スピーカー研究⑭:B&W, 800D3 (6)
☆プロローグ
ルーム、電源、セッティングはどれも決定的な影響を音質に与えるが、その三つ組は相関している。ルームが悪いと感じたのだとしても、悪いのはセッティングなのかもしれない。この切り分けは、やってみる以外には把握できないし、同じ川に2度入れるわけではない。結局は前提が変わってしまっているので、常に仮の仕上がりという定めとなるのである。
スピーカーセッティングを精緻にやるのは何はともあれ面倒である。その上、大して変わらない。
そう思うだろう。私もよくそう思う。だがこれは典型的な、誤り、である。やってみるしかない。そして、何度も、その度に丁寧に、やってみることだ。
さりとて800D3のような重量級スピーカーは1人でやるのは難しいし、危険である。それでも、1人でやれないならば、セッティングをつきつめることはできないし、宝の持ち腐れとなる。
今回、1人でやる方法を示す。よく読んで、必要な道具を揃えてから、挑戦して欲しい。
☆800D3のセッティングにまつわる諸々
スパイクはネジのように回すだけだが、800D3の可能性を損なわないやり方を模索した。
B&Wの800D3は値段とサイズを考えると、それなりに売れたスピーカーであろうが、ネット上にまとまった記述が相応に存在するわけではない。使ったことがない連中の何の根拠もないような話だけが流布している。
現在のオーディオの市場において、クオリティーとコストを考えるにB&Wの800D3の中古というのは極めて優秀であるのだが、1本あたり約100Kgのスピーカーをどうセッティングするというのか?
まずキャスターが標準装備になっている。このキャスターは以前の金属製の球状ではなく、樹脂製のタイヤ式のもの。つまりこのキャスターは、鳴きは少ない仕様であるとはいえ、予備的なものであるのは間違いない。なお、このキャスターでも、1mm横移動するのは難しい。4つのタイヤの方向に沿って縦移動であっても、ピタリと1mmで止めるのはやはり難しい。1mm未満の精密なセッティングに800D3はきちんと応えるスピーカーではあるが、その高嶺を目指すならば、キャスターは大雑把な位置取り用であり、なくて良い代物だと考えるべき。
純正のスパイクなのだが、例えば、アンダンテラルゴやISO ACOUSTICSの製品に換装することも検討したが、サイズが分からない。外すのは面倒なので、触った感じだが、M10はあるように思う。クロームメッキ風の外見から察するに、鋼製かもしれない。キャスターを外してISO ACOUSTICSの特製のプレートを付けてみるのは興味深いが、これの場合はキャスターの位置、つまり、台座の底面に十字架に配することになる。これの是非は分からない。純正のスパイクの場合は、長方形の四隅にスパイクのポイントが来る。一般的に、スピーカーの底面は長方形の四隅に配置であるように思える。十字架状に台座底面にスパイクを4点配しているスピーカーを私は知らない。だから、選択しなかった。もっとも、底面の十字架状の配置よりも、GAIA-TITANであっても樹脂製の設置面になっているのが主な理由だが。絨毯やインシュレーターやその他の柔らかい構造体に800D3を預けないほうが良いと私は思うが、どうだろうか。柔らかいものは変形する。

スパイクを使う際に、キャスターで床面に設置したまま、スパイクを台座底面に手を入れて、最も短くしたとしよう。スパイク受けだけならば、差し込んでスパイクを回して固定できる。スパイクの下に十分な強度のインシュレーターもかますならば、キャスターを床に着けた高さでは入らない。

今回、紹介するやり方は、ジャッキを使って完全に浮かせる方法である。それを勧めるのは、水平を持続させるためにインシュレーターをかましておきたいからでは、ない。爆音でかけても、水平が崩れないようにするのに必要な処置なのだ。
☆静的な水平
床やボード上にキャスターを着けた状態で、スパイクを一本、一本、回していき、水平と4本足への均等荷重を得ようとすることと、今回紹介するリフトアップした状態で水平を得てから、スパイクを伸ばしていくやり方を、Chat GPTに対比させた。以下、最初の( )内の補足、改行の調整と重要箇所を太字にしたのは引用者。
(キャスターを床に付けた状態から一本、一本スパイクを回して調整することの)最大の問題は、「調整しているつもりが、実は荷重を移動させているだけ」になりやすいことです。
例えば床置き状態で右前スパイクを1/8回転伸ばしたとします。すると実際には、
* キャビネットが少し持ち上がる
* 他の3本の荷重が変化する
* 床やスパイク受けがわずかに変形する
* ネジ部に蓄積した摩擦応力が残る
ということが同時に起きます。
その場では水平器の泡が中央に来ても、数時間後や翌日に荷重が再分配されて微妙に状態が変わることさえあります。
⸻
もう一つ重要なのは、ネジを回した量と実際の高さ変化が一致しないことです。
リフトアップして無荷重なら、M10ピッチ1.5mmのスパイクを1回転回せば理論上1.5mm伸びます。しかし96kgが載っている状態では、
* ネジの摩擦
* 座面の食い込み
* スパイク受けの微小変形
によって、回転量どおりに高さが変わりません。
だから、「あと1/16回転だけ」という追い込みが非常に難しくなります。
⸻
さらに、水平器自体にも落とし穴があります。水平器が示すのはキャビネットの傾きだけです。ところが床置き状態で調整すると、
* 前後方向の傾き
* 左右方向の傾き
は見えても、
* 4本の荷重分布
* キャビネット内部応力
は見えません。
極端な話、
* 左前 35kg
* 右前 30kg
* 左後 25kg
* 右後 6kg
でも水平器は水平を示すことがあります。
⸻
一方、ジャッキで一旦浮かせる方法には大きな利点があります。キャビネットを水平にした状態で、各スパイクを「床に触れるまで」伸ばしていけば、少なくとも
* キャビネットをねじりながら調整する
* 荷重を掛けながらネジをこじる
という要素を排除できます。
つまり、幾何学的な高さ合わせができるわけです。
⸻
ただし、「ジャッキで水平にした → スパイクを床に接触させた → ジャッキを外した」としても、それだけで4本均等荷重にはなりません。
床の局所剛性やスパイク受けの変形があるからです。それでも、床置きのまま一本ずつ回して水平を追い込むよりは、はるかに再現性が高く、理屈の通った方法です。
静的な状態では、水平を取れているとしても、音を出してウーファーが動き出すと、ぐらぐらする可能性がある。これでは本末転倒。
ロードセルのような荷重状態を調べる装置を使わない限り、完全な4本足への均等荷重を成すのは不可能だが、床に硬度があり、床に食い込まないようにインシュレーターをかませ、その上で、リフトアップからの水平状態で、スパイクを正確に回転させれば、十分な水平は得られるはずだ。
なお、今回の床置きセッティングの結果だが、爆音再生で、ウーファーが激しく動いた場合に、音像がぶれないか、床が鳴いたり、反動でキャビネットの振動が大きくなったりしないかを確かめたが、問題ないようだ。

リスポジの足置き兼ケーブル保護で、台座を置いている。20mm程度の厚みのマホガニー製で、耐荷重100Kgとある台座なのだが、爆音にすると、この台座がばりばり共振する。両膝も風が来るというよりも、がくがくぐらぐらするが、スピーカー足下の床面を裸足で踏んでも何も感じない。音像もエッジが曖昧になることはない。水平&均等荷重の徹底、および、スパイク受け&インシュレーターが良かったのだと思う。
☆セッティングの具体的な方法

画像の商品をAmazonで入手すると合計で約25,000円する。レバーリフティングジャッキはなくても、1人で、今から教えるスパイク調整はできる。しかし、危険が多い。レバーリフティングジャッキ4つを使っても危険なのだが、エアージャッキだけでやるのは、たとえ助手になってくれる人が何人いようとも、断じて勧めない。また、エアージャッキは1つ500円程度で入手することが可能なのだが、やはり、安物は危険である。500円ではなく、900円ならば危険はないのか?ある。しかし、質感は違う。保証数値も安い方は300Kgだが、日本メーカーの高い方は120Kgである。高いが誠実な方を選んだ方が良い。なお、300Kgを持ち上げるという安い方4つで800D3を浮かせている時、エアージャッキの1つが空気が抜け始めた。ぷしゅーって。すぐに気付き、両足と片手で800D3を抱えて、片手でエアージャッキを操作して難を逃れたが、ぐらーっと傾いた時はかなり焦った。このエアージャッキは全部、使用前に空気が入るのを確かめたのである。もっと強く押して確認すべきだった。実際に、レバーリフティングジャッキなし、安物のエアージャッキ4つで、800D3を完全に浮かして、AB-5200から降ろし、インシュレーターとスパイク受けに、目視では完全に水平で、しかも、堅く固定することが、1人でも、できた。今の右chはその賜物である。しつこいが、数百円をけちるのは、やめた方がいい。

しかし、肝を冷やした瞬間は2度3度あったので、上の画像のレベルの品質の道具を揃えることは検討した方が良い。
今、2mm厚毛氈を挟んで、KRIPTONのAB-5200の上で、インシュレーターとスパイク受けに800D3の純正スパイクが刺さっている。これの毛氈とAB-5200を撤去したい。
手順はこうだ。
①エアージャッキ4つとレバーリフティングジャッキ4つ、水平器を用意

(1)はスパイク位置にジャッキが噛まされている。これではスパイクの調整はできない。調整する時は(2)と(3)のようにジャッキをキャスターの付け根に当てる感じにする。


②5mmから1cm程度を上限とする階段を作り、800D3を段階的に降下させるための丈夫な板材を用意

③レバーリフティングジャッキで800D3の前面を持ち上げるのたが、逆側に、また左右にもレバーリフティングジャッキをかましておく。前面だけ持ち上げてスパイク受けやインシュレーターを外し、スパイクロックを回してスパイクをできるだけ短くする。(レバーリフティングジャッキは前面を上げたら→後ろ→左右も800D3が持ち上がらない程度には握っておく) 前面のレバーリフティングジャッキの段階的降下ボタンで数mm下げる。(下げる前に、後ろと左右を軽く握っておく) 底面のキャスターが回転しない=着地してるか確認。後ろの、続いて左右のレバーリフティングジャッキを触り、ジャッキが固定されているか確認。特に左右が水平にしっかりと噛んでいるか確認したら、後ろのジャッキを数mm下げて、キャスターが着地しているか確認する。この間、800D3がぐらつく場合は、エアージャッキを膨らませてサポートを増やす。以上で、ボード上にキャスターで設置できたはず。不慮の事態で800D3が背後に滑っていかないように、後ろにジャッキをかましておく。

④板材を用意して、800D3を抱える。抱えながら、ずりずりと後退する。

⑤暫定的に配置を決めて、左右を均等に厳密に配置する。狙った通りには置くのはキャスターは難しい。横移動がかなり困難。

⑥配置がより望ましいと思われる一方をまず調整する。その一方をジャッキアップして、水平にしたら前方の左右スパイクを出す。水平をもう一度確認。後ろの水平をとるようジャッキを調整。前はスパイクで立っており、後ろと左右はジャッキで水平にしている状態。後ろの左右スパイクを出す。水平を確認。スパイクのロックナットを回す。ジャッキを外す。床面からの台座の高さを計測しておく。側壁や後壁等の距離を計測しておく。
⑦先に調整して、情報を記録しておいたメモを元に、他方のスピーカーを配置し、調整して、最終的に計測して、左右が等しい状態か確認。


終了。先にアンプに電源を入れてから、一杯やろう。

頑張って。その汗は報われる。
ただ慎重に。一回の調整で、最低2日はかかると思った方がいい。
