A Clockwork Audio⑱:Diretta、ブリッジ
☆プロローグ
最近はオーディオライターたちが、Direttaを話題にすることは少なくなったのだろうか。自分が知らないだけなのか、別のものが登場したからなのか、、、RAATやUSSのこと。
次の引用は逆木一氏の2021年7月の記事で、『【レビュー・空気録音あり】SPEC RMP-UB1SFP - Direttaの可能性を広げる「LAN DDC」』と題されている。以下、太字強調は原文のまま、( )内は引用者。
(オリオスペックのUSB bridgeやSPECのRMP-UB1と、SFORZATOのネットワークプレイヤーを比較して) 同じ「Diretta Target」であっても、システムトータルでは、DAC搭載ネットワークプレーヤー/LAN DACと、Diretta USB Bridge/LAN DDCは似て非なるものである。
そしてDirettaの仕組み的に、DAC搭載ネットワークプレーヤー/LAN DACと比較すれば、Diretta USB Bridge/LAN DDCを使うシステムはDirettaの真価を発揮しているとは言い難いことも確かである。
それを踏まえてもなお、(中略) LAN DACに感じるのと同様の音質向上を、Diretta USB Bridge/LAN DDCでも感じられたのは興味深く、また驚きでもある。
ただ、今回RMP-UB1SFPがもたらした音質向上はDirettaだけに起因するものではなく、むしろ筐体や電源といったアナログ的な作り込みに拠るところが大きいと思われ、単に「Diretta USB Bridge」と呼ぶよりは「Direttaを活用したUSBエンハンサー」的な呼び方の方がしっくりくる。
古い記事、、、になるのだろうか、わずか5年前なのに。時間の感覚がおかしくなる。お金をかけて、数年越しに機材を揃えて、一生懸命にセッティングして、5年前とは違うと言われる。しかし、PCオーディオならばほぼ全てのパーツを変えていくことができる。
以下に、「Direttaの真価」をいかにすれば発揮できるのか改めて考えたこと、試してみたことを書く。
☆Direttaの橋
PCオーディオを始めた当初からDirettaには関心があった。だが、Direttaの「プレーヤー」という概念が理解できず、DACの境界線の手前までのLAN伝送で本当にDirettaの真価を発揮できるものなのか?と私も疑問に思った。
上の引用で逆木氏が問題視しているトランスポートとDACの境界線に関して、ネットワークトランスポートとDACが同じ筐体に収まっているかどうか、は問題でないだろう。実際、SFORZATOの現在の最上位機種はトランスポート部とDAC部とが別々の筐体になっているではないか。こうした分割筐体とそれに付随する電源やグラウンドの処理で音質が向上するのだとしたら、それは「アナログ的な作り込み」によるのである。
また、ごく常識的な意味でのプレーヤーという観点でいうと、Direttaの真価を十分に発揮するには、デジタル信号の送信と受信からアナログ変換までの過程全体を見る必要がある。たとえトランスポートとDACが同じ筐体であっても、LANケーブルで大切に伝送されてくるデータは、バッファに一時的に蓄積されて、それを読み出すタイミングを計り、44.1KHz系か48KHz系かDSDかといった異なるサンプリング周波数を生成し、少なくとも2ch分のタイミングを合わせるという大変なプロセスを経る。このプロセスはDiretta的LAN伝送のメリットを目減りさせてしまう可能性が十分にある。だからせめてDACの筐体をトランスポートからは分けておいて、グラウンドや電源回路を個別に処理する必要があるだろう。
「アナログ的な作り込み」のbridgeから数年経つうちに、USBにも無いが、LANにも無いものへと、つまり、クロックへと問題の所在は移ったのかもしれない、SFOZATOにとっても、Direttaにとっても。Direttaの領分であったLANはクロックを伝送しない。愛とは自分に無いものを与えること。いかにしたらこの愛の矛盾に耐えられるだろう。DACはクロックを必要としている。
逆木氏の記事の後の展開であるが、SFORZATOはクロックをDACに入れて、トランスポート側とはZERO LINKで同期を計る。DACにマスタークロックを入れるのである。Direttaはこの点でSFORZATOとは異なる対応をする。境界線の手前、つまりトランスポートの側にマスタークロックを入れる。そしてDACにクロックをI2Sで伝送することで同期を計る。その際、送信側がマスターとなり、DACはそのスレーブとなるので、送信側がタイミングを決めるというポリシーは維持されている。
こうしてDST-0は、DACに代わって汚れ仕事を担うDirettaターゲットとなる。送信元の負荷変動にやられないLAN伝送と、汚れのないD/A変換との両立を目指すDirettaの分散型プレーヤーとなるのだ。
☆ホストとターゲットの架け橋
私のホストPC、Canarino fils9 Rev5、は現在LANの入力端子が2つある。1つはマザーボードに付いている端子。1つはPCIeに挿してあるインテル製改造LANカードの端子。改造とは10MHzマスタークロックをDST-0から受けるBNC端子を後付けしたという意味である。
DST-0を導入した当初はスイッチングハブのsNH-10G銀線スペシャル→マザーボードLAN端子と繋ぎ、同時に、インテルLAN端子→DST-0とした。ホストPCからターゲットPCをLANケーブルで直接に繋いだのである。その時はDiretta&I2Sの表現力の高さに驚くとともに、あまりの煩さに辟易したことはすでに記した。(『A Clockwork Audio④』参照)
そこでまず、マザーボードLAN端子はターミネートし、ホストの方はsNH-10G→インテルLAN端子とし、ターゲットの方はsNH-10G→DST-0とした。つまり、ホストとターゲットをLAN直結にせず、スイッチングハブで媒介することで、セッティングを進めてきた。
このスイッチングハブは「リクロック」という機能を持つ。謎である。スイッチングハブは受信と送信に際して己のクロックでタイミングを取る。己のクロックを使って送受信するということならば、およそ全てのスイッチングハブが行うこと。それにしては、このスイッチングハブのスペシャルエディションは音質改善能力がやけに高い。「リクロック」に好意的に特別な意義を読み込むならば、まず受信時のタイミングのズレ、つまりジッター、を吸収して、次に適切なタイミングで発信をする、ということだろうか。
謎が多いが素晴らしいスイッチングハブにマスタークロック入力端子を発注時に付けておいた。DST-0と同じ10MHz/50Ωの正弦波クロックをCG-10M-Xから受け取らせている。
整理すると、
①《ハブ→ホスト→ターゲット》の直結式か、
それとも、
②《ハブ→ホスト》&《ハブ→ターゲット》のハブ媒介式かである。



改めて、前者のホストとターゲットのLAN直結を試すことにした。なお、ホストのマザーボードLAN端子に付けていた仮想アースはsNH-10Gの空き端子に移した。結論を先に述べておく。上掲の『A Clockwork Audio④』とまったく同じことを感じた。より強く、より繊細に、『A Clockwork Audio④』と同じ。Direttaは芸術の表現力に資する。それからまた、マザーボードはまずい。
☆芸術の橋、Direttaの真価
まずネガティブなのは、煩いこと。S/N比は悪化した。仮想アースも付けた仕方でターミネートしていたマザーボードLAN端子を使用したのだから、マイナス。内部が7N銀線で、電磁波吸収剤を備え、コンデンサーのグレードを上げた、リクロック機能を持つ外部マスタークロック仕様のsNH-10GのLAN端子を通さないこと自体も、マイナス。

だが、そのようなマイナスがありながら、ハブの後で、ホストからターゲットへと直結すると、弁証法的展開を経ることになった。
詩は言葉、絵画は絵具のテクスチャー、彫刻は量塊、映画は写真の連続とモンタージュ、、、音楽は?
音
それは作曲家という歴史的実在、ないし、その痕跡のことではない。その直筆オリジナルでも年号と別の名前が付された校訂版の楽譜でもなく、特定の楽器でもなく、演奏家でもなく、そこにある空気分子の運動こそが、音楽の音である。
諸々の空気分子の運動の和が概念になることはない。だが、その運動の体験から、その体験だけから、ショパンの直観へと飛躍できなければならない。この差異を乗り越える跳躍の時を、S/N比という非芸術的な基準に則してPCオーディオを実践してきたのだ、これまで。その特権的なチャンスが、ねじれながら目の前に転がりやって来たのだろうか。

ホスト→ターゲットの直結は、S/N比が落ちた、のに、どうしようもなくショパンを感じるのだ。
Direttaの真価を再発見したのだと思う。Direttaの真価は表現力だ。『A Clockwork Audio④』にそう書いた時と同様に、再生音がひたすらに音楽の悦びに溢れかえって、目の前で起こっているはずの空気分子の運動は、直接的にショパンの名が形成する内包も外延も全てへと超越したような気分だった。
だが、マザーボードのノイズが、以前より緩和されているが、全く同じ調子で音像にまとわりついているのも感じた。
☆直結の未来
スイッチングハブ、sNH-10G銀線スペシャルはリクロックの機能を持つ。それはジッターを抑制すると思われる。したがってハブを媒介することで、ホストからターゲットに流れ込むジッターは
減っていたはずだ。だがまた、Direttaの威力がハブに吸収されてもいたのではないか。直結はそんなデメリットとそれでも突き抜けてくる真価をはっきりと再生音で表していた。
さて、直結するとDirettaの真価に接近できることは理解した。しかし、マザーボードを経由することに由来するS/N比劣化は対処しないといけない。ここでもやはり、クロックとアナログ的作り込みが問題になっていないだろうか?
ホストPCのLAN端子を増やすのはどうだろうか?マザーボードのLAN端子は今一度封じるとして、外部DC入力と10MHzマスタークロック入力を持った同じLANカードを2つ、PCIeに挿せないだろうか?

右端のスロットに外部DC入力を持つLANカード、左端のスロットに同じく外部DC入力のLANカード。間にマスタークロック入力を持つクロックボードとかできないだろうか。SCLK-EXというクロックボードにマスタークロック入力を付ける。クロックボードのアウトプットを2口用意しておく。2枚のSNI-1GにDST-0からのクロックを供給できるように繋ぐ。

Canarino fils9 Rev5をこんな風に更新したら、受信と送信のタイミングが揃っており、ターゲットに負荷変動の電源ノイズを送らず、ジッターも送らないでターゲットに直結する、ほぼ究極のホストPCになったりしないだろうか?ホストで大事なのはプロトコルだけでなく、電源をきっちり分けるアナログ的な作り込みで、クリーンで安定した伝送を実現することだと思うのだが。ホストをサーバーとストレージに筐体を分けるわけではないが、とりあえず2つのLANの電源は他から分けられる。
まあ、オリオスペックの酒井氏に相談してみるとしよう。ちなみにホストのLANカードの変更は微妙かもと以前は言っていた。だがDST-0からの同じクロックで動作する同じ2枚のLANカードで、個別に電源を取るならどうだろうか。
☆後記
マザーボードを介さない直結は、SOtMだと2枚LANカードを用意する。ところでJCATはポートが2つだったなと検索してみると、逆木氏の記事が。
私が「直結の未来」で書いた願望が、比較実験されている。やはり、直結の未来は明るいようだ。参照されたい。ところで、JCATのNET cardは外部マスタークロック入力はNET Card XE EVO 専用のものを使うためのようで、SMA端子も内側に向いているように見える。つまりDST-0の分配器からクロックを入れることはできないのかも。はて。
