【8月週末1泊2日】2日間でここまで楽しめる!金沢と内灘の充実小旅行|トラベルノート🚅金沢旅の記録
こんにちは、Bell noteです。
先日の記事で綴った 江の島日帰り旅(シリーズ25話目)。
あのときは「泊まりは無理でも、せめて日帰りで夏を味わいたい」という気持ちで、夫婦で江の島に出かけました。真夏の潮風と生しらす、そして温泉とプールに癒され、短い時間ながらも旅の満足感を味わえたことを覚えています。
けれども──旅好きの性(さが)というのでしょうか。
江の島から戻ったその日から、私たち夫婦の中では「やっぱりどこか泊まりで行きたい」という欲がむくむくと膨らみ続けていました。
まとまった休暇が取れない夏でも、条件を絞ればきっと行けるはず。
「一泊で行ける場所」「コスパ良し」「まだ行ったことがない地」。
そんなフィルターで探していくと、意外にもお盆の週末に、手が届く旅先が見つかりました。
行き先は──金沢。
選んだ宿は リーズナブルなリソルトリニティ金沢。
そして交通費は、新幹線の 早割 を駆使して、片道あたりひとり約5,000円も節約。

さらに現地では、金沢の移動をリーズナブルに便利にする金沢市内1日フリー乗車券、

そして金沢から一番近い海「内灘海岸」を楽しむべく、便利な 内灘まち歩きクーポン を活用。

そして翌日の観光は、妻が見つけてくれた地元ボランティア「まいどさん」に案内をお願いすることにしました。
こうして、江の島に続く夏の記録、シリーズ第26話「金沢と内灘の1泊2日旅」が始まります。
🖋旅行初日。早朝出発、新幹線にて
まだ空が白み始めたばかりの東京駅。少し眠そうな妻と並んで北陸新幹線「かがやき」に乗り込む。目指すは金沢。早割きっぷのおかげで交通費をだいぶ抑えることができ、その分「現地でちょっと贅沢しようか」と心に余裕が持てるのが嬉しい。切符一枚で旅の気分がこんなに変わるのだと、あらためて思う。
軽井沢を過ぎ、長野の山々に囲まれる頃には眠気もすっかり消えていた。トンネルを抜けるたびに空気が変わり、旅の高揚感が高まっていくのがわかる。
東京を出て約二時間半。午前八時過ぎ、列車は定刻通りに金沢駅へと滑り込んだ。まだ一日の始まりにすぎないのに、心はすでに満ち足りていた。幸先の良いスタートだった。
🖋金沢駅で1日バス乗車券を購入
金沢駅に降り立つと、まず視界に飛び込んでくるのはシンボルの「鼓門(つづみもん)」と「もてなしドーム」。和太鼓のバチを模した巨大な門は圧倒的な存在感で、駅に立った瞬間に「旅が始まった」と実感させてくれる。

けれど驚いたのは、その景色だけではなかった。駅前には朝から大勢の外国人観光客が集まり、写真を撮ったりスタッフに案内を受けたりしている。至るところに掲示が整えられ、英語や中国語、韓国語といった多言語表示が目に入る。その光景は「観光客が多い」というだけの話ではなく、まるで日本のインバウンド受け入れの理想形を実演して見せられているようで、旅行者として来ているはずの自分たちが、いつの間にか観光都市・金沢のモデルケースを見学しているような、不思議な感覚になった。
改めて駅構内を歩いてみると、“金沢の本気”がさらに伝わってきた。構内の至るところに設置された多言語対応の電子案内板は、バスの運行情報までリアルタイムに表示されている。独立した観光案内所は大型でわかりやすく、さらにスタッフが要所要所に立っていて、声をかければすぐに応じてくれる。これまでいくつもの地方都市を訪ねてきたが、この規模の都市でここまで徹底した観光体制を整えている例は、正直思い当たらない。

後から調べてみると、この背景には2015年の北陸新幹線開通に向けた大規模な取り組みがあったという。石川県と金沢市、そして地元の交通機関が一体となり、「金沢市公共交通戦略」のもとで観光交通の整備を進めてきた。バスにはデジタルサイネージが導入され、多言語表示が強化されている。さらに「城下まち金沢周遊バス一日フリー乗車券」のような共通切符を用意し、観光客がバス会社の違いを気にせず移動できるように工夫されていた。
つまり金沢は、ただ「歴史的な街並みが残っている」から観光地として人気なのではない。新幹線開通を契機に、行政・経済界・市民が一体となって長期的に戦略を練り上げ、都市全体を「観光都市」として磨き上げてきた成果が、いまの姿をつくっているのだ。ここまで官民が一体で動いた成功例は、近代の日本ではかなり珍しいらしい。
そう考えると、駅前を少し歩いただけで感じたあの充実ぶりにも納得がいく。金沢駅は単なる旅の出発点ではなく、この街がどれほど観光客を大切に考えているかを物語る象徴のような場所だった。
私たちもその恩恵にあずかり、観光案内所で「金沢市内1日フリー乗車券」を購入した。大人800円で、城下まち金沢周遊バスをはじめ、市内中心部を走る路線バスや「ふらっとバス」「ショッピングバス」にまで一日乗り放題。主要な観光地はほとんどカバーされているから、兼六園や武家屋敷、ひがし茶屋街といった名所を効率よく巡ることができる。さらに、この切符を提示すれば武家屋敷跡の野村家や21世紀美術館など、市内の文化施設の入場料が割引になる特典まで付いていて、旅人にとってはまさに強い味方だ。
安心の切符を手に入れると、気持ちまで軽くなる。まずは宿「リソルトリニティ金沢」に立ち寄り、荷物を預けて身軽になってから最初の目的地、近江町市場へ向かう。
🖋ホテルでの小さな嬉しい
駅からバスに乗り、近江町市場前で下車すると、目と鼻の先に今日の宿「リソルトリニティ金沢」が見えてきた。市場にも近く、観光の拠点としては申し分ない立地。
まだチェックイン時間前だったので荷物だけを預けようとロビーに入ると、まず目に入ったのが中央に置かれたコーヒーマシン。

エスプレッソやカフェラテまで淹れられるもので、宿泊者であればいつでも自由に利用できるようになっていた。紙コップのほかに九谷焼のマグカップまで並んでいて、好みに応じて選べるようになっている。そして傍らには小さな筒状の入れ物にはいった金箔。

コーヒーの上に筒を軽くふって、金箔をひらりと浮かべれば、一気に金沢らしい一杯に変わる仕掛けだ。観光都市ならではのおもてなしを感じて、ちょっと嬉しくなった。

ソファ席も印象的だった。ロビー自体はこじんまりとしているが、外に向けて置かれたソファや、曲線的なもの、低めのものなど、ひとつひとつ形に工夫があり、選んで座る楽しみがある。深く腰を沈めると、思わずまぶたが落ちてきそうになるほど心地いい。そんなソファで一杯のコーヒーを味わいながら、これからの観光に胸を膨らませた。
ほんの短い時間だったが、出発前の慌ただしさをリセットするような、穏やかなひとときだった。
🖋近江町市場でかきの食べ比べ
金沢に来たら外せないのが「近江町市場」。
「金沢の台所」と呼ばれるだけあって、約280年の歴史を持つ市場には、新鮮な魚介や青果、惣菜や乾物が所狭しと並び、朝からすでに熱気に包まれていた。観光客の姿も多いが、買い物袋を手に歩く地元の人の姿も混じっていて、この場所が観光地でありながら日常の生活の場でもあることが伝わってくる。

市場の通りを歩いていると、ひときわ目を引いたのが「川木商店」。
岩ガキの専門店で、ショーケースにはこぶしほどの大ぶりの牡蠣がずらりと並んでいた。ここではその場で殻を開けてもらい、すぐに味わえるのが魅力だ。天然と養殖の両方が揃っていて、「食べ比べセット」が用意されていた。


せっかくなので二人で一皿注文し、仮設のテーブルに並んで立ち食い。
まずは天然の岩ガキを口にする。ひと口かじると、これまで味わったことのないような濃厚な旨みとミネラル感が一気に広がる。横を見ると、妻が思わず目を丸くして「これは濃いね」と驚いていた。続けて養殖を口にすると、こちらは甘みが際立ち、同じ牡蠣でもまったく別の表情を見せる。天然と養殖、どちらが上というより、それぞれの個性に感心させられた。

「これは甲乙つけがたいね」と顔を見合わせると、自然に笑みがこぼれる。
朝からちょっと贅沢な味わいだったが、こういう体験こそ旅の醍醐味だと思う。妻が「こんなの東京じゃなかなか食べられないね」と嬉しそうに言うのを聞いて、連れてきて良かったと心の中で思った。
🖋近江町市場寿しで贅沢な朝ごはん
岩ガキを楽しんだあとは、妻があらかじめ調べていた寿司処「近江町市場寿し」へ。
市場で仕入れた魚をそのまま握って出す鮮度が売りで、観光客でも入りやすい雰囲気から行列が絶えない人気店だ。店頭に掲げられた「本日のおすすめ」を眺めているだけで期待が膨らんでいく。

私が選んだのは名物の「贅沢丼」。
マグロ、サーモン、うに、いくら、甘えび、のどぐろといった海の幸が盛られた豪華な丼で、見た瞬間に「これはすごい」と声が出そうになった。

ところが中央にどっしり構えていたのは、大きな蟹の甲羅。丼の四分の一を占めるほどの存在感で、確かに見た目の迫力は抜群なのだが、実際に食べられる部分は爪に少しだけ。飾りとしては派手だが、正直これなら付いていない方が良いのではないか?、と少し感じたが、それでも肝心の海鮮は文句なし。濃厚なうにの甘み、口の中でとろける甘えび、脂がのったのどぐろ──一口ごとに幸福感が広がっていく。妻は旬のネタを中心に握りを注文し、ひとつひとつ味わいながら「これは甘いね」「これは歯ごたえが違う」と嬉しそうに話していた。

市場の喧噪を背に、冷房の効いた店内で新鮮な魚を頬張る。外の蒸し暑さとの落差もまた心地よく、朝からこれ以上ないほど贅沢な時間だった。旅の始まりにふさわしい食事で、これからの二日間がますます楽しみになった。

🖋内灘へ
近江町市場寿しをあとに、まっすぐ金沢駅にバスで向かった。
金沢駅から浅野川線に乗り、「内灘クーポン」を使って出発。

このクーポンがまたユニークで、小さな町にしては驚くほど内容が充実していた。内灘町は人口2万5千人ほどの町なのに、鉄道、路線バス、コミュニティバスがすべて乗り放題になるうえ、展望温泉「ほのぼの湯」や歴史資料館「風と砂の館」の入館料が無料、さらに300円分のお買い物券までついてくる。これだけの特典が揃って1,200円。正直、観光都市・金沢のきめ細やかな仕組みづくりが、そのまま隣町にまで波及していることに少し驚かされた。

購入すると渡されるのは数種類の冊子。電車やバスの時刻表に、コミュニティバス「なだバスナディ」の路線図まで入っている。これがまた読み解くのが複雑で、「時計回りルート」「反時計回りルート」「8の字ルート」「北部ルート」と、小さな町を微妙に違うルートでぐるぐる回る、路線が走っている。
電車が内灘駅に到着しかかると、不意に車内に流れてきたのはユーミンの歌声。しかもけっこうな音量で流れている。なんだろうと思っていたら、駅の案内所にその答えがあった。到着メロディとして松任谷由実の「acacia」が採用されているとのこと。町のシンボルであるアカシアの花にちなみ、ユーミンの曲が流れる駅──それだけでちょっと特別な気持ちにさせてくれる。


駅からバスに乗り、コンフォモール内灘というショッピングモールで下車。


次のバスは1時間後。ならばと、裏手の海へ向かった。ビーチサンダルに履き替え、道路下のガードを抜けると、突然ぴゅーっと海風が通り抜ける。その風が驚くほど冷たくて、まるでエアコンの風を浴びたようだった。海風ってこんなに冷たいんだ、と改めて知る。
その先には広大な砂丘。日本三大砂丘のひとつ「内灘砂丘」だ。


海岸線までの距離がやけに長く感じ、歩きながら足先に焼けるような痛みを覚える。

砂が日差しで熱せられ、裸足で踏めば容赦なく火傷しそうなほどだ。それでも海までたどり着き、足を水に浸した瞬間、熱気がすっと引いていく。

強い日差しを和らげるように、天然のクーラーのような海風が全身を包み込み、心地よさに思わず深呼吸した。人影もまばらで、時間があれば一日中でも過ごせそうなくらい。私たちはしばらく足を海に浸したまましばし立ち尽くして、ただ波の音に耳を澄ませていた。
バス停までの帰り道、再び焼けた砂の上を歩くのはさすがに慣れなかったが、それも含めて忘れがたい体験になった。炎天下と冷たい海風、熱い砂と心地よい海水──そのコントラストこそが、内灘らしい記憶として刻まれた。
🖋道の駅・内灘サンセットパーク
コンフォモールから次のバスに乗り込み、「道の駅 内灘サンセットパーク」へ向かう。
バスに乗り込むと妻がバスの時刻表を広げて「この時間なら8の字ルートに乗って、次は反時計回りに…」と首をかしげながら線を引いている姿は、さながら旅先の十津川警部。思わず「推理でもしてるの?」と笑うと、妻も面白がっていた。

バスで辿り着いたのは「道の駅 内灘サンセットパーク」。

高台に位置するここからは日本海と河北潟を一望でき、天気が良ければ白山から立山連峰まで見渡せるという絶好のロケーションだ。海に沈む夕日の名所としても知られているそうだ。



調べてみると内灘といえば、実は“ミルク王国”としても知られているそうだ。

河北潟の干拓地に酪農家が入植して以来、今では石川県の牛乳生産量の6割以上を占めているという。豊かな自然に囲まれた土地から生まれるミルクは濃厚で甘みがあり、その味わいをもっと多くの人に知ってもらいたい──そんな思いから「ミルク王国ウチナダ」のブランドが立ち上げられたそうだ。なるほど、ソフトクリームが名物と言われるわけだ。
ショーケースには、その名物ソフトクリームのほか、地元の果物をふんだんに使ったタルトやロールケーキが並び、どれも美味しそうに輝いていた。

私は予定通りソフトクリームを選んだが、妻は目を輝かせながら珍しいスイカのタルトを注文。ひと口食べて「これは夏にぴったりだね」と嬉しそうに笑っていた。

ここで使ったのは、内灘クーポンに付いていた300円分の金券。二人で600円分。なので、支払いはわずか350円で楽しめてしまった。名物のソフトクリームとタルトを味わいながら、旅先での小さな得をしみじみ噛みしめる。
食後に外に出れば、見晴らしの良い高台の風景。サンセットブリッジや海岸線を背景に記念写真を撮りながら、潮風に吹かれる。清々しい場所で、町全体の雰囲気もどこか洗練されている。
「こんな景色を地元の人は日常的に見ているんだな」と思うと、少し羨ましくなった。
それにしても不思議なのは、この小さな町の“洗練さ”だ。道の駅の雰囲気も、働いているスタッフも、どこかおしゃれで都会的。内灘というと素朴なイメージを抱いていたが、実際に来てみると「地方」と一括りにできない空気がある。後で調べてみると、人口は約2万6千人。町の年間総歳入は122億円あまりで、そのうち住民税や固定資産税といった自主財源は2割強にとどまる一方、国や県からの交付金や補助金が歳入の7割近くを占めていた。数字だけ見れば地方自主税収は潤沢とまでは言えないが、人口規模に対しては比較的ゆとりのある財政を確保している。この余裕が町のインフラや施設のデザインに反映されているのだろう。なるほどと、妙に納得した。
道の駅の名前にある通り、ここは夕日の名所でもある。時間が合えば、真っ赤に沈む太陽とブリッジのシルエットを眺められるのだろう。今回は日中だったが、それでも空気は澄んでいて、白山や立山まで望める絶好のロケーション。爽やかな風に吹かれながら、「次は夕暮れ時に来てみたいね」と話し合った。
🖋サンセットブリッジを渡って「ほのぼの湯」へ
次の目的地は、クーポンで無料になる展望温泉「ほのぼの湯」。
バスはまだまだ、来ないので、サンセットブリッジを渡って歩いて向かうことにした。距離にして数百メートルほどだが、この橋を渡ること自体がすでにひとつの観光体験になっている。

サンセットブリッジ(内灘大橋)は、全長344メートルの斜張橋。白く伸びる主塔から優雅に弧を描くケーブルが広がり、空と海を背景に立つ姿はまさにランドマークそのものだ。日中は青空に映えて凛とした美しさがあり、夕暮れには名前の通り夕陽を背に黄金色に染まる。夜になるとライトアップされ、幻想的な光景に変わるという。町の規模を考えると、これほど立派な橋がかかっていること自体が驚きで、観光名所としても人気なのもうなずける。

実際に歩いてみると、潮風が正面から吹き抜け、暑さで火照った体をやさしく冷ましてくれる。橋の上から見下ろすと、眼下には日本海の荒波がきらきら光を反射し、振り返れば河北潟の穏やかな水面が広がる。荒々しい海と静かな潟、そのコントラストを一度に眺められるのは、ここならではの贅沢だろう。

「これは気持ちいいね」と妻が嬉しそうにつぶやく。汗ばむ陽気の中、海風を浴びながら並んで歩くひとときは、自然と足取りも軽くなる。
ほどなくして「ほのぼの湯」の建物が見えてきた。温泉が待っていると思うと、橋の上で浴びた潮風の心地よさが、さらに心を弾ませてくれる。
🖋ほのぼの湯でひとやすみ
サンセットブリッジを渡りきると、そのすぐ先に「ほのぼの湯」がある。
今回、私たちはクーポンで入館料が無料になったが、どうやら町民デーには地元の人も無料で利用できる日があるらしい。こういうサービスを聞くと、温泉が単なる観光施設ではなく、地域の暮らしに根ざしていることが伝わってきて、なんだか温かい気持ちになる。
中へ入ると、明るくて広々とした浴場が広がっていた。自家源泉100%のお湯は柔らかく、肌を包み込むように優しい。浴槽に身を沈めた瞬間、歩き疲れた足からじんわりと力が抜けていくのがわかる。
そして何より圧巻なのが、窓の外に広がる展望だ。眼下には河北潟の穏やかな水面、その向こうには白山連峰、さらに天気が良ければ立山連峰まで望める。青空の下に連なる山々の稜線は凛として美しく、温泉の湯気に包まれながら眺めていると、まるで絵画の中に身を置いているような感覚になる。

妻も「これはすごかったね」と感嘆の声を漏らしていた。都会のスーパー銭湯のように人でごった返すこともなく、窓際でゆったりと湯に浸かれる贅沢。クーポンで無料というのが申し訳ないくらいで、むしろ通常料金の500円でも十分に安いと感じる。
風呂上がりに休憩室でひと息つくと、窓からは再び潟と山並みが広がっている。


地元の人が当たり前のようにこの景色を楽しんでいると思うと、少し羨ましくもある。短い滞在ながら、この町の“豊かさ”の理由がまたひとつわかった気がした。
🖋内灘駅の観光案内所へ
ほのぼの湯でたっぷり二時間ほど過ごし、すっかり汗も疲れも流れ落ちた。湯上がりの心地よいだるさを抱えながら、目の前のバス停から再び内灘駅へ向かう。

車窓から見る海と砂丘は、行きに見たときよりどこか、なじみのよう映り、温泉の余韻がそう感じさせているのかもしれない。
駅に着くと、クーポンに書いてあった「観光案内所でアンケートに答えるとプレゼントがもらえる」という一文を思い出した。せっかくなので立ち寄ってみることにする。


小さな案内所の扉を開けると、おしゃべり好きそうなおばあちゃんが迎えてくれた。まるで町の顔役のように親しげな口調で「春は桜がきれいだよ」「雪もね、海沿いだからあんまり積もらないんだわ」と、立て続けに内灘の魅力を語ってくれる。観光パンフレットよりもよほど温かみがあって、聞いているだけでこの町が好きになりそうだった。
簡単なアンケートに答えると、壁に展示している三種類のプレゼントを指さして「好きなの選んでね」と促された。並んでいたのは、内灘の風景写真入りクリアファイル、用途不明の民芸品、そして可愛らしいビーチサンダル。

ビーチサンダルが欲しかったのだが、あいにく二人ともにサイズが品切れ。迷った末に、かさばらず実用的なクリアファイルを選んだ。こういう小さな旅の記念品は、後から見返したときにその日の空気ごと蘇ってくれるから嬉しいものだ。
クリアファイルを受け取って礼を言い、改札に向かうとちょうど電車が滑り込んできた。


乗り込んで席に腰を下ろすと、窓の外にバスで巡った内灘の町が見え、やがて遠ざかっていった。短い滞在だったが、海と砂丘、温泉と牛乳の町“ミルク王国ウチナダ”の景色は、しっかりと心に刻まれた。
🖋金沢の夜、焼肉「喜緑」へ
ホテルに戻り、ひと息ついたら夜の予定は兼六園のライトアップ。

あまり夕食に迷って時間を使うと、ライトアップの終わりに間に合わなくなる。そこで「今日は近場で済ませよう」と相談し、朝は海鮮だったので夜は肉と決まった。どうせなら名物の能登牛…と探し始めたものの、焼肉屋の数が多すぎてすぐ迷路に入り込む。結局「近いのが一番」と割り切り、ホテル裏にある焼肉屋「喜緑(きみどり)」へ向かうことにした。口コミ評価4.9という数字も背中を押してくれた。


入ってみると、昔ながらの焼肉店という雰囲気。残念ながら能登牛ではなかったが、それでも肉は柔らかく旨みがおいしい。そしてリーズナブル。何よりも良かったのはスタッフの方々の接客だった。全員女性で、笑顔と気配りが素晴らしい。小さなお店だが、煙も気にならず清潔感があって居心地がいい。観光客がふらりと入っても、まるで常連のように温かく迎えてくれる。





最後に頼んだ〆のミニカレーは、口コミで「絶品」と書かれていた通りの味。牛すじのとろける食感とスパイスの加減が絶妙で、焼肉屋のカレーがこれほど旨いのかと少し驚き。お腹いっぱいなのにペロッとたいらげた、二人して笑ってしまったほどだった。

能登牛にはありつけなかったが、それ以上に温かく満たされる夕食だった。「ここは当たりだった」と顔を見合わせ、これから向かう兼六園のライトアップへの期待も自然と高まっていった。
🖋兼六園ライトアップへ
焼肉「喜緑」でしっかり腹ごしらえを済ませたあと、バスに揺られて兼六園へ向かう。ホテルから歩いてすぐのバス停から乗れば、ほんの十数分で兼六園下に着く。夜のバスに揺られていると、昼間の喧騒が嘘のように静かで、これから特別な時間が始まる予感に胸が高鳴った。

いわずと知れた兼六園は、岡山の後楽園、水戸の偕楽園と並ぶ日本三名園のひとつ。加賀藩・前田家が代々の手で整えてきた名園は、昼間の美しさもさることながら、ライトアップされる夜の姿が格別だそうだ。しかもこの「夏の段」と呼ばれる夜間開放は無料。夏の暑さを避け、日が落ちてから涼しい風に吹かれながら散策できるのだから、ありがたい限り。

園内に入ると、まず目に飛び込んできたのは霞ヶ池に映る灯り。水面が揺れるたびに、光が絵の具を溶かしたようににじんでいく。

石灯籠や太鼓橋が浮かび上がる景色は、昼間とはまるで別の顔のはず。妻は足を止め、スマートフォンを構えて「これ、写真じゃ収まらないね」と小さくつぶやいた。確かに、写真に収めるとどこか平板で、この“幽玄”としか言いようのない空気感はどうしても伝わらない。だからこそ、こうして一緒に歩きながら体で感じられるのが嬉しい。



ただ、今夜の散策はほんの“序章”にすぎない。翌日、妻が予約したボランティアガイド「まいどさん」と一緒に園内をじっくり案内してもらう予定だ。昼間の兼六園をどう歩けば、この庭の奥深さに触れられるのか──その予習のように、夜の光景を心に焼き付けながら出口へと向かった。


帰りのバスに揺られながら、妻が「明日はもっと詳しく見られるね」と笑った。
昼の壮麗さと夜の幽玄、その両方を味わえるのだから、やっぱり兼六園は特別だと思う。
心地よい疲れがどっと出てきて、ホテルに戻るころにはもう眠気に勝てず、ベッドに横になった途端にぐっすりと眠ってしまった。

🖋2日目のはじまり。武家屋敷跡界隈へ
二日目の朝は、ビジネスホテルながら驚くほど充実した朝食からスタート。
和食コーナーには「金沢おでん」や、さつまいもを使った優しい味わいの「めった汁」が並び、鮭やきんぴら、卯の花など定番のおかずもそろっていた。洋食はスクランブルエッグやソーセージに加え、ミートボールやエスカベッシュといった少し変わり種も。
パンやフルーツ、ヨーグルトも揃い、ドリンクには金沢名物の加賀棒茶のアイスティーが用意されているのも嬉しい。食後はロビーのマシンでカフェラテを淹れ、部屋でゆったり一息。旅の二日目にふさわしい、満足感ある朝ごはんだった。
チェックアウトを済ませ、荷物をホテルに預けてから再び、1日フリー乗車券を購入、バスで向かったのは「長町武家屋敷跡」。



真夏の日差しが容赦なく照りつけ、石畳の道は熱を含んで歩くのも一苦労だったが、その暑さを忘れさせるほどの光景が広がっていた。土塀に囲まれた小路や水の流れる用水路、歩いていると、まるで江戸時代に迷い込んだような気分になる。観光客でにぎわってはいるものの、ふと人が途切れる瞬間には、時代の空気がそのまま残っているかのような静けさがあった。

界隈の中でも人気の高い「野村家」に立ち寄った。格式ある武家屋敷を一般公開しているだけあって、庭園や建物の保存状態は見事の一言。



特に印象的だったのは、涼やかな緑が広がる庭。小さな池に映る木々や苔むした石組みは、時間を忘れて眺めてしまうほど美しい。館内には甲冑や刀剣、そして加賀藩ゆかりの襖絵も展示されていて、まさに“武家の美意識”が凝縮された空間だった。

冷房の効いた部屋から庭を眺めていると、外の猛暑を一瞬忘れることができ、ほんのひととき贅沢な時間を過ごした。
🖋野村家を後にして、まいどさんと合流
武家屋敷跡の野村家を見学したあと、バスに乗って金沢城内へ向かった。

待ち合わせは城内の観光案内所。そこで、この日ガイドをお願いしていた“まいどさん”と合流した。
現れたのは80代の男性で、背筋もしゃんと伸びた元気な方。黄色いポロシャツの背に「まいどさん」と入っていて、すぐにボランティアガイドだとわかる。金沢弁で「こんにちは」に近い意味を持つ“まいどさん”という名前には、「気軽に声をかけてもらいたい」という願いが込められているそうだ。金沢観光ボランティア制度としては1994年に始まり、今では300人以上が登録して活動しているという。
まずは金沢城を案内していただく。石垣や城門の由来を話しながら歩いてくださるのだが、その口調は専門家の解説というよりも、地元のおじいちゃんが自分の町を誇らしげに語っているようで親しみやすかった。石垣の積み方の違いや、修復にまつわるエピソードなど、ただ見て歩くだけでは気づかない視点をいくつも教えてくれた。




その後、兼六園へ。昼間の庭園は夜のライトアップとはまた違う趣があり、庭石や池の配置、築山の意味などをひとつひとつ解説してもらうと、風景に歴史の重みが立ち上がってくる。昨日の「幽玄の夜」に対して、今日は「壮麗な昼」。兼六園の奥深さを、まいどさんの案内でいっそう実感できた。




ただ、この日も金沢は猛暑。歩いているだけで汗が噴き出すほどだったので、途中で休憩を入れてかき氷をいただくことに。まいどさんも「こういうのが一番熱中症予防に効く」と笑いながら同席してくださり、冷たい氷の甘さが身体に染みわたった。

🖋金箔ソフトクリーム
まいどさんと別れ、バス停へ向かって歩いていると、道沿いにひときわ賑わっている店が目に入った。看板には大きく「箔一」の文字。
近づいてみると、そこにあったのは金沢名物の「金箔ソフトクリーム」だった。

妻はこの旅に来る前から「金沢に行ったら絶対食べたい」と言っていたので、迷うことなく立ち寄ることに。注文して手渡されたソフトクリームは、濃厚なバニラの上に一枚まるごと金箔が貼られ、陽の光を浴びてきらきらと輝き、思わず写真を撮らずにはいられなかった。

ひと口食べると、ソフトクリームそのものは意外とあっさり。金箔は無味無臭なのに、口に含むと不思議と「贅沢を味わっている」という気分にさせてくれる。妻は「念願が叶った」と嬉しそうに笑い、私もその表情を見て旅の幸福感を噛みしめた。
ソフトクリームを食べ終え、妻が店内でお土産を物色している間、私は店先のベンチに腰を下ろして待っていた。真夏の日差しを避けながらぼんやり通りを眺めていると、親子連れがやってきた。両親に、小学校高学年くらいの男の子と、まだ低学年らしい妹の四人組だ。
お母さんがショーケースをのぞき込み、「わぁ、金箔のソフトクリームだって。おいしそうだね、食べようか」と声をあげると、すかさず息子が真剣な顔でこう言った。
「お母さん、金箔って消化できないんだって。そのままウンチに出ちゃうらしいから、普通のソフトクリームにした方がいいよ」
突然の“博士ちゃん発言”に思わず吹き出しそうになった。
親子の会話が微笑ましくて仕方がなかった。妹は横できょとんとした顔をしていて、その対比もまた可愛らしい。
旅先では観光名所や名物だけでなく、こうしたちょっとした人間模様に出会えるのも楽しみのひとつだと感じた。
バス停までのほんの短い道のりでも、思いがけず印象に残る旅の記憶にしてくれるのだと改めて感じた。
🖋ひがし茶屋街へ
バスに揺られてたどり着いたのは、金沢屈指の観光地・ひがし茶屋街。
紅殻格子の町家が整然と並ぶ通りは、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようで、歩くだけでも背筋が伸びるような気分になる。観光客で賑わいながらも、建物そのものが放つ静かな威厳があり、ただの商店街とは違う「保存された町並みの力」を感じさせる。



けれど、このあたりから帰りの新幹線の時間を逆算し始めた。あとやりたいのは二つ──最後の食事と、駅前のAPA SPAで旅の汗を流してから新幹線に乗ること。そう考えると、のんびり散策できる余裕はそれほどなく、ひがし茶屋街は“かじる程度”に楽しむことにした。




通りを一巡りして、格子越しに洩れる灯りや町家カフェの軒先を眺め、石畳を踏みしめる。その短い時間でも十分に「金沢らしい粋」を感じることができた。観光雑誌に載るような定番の構図で写真を撮りつつ、ほどほどで切り上げてホテルへ向けて移動。
🖋最後の食事は寿司で
ホテル近くの近江町市場でバスを降りる。旅の最後の食事だからこそ、じっくり迷って厳選したいところだが、残された時間はわずか。どこに入るかで、この旅の余韻も決まってしまうような気がして少し緊張する。
そこでふと思い出した。初日の朝、妻が候補に挙げていた寿司屋がもう一軒あったのだ。オープン前で入れなかった「かいてん寿し 大倉」。
市場の入り口すぐにあり、創業50余年の老舗、地元でも評判の店。迷っている暇はない、ここしかないと暖簾をくぐった。

これが大正解だった。私はマグロ尽くし丼、妻はおまかせ握りを注文。マグロは赤身からトロまで段階的に味わえる贅沢さで、しっかりとした旨味と脂の甘みが口いっぱいに広がる。妻の握りも一貫ごとに表情が違い、旬の地物を存分に楽しめたようで、嬉しそうに頷いている。最後の食事がこんなにも満足感で締めくくられるとは思わなかった。


食後、二人で「いい店だったね」と声を揃えながら店を後にする。市場の喧噪に背を向け、ホテルに戻って荷物をピックアップ。次はいよいよ旅のラストスパート、駅前のAPA SPAへ向かう
🖋旅の締めくくりは駅前スパで
最後のバスに乗り込み、金沢駅へ。駅の反対側にある「アパスパ金沢駅前」へと向かった。

駅西口から徒歩1分という抜群の立地。事前に見つけておいたクーポンのおかげで、通常1,200円のところを200円引きの1,000円で利用できた。旅のラストにちょっとした得をした気分になるのも嬉しい。
館内は思った以上に広々としていて、庭園風の露天風呂やつぼ湯、サウナまで揃っている。駅前の喧騒からわずか数分で、これだけ開放的な空間に身を委ねられるのは贅沢だ。私は湯に浸かりながら二日間を振り返り、しばらく言葉もなくただリラックスした。
その後は休憩室でのんびり。1,000冊以上のコミックが揃うというレストルームで、雑誌をめくり、漫画を手に取って気ままに読み耽る。ふかふかのソファに腰を下ろし、冷たい飲み物を片手に過ごすひとときは、観光続きの身体にじんわり沁みてくる。

気がつけば2時間が経過。十分にリフレッシュした私たちは、再び駅へ戻り、新幹線「かがやき」に乗り込んだ。車窓に広がるすっかり日の落ちた金沢の街並みを眺めながら、今回の旅も最後まで満ち足りた時間だったと改めて実感する。

🖋帰宅
日付が変わる頃、自宅に到着。
不思議なことに、あれだけ歩き回ったはずなのに、身体に重さは感じなかった。温泉でしっかり癒され、心地よい余韻が疲れを上回っていたのかもしれない。
スーツケースを部屋の隅に置き、簡単に片付けを済ませると、そのままベッドへ。静かな夜の中、ふと「本当に濃い二日間だったな」と思い返す。観光も食事も、歴史に触れた時間も、どれも忘れがたい。
わずか1泊2日の小旅行。けれど、ぎゅっと凝縮された体験は、長旅にも負けないほどの充実感を残してくれた。まぶたを閉じた瞬間、心地よい疲労感と満足感に包まれ、そのまま深い眠りに落ちていった。
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