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【連載小説】Ep14:この街一番のツリーの下で

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/        Ep13


(読了目安3分/約2,050字)

Sat, December 21, 4:30 p.m.
Side Shion Nishikawa


 少しずつ太陽の光が橙色になっていく。穏やかな海面を光が撫でてキラキラと輝いていた。一瞬吹いた海からの風がひどく冷たく、思わずぎゅっと肩に力がこもる。

「詩音ー! 帰ろう!」

 買い物を終わらせたお祖母ちゃんが、駐車場から呼んでいた。私は立ち上がり、軽くお尻についた砂を払うと、浜辺から階段を上り舗装された駐車場へ向かう。

 東京では絶対見かけない大きな駐車場。スーパーの入口に近いところばかりが埋まっていて、一番端の浜辺側は空いている。入口から五番目の駐車場に停まっていた車の後部座席には、大きな白菜が見える。

「どうしようかなと思ったけど白菜が安かったしやっぱり水炊きにしようかと思って。ちょっと続きすぎかなと思うけどまあ冬だしね」

 車を走らせながら、お祖母ちゃんは楽しそうに話す。私は生返事をしながら、窓の外を眺めていた。

 夜行バスに乗ったあの日、思っていたよりも早くお母さんから連絡があった。目が覚めた時には不在通知が二回とLINEが入っていて、最初のサービスエリアで電話して、お母さんの自分勝手な言い分に思わず叫んでいた。感情がぐちゃぐちゃになって、叫びながら泣いていた。

 誰もいない冷え切った家に帰ると、お祖母ちゃんから連絡があり夕方には家まで来てくれた。なんだか人と話すのがひさしぶりな気がして、外で温かいご飯を食べながら夢中で話した。ほとんどがお母さんの悪口。お祖母ちゃんは何も言わずただ聞いてくれた。そして宿題も終わっていて学校も行けないことを知ると、じゃあ静岡においでと笑った。どうせ東京に残っても学校の友達とは会えないので、行くことにした。

 静岡の田舎にはもう正月の準備の時期も来ていて、普通のスーパーにはクリスマスリースの隣にしめ縄が売っていた。デパートにはクリスマスらしい飾りがあるけれど、街中のライトアップは少し寂しい。

 暗くなった道を走り、家に帰って先にお風呂へ入ると、上がった頃には鍋の準備ができていた。テーブルの真ん中にカセットコンロが置かれ、ザルに盛った野菜と鶏肉、取り皿とゴマダレとポン酢と食べるラー油とおたまと菜箸。あと昨日食べた煮物と漬物がタッパーのまま出てくる。お祖母ちゃん用の缶ビールと私用の麦茶。四人掛けのテーブルは二人分でいっぱいになる。

 帳面町ではA4くらいの場所があれば良かった。お弁当一つ分。いや、東京でも二日に一日はそうだった。お祖母ちゃんは「足りないといけない」と言いながら、何でもたくさん作る。そして食べきれずに明日へ残すのだ。最初は戸惑ったけど、一週間経つと慣れてきた。お祖父ちゃんが亡くなったのは今年の春だった。きっとお祖母ちゃんも一人で寂しかったんだと思う。

「今頃、香織は何食べてるんだろうね」

 お祖母ちゃんは沸騰する鍋を眺めながらビールを飲む。

「多分、カロリーメイトかウィダーインゼリーだよ」

「あの子はそんなもんばっか食べてるの? ちゃんとご飯食べないと」

「ご飯より効率が良いんだって」

 私は最初に火が通ったネギをポン酢へくぐらせる。お祖母ちゃんため息をつきながら、菜箸で野菜を鍋へ押し込む。

「若くないんだから、もっと自分の健康のことを考えてほしいわね。倒れてもらっても面倒見切れないわ」

 ご飯を食べる時、お祖母ちゃんはいつもお母さんのことを話す。

「お母さんのこと、心配?」

「あたりまえじゃない。子どもだもの」

「もう四十五だよ」

「いくつになっても私の子どもよ。親ってのはいつまでも子どもの心配をするものなの」

「お母さんは、違うよ」

 白菜とえのきを口に運びかけて、お祖母ちゃんの箸が止まる。

「あら、心配されてないと思ってるの?」

 私はうつむいたまま箸を置く。

「家出して、はじめて心配されたんだよ」

「それまでだって気にかけてるわよ。あの子はね、効率効率とか言ってるけど、昔っから不器用なのよ。そりゃ頭も良いし、あの子にはこっちを選べば正解ってわかってるのかもしれないけど、それを伝えたり説得するのが下手なの。ううん、下手というかプライドが邪魔して下手したてに出られないのかもね。あと一言付け足せばもっとスムーズにいくのに、その一言が言えない」

 私は麦茶で喉を潤す。

「詩音のこともすごく気にかけてるわよ。離婚したことは後悔してないみたいだけど、詩音に迷惑かけてるって気にしてるのよ。だから人一倍働いて、父親がいなくても将来の選択肢を狭めないようにしたいってね」

「でも……」

 私は、もっとお母さんと話したい。

 言葉は喉の奥で詰まる。人一倍働いている母親にワガママを言いそうになる。

「ねえ、詩音。一緒に旅行しない? 一度行ってみたいと思っていたの。もちろん香織には内緒で」

 お祖母ちゃんはこたつの上に置いていたiPadを差し出す。そこに映し出されていたのは、Grande Eterna di Noteグランデエテルナ帳面町だった。



Ep15        \






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