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スピーカー研究⑪:800D3(3)

800D3のセッティングを進めた。①左右対称の厳密化、②波長の焦点の探求、③リスニング軸の最適化、④SPケーブルのコアを除去、及び、線の太径化と外的負荷の軽減、である。①と②は作業内容が一部重複しているのと、例のごとく冗長なので、③と④は次の記事で扱うことにする。

①左右対称の厳密化 

今回のセッティングで多用したスケーラー。両方ともセッティング用に数年前に買ったのだが、他のスピーカーでは一度たりとも使わなかった。800D3で初めて出番が。アルミ製のは測りやすいが、ピアノ塗装のスピーカーにあてがうのはさすがに。そこで懐かしの竹製なのだが、たわむので集中して測る必要がある。スピーカーを動かすのは確かに大変だが、測定するのが一番きつい。数秒間息を止めて、やる。測ったらメモをとり、休憩。(^^) 800D3は曲面が多く、目印になる箇所も少ないので、背中の金属製フィンのところを測定に多用した。
10/26のメモ 1mmがなかなか合わない。また、こうした測定数値は相対的に意味を持つ。800D3の内角は64°だといいのかと短絡されないように。

スピーカーと天井と側壁の調音材を厳密に左右対称となるように再調整するのは大変だった。96Kgの重量級スピーカーの平面上の配置にしても、床上の高さにしても、1mm以下の誤差になるよう拘った。動かすのに疲労困憊したし、台座の下のスカートには、スパイクとボードの間を受けとインシュレーターで介在しても、第二関節までしか入らず、床の上で台座の周囲を這って水平を調整した。

800D3の台座、、、鳴らすのはスピーカーではない、音源だ、というB&Wの哲学に深く共感する。が、スパイクの調整をしくじるならば、800D3以上にボードが、あるいは、床が、共振を始めるだろう。ある程度やり方は掴んだ。もう一、二度試行すればマスターできるはずだ。内部に格納されているキャスターの処置も考えよう。外すのが手っ取り早いのだろうが、まずは毛氈を挟んでみよう。現状は指一本分くらい浮いている。

天井、側壁の調音材の90%以上は自作品なので全てを厳密化するのが困難なのだが、最もズレており対称性を崩してしまう箇所でも2cmほどのところまで追い込んだ。配線されているオーディオシステムの上に7尺の脚立でまたいでやるので、かなり苦労した。黒いパネルはワイヤーをネジ止めしているが、青いフジツボみたいな調音材は建材用の強力両面テープで接着してあり、付け直そうと力づくで剥がすと、表面の仕上げ材である多孔石膏ボード、ソーラトン(天井の黒いブロック)を破壊することになるのである。

before
after 

また、天井の後方に新たに190cm x 140cmの分厚い今治タオルケットを二枚、タモ集成材の丸棒で吊るした。左右均等に吊るし、800D3の左chのバッフルとLP右手後方のタオルケットが向き合い、右chと左手後方のタオルケットが向き合うようにした。

ステンレスの鳴きの少ないL字にビニールチューブに入ったワイヤー。このワイヤーはオーディオルームでは見えなくなる。スリーブをかしめて固定している。
タモ修正材に木ねじをドリルでつけた。その頭にワイヤーの輪っかをひっかけて吊るす。これらの部材は全部物置にしまってあった。特に、タモ材は無数に余っているので、あえて使用した。

この今治タオルがなぜ①の厳密な左右対称化となるのかと言えば、リスニングルーム内で後壁を見た時に左寄りの位置に防音ドアが付いている。これは後壁よりも5cmくぼんだところに付いている。また、ルームの内壁は吉野石膏のタイガースーパーハードという超硬質ボードであるが、防音ドアはMDFである。後壁の左右で素材と奥行がドア一枚分異なっているのは、このリスニングルームの設計時から危惧していたこと。必要悪だったし、何とか工夫すれば乗り越えられると思っていたが、800D3で音楽を鳴らす度に、その後壁のギャップを指摘されているような気になったのであった。

かつて、左右完全-非-対称の大部屋(たしか18畳の変形)に高級機材を置き、同時に、左右対称の小部屋(6畳)に安物だが機材を対称的に置いていたことがある。左右対称の小部屋の方が定位が安定しており、より音楽的なまとまりがあるのにショックを受けたものである。また、今住んでいる家のダイニング・キッチン・リビングも、左右-非-対称で天井には複雑な傾斜がかかり最高点は5m近くある25畳超の大部屋である。天井を見上げればフラッターエコーがちゃんとある。呼吸音の残響をいつまでも感じるほどではないが。ソファーと向かいあう造り付けのテレビボードの周辺は音が歪んでいる。定在波の巣窟なのかもしれないが、空間が非対称で反射が複雑過ぎて、どう走っているのか予測すらできない。大部屋や天井高や、何より、非-対称が定在波の除去に寄与すると思い込んでいる人は多いが、誤解である。

今話している左右対称性とは、左右chとその周囲をフラットバランスにすることである。それがきっと託宣を与えてくれる。左右のシステムと環境の位相を揃え、信号だけが孕む差異に、心を虚しくして、耳を澄ませれば。

②音波の最適化 

音波は周波数ごとに波長が異なる。概して、低域は長く、中域になるとぐっと短くなり数十cm単位となり、高域はさらに短く顔の前後で変化するレベルである。したがって、低域と中域に注意しながら、各種音源を比較試聴して、できる限りの広帯域をLP前後の一点において把捉することができるようにSPとLPを操作的に動かすことになる。

しかし、SPをこれ以上動かすことは疲労でしばらく無理だし、LPはSPに近づけたくないが、背後にはラックと電源があるので動き難い。そこで、厚手の今治タオルである。厚手でないと、低域と中域に効かせるための空気層が作りずらいだろう。空気の断層を挟む間欠的な吸音構造にすれば、大きい波長の音波をもだいぶ弱める。音波が入射する背後壁までに擬似的な距離を作りだすことで、反射波を減衰させながら、直接波をリバイバルできるのではないかと考えたのだ。まあ、理屈っぽく述べたが、実際としては、SPもLPも動かさないのであれば、これしかないので、トライしたまで。

タオルの取付け部は私が縫った。見た目は問題にならない。なぜなら再生中は見えないから。真面目なはなし、仮設であり、簡単に外せるようにした。一枚にする手もある。新しい部屋に越したというと大袈裟だが、効果は強い。気に入っているが、もう少し聴き込もう。

音像の描き出す絵が濃くなっている。信号が再生されないときのくぐもった濃さではない。晴れ晴れした色彩の濃密さなのだ。800D3の音像定位の描き方は、点描的なのかもと思い始めた。線形的で、悪く言えば、漫画的な、描線による音像ではない。点描と言ったが、印象派の至近距離を汚くする大きな塊はなく、非常に細かなタッチによるリアリズムなのではないかと思った。今治タオルによって、そのタッチが倍増したのか、細やかなタッチが集まり揃った彩りであるように感じた。SPもLPも動かさずに、聴取する波長のバランスを変えるのに成功したわけだ。

トリフォノフの『超絶技巧練習曲集』は96/24のWAV

この録音は不思議である。いくつものスピーカーやアンプで聴き込んできたのだが、どのスピーカーでも、他のアーティストのが悪く聴こえる時であっても、常に良い。しかも、ボリュームを15から28程度まで動かしても、音が痩せたり膨満したりすることもなく、印象があまり変わらなかった。なぜだか動きがでない録音なのだ。それが、800D3のバッフルをリスポジの鼻先でクロスさせて、リスポジの後方で今治タオルに入射波を吸収させると、縫い目が揃った滑らかなテクスチャーとなり、動いた!

これまで良かれと思っていたのは波長が間引かれた、下手くそなチェンバロのようにガチャガチャしていたのが今にして分かる。もちろん今治綿が音に乗っているのであろうが、波長が歯抜けになったことによる刺激成分が皆無で、オーガニックなまとまりである。DSPで周波数を弄った時の人工物ののっぺり感もない。ただ、広帯域で音数が多いデカいステージのゆったりした演奏だと、まだ中域に硬さが残り、そういう楽曲のボリュームを上げるとどうかなと。やはりアンプの中高域のエネルギーが足りなくなってしまうのだろうか。

話が逸れたが、トリフォノフのたぶんハーフペダルによる持続音が聴取できたのだった。プリのボリュームを24にするとはっきりと。23でも聴こえる。22で聴きたいところだが、消えてしまうかもしれない。上に書いたようにこの超絶の演奏は、システムを変えても、音量を大幅に変えても、再生音がほとんど変わらなかった。それが、セッティングと今治タオルによって初めて変化を知覚できた。

ラ・カンパネッラはかなりの音を飛ばしながら高速でレガート的に繋ぐという、できないことをやろうとする曲である。これは素人の想像だが、指を跳躍させながら、繊細なペダルワークによって非常に弱い残響を生み出しながら音を繋いでいるのではないだろうか。その、埋もれてしまう偽レガートの繋ぎは、煌めく粒を飛ばしながら滑っていく右手の横の運動の残像のように低い音で持続する。ボリュームを24か23に上げると、唐突にぐわっとその少し低く暖かめの音の流れが出現したのに驚いた。800D3の異様な再生能力を、今治タオルによる波長の最適化によって、受け止められるようになった瞬間だった。

終結部では、ピアノを抱え込んだトリフォノフの面前を激しいダンスのように音が舞いあがり、天板を浮かび上がらせる。800D3はマイクに飛び込む前のピアノの天板に震えながら登っていく音の軌跡を描き出し、開いた天板の艶やかな黒の残像を現出させるのであった。凄まじいリアリズムに息をのむ。だが、内ぶりを強くするか、単純にSP同士を近づけるかは試してみたい。プロジェクターの入射光を考えると、いまいちなプランなのだが、大きなステージの楽曲の定位は改善の余地がある。もう一度、SPに接近することを試すのが先か。

☆託宣 

①と②の作業を終えて、試聴した際には、かなり良い音だと思った。豊な低域も甘い中域も痛烈な高域も、一瞬の弱音も表現されているように思えた。しかし、スタジオ収録のボーカルの音像定位がセンターから左ch側に寄るという不具合をどうにかするために、そもそも①を徹底したのに、異様であると思われるかもしれないが、左にズレているという知覚がさらに強くなったのだ。

注、、、私の左耳の聴力は右よりも低い。問題が私の聴力ならば音像は右に寄る。

いっそうに左側に移動したのではない。左にズレていると、もっとはっきりと感じるようになったのである。先ほど取り付けたばかりの長さが2mほどの今治タオルが天井から約1mほど下のところに吊り下げられている。今治タオルの下端が切れているところには、TAOCの鋳鉄スピーカースタンドを結束バンドで連結させて、踏台として、防音ドアの下に置いていた。800D3の左chのバッフルは真っ直ぐにこのTAOCを向いていた。強烈な反射で増幅していたのだと思う。鋳鉄のスピーカースタンド2台は、相当な質量である。部屋から撤去した。

ついでに、部屋後方のラックの片側には暫定的にリニア電源を載せるKRIPTONのAB3200を床に敷いてある。逆側には何もない。余っているAB3200を一枚置いてみた。

音像が中央に戻った。自分の中ではコペルニクス的転回であった。専用室といっても、完全無欠の対称性は難しい。しかし、システムの精度をあげるほど錯覚と惰性の分厚い繭の裂け目を示してくれる。

800D3の託宣である。対称性を強調してきたが、完璧だと思った瞬間に惰性が、絶えず送り込まれる感覚データをフリーズさせる。そこで、おかしい、何かが食い違っていると感じることが重要だ。800D3は頼もしい。モニタースピーカーとされる意味が分かった気がする。反応が異様な速度で、どんどん知覚が更新できる。この速度について行きたい。