位相が織りなす定位と音場
オーディオの音が良いか悪いかは、主観である、趣味の領分である、人それぞれ十人十色である。これを価値相対主義という。
他方で、機材、電源環境、ルーム、それらをアジャストさせるスキル、そしてもちろん音源、これらの変数がオーディオの理想を変化させる。つまりゴールが動くのである。しかしこうしたオーディオ的理想の変異と、十人十色の価値相対主義をショートさせてはならない。
大風呂敷を広げたが、音質評価の客観的な基準は音像定位と音場である。それらの現象がどのようなものかを、位相という観点で考えてみたい。なお、この記事ではステレオシステムの話であるが、サラウンドの場合にどのような帰結となるかも自ずと明らかになるであろう。
☆スピーカーから絶縁
音離れが良い、という表現がある。定位の第一の条件はこの音離れである。音楽を再生しながらスピーカーを穴があくほど見つめて、そのスピーカーから音が発されているように思えるならば、音離れが悪い。逆に、スピーカーは音を出していない、沈黙しているように思えるというのが、音離れが良いとなる。
さらに音離れの質を上げると、単にスピーカーから離れたところで音が発生している、という事態にとどまらない。定位の究極は、音楽-空間という異界の創出なのである。図式化すると、以下である。
①スピーカーが音を出している
②スピーカーから離れたところで音が生じる
③どこからともなく、音楽がルームに溢れる
スピーカーから離れたところで呼気が聴こえると、鍵盤が押し下げられ、さらに、その先でハンマーが弦を弾き、さらに、その上方に少し籠りながら反響音が聞こえ、さらに、下方ではメカニカルな動作音の鈍く低い音が断続的に響いている、、、そして、これらの断片的に記述した音楽イメージがシームレスに1つの世界を形成しており、醒めた目で振り返ってみるに、今見出されたばかりのその1つの世界は、やっぱり、スピーカーが実在する世界とは同じ次元とは思えない。。。定位とは世界の新たなる生成なのである。
次に書くように、このような音像定位における音離れは信号の位相の問題である。信号に忠実な調整は現実的に困難であるからこそ、仕組みに目を向けるべきである。
☆位相の異相
オーディオでは位相という言葉が非常に曖昧に使われており、その分だけ呪術的な力を発揮しているように思われる。位相というのはphase(フェーズ)という言葉の翻訳である。「位相」なるものが電源回路に関しても使われ、また、機器同士の相性を表す際にも使われる。また「絶対位相」などという表現もある。これは録音の際の極性のあり方によって聴こえが良かったり悪かったりするとかいう際に使われる。しかし、音像定位で鍵となる位相は相対的なものであり、複数の音波が合う・合わないの問題であるので、ある特定の信号の特性そのものの話ではないのである。positive phaseは正相、inverse phaseやantiphaseは逆相と訳される。
位相という概念が、とても重要であるのに、不可解な境遇にあるのは、正-とか、逆-とかいう表現が、潜在意識に働きかけて幼稚な価値判断を誘導するからだろう。ポジティブという片仮名の存在も誤解を増長させているだろう。つまり、正相の逆はネガティブなのだ、と。
音像定位におけるpositive phaseというのは、近似的な音波であるということなので、positive phaseなる信号が存在するとかと実体化して考えてはならない。それは相対位相の考え方ではない。あくまで2つ以上の音波が近似しているのか、そうではないのかということなのである。
ということで、音像定位のpositive phaseは《同相》と訳せば、名が体を表すことになろう。あわせて、inverse phaseは「異相」とでもしたいところだが、位相と同じ発音なのがややこしいので、《非同相》を提案したい。
同相だと何だというのか?
定位するのである。スピーカーから音がどれだけ離れられるかは、たしかに条件はいくつかあるが、同相であるだけでスピーカーから離れる。
☆ダブル・ファンタジーが生み出す定位
位相を等しくする波動は、重なり合い、お互いを強め合い、さらに結合を強める。これを波動の建設的干渉と言うらしい。つまり、2本のスピーカーから発された2つの同相の音波が、まるで互いを呼び求めて、スピーカーを置き去りにしたきり、宙空で出逢い、重なり合って、1つになる、2本のスピーカーのセンターで。精妙な調整を経るならば、ステレオのフロントラインは2chであるという現実を超越し、新世界を創造する。古典的なステレオシステムのダブルファンタジー理論としよう。

音離れの良さをシステム上流が作りあげもするが、逆に、音離れを悪くもするだろう。信号の同相成分を取り出す役割りを上流の機器が果たしている。ルームを含めてシステムのそれ以後のプロセスは、たぶん上流と比べて消極的なものなのだろう。音源を含めた上流が積極的に生み出したクオリティーを保持できるかどうかといった2次的な役割を務めるのが下流なのだろう。これは、例えばルームチューニングがどうでもいいということではない。反射音が2つの信号の同相性を壊乱してしまわないように徹底的にやるべきである。むしろ上流の位相を保持するという観点を大切にするからこそ、どのようなルームチューニングをすべきかが自ずと見えてくるのではないだろうか。
同相であることが、結束と中心化であることは分かった。それでは非同相はどうなのか?
☆広く、深く、異邦の旅
位相差がない2つの波動は互いを強め合うように折り重なり1つになる。逆に、反対の波は互いを打ち消そうとし、拡散する。位相差が最大に達して正反対となる場合には、音波は消えてしまう。無音になるのである。
音声信号に含まれる同相の音と非同相の音波を、横方向をX軸として、縦方向をY軸とし、奥行をZ軸として、場面ごとにわけてみよう。
X軸上では、同相の音波はスピーカー間に集中しようとする。それに対して、非同相の音波は発散するだろう。だからX軸上の広がりは、非同相の音が主導するのだと思われる。
また、Z軸の奥行方向なのだが、スピーカーユニットの向きにおそらく同相の音波は進行する、前に向かってくる、つまりLPに迫ってくる。対して、非同相はスピーカーユニットの振動板の向きと逆に進行するのではないか。

Y軸の高さや低さに関しては、ちょっと分からないことが多い。位相よりも周波数が影響するのかもしれない。異なる周波数を扱うユニットが物理的に異なる高さと角度で配置され、そのそれぞれのユニットが音を発するタイミングや反射よって変化する到達時点のズレ、、、、、、というわけで、高さ表現は意外と複雑そうである。個人的な体験でいうと、音像定位の高さに関しては、スピーカーを持ち上げるか、リスポジを下げるかでしか対応したことがない。反射をコントロールするのが早いのかもしれない。そういう人の音を聴いたことがある。
X軸上の広がり、これはサウンドステージが広大であるかどうかだが、非同相の音波を上流でつかみ出す能力が肝要で、そこに平行とか内振りとかで調整するユニットの向き、およびルーム内の反射のあり方が影響するのだと思われる。
また、Z軸上の深さなのだが、これも非同相の信号を上流で確保するのがおそらく第一の要件であろうし、スピーカーと背後壁の距離とリスポジとスピーカーの距離比、それから背後方向の反射と吸音のバランスといったことも重要であろう。
☆なぜ?
同相と非同相に分けて、横方向、上下方向、奥行方向と単純化して考えてみたが、言うまでもなくこれらは融合している。同相と非同相というのも、濃淡はあっても、与えられる時は1つの音楽体験となるのだと思う。しかし、分割して考えてみたから分かるだろうが、音場のただなかで定位する音像の組成は、複雑でベクトルは多次元的で入り混じっている。おそらく、優れた音像定位とは複雑に入り混じった力動がそのまま表出する定位なのだと思う。1つの描線に収斂しようとする同相の音を膨らませ、後光のように閃光を発散させて、同相の定位をいっそう豊かにする非同相の絡みを感じたい。
私は上流の電源回路を半年ほどのあいだ、模索し続けた。定格電流5Aのノイズフィルター搭載の電源タップからPCのアダプターのコンセントプラグを外して壁コンに付け替えると、音場が広がり、おまけのような扱いをされがちなサウンドステージの周辺部がいきいきと躍動していることに気付くに至った。その後、上流のACとDCの電源ラインを、ノイズフィルターと太く短い、電磁ノイズを減衰するシールドケーブルで結線した。すると、周辺部にくわえて、中心部が単に濃密な音楽イメージを構成しているだけでなく、力動的な作用が働いて、ダイナミックに裏打ちされた生き生きとした音像定位がなされていることに気付いた。話をまとめると、まず、周辺。続いて、中央の背面。この2つの別々のことに思える事象において、同じ系列の操作から発見が続いたのだ。
音場と定位に関わる2つの事象に関して、非同相の信号の再現性によるのではないか?と私は推測した。「逆相」と呼ばれるものは位相差さえあれば何でも逆相となるので、例えばある波から180度回転した音波同士は同相となるのだろう。同相や非同相というのは、既に確認したように、相対的なものであり、その様態は本質的に動的なのだろう。
この位相のダイナミクスを私のシステムが捉えたのは、繰り返すが、ある容量の小さなノイズフィルターを外し、代わりに容量の大きなフィルターを太く短いケーブルで結線した、まさにその時だ。
今回の記事は半ば推測であるが、これまで持続的に取り組んだAC&DCの両電源ラインの実験に成功してきたことが、純度100%、インスピレーションの源泉となっている。
USBオーディオをもう少し推し進めるとしよう。
