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⏱️タイムトラベルフォトブック|振り返り🛫グアム四連休GW旅の記録


こんにちは、Bell noteです。
旅の記憶というのは、時間が経つにつれて少しずつ輪郭がぼやけていく反面、ふとした拍子に、当時の光や空気、気持ちの揺れまで鮮やかに蘇ってくることがあります。
このエッセイシリーズ「タイムトラベルフォトブック」では、そんな記憶の引き金として、残された写真を頼りに、過去の旅をゆっくりとたどっています。

今回の舞台は、2008年のゴールデンウィークに訪れたグアム。
けれど、いつものように写真フォルダを開いてみたところで、私は軽く戸惑うことになりました。
──写っている場面が、極端に少ないのです。

最初の一枚は、いきなり海の中。
日付は5月4日、午前9時13分。水中に潜る妻の背中をとらえた一枚が、この旅の“冒頭”として残っていました。

その後も、水中写真が数枚。
続いてどこかのレストランで夕食のハンバーガーとステーキ。
翌日にはもう一度ダイビングして、その日の午後には射撃場で的を撃っている。
残っているのは、それだけ。ざっくり言えば、「潜って食べて撃っただけの旅」になってしまう構成です。

でも当然ながら、それだけで終わるような旅ではなかったはずです。

たとえば──旅の始まり。
出発した成田空港や機内の様子も、現地のロビーで受け取った資料や、チェックインの合間に座ったロビーのソファ、そういった“いかにも旅らしい場面”が、写真には一枚も残っていない、思い出すのにも少し時間がかかりました。

ただ、ぼんやりとした記憶の底から、いくつかの感触が浮かび上がってきます。

たしかこの旅は、旅行代理店を通して申し込んだダイビング付きのパッケージツアーでした。
まだスマートフォンで何でも完結できる時代ではなく、空港の代理店の仮設カウンターで封筒を受け取って出発する、そんなアナログな“旅に出る実感”のようなプロセスが残っている旅。
そして、代理店はおそらく、ダイビング専門の旅行会社「ワールドエクスプローラー」で申し込んだプランだったのだと思います。

ワールドエクスプローラのWebサイト

ツアーは「空港からホテルの送迎バス」と「ダイビング」の時間はあらかじめ決まっていました。空いた時間に、何か一つくらい別の体験をと、そう考えて、到着ロビーの棚に並んでいたチラシの束の中から、観光射撃場のパンフレットを何気なくピックアップしていました。
あとになって思えば、その一枚が、旅のもうひとつの印象的なシーンへとつながっていたわけです。

けれど、空港でそんなことを考えていた、その瞬間の写真は、どこにも残っていません。

だからこの旅は、写真だけを見ると、いきなり“海の底”から始まり、“的の射撃”で終わるという、ちょっと変わった構図になっていました。
そんな極端な展開もまた、思い返せば妙にこの旅らしく、今でも印象深く残っているのです。


グアム旅の記憶:海の底から始まった朝(2008年5月4日)

2008年5月4日、朝9時13分。
残っていた最初の写真は、水中で撮った一枚。
潜水して間もないタイミングで、自前の水中カメラのシャッターを押したときの、あの指先の感覚を、いまもなんとなく覚えています。

写真の中央には、酸素ボンベを背負った妻の姿。
黒いウェットスーツに身を包み、左足をやや曲げながら、ゆっくりと砂地のうえを進んでいく。
その奥にはインストラクターと、他の参加者たちの姿も見えます。
白いフィンがふわりと揺れていて、水のなかの流れが静かに伝わってきます。

水中は、よく「静寂の世界」と形容されますが、実際には無音というわけではありません。
レギュレーターを通して響く、自分の呼吸音。
「スーッ、ハーッ」と、規則的に泡が抜けていく音。
それに混じって、ときおり誰かがタンクを軽く“カンッ”と叩いて合図を送る、かすかな金属音──
そうした音が、水の膜を通して、静けさのなかに響いてきます。
この時、何度目のダイブだったかは覚えていませんが、水中での動きにはそれなりに慣れていたはずです。

それでもなお、海のなかにいるという感覚は、何度経験しても特別でした。
浮遊しながら、ただ呼吸に意識を合わせていく。
時間が溶けて、身体の境界が薄れていくような、不思議な感覚。

吸って、吐いて、ゆるやかに進んで、また浮かんで──
その繰り返しのなかで、少しずつ「ああ、旅が始まったんだな」と実感がわいてきたのを覚えています。

海からあがったあとは、ボートの上でふたり、タオルにくるまりながら、水を飲んで、ただ風に当たっていた時間。
濡れた髪が肩に張りついていて、陽射しは強いのに、どこかひんやりと感じたあの空気。
細かい記憶は曖昧になっていても、写真をみるとあのときのことが静かに残っています。


ハンバーガーとステーキの夜(2008年5月4日)

ダイビングを終えてホテルに戻ったあとの午後は、はっきりとした記憶が残っていません。
シャワーを浴びて、ベッドにごろんと横になったような気もするし、少し街を歩いて土産物屋に寄ったような気もする。
どちらもなんとなく思い当たるけれど、確かな確証はありません。
いずれにせよ、疲れた身体で、ぼんやりと時間が過ぎていったことだけはたしかです。

その日の夕食は、写真がしっかり残っています。
2008年5月4日、18時50分。
青と白のチェック柄クロスの上に置かれた、大きなハンバーガーと山盛りのフライドポテト。
隣の皿には、グリルされたステーキとマッシュポテト、
その上からグレービーソースがたっぷりとかけられていて、
脇にはブロッコリーとにんじんといった温野菜も添えられていました。

妙に画質の悪い写真しか残っていませんでした。

特別感のある料理ではありません。
観光地らしい、見た目のわかりやすいボリューム系の一皿です。
写真には店名もメニューも写っていないので、どこで食べたのかも思い出せません。
たぶん、ホテルの近くを歩きながら適当に見つけた店だったんだと思います。
ガイドブックに載っているような人気店ではなく、入りやすそうな雰囲気と空腹が決め手になった、そういう場所です。

とはいえ、旅先でそういう判断をするときの感覚というのは、案外よく覚えているものです。
それが正解かどうかではなく、「ちょうどいい」と感じるタイミング。
おそらくこのときも、そういう選び方でした。

食事中にどんな会話をしたのかは、まったく思い出せません。
ただ、写真の中に写るグラスの水滴や、ナプキンのくしゃっとした感じ、そして対面に座る妻の表情あたりに、なんとなくその場の雰囲気がうっすらと残っている気がします。

空腹と安心感とで、必要なだけ食べて、ダイビングについて喋っていた。
そんな、ごく普通の食事の時間だったように思います。

旅の途中で記憶に残る食事というのは、案外こういう一皿だったりします。
何かに感動したというより、空腹を満たしてくれたとか、落ち着けたとか、
ちょうどよかったとか──そういう感覚の積み重ねが、あとから思い出される。
味よりも、そのときの自分の状態が、静かに残っているのかもしれません。


グアム旅の記憶:ふたたび潜る(2008年5月5日)

2008年5月5日、朝9時59分。
ふたたび、海に潜る。前日と同じような時刻、同じような参加者たち。
でも、写真を見返せば、この日のダイビングはやはり別物だったと思わされます。

この日潜ったのは、グアムを代表する有名なダイビングスポット「ブルーホール」。

グアム南西部の外洋に面したこのポイントは、深さ約60メートルまで落ち込む垂直の穴が特徴です。
上から覗くと、その穴が澄んだ青に浮かび上がり、自然がつくった“水中の聖堂”のようにも見える。
実際、下から見上げると、その輪郭がくっきりと黒く抜けていて、なんとも静謐で印象的な景色でした。

ブルーホール

水中では、少し泳ぐだけで地形のスケール感がまるで違うのがわかります。
海底からぽっかりと口を開けた巨大なブルーホールの周囲を、ゆっくりと時計回りに進んでいく。
透明度が高く、光が斜めに差し込むと、壁に沿って泡がゆらめきながら昇っていきます。

それだけでも充分に非日常的なのに、さらにもうひとつ、思いがけない出会いがありました。
水中で、白い影のようなものがゆっくりとこちらへ近づいてきた──
その正体は、観光用の潜水艦「アトランティス号」でした。

このアトランティス号は、グアムで長年運行されている本物の観光潜水艦です。
水深約30メートルの海底まで潜航し、船内から魚やサンゴ礁の観察ができるという人気アクティビティ。
ダイバーとしては、外からその潜水艦を眺めるという形になるのですが、
水中で大きな構造物とすれ違うあの感覚は、なんとも不思議なものでした。
お互いに手を振り合うわけでもなく、ただ静かに通り過ぎていくだけ──
でも、あのときの距離感には、ちょっとした映画のワンシーンのような味わいがありました。

潜水艦がゆっくり通り過ぎる

その周辺では、やけに魚が密集していたのも印象的でした。
あとから聞くと、この辺りでは餌付けが行われているらしく、その影響で魚が集まりやすいのだそうです。
たしかに、あのときはカメラの前に群れが近づきすぎて、ピントを合わせるのも難しいほどでした。
黄色い縞模様の魚が波のように押し寄せ、身体のすぐ横を何十匹も通り抜けていく。
こうなると、もはや「観察」というより「共存」に近い感覚です。

こうして思い返すと、この2日目のダイビングは、
地形、潜水艦と出会い、生き物の密度──すべてにおいて“濃度”が高い一本だったように思います。
ただそのときは、あまり大げさに感動したわけではなく、
「なんだか、すごいものを見たな」という程度の感覚で、海面に戻ってきた記憶があります。

旅の最中というのは、案外そんなものなのかもしれません。
あとから写真を見返して、ようやくその場の特別さに気づく。
“思い出”として整理されるまでには、少し時間が必要なのだと思います。

2日目の海。
ブルーホール、潜水艦アトランティス、そして渦のような魚の群れ。
どれも特別で、どれも静かで、どれも──不思議と現実味が薄い。
だからこそ、記憶のなかでゆっくりと沈殿していくのかもしれません。


シューティングレンジで撃ったもの(2008年5月5日)

午後5時19分。
夕方の光が少しずつ弱まりはじめた頃、私たちはタムニンの街にあるWestern Frontier Villageという射撃場に足を運んでいました。

この施設は、グアムの観光名所のひとつとして長年知られている老舗のシューティングレンジで、西部劇をモチーフにしたような木目調の内装と、観光客向けに整備された射撃ブースが特徴的な場所です。
空港の到着ロビーでピックアップしたパンフレットの束の中に、この施設のチラシが混ざっていたのをふと思い出し、
「せっかくだし、やってみようか」と軽い気持ちで訪れることになりました。

奥の的に当てる

実際に中へ入ってみると、観光用とはいえ本格的な雰囲気が漂っていて、やや緊張も覚えました。
銃の種類を選び、イヤーマフを装着し、順番を待ってブースに入る。
説明を受けながら銃を構え、ターゲットに向かってゆっくりと引き金を引く──。

衝撃は、思っていた以上に強く、
音もまた、体の芯まで響くような重さがありました。

体験そのものはほんの10分ほどだったと思います。
それでも終わったあとには、手のひらがほんのりと汗ばんでいて、
耳にはややこもった音が残り、心の奥には静かなざわめきのような余韻が漂っていました。

この日、ふたりの手には的の紙と修了証が渡されました。
見返すと、思ったよりも悪くない点数が出ていたようで、ブースの前で並んで記念写真を撮るときには、どこか肩の力が抜けたような表情になっていたのを覚えています。

旅先で射撃体験をすることは、決してめずらしくない観光メニューかもしれません。
けれど、このときの体験は、単に“異国的なイベント”というよりも、
旅の最後に訪れた、ちょっと異質な時間の余白のようにも感じられました。

海のなかで味わった静けさとは真逆の、乾いた空気と鋭い音。
けれどどちらも、あの数日間の旅を構成する、等しく確かな一場面でした。

写真が少ない旅だったからこそ、こうして残されたいくつかの瞬間が、いつまでも記憶の奥にとどまりつづけているのかもしれません。


写っていないものこそ、旅の余白

写真フォルダを開いてみたとき、まず感じたのは「ずいぶん少ないな」という驚きでした。
旅の入り口にあたる成田空港の写真もなければ、ホテルの外観も、移動中の車窓風景もない。
ふだんの私なら、もっとまめにカメラを構えていたはずなのに、なぜかこのグアムの旅だけは違っていた。

そのかわりに残っていたのは、いきなり始まる海の中の景色
笑顔で食べたハンバーガーとステーキ、
ブルーホールで見上げた大きなハートのような穴、そして、旅の最後に訪れたシューティングレンジでの標的用紙──

ぱらぱらとめくるような数枚の写真に、どうやってこの旅を語ろうか。
最初は少し心もとない気持ちでいました。

けれど、思い出そうとするうちに、少しずつ変化が起きてきます。
写真に写っていない“まわり”の景色が、言葉のなかに浮かび上がってくる。
湿ったタオルの感触、耳に残るレギュレーターの音、空港でピックアップしたチラシの手触り、射撃の反動、魚が目の前を通り過ぎていったスピード。

それらはたぶん、「残っていた」のではなく、「忘れていなかった」だけなのです。

記録というのは安心をくれますが、
記憶には揺れがあり、余白があり、なによりも“その人だけの解像度”があります。
それが、このシリーズを書き続けてきて実感する、旅の不思議さでもあります。

今になって思えば、この旅はとても静かなものでした。
驚くようなハプニングもなく、誰かに語るような珍しいエピソードもない。
けれど、そういう旅こそ、あとから思い出すたびにじんわりと沁みてくることがあります。

全部を記録しきれていないからこそ、
この旅には“語りたくなる余地”が、まだたくさん残っている。
そして、それこそが本当にいい旅だった証なのかもしれません。

このグアムの旅が、私にとってそんな記憶になっていることを、いま、こうして書きながらようやく知ることができました。


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