【小説】さらば、愛しきポンコツ勇者たちよ 最終話 六勇者たちよ、永遠に
──ふとした拍子に、古い送別スライドがフォルダの奥から出てきた。
退職者の寄せ書きスライド。写真、エピソード、ちょっとした冗談と、そして最後の「お疲れ様でした」の文字。
スクロールしていくと、そこにはかつての“勇者たち”の姿が並んでいた。
営業部の勇者。人事部の勇者。経理部の勇者。法務部の勇者。総務部の勇者。そして、情シス部の勇者──
気づけば、みんな異動か退職で、今はいない。
「……あいつら、元気にやってるかな」
思わず、独りごちる。
俺──経営企画部の佐伯誠二は、あの頃の記憶を、今も忘れられない。
それぞれに“らしさ”があった。
「ヒアリングって、沈黙が苦手な人には向かないんすよ」 ──営業部の勇者は、顧客の言葉を遮りながらも、最後は不思議と契約を取ってきた。
「実務よりピープルマネジメントなんです、今の時代」 ──人事部の勇者は、実務能力ゼロでも、戦略を語る姿がなんだか憎めなかった。
「予実は経営企画の仕事だと思ってました」 ──経理部の勇者は、ひたすら仕訳だけを積み上げて、それでも誰より正確だった。
「社長がOKって言ってるんで、大丈夫だと思います」 ──法務部の勇者は、盲信ともいえる忠誠で、社長の決定を支え続けた。
「旗は振りました!……けど、誰も来ませんでした」 ──総務部の勇者は、プロジェクトの炎上現場で、いつも大きな声で空回っていた。
「通知切ってて、見てませんでした」 ──情シスの勇者は、夜の魔物に対応しない代わりに、誰にも頼まれず影で守ってくれていた。
俺は、こいつらの“やらかし”に何度も頭を抱えた。
怒鳴りたくなる夜もあったし、残業が倍に膨れた週もあった。
Slackの未読バッジが20を超えても、彼らの何かしらの連絡だったこともあった。
Excelが壊れた原因が、まさか「セルをカラフルにしすぎたから」だと知ったときは、笑うしかなかった。
でも、どうしてだろう。
……今、少しだけ、懐かしくなっている。
今の職場は、スマートだ。
みんな賢くて、無駄がない。報連相も完璧。
Slackは静かで、Excelは軽く、資料は秒で出てくる。
……でも、なんというか、“温度”がない。
会議は最短で終わるし、成果物も洗練されてる。
でもそこには、“人間”がいない。
あの頃の職場には、無駄とドタバタとツッコミと……ちょっとした温かさが、確かにあった。
仕事がしやすかったわけじゃない。でも、“働いてる”って感じがしてた。
六人の勇者たちは、今もどこかでポンコツやらかしてるんだろう。
けれど──
もしも、またどこかで再会することがあったら。
きっと、俺は笑ってこう言うだろう。
「懐かしいな、ポンコツ勇者たち」
そして、たぶんこう付け加える。
「……あの頃の俺たちは、ポンコツだけど、強かった」
あの職場の誰もが完璧じゃなかった。
むしろ、完璧とは程遠かった。
でも──
ミスに、笑ってツッコめる余白があった。
報告の遅れに、ちょっとキレながらもフォローする文化があった。
誰かが抜けても、誰かが拾い直していた。
不思議な連携、無言のバトンパス。
効率化の教科書にはない、職場の“温度”がそこにはあった。
どれも、六人のポンコツ勇者たちがいたからこそ、生まれた空気だった。
今の俺は、それを大切に思う。
だからこそ──
彼らのポンコツを、今でも覚えている。
それは、やらかしの記録じゃない。
俺の、“ありがとう”の記録だ。
供養録: 「ありがとう、ポンコツ勇者たち。君らがいたから、俺も少しだけ“人間”でいられたよ」
さらば、愛しきポンコツ勇者たちよ-完-
