【連載小説】Ep5:この街一番のツリーの下で
(読了目安3分/約2,300字+α)
Thu, December 12, 8:00 p.m.
Side Shunsuke Teshima
冗談じゃない。どう考えたって理不尽だ。
星野真凛はウチの出版社が開催した公募の小説部門の今年の大賞受賞者だ。厳正なる審査とやらがブラックボックスで行われ、晴れて現役大学生のインフルエンサーが受賞となった。一介の編集屋が口を出すところではないが、正直もっと良い作品はあったんじゃないかと思う。だが、こちらも商売なのだ。弱小出版社から無名の新人の受賞作を発売するより、すでに人気絶頂のインフルエンサーが新人賞を受賞し処女作の発売となった方が売れるに決まっている。
決まった当初は意気揚々と積極的に打合せに応じた作家先生は、いざ編集作業になると反発を繰り返し今や完全に既読スルーをされている。メールは完全に返信が無くなり電話をすると横柄な態度で対応される。挙句、作家先生の配信チャンネルで俺のことを、「可愛い真凛ちゃんにしつこく連絡してくるストーカー気質のおじさん編集者」と論われた。
そのことを知った編集長が、事実を知ったうえで俺を一週間の自宅謹慎としたのだ。連絡を取ろうとするのも校正の指示を出すのもすべて俺の仕事だ。何の非があるというのか。
思わず編集長へ掴みかかり、自宅謹慎は二週間に伸びた。ブラック企業もいいところだ。
担当は一年目の新人の女子社員に引き継ぐことになり、作家先生との今までのやり取りを含めて内容を伝える。
「くれぐれも商業出版としてふさわしいレベルまでクオリティを上げてくれよ」の言葉に苦笑いをしながら返事をする新人。代わりに編集長から「手嶋、もうお前はいいから帰って頭冷やしてこい」と返答される。
まっすぐ家に帰る気にはなれなかった。ふらりと入ったバーで、店主にそんな話をひたすら愚痴る。
「なあオーナー。俺はなんか間違ってるか? 俺の仕事を忠実にこなしてるだけだろう?」
「お客様や私の世代からは、今どきのお若い方々の考え方は分からない部分もありますね」
「だろう? でも仕事は仕事だ。こっちにも責任があるが、向こうにだってやり通す責任があるんだよ。それを既読スルーだの人格否定だの。親の教育がなってないね」
店主は苦笑しながら、俺に水を差し出す。そんなに酔ってはいないが、一応有難くもらっておく。
ふと店主は何かに気づいたように席を外し奥へ消えると、程なくして戻って来る。
「あの、お客様。犬はお好きでしょうか」
店の中にいる客は二人。店主は俺ともう一人、向こう側の席に座っていた一人の若い女性に向かって問いかける。その女性と思わず目を合わせ、頷いて見せる。店主はほっとした顔を見せ、再度店の奥に消えた。
店内に戻ってきた店主は、バスタオルにくるまれた耳の垂れた犬を抱えていた。客席側へ下ろすと、タオルでしっかりと拭いてやる。白と茶と黒の模様の入った太った犬だ。猫だったら三毛猫だが、犬はなんていう種類だったか。わりと定番の品種だ。
「最近、よくこの犬が食べ物をねだりに来てまして。いつもはもっと遅い時間なんですが、今日は雨が降り出して早めに来たのでしょう」
雨? と問いかける前に、女性が「すみません」と謝る。俺と店主の視線を受け、彼女は咄嗟に口を押さえるが、諦めたように言葉を続ける。
「私、雨女なんです」
「天候を左右する力があるってか。それが本当なら今頃大金持ちだな」
思わず皮肉を口走り、しまったと思う。彼女は驚いたように俺を見つめていた。
「悪ぃ。ちょっと酔っぱらってて口が滑った」
「いえ、この能力をそんなふうに捉えられたのは初めてで」
能力、という言葉が引っ掛かる。どうやらこの女性は、運が無いというレベルではなく能力と呼ぶくらいに雨を引き寄せているつもりらしい。思わず悪戯心が疼く。
「具体的に言えば、どれくらいの頻度で雨が降ってるんだ?」
「百パーセントです」
躊躇いのない返答。仕掛けたこちらが言葉を失う。
「それは、すごいですね」
店主は驚いたように俯いた女性を見つめていた。
「有り得ねぇな。ってことはなんだ。あんたは生まれてこの方一度もお天道様を拝んだことが無いってことか」
「はい。あ、テレビで見たことはあります」
思わず声を上げて笑う。徹底してやがる。
「それが本当ならプロデュースしてやるよ。その顔ならアイドルでもいけるし、能力を活かして実業家として売り込むこともできる」
女性は顔を真っ赤にして両手を前でブンブンと振る。
「とてもそんな!」
その初心な様子にますます笑ってしまう。見ると店主も笑いを堪えているようだ。犬は大人しく座ったまま、そんな様子の俺たちをきょろきょろと見回して細い尻尾を振っている。
「ですが本当にそんな能力があるなら良いですね。喉から手が出るくらいに欲しがっている方も世の中にはいらっしゃるでしょう」
店主は犬の濡れた頭を撫でてやりながら言う。
「そんなこと、考えたこともありませんでした。雨女なんて嫌われるものだと」
「いいか、人間様の出来ることはせいぜい天気予報の精度を上げることだ。もし天気自体を変えられるんだったら、あんたの能力はガリ勉の天気予報士を余裕で越えてるんだ。天賦の才だよ」
俺は財布から紙幣を出しながら話す。外の天気とは裏腹に、晴れやかな気分になっていた。
「こんな私のことを好きになってくれる男性もいるんでしょうか」
「雨女かどうかと恋愛は関係ねぇだろ。あんたは若くて顔も良いんだから、もっと胸張って笑ってろ」
俺の言葉に、ようやく彼女は目尻を下げて笑う。
ビニール傘を借りて店を出る。傘にあたる雨音がいつにも増して心地よかった。
【特別出演者のご紹介】
雨女 は、着ぐるみ様・コッシ―様のところからお借りしたキャラクターです。
6月頃、お題に沿って、コッシーさんの小説→着ぐるみさんのイラスト→コッシーさんの小説→着ぐるみさんのイラスト と投稿された創作バトル企画がありました。
今回出演いただいた雨女は、お題『デートの日はいつも雨降り』で描かれた胸キュンラブストーリーのヒロインです。
バトルというよりはコラボという感じのお二人。全部で3つのお題に挑戦されていましたが、お題が全部いじわる笑
未読の方は仲睦まじいお二人のやりとりを是非ご覧ください。
【私信】着ぐるみさん・コッシ―さんへ
お願いがあります!
この連載小説終了後となりますが、条件付きで、いぬいゆうたさんに全話朗読をしていただけることになりました!
条件は「ゲスト出演者の生みの親のnoterさん全員からも許可を取ること」。
そこで、もし掲載の内容でよろしければ、コメント欄に「許す」と一言いただけますと非常に嬉しいです。
NG・内容修正依頼等はお手数ですが、クリエイターへのお問い合わせからいただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします<(_ _)>
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