どんぐり農家を続けるべきか・・・#12 ショコラお披露目会
どんぐり農家を続けるべきか・・・。
どんぐり農家の経済はやはり厳しい。
勿論、どんぐり農家と言っても収入源はどんぐりの収穫だけではない。
山菜も採る。
山菜農家などではないので自分で食べるか、山菜農家に売り付ける。
意外と大きいのが昆虫だ。カブトムシやクワガタは高値で売れる。
また、売り過ぎると昆虫に影響が出てしまうが、腐葉土も売れる。
そして大和田や川俣の米や野菜、畜産農家は経済が大きいので、山主様に斡旋してもらい、どんぐり収穫期以外に小間使いをさせて貰う。
山主様に媚びて小間使いを斡旋してもらい、大和田、川俣の米、野菜、畜産農家様に顎で使われるのは、なかなかにしんどい。
農作業もどんぐり収穫よりも遥かにキツイのだが、飯付き日給5千円以上という条件は悪くない。
どんぐり収穫期は米農家様なども収穫の繁忙期なので日給も高く、
「本当はどんぐりなど拾うより、米農家様の小間使いをしたいです!」と
シーシャを吸っている山主様の前で正座し陳情書を読み上げたこともある。
しかし山主様は陳情書を読み終わるまでに20回ぐらい舌打ちされたばかりか、3時間正座させられ
「どんぐり農家はどんぐり拾えや!」
何度も怒鳴られ、顔に何度もシーシャの煙を吹きかけられてしまった。

このように『どんぐり農家』といえどビジネスを多角化しているのだ。
勿論、都会の社長様や勤め人様みたく金が唸っているような生活は無理だし、うっかり金が余っているなどと言われようものなら、すぐに山主様が世話代を上げようとしてくるので、楽になることはないのだが、それでも、順也、太郎、実良は嫁も子供も持ち生活を営んでいる。
自分は女子の前では声が上ずりドギマギしてしまい、どうにもうまく話が進まないので、嫁持ちで、更に子供まで持つ彼らを、指を咥えて羨むばかりなのだが、太郎が更に高みに上ろうとしていた。
太郎の5歳になる娘 季楽々(きらら)ちゃんが、
「ワンちゃん飼いたいの」
と言い出して、調子乗りのくせに季楽々ちゃんにはデレデレの太郎が
「よっしゃ!お前らには悪いが、俺は遂に犬を飼うぞ!一つ上に行く!」
と寄合の時に宣言をした。
この地域でまず山主様が、VOXY 煌エディションにゴールデンなんとかという大型犬を乗せている。山主様に似合わぬ、細いマルチワワとかいうのも、ケツをフリフリして山主様が散歩させている。
他には「待てっち!待て!こっちに行くんじゃ!そっちは道がなかろうちが!」と、いつもミヨシの富彦を引きずり回しているアホな雑種がいる。
スーパー三好の前にも「クロジ」という名の黒い猫がいる。
あと鼻ぺちゃのペルシャ猫をよく膝にのせている、富彦の姉で美豚のママをしている厚美など見渡せば地域の富裕層ばかりである。
勿論、他にも数人ペット持ちはいるがいずれもエサ代に苦労している。

『嫁』、『子供』、『犬』と手に入れ、太郎もすっかり富裕層様か、あんなに小銭拾うと絶対に自分が落とした小銭だと言い張って、絶対に他の奴に渡さなかった太郎なのに・・・
もう、背中が見えんくなるなぁと、少し寂しくなった。
富裕層の集う”樫椎愛犬会”の主催で団栗地区の集会所で太郎のワンちゃんのお披露目会の日取りが決まった。
この地域では犬を飼うというのは自分の経済力を誇示できるお祝いの日であり、いわゆるハレの日である。
皆が太郎のお犬様を一目見ようと『ドッグフード』や『ゴルフボール』や『肉片』や『骨』など、思い思いのお供え物の犬グッズを持って集まって来た。
遅れて万雷の拍手の中、太郎が犬を連れて堂々と現れた。
「まだ町で紐を買うてないのだ!気にするな!ワハハハハ」
犬の首の後ろの皮が厚い所を掴んで犬を引きずってやって来た。
三好商店では犬のリードなど売っておらず、峠を越えた町まで買いに行くしく、間に合わなかったとのことだった。
「見よ!『ショコラ』を!可愛ええのだろうが?季楽々が名付け親じゃ!」
地区長代理の実良が筆を執り『命名 ショコラ』と半紙にしたためた。
樫椎愛犬会の会長であり、太郎を三好商店に出入り禁止にしている富彦めもさすがにこの日ばかりはニコニコしていた。
しかし、太郎に引きずられるように集会所前の皆の前に連れて来られた
『ショコラ』を見て全員がたじろいだ。
「お、おい・・・唸っておる!」
「凄い怒っているのではないのか?」
「どこぞのブリーダーから買うたのだ?牙むいとるぞ!」
太郎はあまり歓迎されていない空気に少しムッとした表情になり、
「なんぞ!悔しいのか?なんと可愛ええことよ!お前ら撫でてみろ!」
と『ショコラ』の首の後ろを掴んだままこちらにグイグイ押して、
近づけて来て、皆、思わず後退りした。
「お、おい!凄い唸っとるぞ!」
「止めろ!ショコラは殺る気の目じゃ!牙をむいとるぞ!」
「そのショコラはただの野犬であろうが!」
皆がショコラに怯え、後退りして、
折角のショコラお披露目会がざわつき暗雲が立ち込め始めた。
「お犬様、今年のどんぐり収穫高っさ上げで下されー」
「お犬様お犬様どうが孫を県立農業っさ入れで下されー」
「お犬様お犬様昔テレビで見た大福に苺っ子埋めたのを食っちみたいです」
年寄りたちは良く見えていないのか、牙をむき唸り声をあげるショコラをひたすら拝んでいたが、
竜也は家族を集会所に入れ、他の女子供も、集会所に入ってしまった。
幸三はショコラに吠えられて、腰を抜かしてへたり込み、半べそをかいていた。
「なんじゃあ!お前らそれでも男か!可愛ええじゃろ!何が恐れるものか!
こんなに可愛ええではないか!皆、臆病者どもよなぁショコラ~!
ショコラ~可愛ええのー!おぅおぅヨシヨシ!・・・」
太郎が『ショコラ』の頭を撫でた瞬間
「痛でぇな!テメッ!この野郎っ!」
集会所の前で太郎の叫び声が響いた。
直後、太郎が『ショコラ』の頭を引っ叩こうとして空振りして、ドスンと転倒すると、『ショコラ』は猛ダッシュで山の中へ消えて行った。
「痛で~よ~・・・痛で~よ~・・・ショコラめがっ!痛で~よ!ショコラめ~」
太郎は手の甲から血を流して転げまわっていた。

よほど恥ずかしかったのか、正装をしてお披露目会に来ていた太郎の嫁も季楽々ちゃんも、早々に太郎を置いて家に帰ってしまっていた。
『ショコラお披露目会』の日から数週間経つが
「嫁も季楽々もまだ口をきいてくれんのだ・・・」
と太郎はすっかり元気が無くなってしまった。
太郎めに富裕層はまだ早すぎたのだ。
