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【連載小説】Ep18:この街一番のツリーの下で

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/        Ep17


(読了目安3分/約2,400字)

Tue, December 24, 5:30 p.m.
Side Kaori Nishikawa


 大々的なイベントなのだ。最大限手を尽くしていても、多少の現場の混乱や連絡の不行き届きはある。だが想定範囲内だ。想定範囲内のことしか起こっていない。爆破予告はやはりただの脅しだったのだろうか。ロビー中央のツリーを見上げる。

 現在ステージでは弦楽四重奏が演奏されている。ファミリー層から若いカップルへ客層は変わってきている。窓の外はもう真っ暗で、大きなガラスには煌びやかな室内が映っていた。

 足早にフードコーナーへ寄ると、ざっと確認する。気を抜いていた若いスタッフが直立不動でお疲れ様です、と挨拶をする。

「やはりピンチョスは人気ね。食べやすいのが好まれているみたい。このローストポークにつまようじを刺せないのかしら。ちょっとシェフに打診してみて。あとバンバンジーは追加で入れてもらえるか確認。このグリルサラダだけどもう少し大きめにして小さなフォークで食べられるようにした方がいいかもね。まああまり口を出すとまた反感を買うかもしれないけど。あ、あとガトーショコラ。今、というか十九時頃に追加できないか聞いてみて」

 慌ててメモをする男性に、「文句はすべて西川へって伝えてね」と言い残すとチップカウンターへ向かう。今回は結局すべてチップ制にした。先にこちらでチップを購入し、フードにつきチップ一枚とした。使わなかったチップは払い戻しも可能だ。

 カウンターの内側に入ると、現在の売上を確認する。キャンセルの相次いだ分の赤字をすべて黒字に戻すことは出来ないが、想定以上には補填できている。

「まだ払い戻しが入るかもしれませんので」

 女性は少し不安そうな顔で私の顔をのぞき込む。

「大丈夫。分かってる。それにまだ二十一時までは時間がある。これから来る人もいるからね。気を引き締めて対応お願い」

 私は軽く彼女の肩を叩くと、ロビー中央へ戻る。

 想定以上に売上が上がっているのは、やはり昼の演目だろう。あくまでも間を埋めるための苦肉の策、というつもりだったが。

 二時から行った、おひさま幼稚園の演奏会。四季のイベントに積極的だった先生方が協力的だったのは幸いだった。タクヤ君の隣が良いという女の子が騒ぎ出して、時間が押したのだが、想像していたよりはずっとしっかりした演目だった。ご家族が来られていて、演奏会後は売上も伸びた。

 だが未就学児ということもあり、ロビー内がうるさくなる。ご家族の方に一人一人注意することもできず、あれには誰もが戸惑っていた。

 その騒がしい中、ステージ上では三時に予定されていた童話の読み聞かせが始まった。ロビーに響く穏やかな女性の声に、騒いで走り回っていた子どもたちがすっと大人しくなり、その場で立ち止まり聞き入っていた。いや、あの時間は大人もスタッフもみな、彼女の「どんぶらこ、どんぶらこ」と歌うような穏やかな波に乗せられていたように思う。

 魔法にかかったように大人しくなった子どもたちは礼儀正しく過ごし、やがて三々五々帰っていった。

 今の弦楽器の演奏が終わると、一度昼の部はお開きになる。次は十九時に再度弦楽演奏、二十時からゴスペルをお願いしている。こちらも小休止を挟めるので、何か簡単なものを胃に収めて、中間成果をまとめて総支配人へ報告しよう。

 軽やかなジングルベルが終わると周囲から拍手が起こる。私も柱のそばで邪魔にならないように拍手をする。スタッフの誘導で演奏家がステージを降りると、ロビーにいたお客様は大半の人が帰り支度についた。思っていたより多くの人が帰るようだ。私はインカムで応援を呼ぶ。チップの払い戻しが混乱しないようにしなければ。

 バックヤードから二名、駆け付けてくれるのが見える。私に軽く手を挙げるとそのままエントランスへと向かってくれる。自然と息を大きく吐いた。

「お母さん」

 すぐ後ろから声がした。ひさしぶりに聞く、間違えようのない娘の声。

 勢いよく振り向いたそこには、詩音と母が立っていた。一週間前の深夜の二時に電話で大ゲンカした記憶が蘇る。だがそれを感じない、穏やかな顔をしていた。

「二人とも、どうして」

「私が提案したの。香織の仕事ぶりを観に行こうって」

 悪戯を見つかったような、少しばつの悪そうな顔で母が詩音の手をぎゅっと握る。詩音はその手を握ったまま一歩進み、私を見上げた。

「昨日、お祖母ちゃんとこのホテルに泊まったの。すっごく良かった。夢みたいだった。一生の思い出になった」

 その言葉に思わず息を呑む。

「このひとときを一生の思い出に」

 現社長が方針演説で毎回言及する、このホテルリゾートのモットーだ。だが詩音はそんなことは知らない。その子の口から出てきた言葉に、思わず胸がつまる。

「それに、今日はずっとお母さんが働いているところ、見てた」

 ホテル内のお客様には常に意識を向けていたつもりだった。だが、見られていたことには全く気がつかなかった。

 詩音は私のそばに近づき、まっすぐに見上げる。その頬が少し色づいているように見える。

「お母さん、カッコ良かった」

「詩音……」

「突然家出して、ごめんなさい」

 大きく頭を下げた。強い意志のある清々しい謝罪。だが謝るべきなのは、私も一緒だ。彼女の上半身を抱き起すように強く抱きしめる。

「お母さんこそ、ゴメン。もっと詩音と話をして相談すべきだった。いつも時間が取れなくてゴメンね」

「うん。頑張ってくれてありがとう。でももう少し、話聞いてほしい」

「ええ。そうよね。詩音、大好きよ」

 こうして抱きしめるのはいつぶりなのだろう。私とほとんど背丈の変わらない我が子の頭を撫でる。目を開けた正面には八メートルのクリスマスツリー。

 この街一番のツリーの下で、私はこの世で一番の宝物を抱きしめていた。


Ep19        \




【特別出演者のご紹介1】

おひさま幼稚園 は、りみっと様のところからお招きした園です。


りみっとさんは、毎週ショートショートnoteへ欠かさず提出されている優等生。その中でもいくつかのキャラクターをお持ちで、今回お招きしたのもそのひとつ。
まあ、メインはケンちゃん、ミコちゃん、太郎くんあたりなんですが、今回はイケメンのタクヤくんに目立っていただきました。
七夕の時にも女子からモテてましたね。


と、幼稚園を紹介しましたが、個人的に好きなのは植物学者の博士と助手シリーズです。
たらは親分の無理難題をそつなくこなすショートショート筋がボディービルダー並みです。


【特別出演者のご紹介2】

童話の読み聞かせのため、ヱリ 様にご登壇いただきました。


もはや紹介するまでもない、創作大賞2024受賞者の御方。文章はもちろんのこと、ピアノや読み聞かせまでできるという多彩な才能を発揮されています。なんか一個ください。


白鉛筆さんの企画された桃太郎企画にて、読み聞かせという誰とも被るわけがないスタイルで周囲の民をねじ伏せたことは、まだ記憶に鮮明に残っております。



【私信】りみっとさん・ヱリさんへ
お願いがあります!
この連載小説終了後となりますが、条件付きで、いぬいゆうたさんに全話朗読をしていただけることになりました!
条件は「ゲスト出演者の生みの親のnoterさん全員からも許可を取ること」。
そこで、もし掲載の内容でよろしければ、コメント欄に「許す」と一言いただけますと非常に嬉しいです。
NG・内容修正依頼等はお手数ですが、クリエイターへのお問い合わせからいただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします<(_ _)>





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