【建築のタネ】重い/軽い
重い/軽い
──建築に込められた意匠的な”重さ”
あなたの提案は
重いですか?軽いですか?

今回は
「重い/軽い」のテーマに沿った小話の形式とします。
建物は総じて、とてつもない重量です。地盤の固さによっては安定地盤まで杭を打って固定してあげなければ、建物自体の重さでどんどん沈み込んでしまうのです。
そういう物理的な重さもありますが…
表現としての「重さ」の話をこれからしていきます。
#建築の小話
▽「重い建築」と「軽い建築」の比較をしてみよう
少しイメージがしやすいように「重い/軽い」を体現するような
ほぼ同数の客席数のある2つのホールを比較してみます。
■大船渡市民文化会館(リアスホール)
設計は新居千秋さん率いる新居千秋都市建築設計。
リアスホールは、大ホールの一般席が1階約650席、2階約430席で、これに車いす・介添用席等を加え、全部で約1,100席の規模のホールです。

岩手県 大船渡市
■鶴岡市文化会館(荘銀タクト鶴岡)
設計はSANAA+新穂建築設計事務所+石川設計事務所のJVです。
大ホールの座席数は、固定で1,120席の規模のホールです。

山形県 鶴岡市
■見るべきポイントは?
この2種のホールは見るからにデザインの意図が違いそうに見えます。
まず前提として…
ホールというのは「フライタワー」と呼ばれる巨大なボリュームを有しているのが特徴です。

フライタワーは、ホールの舞台の真上にある、舞台を演出する幕などを格納するスペースです。幕は基本的に巻き取ることをしないので、「床から舞台の見えがかり部分の高さ」の2倍の高さが必要になります。
上記の図面の上段右側がわかりやすいですね。巻き取らずにそのまま上げているのでフライタワーはかなりの高さが必要なのです。
一般的に、ホール建築が巨大なのはこのフライタワーが理由です。ホールの計画は、このどうしようもなく大きくなるボリューム感に対してどうアプローチしているかがポイントになります。
■リアスホールの意匠
建物の所在地は岩手県の大船渡市です。
大船渡湾に突出した末崎半島の先端一帯が碁石海岸で、この一帯は「リアス式海岸」という枠組みで一般にもよく知られています。
そこにあるのが「穴通磯(あなとおしいそ)」です。


「リアスホール」は穴通磯の造形を直接的に模倣した造形をしており、リアス式海外の切り立った荒々しいイメージも内部のゴツゴツした意匠に現れています。

これらの意匠からも明らかなように、この建物は巨大な岩を模した意匠です。存在感と象徴性を持ったこの建物は、ホールという巨大な建築の器を生かして重厚感を全面的に押し出しているのです。

■荘銀タクト鶴岡の意匠
山形県鶴岡市にある「荘銀タクト鶴岡」はL型形状の敷地に建設されており、国指定史跡の庄内藩校 致道館(しょうないはんこう ちどうかん)を取り囲むような配置関係になっています。


写真:つるおか観光ナビ より
このホールは巨大なフライタワーのボリュームを抱えながらも、敷地の条件から、あえてその存在感を消すように設計されています。

写真: やまがた庄内観光サイト より
水平方向へ伸びる軒
この造形を見ると、ボリューム感を分割した小さく軽やかな軒が幾重にも重なり、軒を水平方向へ伸ばして流すことでフライタワーの鉛直成分を打ち消しているのです。
また、軒の先端を持ち上げて軽やかな曲線を描いているのも重要な点です。これは隣接する致道館の屋根形状を参照したものでもあり、この曲線は日本に古来より存在する「直線由来の曲線」に近いものがあります。

この荘銀タクト鶴岡の意匠は、致道館の屋根の意匠をある程度踏襲しながら、その存在感をいかに消すか、軽やかに見せるかに注力しているのです。
単純に高さを消すためには、大ホール部分を少し埋めてしまってもいいのですが、軽さを出すためにあえてそうしなかった可能性もあります。地盤の問題かもしれませんので、あくまで私見ですが、そういった、「軽さを損なう要素」はなるべく排除するように努めることは重要です。
■二項対立は間違い
勘違いしてはならないのは、これは善し悪しの問題ではないということです。土地の形状などの条件によって、どちらの解き方の方が適切か、どちらが地域住民にとって愛着がわくか、どちらのほうがお金を生んでくれるかなど、様々な要因によって建築の存在というのは形作られます。
「荘銀タクト鶴岡」の位置するL型形状の敷地、国指定史跡の存在、…という条件下であれば、様々な解き方はあれど、少なくとも、そこに目立った巨大な塊を置くのは適切ではないかもしれません。

そういう意味では、「ボリュームを分割」したこの意匠の在り方は非常に理にかなっているというわけです。
一方、「リアスホール」の方ですが、ここは東日本大震災の津波被害の避難場所になっていた時期があります。その時の様子は新居千秋都市建設設計のHPに掲載がありましたので下記よりページへ飛べます。

今この記事を書いているのが2025年3月3日ですが、つい最近、大船渡で大規模な山火事があり、その避難場所としても機能しているようです。
巨大な建物には、象徴性が生まれます。ホールが災害拠点となるのはその広さゆえかもしれませんが、リアスホールのような重厚感・存在感ある存在は拠点として、心の拠り所としての安心感があります。地域住民の誇りとして機能します。
これは建築以外ではなかなかできないことの1つです。存在感を全面的に押し出したこういった建物の存在の仕方もまた、1つの正解なのです。

■まとめ
意匠性が正反対の実例を2つ比べつつ、様々な要素を横断しながら、その意匠性の「重い/軽い」の小話をさせてもらいましたがいかがだったでしょうか?

大事なのはどちらが良くてどちらが悪い、ではなく、どこを目指して特化するかです。
このコンセプトであれば、重い建築がいいかも?
このコンセプトであれば、軽い建築がいいかも?
設計のコンセプトとセットで
その「重さ」に目を向けてみてはいかがでしょうか?
▶関連項目
■随時追加
■「荘銀タクト鶴岡」についてはYouTubeで動画解説を出しています!

参考タグ
