【GW】台北圓山大飯店+九份・十分トラベルノート|書きたて✈️成田-台北旅の記録
こんにちは!Bell noteです。
過去の記事でも少し触れたことがありますが、私にとって台北は、もっぱら仕事で訪れることの多い場所です。
そんななかでも、「名前もその存在も、もちろん知っているけれど、仕事ではなかなか縁のない場所」というのが圓山大飯店でした。
赤い柱に金色の装飾、宮殿のような建築。台北の中心部から少し離れた山の中腹にそびえるその存在は、台北を訪れたことのある方で台北松山空港に離発着する時に山の上に立つかなりド派手な建物として一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
士林夜市の近くにありながら、通常のビジネスの会食や出張先として泊まるにはやや不便な立地。
これまで数回、式典や会食などで足を運んだことはありましたが、実際に宿泊したことは一度もありませんでした。
「いつか泊まってみたい」そう思いながら、気づけば台湾と関わりを持ってから、もう随分と年月が経っていました。
ちなみに、この圓山大飯店には興味深い歴史があります。
もともとは日本統治時代に建てられた台湾神社の跡地に建設され、1952年に中華民国の象徴的ホテルとして開業しました。蒋介石総統の命により建てられたこのホテルは、数多くの国賓を迎えてきた格式高い場所として知られています。
現在でも「迎賓館」としての役割を持ちつつ、観光客にも広く門戸を開いている、いわば“台湾の顔”のような存在です。
そんな圓山大飯店に、このたびようやく宿泊する機会がめぐってきました。
きっかけは、妻の仕事の疲れがたまっていることでした。日頃から忙しく、なかなか長期の休みも取りづらい。そんな妻に、少しでも気分転換になればと、近場で気軽に行ける旅先を探していたとき、「あ、そういえば圓山に泊まったことがなかったな」と思い出したのです。
短い日程のなかで、無理なく楽しめて、ちょっと特別感のある場所、そんな条件にぴったりだったのが、この圓山大飯店と台北小旅行でした。
というわけで、今回は “観光客としての視点” で圓山大飯店に泊まってみた+九份と十分のトラベルノートをお届けしたいと思います。
中で使用した現地で撮ったスナップ写真の一部は「九份」で「千と千尋…」を思い出して、今回はジブリ風に加工してみました。
が、しかし、下にスクロールする前に、ちょっとここでお伝えしたいことが….
ふだんの旅は、どちらかといえばリゾート地でゆったり過ごすのが定番なのですが、今回はちょっと珍しく、朝から晩まで動き回る、かなりアクティブな旅になりました。
そのせいで、たった3日間の出来事とは思えないほど書くことが山のようにあり、気がつけばずいぶんと長い文章になってしまいました。「こんなに書いて、果たして読んでくれる人がいるのだろうか……」と自分でも心配になります。
ただ、行き先が台北や九份、十分といった人気のスポットなので、「これから行こうかな」と思っている方にとって、少しは参考になる部分があるかもしれない、そんな期待もあって是非、読んで頂きやすくするために文中にざっくりとした見出しと要約をつけてみました。
もしよければ、気になるところだけでも拾い読みしてもらえたらうれしいです。かなり長めの“旅の備忘録”ですが、ゆるくお付き合いください。
2025年5月3日(土)台北旅行【初日】
①出発前の静かな高まりと、成田から始まる旅の余白
【初日①の要約】
出発前の数日間、忙しい仕事の合間に旅への期待を高めていた妻の様子が印象に残った朝。成田空港へ向かう電車はまさかの大混雑だったが、空港に到着すると拍子抜けするほどスムーズにチェックイン。サクララウンジでのんびり朝食をとりながら、旅の準備やKKDAYツアーの話、空港送迎の選択、宿泊する圓山大飯店の歴史などを語り合う。思いがけず“時間の余白”を味わえた出発初日となった。
🖋出発前の“プレ旅”
このところ妻は、仕事がかなり立て込んでいて、見ていても疲れがにじみ出ている感じだった。それでも、「あと○日で台湾だよ」と言いながら、カレンダーを指差して旅のカウントダウンをしていたのが印象に残っている。
週末になると、ソファに腰を下ろしてスマホ片手に夜市やB級グルメの情報を次々と調べ、「ここ、絶対美味しいやつ」とつぶやきながら、Googleマップにピンを打っていた。特に“地元っぽいお店”にはやけに反応が良く、口コミも念入りに確認。気づけば、台北周辺は彼女の「行きたいリスト」でびっしり埋まっていた。
テレビの録画リストも、いつのまにか「台湾」に関する番組ばかりになっていて、おそらくそれも本人にとっては旅の準備の一部だったのだと思う。すでに気持ちは台湾に飛んでいるような感じだった。
日々の疲れが溜まっていたのは間違いないけれど、そんな中でも楽しそうにスマホの画面を見つめている妻の様子を見ていると、今回の旅行が少しでもいいリフレッシュになればと思った。
ちゃんと笑って、美味しいものを食べて、「来てよかったね」と言ってくれたらそれでいい。そんな気持ちで迎えた、出発当日の朝だった。
🖋成田空港の人混みと意外なスムーズさ
朝9時半、キャリーケースを引きながら自宅を出発した。「今年のゴールデンウィーク、海外旅行に行く人って、たった1%しかいないんだって」と、どこかのテレビ番組で得た情報を妻が少し得意げに話してきた。
1%、ほんとうに?
その後、まさにその数字が信じられないほど現実的に目の前に現れることになる。
成田空港へ向かう電車は、普段とはまったく違っていた。座るどころか、立っている人々でぎゅうぎゅうだ。まるで“その1%”が一斉に成田に向かっているかのような、まさに人の洪水だった。
「1%ってホントなのかね?」と思わず妻に呟いてしまった。
そんな会話をしながら空港に到着すると、案の定、到着ホームはまるで初詣のように人が溢れていた。
「空港の中も混んでるんだろうな」と、軽くこぼしてチェックインカウンターに向かう。しかし、カウンターに到着すると——。
その空気が一瞬で変わった。拍子抜けするほど空いている。
「え、場所間違えた?」とすら思った。あれだけの混雑を見た後に、こんなに静かな空間に出くわすとは、同じ空港とは信じがたい。
そのまま保安検査場に向かうと、こちらも思わず肩透かしを食らうようなスムーズさ。顔認証ゲートを抜けるころには、「さっきの混雑は一体なんだったんだろう?」と、内心で首をかしげていた。
あの“人の洪水”は、どこへ消えたのだろう。
無事に制限エリアに入ると、サクララウンジに向かい、次のステップへと進んだ。
🖋ラウンジでの贅沢な時間
サクララウンジに入ると、拍子抜けするほど空いていた。あの混雑した出発ロビーから一転、静かな空間が広がっている。

ダイニングは以前のオーダー形式からビュッフェ形式に戻っており、JALカレーやサラダ、エビチリなどが並んでいた。さっそくカレーとビールを手に取り、空いている窓際の席に腰を下ろす。
妻は、メゾンカイザーのパンにJALカレーを合わせて“即席カレーパン”をつくって楽しんでいた。こういうときの発想力は、いつもながら面白い。二人で会話をしながら、気づけば何度もおかわり。あっという間にお腹も満たされた。

ふと時計を見ると、出発までまだ2時間も残っている。妻はコーヒーを手に、「こういうのがしたかったんだよね」とぽつり。忙しない日常の延長線上では、なかなか味わえない“時間の余白”のようなものが、ここには確かにあった。
ただ座って、飲んで、食べて、それだけなのに、妙に心が落ち着く。旅の始まりとしては、申し分のないスタートだった。
🖋KKdayツアーの話と旅の流儀
今回の旅行では、事前に「KKday」のナイトツアーをひとつ申し込んでいた。目的地は、台湾の定番観光地でもある「九份」と「十分」。九份といえば、赤い提灯が灯る山間の街並みで有名。十分は、線路沿いでランタンを飛ばせる場所として、よく雑誌やガイドブックに登場する。
KKDAYは台湾発の旅行予約サービスで、アジアを中心にさまざまな現地ツアーを展開している。観光地への送迎つきツアーはもちろん、グルメ体験やSIMカード、空港送迎まで、旅行中に「あると便利だな」と思うサービスがひと通り揃っている。スマホのアプリから簡単に予約できて、料金も比較的手頃。口コミも豊富で、選ぶうえでの参考になる。

私たちが初めてKKDAYを使ったのは、数年前の台中旅行だった。高美湿地のサンセットを見に行くバスツアーに参加したのが最初で、現地まで連れて行ってくれて、あとは「集合時間までご自由に」という、いい意味で“放任”スタイルだったのが気に入った。
いわゆるガイド付きツアーではあるけれど、旗を振ってゾロゾロ歩くような団体行動はなし。説明も必要最小限で、自由時間がしっかり取られている。団体ツアーにありがちな、「お土産屋に強制連行される時間」もないのが、何よりありがたい。
もちろん、完璧なサービスとは言い切れないけれど、料金に対して提供される内容とのバランスがいい。おかげで、口コミも概ね好意的だ。「この値段なら充分満足」といった声が目立つ。
私たちの旅のスタイルも、これにかなり近い。なるべく無理をせず、効率よく、そしてコストはできるだけ抑える。かといって、ケチな旅がしたいわけじゃない。意味のあるお金はしっかり使うけれど、無駄は省きたい。そういう、少し身の丈に合った楽しみ方が、いつの間にか“旅の流儀”になっていた。
今回の「九份・十分ナイトツアー」も、そんな私たちにちょうど良さそうだった。過度な期待はせず、でも、楽しみにしていた。きっとそれくらいが、旅にはちょうどいい。
🖋空港送迎の選択と“片道リカバリー”
今回の旅は2泊3日。いわゆる“弾丸”スケジュールで、移動の手間をどう抑えるかがポイントになっていた。
桃園空港から台北市内までは、タクシーならおよそ1,000元。日本円で約4,500円。一方、MRTを利用すれば、2人合わせても400元ほど。差額は約3,600円。ちょっとした夕食代くらいにはなる。
とはいえ、スーツケースを引きながら移動することを考えると、タクシーのほうが圧倒的にラクなのも事実。この「時間を取るか、節約を取るか」という問題を、なかなか決めきれずにいた。
そんなとき、ふと思い出してKKDAYのアプリを開いてみたところ、「空港→ホテル送迎サービス:3,480円」のプランを発見。これはいい、と思ってすぐに予約しようとしたが……時すでに遅く、「受付終了」の文字が画面に出ていた。
残っていたのは、8時間前まで予約可能な6,900円のプラン。金額は倍近い。
「うーん……」と悩む私の隣で、妻がぽつりと一言。「もったいないよね」
その一言で、そっとスマホを閉じた。言われてみれば、たしかにその通りだった。
ただ、ひとつだけ救いがあった。帰りのホテル→空港送迎については、まだ3,480円のプランが有効だった。すぐに予約を済ませて、なんとか“片道リカバリー”が成立。
小さな選択の積み重ねが旅のスタートをつくっていく。今回は行きはMRT、帰りは送迎。ある意味、バランスは取れたのかもしれない。
🖋圓山大飯店の話題
ラウンジで過ごしながら、話題はこのあと宿泊する圓山大飯店のことや、翌日に予定している「地下トンネルツアー」に移っていった。

このツアーは、ホテル宿泊者だけが参加できる限定のアクティビティで、地味に人気があるらしい。1952年に建てられたこのホテルには、万が一に備えて蒋介石が設計させたという“脱出用トンネル”が今も残っている。東側と西側、2本のルートがあり、私たちが予約しているのは東トンネルの方だ。
ホテルの格式や内装の豪華さだけでなく、こんな“歴史の裏側”が覗けるのはなかなか貴重。観光地にありがちな派手さはないけれど、こういうちょっとした深掘りスポットがあると、旅の満足度はぐっと上がる。
ふたりでスマホ片手に、「明日10時半開始だよね」「集合はロビー横って書いてあるよ」と確認し合いながら、あれこれ話す。内容は特に大したことじゃないのに、こうやって予定を組んだり確認したりしている時間が、案外楽しい。何をするでもない、ただの会話。でも、こういう時間が旅の一部なんだなと改めて思う。
出発時刻が近づき、搭乗口へ向かうと、すでに搭乗は始まっていた。今回の席は通路側と中央。妻の希望だった窓側は取れなかったが、「まあ、短いフライトだしね」とあっさり納得してくれた。
離陸後、しばらくしてからふと窓の外を見ると、夕焼けがゆっくりと色を変えていた。雲の隙間から差し込むオレンジ色の光が、なんとなく「もうすぐ着くよ」と教えてくれているようだった。
②桃園到着と圓山大飯店で迎える静かな夜
【初日②の要約】
フライトは順調だったが、到着後の電子入国申請で少し手間取る想定外の展開も。MRTで市内へ移動し、豆花店でのちょっとした寄り道や翌日のナイトツアー集合場所の確認を挟みつつ、圓山大飯店にチェックイン。重厚な建築と少し不器用な接客に触れつつ、初日は夜市に出かけることなく、部屋で静かに過ごすことに。慌ただしい移動のあとに訪れた、静けさと安心感のある夜だった。
🖋桃園空港での“想定外”
桃園空港には予定どおり到着。機内アナウンスが流れると、ふわっとしていた旅の空気が、一気に現実味を帯びてくる。
が、ここで早速ひとつ、想定外が起きた。
そういえば最近、台湾に来ていなかったな……と思いながら、入国カードのことを思い出す。以前は機内で配っていたはずなのに、今回は一向にその気配がない。「まあ、空港に行けばあるだろう」と軽く考えていたが、それが甘かった。
イミグレーションに向かうと、すでに人が大行列。どうやら複数の到着便が重なったらしく、列はくねくねと折れ曲がってかなり奥まで続いていた。
とりあえず、入国カードがあるはずのカウンターを探してみる。……ない。用紙はおろか、ペンすら見当たらず、代わりに壁にはQRコードのステッカーだけ。

つまり、紙から電子申請への完全移行。あとで調べてみたところ、現在は紙も電子も使えるけれど、空港によっては紙そのものが置かれていない場合もあるらしい。機内で配布がなかった時点で、電子申請が前提だったようだ。
ここで問題になったのは、妻のスマホがまだ現地SIMに差し替えていなかったこと。ネットに繋がらない。仕方なく、私のスマホからテザリングを飛ばし、ふたりで急いで入力を始める。
名前、パスポート番号、滞在先……焦って打つとなぜかタップがうまくいかず、画面が何度も固まる。でも、なんとか完了。「Success」と表示された画面を見たときには、ちょっとした達成感があった。
その後、長い入国審査の列に並ぶことになったが、不思議と列は静かに、スムーズに進んでいく。大きな混乱もなく、無事に入国完了。
予定外の電子申請に少し手間取ったけれど、これもまた、旅のひとコマ。ちょっとバタバタした到着だったけれど、それすらもうまくいったという安心感のほうが大きかった。
🖋桃園MRTで台北へ
飛行機を降りて、まずはひと息。空港の到着ロビーを抜けたところで、しばし座って休憩。前回の台中旅行の話などをぽつぽつ交わしながら、少しずつ気持ちも旅モードに切り替わっていく。
空港から市内までは、桃園MRTで移動。案内に沿って進めば、特に迷うことはない。今回は、台北駅からさらにMRTで圓山駅まで移動し、そこからホテルのシャトルバスを使うルートを選んでいた。
悠遊カードに500元をチャージして改札を通過。ホームにちょうど各駅停車の電車が停まっていたが、しばらくして特急が来たのでそちらに乗ることにした。
台北駅に着いたら、明日のナイトツアーの集合場所である「東一門」を一度確認しておこうということで、まずはその方向へ。……とその前に、ちょっと寄り道。前から一度妻に食べてもらいたいと思っていた、小南門豆花店へ向かった。
ただ、到着が少し遅かったようで、温かい豆花はすでに終了。冷たいタイプだけの提供だった。少し残念だったが、また来る理由ができたと思えば悪くない。

集合場所を確認したあとは、駅構内のライトアップを軽く撮影。

淡水信義線に乗り換えて、圓山駅へ。シャトルバスの出発まで残り7分。バス停を探しながら、ちょっと焦りつつもなんとか無事に到着。ちょうどいいタイミングでバスが現れ、ひと安心。
🖋圓山大飯店の重厚さと、どこか憎めない対応
シャトルバスに揺られること数分。圓山大飯店に到着したのは、すっかり日が暮れた時間だった。建物全体がライトアップされ、朱塗りの柱と金色の装飾が夜の闇に浮かび上がる。その存在感は圧巻で、まるで映画のセットに紛れ込んだかのような感覚に包まれる。




ロビーに入ると、天井の梅の花の装飾や金龍の彫刻が視界に飛び込んでくる。どこを見ても“圧”のある空間。かつて国家元首や各国の要人が泊まったというのも納得の、格式の高さを感じる。
ただ、チェックインで少しつまずいた。渡されたカードキーが、エレベーターでなぜか反応しない。結局フロントに戻って再発行してもらうことになった。

でも不思議と、そういう小さなトラブルも気にならない。スタッフの対応は丁寧ながら、どこか素人っぽさもあって、それがかえって憎めない。妻も「こういうの、逆にいいよね」と笑っていた。
マニュアル通りではないけれど、だからこその温かさがある。完璧ではないけれど、それがこのホテルの魅力なのかもしれない。
部屋に向かう前に、ホテル内のファミマに立ち寄る。水とお菓子、ビールを数本買い込んで、チェックイン後のひとときを整える。館内にコンビニがあるというだけで、かなり安心感がある。
本来なら、初日は夜市に行く予定だった。「台湾に来たらまずは屋台ごはんでしょ」と盛り上がっていたけれど、妻が「今日はもういいかな」とつぶやき、そのまま静かにお風呂の準備を始めた。
たしかに、朝からずっと移動づくしだった。よく歩いたし、気も使った。予定を詰め込むより、こうして部屋でゆっくりするのも悪くない。
明日は、いよいよ九份と十分のナイトツアー。楽しみは、まだこれから。
2025年5月4日(日)台北旅行【二日目】
①【朝の圓山】静かな目覚めと、ホテルで味わう台湾の朝
二日目①の要約
旅先特有の早起きで始まった朝は、静かで穏やかな時間からスタート。圓山大飯店の朝食は予想を超える充実ぶりで、台湾のローカル料理から和洋食まで幅広く並び、見た目にも楽しいビュッフェだった。歴史ある空間で味わう朝ごはんは、旅の中でも特別な記憶になった。
🖋旅先の朝は、少しだけ早く目覚める
目覚ましは7時半にセットしていたのだけど、それより少し早く目が覚めた。
旅先では、いつもより少しだけ神経が冴えるというか、「そろそろ起きようかな」という気分が自然と身体を動かす。気づかないうちに、今日の予定が心のどこかに浮かんでいたのかもしれない。

まだ外は静かで、部屋のカーテンの隙間からぼんやりと朝の光が漏れている。寝起きのぼんやりした頭のまま、部屋の中をゆっくり歩いて、少しだけ身体を伸ばす。
そのうち、シーツがゆっくりと動く音がして、妻が上体を起こした。「おはよう」と、小さな声。
こういう時間がいいなと思う。まだ1日が動き出す前の、ほんの短い間だけ訪れる、旅先特有のやわらかい静けさ。非日常なのに、どこか落ち着く。そんな空気が部屋の中にゆっくりと広がっていた。
🖋豪華すぎる朝のご褒美。圓山大飯店の朝食体験
朝8時半。予定通りに部屋を出て、ロビーに面したメインダイニングへ向かった。朱塗りの柱が並ぶ吹き抜けのホールに隣接するその空間は、どこか厳かな雰囲気が漂い、朝食会場というより、歴史ある建物の一室に足を踏み入れるような感覚だった。
入口で部屋番号を伝えると、スタッフがややたどたどしい日本語でにこやかに案内してくれた。このちょっとした“ぎこちなさ”もまた、このホテルらしい温かみのひとつに感じられた。昨日のチェックイン時と同じ、“てへ感”が健在で、つい笑ってしまう。
実のところ、朝食にはあまり期待していなかった。仕事で訪れた台湾のビジネスホテルでは、“必要最低限”といった内容が多く、正直そこまでの印象はなかったからだ。
ところが、見事にいい意味で裏切られた。
まず目を引いたのは、地元の朝食文化をしっかりと取り入れたビュッフェ。豆花や蛋餅、飯糰、蔥抓餅、油條と豆乳といった定番ローカルメニューがずらりと並んでいた。さらに魯肉飯にお粥、大根餅、包子や角煮など、朝からこの充実ぶりはすごい。まさに“台湾の朝”が、テーブルに凝縮されているようだった。






中華点心のラインナップも豊富で、焼売や肉まんが並び、洋食コーナーにはハムやソーセージ、スクランブルエッグなどもあって、外国人観光客向けの選択肢も抜かりない。
驚いたのは和食も用意されていたこと。納豆、焼き魚、いなり寿司に巻き寿司まであり、日本人ゲストをよく理解していることが伝わってきた。
デザートコーナーには、タロイモのまんじゅう、ゴマ団子、ヤクルト、ジョワまで。朝からちょっとした縁日のような楽しさがあった。

もちろん、台湾フルーツのコーナーも忘れずにチェック。パイナップル、ドラゴンフルーツ、スイカなどが並び、どれも甘くてみずみずしい。コーヒーは一杯ずつ挽けるマシンが複数設置されていて、待たされることもない。

「これは、街の朝食屋に行かなくて正解だったかもね」などと笑いながら、ふたりで満足そうに食事を終えた。
コーヒーを飲みながら少しだけのんびりして、食後のロビーをぐるりと散策。朝の光に照らされた朱塗りの柱と金の装飾を眺めながら、「このホテルにして本当によかったな」と改めて感じる、そんな朝だった。
②【圓山の裏側】地下トンネルで辿る“もしもの歴史”
二日目②の要約:
朝食後に参加した圓山大飯店の地下トンネルツアーは、蒋介石夫妻の脱出ルートとして整備された歴史的施設を巡る、宿泊者限定の特別な体験だった。コンクリートの無機質な通路や日本語音声ガイドによる解説、さらには高額な会員制クラブの紹介など、表の格式とは違う“裏圓山”の顔に触れたひとときは、印象的な朝の記憶として心に残った。
🖋圓山の地下に広がる“もうひとつの世界”へ
朝食後、いったん部屋に戻って身支度を整えたあと、このホテル名物の「東地下トンネル見学ツアー」に向かうことにした。
受付で名前を伝えると、集合場所はひとつ上のVF(ヴィクトリーフロア)との案内。エレベーターで上がると、すでに参加者が集まりはじめていた。聞こえてくる会話のほとんどが日本語で、やはりゴールデンウィークらしく、日本からの旅行者が多いようだった。
受付で予約の確認を済ませ、参加費として1,000元を現金で支払う。身分証の提示を求められたが、パスポートは部屋に置いたままだったため、代わりに部屋のカードキーを出してみた。これで大丈夫かな……と思ったが、特に引っかかることもなく、そのままスムーズに通してくれた。
🖋蒋介石の“もしも”に備えて造られた脱出ルート
受付を済ませると、参加者には機械式の日本語イヤホンガイドが配られた。ガイドは中国語で進行するため、その補足として使うスタイルだ。音声合成のためやや抑揚には違和感があるものの、圓山大飯店の歴史やトンネルの構造について、丁寧な説明が流れてくる。


案内に従い、一同で2階にある東トンネル入口へ移動。ここからが“非日常”の始まりだった。
この地下トンネルは、蒋介石とその妻・宋美齢の指示により1973年に造られたもの。有事の際、目立たず脱出するために極秘裏に整備されたルートだという。実際に使用されることはなかったが、存在そのものが歴史の証のように感じられる。



イヤホンからは、かつてこの地にあった台湾神社のことや、戦後の台湾情勢とあわせてホテル建設の背景も語られる。情報量が多く、ところどころ聞き取りづらい箇所もあるが、耳を傾けながら歩くのはちょっとした探検のようだった。
🖋写真OKの“秘密の通路”
トンネル内は、コンクリートの壁とひんやりとした空気に包まれ、いかにも“地下施設”らしい雰囲気。やや薄暗い照明が続いていて、それがかえって演出効果になっていた。

スタッフは要所で「ここは写真おすすめですよ」と声をかけてくれて、希望者のカメラでシャッターも切ってくれる。完全予約制・宿泊者限定という条件もあって、特別感は十分。ホテルの優雅な表舞台とは一線を画す“もうひとつの圓山”を垣間見られる、ユニークな体験だった。
🖋突然の勧誘と、圧巻の富裕空間
終盤に差しかかった頃、イヤホンガイドの音声が急にトーンを変え、「圓山倶楽部」という会員制クラブの案内が始まった。入会金は40万元(約200万円)、しかも世襲制という。あまりに唐突すぎる高額クラブの宣伝に、ちょっと苦笑い。
ツアーの締めくくりは、マイクロバスでの送迎。バスは圓山倶楽部の専用施設前を通り過ぎる際、車窓からはずらりと並んだ高級車。ポルシェやフェラーリが見えた。
その先には、手入れの行き届いたプールサイドでゆったり泳ぐ年配の方々の姿。それを見て、妻がぽつりとひとこと。
「こういうプールで、いつか泳いでみたいよね」
本気か冗談かはわからないけれど、どこかリアルな響きだった。
🖋忘れがたい朝の記憶として
こうして、圓山大飯店の“表”とはまったく異なる“裏の顔”を覗くような地下トンネルツアーは、約40分ほどで終了。
最後に記念品として「平安」と書かれた赤いお守りを受け取った。
歴史と文化、そしてちょっとしたスリル。40分という時間に詰まった体験は、予想以上に濃密で、思い出深い朝になった。
③【館内めぐり】文化財に触れる圓山のミニツアー
二日目③の要約
地下ツアーのあとは、ホテル公式の“見どころマップ”を頼りに圓山大飯店を散策。天井の装飾「梅の花の藻井」やガラス扉の隠し文字、奉納された石獅子、黄金の龍像など、ホテルに息づく歴史と意匠の深みに触れた。予定をすべて詰め込まず、名物スイーツは次回の“お楽しみ”に。余白を残すことで旅の満足感が静かに深まっていった。
🖋圓山大飯店、“館内文化財”の小さな探訪
フロントに戻ったあと、妻が事前に調べておいた「圓山大飯店の見どころマップ」を片手に、ホテル内をひと回りしてみることにした。公式サイトに載っていた“館内おすすめスポット”の数々を、実際に歩いて確かめるという、小さな館内ツアーだ。
正直、最初は“ついで程度”の気持ちだった。だが、いざ歩きはじめてみると、思いのほか見応えがある。単なる豪華なホテルというより、そこかしこに文化財的な意匠や歴史の名残が詰まっていて、小さな美術館をめぐるような気分になってくる。
🖋天井を彩る、縁起の意匠「梅の花の藻井」
最初に足を止めたのは、ロビーの天井を飾る「梅の花の藻井(そうせい)」。見上げた瞬間、「これはすごいね」と、思わず声が漏れた。

天井いっぱいに広がる金色の立体装飾。その中央では、五匹の金龍が一つの珠を囲むようにして舞っている。ホームページによると、この構図には「五福臨門(ごふくりんもん)」長寿・財産・健康運・好徳・善終という五つの福が舞い込むように、という縁起が込められているらしい。
ただ派手なだけではなく、意味のある装飾というところがいい。ホテルとしての重厚さも感じるし、こういう意匠を目にすると、やはり“ここは特別な場所なんだな”という気持ちになる。
ほんの数分立ち止まって見上げていただけだが、それだけでも十分に印象に残る天井だった。
🖋扉に隠された「中華民国万歳」のメッセージ
次に立ち寄ったのは、ホテルの正面玄関にあるガラス扉。パッと見は装飾の一部にしか見えないが、実はその文様の中に「中華民国万歳」という六文字が、古代文字で隠されているのだという。
「これ、“中”っぽくない?」と、ふたりで指先を使って探しはじめる。どの部分がどの文字なのか、最初はピンと来なかったけれど、少しずつ形を重ねていくうちに、だんだんそれらしく見えてくる。


歴史あるホテルの入り口で、こんなちょっとした“宝探し”のような時間を過ごせるとは思っていなかった。格式ある空間に、こうした遊び心が織り込まれているのが、圓山らしさなのかもしれない。
🖋歴史を見つめる「林家奉納の石獅子」
館内をひと通り歩いたあと、外の空気を吸いにホテルの庭園へ出てみた。ガーデン広場の一角、静かに佇んでいたのが「林家奉納の石獅子」。あまり目立つ場所ではないが、ホテルの歴史を物語るひとつの象徴でもある。


この石獅子は、日本統治時代に台湾神社が建立された際、板橋の名家・林家から奉納されたものだそうだ。サイズは控えめながらも、しっかりと踏ん張った姿勢と、口元の彫りに込められた緊張感が印象的だった。
特に目を引いたのは、左右の配置。通常は右が雄、左が雌とされるが、ここの石獅子は逆になっている。朝の地下トンネルツアーで聞いた話を思い出しながら、「ああ、これがそうか」と、実物を前にして納得する。
こうして小さな一角にも、しっかりと歴史が息づいているあたり、さすがは“圓山”という感じがした。
🖋黄金に輝く「百年の金龍」
散策の最後に立ち寄ったのは、金龍レストランの前に据えられた「百年の金龍」。その名のとおり、全身を黄金に輝かせた堂々たる龍の像が出迎えてくれた。

もともとは、かつてこの地にあった台湾神社の正面に置かれていた銅龍で、それがホテルの増築にともなって今の場所に移されたのだという。1987年の改修時には表面に24金のメッキが施され、“金龍”として新たな姿に生まれ変わったらしい。
近くで見ると、細やかな鱗のひとつひとつが陽の光を反射し、まるで呼吸しているかのような生々しさがあった。頭上へ突き出した前足は、今にも何かを掴み取ろうとしているかのようで、ただのオブジェというより、そこに“気配”が宿っているような不思議な迫力がある。
ガイドブックでは「瑞祥(ずいしょう)」吉兆の象徴と紹介されていたが、たしかにその言葉がしっくりくる。見れば見るほど、ただの観光スポットというにはもったいない存在感だった。
🖋そして、「また来る理由」をひとつ残して
ホテルの敷地をひとまわり。文化財のような装飾を眺めて歩くだけのつもりだったが、どのスポットにもきちんと背景があり、ただの“映え”では終わらない見応えがあった。
こういう「泊まるだけではもったいない」ホテルは、なかなかない。
さて、妻が事前にチェックしていた「圓苑レストラン」名物の宋美齢が愛したとされる「紅豆鬆糕(ホンドウソンガオ)」は、今回は見送りとなった。
理由は単純で、ひとつは朝食でお腹がいっぱいすぎたこと。そしてもうひとつは、午後に控えている予定がタイトだったから。
「また来る理由ができたね」
そんなふうに笑った妻に、少しだけ“旅の余白”が見えた気がした。すべてを詰め込まず、少し残しておく。それもまた、旅の楽しみのひとつかもしれない。
④【マンゴー追走記】辿り着けなかった夢と、小さな達観
二日目④の要約:
旅の主目的だった「冰讃」のかき氷に挑むも、行列と時間の壁に阻まれて断念。代替店にも振られ、三軒目でようやくたどり着いたのは“冷凍マンゴー”のかき氷店だった。理想とは違えど、タロイモの美味しさと笑い合える余裕が救いに。完璧ではない旅も、最後はちょっとした満足感で締めくくられた。挫折もまた、旅の思い出の一部になる。
🖋氷讃(ビンザン)へ。旅の“主目的”に向かう道
ホテル内の“見どころめぐり”をひと通り終えたあと、シャトルバスで圓山駅へ。MRTに乗り込み、次の目的地へと向かう。
目指すのは、妻が今回の旅でいちばん楽しみにしていた場所。マンゴーかき氷の人気店「冰讃(ビンザン)」。台湾の中でも指折りの有名店で、営業しているのはマンゴーが旬を迎える夏場だけ。しかも、半年もない短い営業期間。どのガイドブックにも登場するような定番中の定番だ。
妻は出発前からこの店に並々ならぬ情熱を注いでいた。Googleマップにピンを打ち、口コミを熟読。スマホを片手に「ここだけは絶対行きたい」と何度も言っていたのを思い出す。
MRTで雙連駅に到着し、店のあるエリアへと歩いていく。すると、すぐに人だかりが見えてきた。ざっと見て20人ほどの列。これくらいなら……と少しホッとしたのも束の間、列は角を曲がった先で一変する。

建物沿いに続く、想像をはるかに超える長蛇の列。どこまで
続いているのか、一望では把握できない。冗談みたいな光景だ。
「いや、これ……最後尾、どこ?」
少し呆れながら歩いていくと、ようやくたどり着いた最後尾は、体感で200メートル以上先だった。
ここで問題がひとつ浮上する。
妻のリサーチによれば、「10人で30分待ち」らしい。目の前の列は、ざっと見積もって100人はいる。ということは……単純計算で2時間以上待つことになる。
それでもまだ、行列に並ぶこと自体は悪くなかった。問題は、私たちには“時間制限”があること。夕方には、事前に予約してある「九份・十分ナイトツアー」の集合が控えている。
「もし、“あと5人”ってところで時間切れになったら……」と想像して、ちょっと胃がキュッとなった。
だけど、ここで「やめようか」と簡単に言えないのは、妻がこの冰讃を“旅の目的のひとつ”にしていたからだ。本人も、その思いは十分に分かっているはず。
そんな中、妻がスマホを手に列を離れた。少しして、メッセージアプリに通知が届く。
「別の店の候補」
そこには、近くにある別のかき氷店「雪花氷」の情報が添えられていた。営業中のようだし、口コミの評価も悪くない。
少し残念そうな気配は文面の端々ににじんでいたけれど、潔く方向を切り替えた妻の判断に、私は黙って頷いた。
その店に向けて、ふたりで歩き出す。旅には、思いどおりにいかない瞬間もある。けれど、それもまた旅の一部なのだと思う。
さて、次にどんな展開が待っているのか?それはまた、次の一歩の先で。
🖋まさかの貼り紙、そして次の一手
「雪花氷」に期待を込めて向かったものの、現実は、またも肩透かしだった。
店頭に貼られていたのは、たった一枚の紙。
「本日、良いマンゴーが品薄のため1日休業させていただきます。」
その一文を目にした瞬間、ふたりとも声が出なかった。静かに立ち尽くし、しばらく看板の前から動けない。やがて、近くのベンチに腰を下ろす。


時間がゆっくりと過ぎていく中、同じように肩を落とした日本人観光客が、ぽつりぽつりとやって来ては、貼り紙を確認し、がっくりと帰っていく。その姿に、どこかで同じ希望を抱いていた“仲間”たちの気配を感じた。
「冰讃の行列、やっぱり無理だったよね」
誰もがきっと、そう思いながらここに辿り着いたのだろう。だけど、そこにも希望は残っていなかった。
しばらくして、妻がぽつりと、「こうなったら、タクシーで行こうか」と言った。
もはや意地でもマンゴーかき氷を食べたい。そんな気分になっていた。Googleマップを開き、迪化街近くにあるかき氷店「悠哉呷氷」を見つけて、そのままタクシーを拾うことに。
車内で、妻がスマホを見ながら呟く。「口コミに、“冷凍マンゴー使ってる”って書いてある」
一瞬だけ、沈黙が流れる。
「うん、でもそれでも食べよう。旅に“完璧”を求めすぎると、疲れちゃうから」
そう声をかけると、妻はふっと笑って「まあ、そうだね」と頷いた。
期待と現実を、うまく折り合いながら進んでいくのも旅の楽しみ方だと思う。次は、“冷凍でもいいから”の、マンゴーかき氷に向かう。
🖋冷凍マンゴーと、ちいさな達観
迪化街近くの「悠哉呷氷」に到着。ひとまず、目当てだったマンゴーかき氷と、気になっていたタロイモのかき氷をそれぞれ注文する。

念のため、という感じで、妻が店員に聞いてみる。「これ、フレッシュマンゴーですか?」
返ってきたのは、ためらいのないひと言。「冷凍です」

分かっていたとはいえ、やっぱり少しだけショックだったのか、妻は静かにうなずいた。でも、その沈黙は、すぐに別の味が救ってくれた。
タロイモのかき氷。ねっとりとした独特の舌触りに、控えめで上品な甘さ。ひと口食べた瞬間、お互いの顔にふっと笑みが浮かんだ。「……これ、美味しいね」
マンゴーの方はというと、期待が大きすぎたのか、反応は少し控えめ。スプーンを進めながら、妻がぽつりとつぶやく。
「近所のスーパーの冷凍アップルマンゴーが、どれほど優秀かってことが、よーく分かったわ」
それはもう、皮肉でも冗談でもなく、完全に達観したトーンだった。マンゴーに振り回された午後だったけれど、こうして笑えるくらいの余裕があってよかったと思う。旅の味にも、いろいろある。
⑤【迪化街の午後】寄り道と回復で見つけた旅の余白
二日目⑤の要約
冰讃を諦めたからこそ出会えた迪化街の街並みは、懐かしく旅情に満ちていた。午後の陽射しのなか、その情景を胸に刻みながら、ローカルグルメ「牛肉捲餅」と、駅構内のマッサージチェアでの20分間にほっとひと息。計画通りにいかないからこそ、旅は深まる。そんな余白の豊かさを味わった時間。
🖋予定外の寄り道が、旅を豊かにする
結局、今回の旅では冰讃にたどり着くことはできなかった。
だけど、だからこそ出会えたものもある。迪化街の古い街並みは、その筆頭だった。
石畳の道に、赤レンガ造りの昔ながらの建物が並ぶ。乾物屋からはスパイスや干し椎茸の香りがふわっと漂い、軒先には鉢植えの草花が無造作に置かれている。歩くたびに目に入るもの、鼻に届く匂い、どれもがどこか懐かしく、旅情をくすぐる風景だった。
「やっぱり、冰讃は次回リベンジだね」
帰り道、妻がぽつりとそうつぶやいた。私は特に言葉を返さず、うなずくだけにしておいた。悔しさはあるけれど、それすらも旅の余白になる気がしていた。


次こそは、もっと余裕をもって。そう思いながら、午後の陽に照らされた迪化街の通りを、もう一度だけ振り返った。
🖋再び台北駅へ。そして「あの味」へ
迪化街で撮った写真を見返しながら歩いていると、ふと腕時計に目が留まった。時刻はすでに午後。今日参加予定のKKDAYナイトツアーの集合時間まで、あと2時間を切っている。
最寄りのMRT北門駅から台北駅の「東一門」へ出るには少し遠回りになる。だったら、歩いてしまおう、ということで、そのまま街路を東へ。
やがて、昨日も使った桃園MRTの駅に差しかかる。駅構内を抜け、昨日と同じルートで台北駅へと向かう途中で、ふと思い出した。
「そういえば、あれ、まだ食べさせてなかったな……牛肉捲餅。」
出張で台湾に来ていた頃、よく食べたあの味。香ばしい牛肉とネギが、もちっとした薄皮に包まれて、甜麺醤の甘じょっぱい風味がクセになる。ローカルらしさが詰まった、懐かしい台湾の味だ。
迷わず台北駅の「小南門點心世界」へ直行。運よく並ばずにカウンターへたどり着けたので、さっそく2人前をテイクアウト。
手元の時計を見ると、ちょうど残り30分。時間にもまだ余裕がある。このあと、駅構内のどこかでちょっと腰を落ち着けて食べようか、そんなことを話しながら、ツアーの集合場所を目指した。
🖋足の疲れに、ちょっとした贅沢
ふと、「そういえば昨日、妻が言ってたっけ」と思い出した。
台北駅構内で見かけたマッサージチェアの並ぶ一角。「時間があれば、あそこ寄ってみたい」と、何気なく話していたのを思い出し、集合時間まで少し余裕もあったので声をかけてみた。
「せっかくだし、20分だけ受けてみようか?」
こちらの提案に、妻はすぐ「いいね」とうなずく。
案内されたのは、前かがみの姿勢で体を預けるタイプのマッサージチェア。背中を丸めるようにして腰を落とした瞬間、ふたりともあっさり夢の中へ。
気づけば、ぱちりと目が開いたのは集合時間のちょうど10分前。偶然とは思えないタイミングに、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「これ、かなり効いたね」「うん、足がだいぶ楽になった」
旅の合間の、ほんの20分。だけど、思っていた以上にいい“回復タイム”だった。
⑥【十分と九份】ランタンに願いを、茶屋に灯りを
二日目⑥の要約
夕暮れの十分では、願いを込めたランタンを空へ放ち、にぎやかな撮影劇場に思わず笑顔に。線路沿いを散策し、牛肉捲餅を頬張るひとときもまた、旅の味わいだった。九份ではしっとりと降る雨の中、奇跡のように「阿妹茶楼」の特等席に座ることができた。赤い提灯の灯りに包まれながら、ふたり静かにお茶を楽しむ時間は、今回の旅で最も心に残る思い出となった。
🖋大混雑の集合場所と、鋭い“聴覚スイッチ”
台北駅「東一門」に着くと、広場はすでに人、人、人。ざっと見ても100人は優に超えていて、遠足か何かの集合風景のような騒がしさだった。
広場の中央では、スタッフが名簿を片手にマイクで名前を読み上げているのだが、音声が拡散していて、正直ほとんど聞き取れない。耳をすませても、雑踏にかき消されてしまう。
そんな中、妻が突然ぴくりと反応した。
「今、私たちの名前、呼ばれたよ」
「え、ほんとに?」と聞き返す間もなく、すっと列に向かって歩き出す。
ついさっきまでマッサージチェアで気持ちよさそうに眠っていたとは思えない切り替えっぷりに、思わず苦笑い。どこでその集中力にスイッチするのか、不思議でならない。だがこういう瞬間の五感と判断の早さは、いつもながらたいしたものだ。
🖋最前列のワナと、ベテランガイドの登場
案内されたのは、私たちが乗るバス7号車。すでに車内の大半は埋まっていたが、なぜか最前列の2人席だけがぽっかり空いていた。
「ラッキーじゃん」などと言いながら席に座ってみたものの、すぐに違和感に気づく。
足元が不自然に高くなっていて、座面との高さが合わない。足がうまく伸ばせず、落ち着かない。妻も「これ、ちょっと座りづらいね」とぼやいていた。
とはいえ、見晴らしは抜群。前方に遮るものがなく、景色を楽しむには悪くない席だった。この日のツアーは大規模で、KKDAYのバスが全部で10台も出ているらしい。想像以上の人気ぶりに、少し驚く。
私たちのバスを担当するのは、流ちょうな日本語を話す女性ガイドのハンさん。50代くらいの落ち着いた雰囲気で、「九份と十分には、もう1000回以上来てるのよ」とサラッと話していた。説明もテンポが良く、話題も多彩で、車内の空気が少しずつ和んでいくのが分かる。
旅慣れたベテランガイドに身を預ける安心感。バスは静かに出発し、いよいよツアーがスタートした。
🖋夕暮れの十分へ。願いを乗せたランタン
バスが最初に向かったのは、願いを書いたランタンを空に放つことで知られる街、十分。線路沿いにレトロな街並みが続き、多くの観光客でにぎわう人気のエリアだ。
出発前、ガイドのハンさんが車内でアナウンスを入れる。
「願いごとは今のうちに考えておいてくださいね。それと、筆は墨が飛びやすいので、よくしごいてから書いてください」
手際よく、ポイントを押さえたアドバイス。ハンさんのテンポのいい案内に、車内の空気も柔らかくなっていく。
窓の外の景色は、いつの間にかビル群から緑の多い郊外へと変わっていた。空は少しずつ夕焼け色に染まり始め、これから始まる“夜の台湾”への期待が高まっていく。
🖋ランタンに託す願い
十分に到着する頃には、夕暮れの空にランタンが浮かびはじめていた。ふわり、ふわりと舞い上がる橙色の灯りが、しだいに空を染めていく。
空模様はあいにくの小雨。ただ、傘を差すほどではなく、少し気になる程度。それでも、「このまま降り出さなければいいけどね」と、軽く話しながら列に並ぶ。
線路沿いの商店街を10分ほど歩き、ランタンの打ち上げスポットに到着。店の前には、色とりどりのランタンが吊るされていて、そこから“願いごとタイム”が始まった。
ランタンは四面に分かれていて、私と妻でそれぞれ二面ずつ担当。
私は「妻と自分の健康が、これからも変わらず続きますように」と書いた。もう一面には、小説やnoteなど、自分の表現活動がもう少しだけ広がれば……と、少しだけ欲張った願いを。

妻は「定年まで平穏に過ごせますように」と、妻らしい穏やかな一文を。もう一面には、お父さんの健康を気遣う言葉を静かに書き込んでいた。
思い思いの願いを込めながら、筆を進めるこの時間は、少し照れくさく、でも心があたたかくなるひとときだった。
🖋ランタン撮影劇場。そして、空へ
願いを書き終えると、店のスタッフが手際よくランタンをたたみ、私たちに手渡してくれた。そのまま線路の上へ移動。打ち上げの準備が整ったタイミングで、今度は別のスタッフが待ち構えている。
スマートフォンを渡すと、すぐさまカメラモードに切り替え、あれよあれよという間に撮影指示が飛んできた。
「この面、カメラに向けてください」「次、反対側!」「はい、ラスト!」
ランタンをくるくると回しながら、指示されるままにポーズを取る私たち。まるで雑誌の撮影でもしているかのような展開に、少し笑いそうになってしまう。
さらに、最初は無表情だったそのスタッフが、動画撮影の瞬間だけ突然テンションを上げてくる。
「サン!ニー!イチッ!ハイ、離して〜!」

その妙に甲高い掛け声に、思わず吹き出しそうになった。
「動画に声が入るから、テンション上げるようにって決まってるんだろうね」
妻が小さく笑いながらそう言う。なんだか納得できるような、妙にプロっぽい瞬間だった。
ランタンは、するりと夜空へ。ふたりで小さく手を振りながら見上げる。薄曇りの空に、橙色の光がゆっくりと吸い込まれていく。
🖋線路沿いの散策と、ひと口の幸せ
ランタンを飛ばしたあとは、20分ほどの自由時間。特に何をするでもなく、線路沿いの通りを歩いてみることにした。
雑貨屋や軽食スタンドが並んでいて、吊るされたランタンがいい雰囲気を出している。観光客は多いものの、騒がしさよりもどこか緩やかな空気が流れていて、ちょっと歩くだけでも気分が落ち着く。
そういえば、と台北駅で買っておいた牛肉捲餅のことを思い出す。ベンチを見つけて、ふたりでひとつを分け合って食べた。
「これ、美味しいね」
妻がそう言いながら口元を拭く。手軽な軽食だけど、こういうタイミングで食べるとやけに美味しく感じる。
ちょうど小腹も満たされたところで、バスに戻る時間。次は、今回の旅でも楽しみにしていた場所のひとつ、九份へ向かう。
🖋九份へ。山道の先に広がるノスタルジー
バスが九份に向かって山道を登りはじめると、ガイドのハンさんがマイクを手に、ぽつりぽつりと話を始めた。
「“九份”の“九”は数字の九、“份”は“分け前”という意味です。昔、この集落には九世帯しかなくて、誰かが街に買い物へ出るときは、毎回『九人分ください』と頼んでいたそうです。もちろん諸説ありますが」
知らなかった。そんな素朴な由来があったとは。観光地としての賑わいしか知らなかった場所に、ふと生活の匂いが感じられて、ちょっと見方が変わる。
そのあとは、やっぱりというか、お決まりの『千と千尋の神隠し』の話へ。提灯が並ぶ階段、狭い路地、古びた茶楼……確かに似ている。
「でも、スタジオジブリは“九份がモデルじゃない”と公式には否定してるんですよ」と、ハンさんがさらりと補足。
とはいえ、そう言われても、この街並みを見て「あれっぽい」と思う人は多いはず。観光で訪れる側としては、公式かどうかなんて正直あまり関係ない。自分の中でちょっとワクワクできれば、それで十分だ。
🖋九份マップと“妻の本命”
バスの座席には、観光用の「九份マップ」が用意されていた。ハンさんはそれを片手に、おすすめの立ち寄りスポットをひとつずつ説明してくれる。
お土産屋が立ち並ぶ老街(ラオジエ)、古い建物がそのまま残る写真スポット、そして……
「阿妹茶楼。九份でいちばん有名なお茶屋さんです。階段からの眺めがきれいで、特に夜の提灯が灯る時間帯は、写真にすると本当に映えますよ」
その説明に、隣の妻がふっと反応した。配られたマップをじっと見つめながら、「混んでるから、お茶はたぶん無理だと思うけど……写真だけでも撮れたら、それで満足かな」とぽつり。
その声には、ちょっと諦めも混じっていたけれど、やっぱりどこか期待している気配もあった。
そうこうしているうちに、バスは九份に到着。空はやや曇りがちで、湿気を含んだ山の空気が肌にまとわりつくようだった。でも、そのしっとりした感じもまた、この街の雰囲気にはよく似合っていた。
🖋雨の九份。赤い灯と奇跡の席
バスが到着して、さあ降りようかというタイミングで、急に窓に雨粒が叩きつけられた。想像以上の音に、思わず顔を見合わせる。
「うわ、けっこう降ってるな」
外へ出ると、案の定の本降り。傘をさしても足元はすぐに濡れてしまいそうなほどの雨。でも、ガイドのハンさんに続いて、私たちもゆっくりと石段の街・九份の中へと入っていく。
提灯がぽつぽつと灯りはじめていて、それが濡れた石畳に映り込んでいた。昼間に訪れたときとはまったく違う風景。赤い灯りが雨に揺れて、どこか幻想的な雰囲気がある。
「ああ、これは確かにジブリって言いたくなるな」
誰が否定しても、そう思ってしまうのは自然なことかもしれない。しっとりと濡れた九份の夜は、静かに心に染みる風景だった。
🖋奇跡の席と、静かな茶の時間
階段を登って「阿妹茶楼」へ向かう。
息を切らしながら入口に着くと、そこには行列ができていたものの、思っていたほどの混雑ではなかった。
「ちょっと、並んでみる?」
そう声をかけると、妻が軽くうなずく。
しばらく並んでいると、タイミングが良かったのか、前にいたグループがどんどん店内へ。気がつけば、あっという間に私たちの番が来ていた。しかも、案内されたのは2階テラスの角席。あの、テレビなどでよく紹介される“例の場所”だった。
外を見れば、赤い提灯が風に揺れ、その奥には石段を上り下りする傘の列。雨はまだ降っていたけれど、この席にいると、不思議とその気配が遠く感じる。しんと静かな空気が流れていた。

「ここ、すごいね……」
妻が笑顔でそう言う。
2人分のお茶セットを頼むと、スタッフが丁寧に茶器を並べ、簡単に淹れ方の説明をしてくれた。ひと通り聞いたあとは、あとは好きなようにお茶を楽しむだけ。湯を注ぐたびに、ほのかなお茶の香りが立ちのぼる。


気づけば、雨も小降りに。提灯の灯りが雨粒を照らして、静かにゆらゆら揺れていた。何をするでもない時間だけど、それがかえって贅沢だった。
🖋思い出の灯り、そして帰路へ
席で撮った写真を、その場でAIアプリにかけて“ジブリ風”に加工してみた。スマホの画面を見せると、妻が笑う。
「ほんとだ、ジブリキャラっぽいね」

何気ない会話だったけど、どこか楽しそうな雰囲気が伝わってきて、それだけで十分だった。
写真は気がつけばけっこうな枚数になっていた。お茶もゆっくり飲みながら、時間ぎりぎりまで過ごす。
時計を見ると、もうすぐ集合時刻。名残惜しさはあるけれど、急いで階段を下りてバスへ向かう。石畳が少し滑りやすかったので、足元に気をつけながら。
バスに乗り込んだあと、妻がぼそっとつぶやいた。
「今日は、来てよかったね」
「うん、いい時間だった」
たぶんこの九份での時間が、今回の旅の中でいちばん印象に残ると思う。
バスはそのまま士林夜市を経由し、ホテルへと戻る予定。もうすぐ旅の一日が終わる。けれど、九份の赤い灯りは、しばらく心に残りそうだった。
⑦【士林夜市と最終バス】ちょっとだけ、が旅を締めくくる
二日目⑦の要約
夜の士林では、胡椒餅やライスソーセージ、焼き小籠包といった台湾名物を“ちょっとだけ”堪能。食べ逃したさつまいもボールに少し残念さを感じつつも、旅の余白として受け止めた。帰り道はシャトルバスの最終便にギリギリで滑り込み、ホテルに戻ってようやく湯船でひと息。最後まで駆け抜けた一日に、じんわりとした安堵と満足が残った。
🖋士林夜市へ“ちょっとだけ”の寄り道
バスが士林市場の近くにさしかかる頃、妻がぽつりとこぼした。
「夜市は、今日はもういいかな……」
朝から移動も多く、かなり歩き回った一日だったので、そう感じるのも無理はない。でも、夜市に立ち寄る機会はこの旅で今夜だけ。せっかく台湾に来たのだから、雰囲気だけでも見ておきたいと思い、「少しだけ歩いてみようか」と声をかけた。
「そうね、せっかくだし」と短く返ってきたので、そのまま夜市の通りへ足を向ける。
歩きながら、事前に調べていたB級グルメの中から、いくつか目星をつけていた店を探す。人出は多かったが、どこか地元の人たちの空気感もあって、観光地にありがちな浮ついた感じはなかった。
時間に余裕があるわけではなかったけれど、こうして“ちょっとだけ”歩いておくことで、旅の最後にひとつ気持ちの整理がついたような気がした。
🖋胡椒餅とライスソーセージ。士林名物を味わう
最初に向かったのは「福州世祖胡椒餅」。
ミシュラン・ビブグルマンにも選ばれたというだけあって、窯の前にはすでに10人ほどの行列ができていた。けれど、このくらいならすぐだろうと、そのまま並ぶ。

1個65元。ひとつだけ買って半分に割ると、熱気と一緒に胡椒の香りがふわっと広がった。サクッとした皮の中には、肉汁たっぷりの餡。スパイシーさの中にしっかりとした旨味があって、たしかに評判になるのも頷ける味だった。
続いて立ち寄ったのは「大腸包小腸 正宗士林創始店」。
モチ米でできたライスソーセージの中に、中華風ソーセージを挟んだ“包小腸”という名物。いくつかある味の中から、今回はガーリックを選んでみた。価格は70元。

焼きたてのライスソーセージはもっちりとしていて、中のソーセージは甘じょっぱく香ばしい。食べ歩きとしてはちょうどよく、なんだか気持ちまで少し軽くなった。歩き疲れた身体にも、ちょうどいい小休止になった気がする。
🖋食べ逃しと、最後の一品
次に向かったのは、妻がチェックしていた「小皇地瓜球(さつまいもボール)」。この夜市グルメも、今回の旅でぜひ食べておきたかった一品だったのだけれど、到着したときには、すでに店じまいしたあとだった。
「もう少し早ければ、間に合ったかもね」
そう言いながら、少し肩を落とす妻。まだ人通りのある通りを、駅に向かって歩き始める。
その途中、ふと目に留まったのが焼き小籠包の店。ほとんど同時に立ち止まり、「小籠包、食べてなかったね」と口をそろえた。
迷わず購入し、その場でふたりで分ける。熱々の小籠包をふうふうと冷ましながら頬張ると、肉汁がじゅわっと広がって、思っていた以上の満足感。
少し遅い時間だったが、これがちょうどいい締めくくりになった。
そのまま剣潭駅まで歩き、夜市を後にした。ちょっとした心残りはあったけれど、それも含めて夜市らしい時間だったと思う。
🖋ギリギリの夜。最終シャトルバスに滑り込み
剣潭駅のホームで電車を待っていたが、思った以上に来ない。
何度もスマホで時刻表を確認しながら、圓山大飯店のシャトルバス最終便の時間とにらめっこ。刻一刻と迫る発車時刻に、じわじわと焦りが募る。

最終便の出発まで、残り10分を切った頃には、半ば諦めかけていた。
「これは、さすがに厳しいかもしれない」そう思ったタイミングで、ようやく電車がホームに滑り込んできた。
圓山駅に着いたのは、発車4分前。
「先に行く!」
そう言って、荷物を肩にかけたまま一気に駆け出す。夜の駅前を全力で走り、シャトルバスの停留所に到着した時、ちょうどバスが動き出そうとしていた。
運転席の窓を叩き、「もう一人来ます、あと少しだけ待ってもらえますか」と伝える。運転手は驚いたような顔をしながらも、軽くうなずいてくれた。
数秒後、後ろから足音が迫ってくる。ふり返ると、妻が息を切らしながら階段を駆け下りてきた。
どうにか間に合った。ふたり並んで乗り込み、空いている座席に腰を下ろすと、どっと疲れが押し寄せた。
今日も一日、よく動いた。
ほんの数分の差だったけれど、最後のひと踏ん張りでなんとか滑り込めたことに、心の底からほっとした。
🖋夜の安堵、余韻
ホテル行きのシャトルバスに滑り込んで、ようやく座席に腰を下ろした瞬間、全身から力が抜けた。どっと疲れが押し寄せる。
「……今日も、最後まで慌ただしかったな」
思わずそんなひと言が漏れた。となりを見ると、妻も同じように苦笑いしていた。
それでも、不思議と気持ちは軽い。きつかったはずなのに、終わってみれば、どこか楽しかったと思えるのが旅の不思議だ。
ホテルに戻り、さっそく部屋で湯を張る。湯船につかると、歩き疲れた足がじわっとほぐれていくのがわかる。ようやく、身体と気持ちがひと息ついた感じがした。
思い返せば、朝からずっと動きっぱなしだった。でも、そのぶん充実感もひとしおだった。
明日は、いよいよ帰国。
そう思うと、名残惜しさも少しだけ混じる夜だった。
2025年5月5日(月)台北旅行【最終日】
①【帰国の朝と、旅の余韻】静けさの中に満ちるもの
最終日①の要約:
旅の最終日、圓山大飯店で穏やかな朝食をとり、KKDAYの送迎で桃園空港へ。空港ラウンジでは点心やワインを楽しみながら、旅の終わりを静かに噛みしめた。思いがけない出来事や詰め込んだ予定も含めて、すべてが「旅らしさ」に変わっていた。またあの街を思い出し、次の旅へと心が動き出す——そんな幕引きにふさわしい一日だった。
🖋最終日、静かに旅を締めくくる朝
6時半のアラームで起床。少し眠かったけれど、今日はもう帰国の日だと思うと、不思議と気持ちはすっきりしていた。
9時半にはKKDAYの送迎車が来る予定。それまでの時間、ロビー階のダイニングで朝食をとることにした。
すでに勝手は分かっているので、気負うことなく、それぞれ食べたいものを取って席へ。特に会話はなかったが、なんとなく、穏やかで満ち足りた空気が流れていた。慌ただしかった旅の中で、こういう落ち着いた時間があるのはありがたい。
8時半すぎに部屋へ戻り、最後のパッキング。靴や服、バスルームに残っていた小物をひとつずつスーツケースにしまい、チェックアウトの準備を整える。
9時20分、フロントでチェックアウトを済ませて、ロビーでしばし送迎車を待つ。ほどなくして、KKDAYのドライバーがやってきた。
車に乗り込み、ゆっくりとホテルを後にする。短い滞在だったけれど、濃い時間だった。そんなことを思いながら、窓の外に小さく手を振った。
🖋桃園空港で、旅の余韻にひたる
ホテルから空港までは、およそ40分。道も空いていて、拍子抜けするほどスムーズに桃園空港に到着した。
チェックインを終えたあとは、そのまま出国審査へ。こちらも日本と同じく、自動化ゲートで顔認証とパスポートの読み取りだけ。列も短く、あっという間だった。
免税エリアに出ると、まずは妻のお父さんへのお土産にパイナップルケーキを購入。選ぶ種類にちょっと悩んだが、結局、パッケージが上品なものを選んだ。
そのあと、キャセイパシフィック航空のラウンジへ移動。中は広く、点心や麺のライブキッチンがあり、落ち着いた雰囲気。ほどよい静けさのなか、ふたりで軽く食事をとった。妻はカフェラテをゆっくりと飲み、私はバーカウンターでスパークリングワインを一杯。


こういう空港での静かな時間も、旅の終わりにはちょうどいい。
搭乗時間になり、ゲートへ。出発もほぼ定刻。窓の外に広がる台北の街並みが少しずつ遠ざかっていくのを眺めながら、あらためて「よく動いた旅だったな」と思った。
あとは日本に帰るだけ。慌ただしかったけれど、思い出の残る旅になった。
🖋そして、また次の旅へ
こうして、今回の旅は無事に終わった。
思い返せば、朝から晩までとにかくよく動いた。予定を詰め込んだ分だけ慌ただしかったけれど、その分、記憶に残る場面が多かった。小さな行き違いや予想外の展開もあったが、終わってみればどれも“旅らしさ”の一部だったと思える。
どんな旅にも、「また行きたい」と思える瞬間がある。今回もそうだった。次にいつ、どこへ行けるのかはまだ決まっていない。でも、あの街のことをふと思い出すだけで、また少し前向きな気持ちになれる。
それが旅のいいところなのかもしれない。
また時間をつくって、次の行き先を探してみよう。今は、そう静かに思っている。
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