで、

”前山主様”が白々しく「まぁまぁ・・・」と穏やかな作り笑顔で、息子である山主様を制する様にしゃしゃり出て来るのだ。

「こやつも、家では『団栗地区は皆、ようやっちる!』と言っておるのだ。
『他の地区は全然ダメだ!団栗地区こそが頼りなのだ!』と昨日も言っちおった。要は期待に応え、しっかり勤めて欲しいと言っておるのだぞ。」

毎年、同じタイミングで、同じ作り笑顔で、同じ歩調で出て来て、一字一句違わぬ言葉を話す、この前山主の爺さんがからくり人形に見えてくる。

しかも他の地区にも同じように言っていると噂の、分かりやすい飴と鞭に、
毎年毎年、はらわたが煮えくり返る思いになる。

しかし、幸次などは毎年毎年、
「オグクッ・・・フグッ・・・フグクッ・・・」
嗚咽をこらえる気持ち悪い声を上げ、

「たるんでおりました・・・たるんでおりました・・・」

自分の太ももをガツガツと拳で殴って、自らを責め始めるのだ。


山主様と前山主様の嫌なショーが終わると、地区評議会の何を相談するのか知らないが、相談役の関谷学園の樫椎 錦太理事長が肩を怒らせて立ち上がる。

大会議室をイキがり、練り歩き一人一人2cmぐらいの距離まで顔を近づけながら睨みつけて回り、

「おまえ、目が生意気ちなぁ、やんのか!かかって来い!」

「おまえ、なんで室内でコート脱がないちか!お?かかって来い!」

「おまえ、なんか見たことあるちな、関谷OBか?かかって来い!」


「かかって来い」と言われても山の実力者の一人、関谷樫椎家のご当主で、関谷学園理事長に"かかっていく"わけにもいかない。

「おまえら全員根性ないっちのう!ウハハハハ!」

樫椎 錦太理事長が動物が群れの中で格付けをするかのように、一通り睨みつけて回り、最後に勝利の高笑いをするまでの間、どうしてよいか分からない時間が続くのだ。

おそらく親戚である樫山の山主様に自分の力を見せつけてイキがって牽制しているのだろう。

その後、やっと5分間の中休みに入り、山主様と校長のせいで良い所を見せられなかった皆は碧さんに話しかけようか迷い、いそいそしていた。

しかし、残念ながら碧さんは休み時間に入るとすぐに、大会議室の外に走り去ってしまった。

休憩が終わると、地区議題『守先輩を団栗地区に受け入れるか』の評決だ。

山主様、前山主様、校長に好き放題カッコつけられた分、地区議題では碧さんの前で、なんとか爪痕を残したいと皆が意気込んでいた。

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