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【連載小説】Ep9:この街一番のツリーの下で

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/        Ep8


(読了目安2分/約1,450字)

Mon, December 16, 2:00 p.m.
Side Kaori Nishikawa


 頭が締め付けられるように痛い。先ほど飲んだ痛み止めもまったく効いていない。飲み過ぎて効かなくなってきているのだろうか。

 正直この街に来てから悪いことばかり起きている。着替えを取りに帰った深夜に、詩音が家にいないことに気がついた時は本当に血の気が引いた。幸い起きていた詩音と直接連絡が取れ、東京へ向かっていることが分かり、腹が立つとともに後ろめたさを感じた。普段感情を出さない子が、電話口で叫びながら泣いていたのだ。あの子の心境をもっと察してやらなければならなかった。母親失格だ。

 翌朝、恥を忍んで静岡の実家へ電話し、母に詩音の面倒を頼んだ。昨日の夕方に合流したという連絡を受け、ほっとしたのもつかの間、これだ。

「あの、やはり警察に」

「一度総支配人に話をします。でも、ただの悪戯でしょう」

 今年入社したばかりの水野さんは不安そうにオロオロしている。私はあえて動じていないように微笑みかけると、どうもありがとう、と退室させる。

 扉が締まるのを確認すると、手元の紙にもう一度目を落とす。

『クリすマすツリーをヤメロ さもナクば バくはする』

 雑誌の文字を切り抜き、貼っているようだ。揃わない文字と書体が不気味さを演出している。だが、届いた封筒の宛名は手書きで消印はこの街。爆破予告するような危険人物にしては随分と詰めが甘い。もしかしたらこの手紙から指紋も採取できるかもしれない。

 この杜撰なところを見ると、背の高いクリスマスツリーを飾る私たちを脅してやろうというただの悪戯だろう。だからといって捨て置くこともできない。

 そもそもこの巨大なツリーさえ飾らなければ、客が減ることもなく、私がこの街に来ることもなく、詩音と喧嘩することもなく、こんな脅迫文を受け取ることもないのだ。もう何度言っても仕方のないことだけれど。

 そんなことを考えながら歩いていると総支配人の部屋の前にたどり着く、軽く頬を叩くとノックして入室する。

 事情を説明し脅迫文を手渡すが、想像通りの反応だ。

「一応ロビーに不審物が無いか、定期的に確認するように。まあ普段の業務のうちでもあるし、そう血眼になって探す必要も無い。君の見立て通りただの悪戯だろう」

 興味を失ったのか、脅迫文は脇に置かれその話題は終了する。

「それで、クリスマスイベントのスケジュールは固まったのか?」

「はい。外部のアーティストは二組確保し、二十四、二十五日と押さえました。ゴスペルグループと弦楽器四名のグループです。各グループ一日二回演奏をいただき、こちらを中心に地元の方々のステージを配置していきます。幸い帳面町はクリエイターの街ですので、スケジュールは埋まりました。昼間はファミリー客を狙い、幼稚園の歌や童話の読み聞かせを入れています」

「随分と大きく路線変更をしたな」

「先週のミーティングで申し上げた通り、まずは住民に受け入れてもらうことが最優先です。園の先生方に協力いただき、ブランドを損ねない配慮は行います。料理も昼間は子供向きのものを提供します」

 少し不服そうな顔で椅子から見上げるその視線を正面から受け止め、有無を言わせぬ口調で返す。そもそもこの男のワガママが招いた結果だ。もうクリスマスは来週だ。後戻りはおろか一分一秒も惜しいのだ。一言も口を挟ませてなるものか。

「よろしいですね」

 私の言葉に鈴木総支配人は逡巡し、やがて無言で頷く。心境を推し量るつもりはない。


Ep10        \








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