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春のクレモナ散歩

春の週末は散歩ばかりしているが、今度はクレモナである。クレモナは、世界のヴァイオリニストを魅了するヴァイオリンの製作者、ストラディバリの故郷。音楽は門外漢の私でも知っている。音楽関係で、よく名前が挙がる町だ。その名前を聞く度に、嘗てイタリアに住んでいた際に訪れる機会を逸したことを残念に思っていた。町を代表するものが世界的な財産というのは凄い。モデナからは車で約1時間半。満を持して春の週末に妻と訪れた。州境を越え、ロンバルディア州に入る。

先ずはゴシック様式のドゥオモと洗礼堂を見学。クレモナ中心部は戦争の被害が小さく、ドゥオモ内部のフレスコ画が完璧な状態で残っていて素晴らしい。ドゥオモに付属する鐘楼は、ヨーロッパの煉瓦造りの塔として最大級の「トッラッツォ」で、高さ約110mだ。高層マンションなら30階相当の約100mの高さにある最上部まで階段で一気に登る。オープンエアでかなり怖いが、ポー平原が一望でき、町の広がりがよく分かる。13世紀の建築で、今なお現役なのが素晴らしい。16世紀の大時計(天文時計)の仕組みも凄いが、話が長くなるので下のリンクを参照ください。

トッラッツォからの旧市街とポー平原の眺め
下の八角形の建物はドゥオモの洗礼堂

大時計:https://www.residencecremona.it/il-torrazzo-cremona/

次いで、お目当ての市立ヴァイオリン博物館を訪問。ストラディバリやグァルネリ、アマティらの名器に加え、クレモナのヴァイオリン製作の歴史と技術を多角的に紹介しており、町の誇りを感じる。ストラディバリの現存数は世界で約600点とされるが、同館では所蔵の数本に加え、他の所有者の名器も展示しているそうだ。

ヴァイオリン博物館の名器展示

ストラディバリウス(ストラディバリ製作のヴァイオリン)は、製作から300年を経てもなお音色は磨かれ、その価値は1挺数億〜数十億円とも言われる。新品が供給される訳ではなく、市場に出回ることは稀で、有望な若手演奏者は博物館や財団から貸与を受けて演奏すると係の人が教えてくれた。市立なので、博物館所有のヴァイオリンがクレモナを出ることはまずないとのこと。

市内には今も多くのリウタイオ(弦楽器製作者)の工房があり、日本人製作者も数多く活躍している。博物館の展示の中にも、複数の日本人の名前を見つけて、誇らしい気持ちになる。こういう職人技では、イタリアと日本は肌が合う。

博物館の後は市立博物館を巡り、これで念願のクレモナ観光コースを一通り堪能した。市立博物館では、目玉のカラバッジョやアルチンボルドの作品を期待していたが、いずれも貸出中で見ることが叶わず、その代わりに企画展でオランダから来たレンブラントの2作品を鑑賞できたので、これで満足としよう。

市立博物館のあるPalazzo Affaitati、先日、ナポリで出会った骨董品店オーナーはこちらのAffaitati 家の子孫だった

丁度この週末は、年に一度の花と植物のイベントが旧市街で開催されており、町の美しさにまさに花を添えていた。旧市街歩きで見つけた店、「Japanology」では、日本好きの店主Stefano氏が拘りの日本の民芸品などを扱い、ヴァイオリン関係の在住日本人夫人と協力して折り紙教室も開いているそうだ。日本が大好きで、気に入った品を集めて商売をしているが、「儲けようと思ったら、マンガをやらないとダメですね」と言っていた。周辺にはアニメや漫画、フィギュアの店も点在し、ヴァイオリンが取り持つご縁か、他の近隣都市に増して日本への関心の高さが感じられた。

市内のマンガ店

昼食は、「地球の歩き方」紹介の「La Sosta」に行き、これが大当たり。名物を尋ねると、ピアチェンツァの郷土料理「Lingua e testino di vitello con salsa verde」を勧められる。子牛のタンの柔らか煮と頭肉を固めたテスティーノに、風味豊かなサルサ・ヴェルデを添えた一皿で、ゼラチンのコクとソースの酸味とのバランスが絶妙だ。パスタはトルテッリーニとタリアテッレのラグーを頼んだが、いずれもお見事。帰り際、「日本のガイドブックを見て来ました」と伝えると、オーナー曰く、「もう20年も載っているよ」とのこと。近年は、他アジア諸国の観光客の存在感の方が大きい中、日本に親しみを持ってくれるこうした店の存在はありがたい。

子牛のタンと頭肉のサルサヴェルデ添え

尚、ヴァイオリン博物館付属のホールは音響設計に優れ、コンサートで名器の音色を実際に聴くことができるという。再訪し、ストラディバリウスの演奏とLa Sostaの食事を味わいたい。そんな風に思える素敵な町だった。