カレンダー暗算の超人になりたい日記
Q. 1682年12月27日は何曜日?
【心の声】
にでしょ
はちにーだからごーろくでにーろく
だからさんにーでよん
にーよんだからろく
いちにーだからいちごーでいち
だからなな ぜろ
A. 日曜日
これが出来るようになるまでに、ごちゃごちゃ考えていたことの記録です。
2025年11月22日
年末も近いということで部屋に積んである本類を整理していた。古い雑誌に目を通していると、『数学セミナー 第54巻2号』(2015年2月1日発行)の寄稿「ちいさい数理みつけた」で手が止まった。面白すぎる。
時枝正という、書くこと話すこと面白すぎる数学者による、数学小ネタ集である。
その中に「暦なしで曜日をぴたっと当てる法」があった。
重要なアイディアは、特定の年のうちでは共通の曜日”D”になる日の組み合わせを覚えることである。
任意の年に於いて共通の曜日になる日のリスト.
2月の晦日(通常年28日、閏年29日)
4/4, 6/6, 8/8, 10/10, 12/12
5/9, 9/5
7/11, 11/7
年始にこの共通曜日Dさえ心得ておけば,その年の曜日計算は数秒で片付く。
そして、年号からその年のDを求めるには以下の簡便法を押さえておく。
(ⅰ)Dは28年ごとに一巡する
(ⅱ)Dは毎年+1ずれ,閏年には+2ずれる
(ⅲ)1900年のD=水, 2000年のD=火
(記事作者補足:1700年のD=日、1800年のD=金を加えた長さ4の周期で全年号を網羅できる)
これらのルールさえあれば、確かに頭の中で曜日計算が済んでしまう。これは楽しそう。
タイムアタックのツールがウェブ上で公開されていたので、カンペを見ながら試してみた。

【心の声】
1682年12月27日か。
16始まりだから1600年(D=火)を基準に考えれば良いな。D=火から82年分ずれる。28年でズレは一周することを使う。82=28×2+26だから、26年分ずらせばOK。26年経つことで少なくともDは+1を26回繰り返し、あとは閏年の時に例外的に+2になることを考える。26年の中に閏年は6回あるな。だからDは26+6=32ズレるんだ。D=火から+32ズラすのね。32=7×4+4だから4ずらす。よし、D=土だ!
12月27日。ここに近い「共通の曜日になる日」は、12月12日だな。この日が土曜日ってことで、そこから15日ずらそう。15=7×2+1だから1ずらす。よし、1682年12月27日は日曜日だ!
慣れればもっとタイムを削減できそうだ。
2025年11月23日
この計算法は時枝正がJohn H. Conway(1937年12月26日 - 2020年4月11日)に教わった手法らしい。Conwayはライフゲームとか作った人。
他の計算法の方がずっとメジャーらしいが、私はConwayの方法の”説明可能性”が好きだ。わずかな知識からゴールへ向かうステップを踏み締め、「私が計算している」という実感を持てる。他の方法だと、一本の式やクロス表に知識をまとめる形になり、どうにも「システムが私を乗り物に駆動している」感覚がして気に入らない。

2025年11月24日
計算手順に悩まないことが当たり前になり、思考のショートカットが増えてきた。すると、段々不思議な感覚が掴めてくる。曜日や数字から順序を奪う感覚だ。
例えば「5日後」と「2日前」。2つの事実は全く異なる意味であるはずが、曜日計算においては同じことだ。(7日で一周するから)

しかし理屈上そうだとしても、イメージの世界から過去・未来の構造は簡単には消えない。
計算で+5をするとき、私は左から右に目線をやるし、-2するときは右から左に目線をやる。そのせいで、端と端のループを目線で超えるときにロスがでる。時間を空間に結びつけるような根強い感覚が、不要な構造を意識させ、余計な負荷となっているわけだ。

だから、理想的には、曜日を順番に並べてはいけない。「どこから始めても対称な7種類の一対一対応が存在する」というそれだけの感覚に限定すべきだ。日付の数字についても同じである。{3、10、17、24、31}は等価値で対称な5つの数字である。心の読み上げに順序がついているようではいけない。
心の中でカードをシャカシャカ切っているその時間が余計である。順序の無い地平でカルタを取るように計算できるようになることがネクストステップだろう。

2025年11月25日
映画とか漫画とかザ・ベストハウス123とかで見る、計算や記憶の超人について色々調べていた。能力に個人差があるだけでなく、個人の中でもタスクによって成績が違うのが面白い。
2015年10月17日発表のケースレポート。アスペルガー症候群と診断されたイタリア人24歳男性に、カレンダー暗算タスクを与えた結果だ。
この報告が興味深いのは、過去の日付(3.3秒/1問)と未来の日付(23.7秒/1問)、両方をクリアしながらも明らかにスピードが異なるという点である。つまりこの人は、過去の日付は実際に経験した出来事として反復的想起し、未来の日付は一般性に基づいた計算をしているのだ。
過去の「3.3秒/1問」を見ると、彼が完全に違うゲームをしていると悟り、敗北感を味わう。日付の遠さと回答速度に関連が無いという点も踏まえ、彼は記憶ベースで曜日を回答していると考えて間違いない。もはや周期や順序は無視され、その特定の日付自体がカルタの札として蓄積されているのだ。

一方、未来の「23.7秒/1問」に関しては私がもう上回っている。こちらでは、日付が遠いほど回答も遅くなっており、経験していない未来の日付には一般性に基づいた計算をしていると考えられる。
もちろんこの報告は一例に過ぎず、遥か未来にわたって即答できるカレンダー計算の超人も存在する。とにかく、こうした能力の個人差の鑑別に鼻が利くようになっただけでも、カレンダー暗算を練習した甲斐があるものだ。

2025年11月26日

タイムも伸び悩んできたので、日記は終わろうと思う。私は結局、8秒/1問程度で落ち着いた。
最後に、遥か未来の日付にわたって即答できる、極めつけの超人たちの体験に想像を広げて締めとしたい。私見を大いに含むのでご注意を。
仮説を3つ考える。
1.一度は計算したことがあるので、その時の記憶を利用している
イタリア人男性の例でいう、過去の日付の処理と同等である。
計算・暗記の超人のエピソードが紹介されている文献はまあまあ多くある。それらを読むと、彼らはそもそも日付計算が”大好き”であるということがよく伝わる。
「誕生日はいつ?」とフランに訊かれたので、ぼくは「一九七九年一月三十一日」と答えた。「六十五歳になる日は日曜日だね」とキムが答えた。ぼくはうなずいて、キムに誕生日を訊いた。「一九五一年十一月十一日」とキムは答えた。ぼくはにっこりして「その日は日曜日だ!」と言った。キムの表情が輝き、ぼくにはふたりの心が通い合ったのがわかった。
彼らはもはや自分の生きた時代を超えて、前後数百年程度ならすべての日付に思いを寄せた体験があるのではないか。するとそれらは彼らのボキャブラリーとして蓄積されているわけで、即座に取り出せて当然である。
2.説明可能な計算をとんでもない速さで行っている
イタリア人男性の例でいう、未来の日付の処理におよそ相当する。
一般的な計算を10倍速で回せば即答になるというシンプルな話だ。
ちなみに、Conwayの方法でも基準Dさえ求めれば、計算なしでカルタを取るように即答することもできる。365日分のズレをまるっと覚えてしまえばいいのだ(正確には閏年の例外部分を合わせて425日分)。こうなると、他の計算法を極めた先と見分けがつかなくなるわけだが。
3.説明不可能な仕方により蓄積されたものを利用している
1・2のどちらにも完全には還元できない方法である。
超人の話を聞くと、数字に色や形、音楽を感じる、共感覚を持つケースは多い。そしてそれが計算にも活かされている。例えば「1293201年」「9月20日」を見て「この色だから日曜日だ」だとか分かってしまうらしい。
そこで誰かがある日を口にする。するとほとんど瞬間的に、それが何曜日であるかの答が返ってくる。(中略)とにかく、何かを「見ている」ふうなのだ。この答を出すことは純粋に「計算」の問題であるはずなのに、彼らは、ひどく緊張を要する視覚的作業をしている様子なのである。
ある数字が素数だとわかるときには、頭のなか(中心部)でぱっとそういう感じがする。これを言葉にするのは難しい。突然ぴりぴりっとするような、特別な感覚だ。
ここで重要なのは、彼らが剰余の概念といった抽象的法則を用いて、演繹的に世界を色分けしているわけではないという点だ。
彼らが数字同士の個別的な関係性を無数に体験する中で、それぞれの色は調整されていく。その蓄積は、私たちの言葉でいう剰余の構造も、結果的に含むだろう。しかしそれは、世界の個別具体例を取り零さず写しとるように内在化すれば、そこでも剰余の法則は成り立つ、というだけの話だ。
仮説2を極めることとの違いは、この感覚が曜日計算のために構築されたわけではない点だ。彼らは広い意味で「計算済みの」世界を生きているのであり、カレンダー暗算はその副産物にすぎない。
どの仮説も人ごとに、タスクごとに、異なる程度で当てはまることではあろう。しかし結局のところ、私が磨き上げたのは合目的で整ったデータベースを高速で参照する技術である。タイムをいくら縮めても、数字一つひとつの質感としてそれが迫ってくる世界とは埋まらない断絶があることを体感した。
参考
時枝 正. こどもの眼・おとなの頭(第23回)ちいさい数理みつけた. 数学セミナー. 54(2)=640:2015.2,p.2-5.
De Marco M, et al. Brief Report: Two Day-Date Processing Methods in an Autistic Savant Calendar Calculator. J Autism Dev Disord. 46(3):2016.3,p.1096-102.
ダニエル・タメット. ぼくには数字が風景に見える, 講談社, 2014.6.
オリバー・サックス. 妻を帽子とまちがえた男, 晶文社, 1992.1.
松本 卓也. 自閉症スペクトラムと〈この〉性. 鈴木國文, 内海健, 清水光恵 編著. 発達障害の精神病理 1, 星和書店, 2018.9, p.43-67.
