あるホースマンの一生〜河村清明「相馬眼が見た夢」感想。
2021年3月に逝去されたマイネル軍団の総帥、岡田繁幸さんの生涯を綴った本「相馬眼が見た夢 岡田繁幸がサンデーサイレンスに刃向かった日々」を読み終えました。

「相馬眼」とは、馬の素質や能力を見抜く眼力のことで、岡田繁幸さんは競馬界随一の相馬眼を持ち、決して一流とは言えない血統の馬を発掘し、鍛え上げ、世に送り出しました。
また、副題に名前のある「サンデーサイレンス」とは、アメリカの競走馬で、のちに日本で種馬となり、日本の競馬界を席巻しました。
個人的に競馬を始めた頃と重なるのですが、サンデーサイレンスの仔たちはデビューすると、大レースを勝ちまくりました。初年度産駒だけでも、フジキセキ、ジェニュイン、タヤスツヨシ、ダンスパートナーやマーベラスサンデーなどがいましたね。
サンデーの凄まじいのは、初年度だけでなく、次の年からも毎年、複頭数の強い馬を出しつづけたことです。
そして、サンデーサイレンスの種を持つ社台グループは大レースの賞金獲得のみならず、種牡馬ビジネスでも大躍進を果たしました。
副題に、「岡田繁幸がサンデーサイレンスに刃向かった日々」とあるのは、サンデーサイレンスを擁するライバル・「社台グループ」へ戦いを挑む人生だったんですね。
*
この本、競馬ファンとしては必読の本と思いつつ、帯にある通り、岡田さんの最期が自死だったということで、悲痛な気持ちになるのではと、何度か本屋で手に取りつつ、読むのをためらってしまいました。
〈2021年3月19日、71回目の誕生日を迎えた朝、繁幸は牧場敷地内の池に身を投じた。(中略)生前、勝利への渇望を隠そうとしなかった日本ダービーのタイトルはまだ手にできていなかった。積年の悲願達成に向けて、牧場のさらなる発展に向けて、サンデーサイレンスを超える世界的種牡馬の発掘に向けて、死の直前まで強い意欲を見せていただけに、どうして……と私は戸惑った。〉
しかし、読後感としては、悲しい気持ちにもなりましたが、不思議と勇気の湧くものがありました。
最期は悲しいのですが、岡田さんのダービー制覇に賭けた情熱に感動しました。
奥様への遺書のところは、涙が出てしまいましたが、、😢
*
「マイネル軍団(馬名の冠として、マイネル、コスモを使用)」と言えば、競馬ファンにとってはおなじみの存在です。
「マイネル軍団」の馬に会わない日は、ないですよね。


マイネルラクリマは、東京競馬場で誘導馬をやっているので、それこそ会おうと思えば、毎週会えます☺️
思えば、「マイネル軍団」は常に身近な存在でした。
しかし、軍団を率いた岡田繁幸さんの情熱を、この本を読むまでは知りませんでした。
著者の河村清明さんは、あまりに突然の別れで、この本を書くべきか逡巡があったそうなのですが、競馬ファンとしては書いてくれてありがとうございます、という気持ちです。
貴重なエピソードが溢れている本です。
*
ダービーに絡めて、印象的なエピソードがありました。
1986年の日本ダービーで、岡田さんのグランパズドリームが2着になったとき、頭の中が真っ白になり、何が優勝したかもわからなかったそうです。
そして、買ったダイナガリバー陣営の吉田照哉さんも、2着が盟友の岡田繁幸さんのグランパズドリームだと、わかっていなかったそうです。
ダービーとは、それほど興奮で我を忘れ周りが冷静に見えなくなるレースだということが、よくわかります。
それから、2008年のダービーでは、2番人気のマイネルチャールズで十分チャンスはあると思えるのに、岡田さんは戦前に「ディープスカイにはどうやっても勝てない」と白旗を挙げていたそうです。
それまで、どうやったら勝てるかと主戦の松岡騎手に細かい指示を与え、万策を尽くしてきたのに、このときばかりは「馬の力が違う」、と観念していたそうです。
これも「相馬眼の凄さ」を伝えるエピソードですね。(レースは、岡田さんの想像の通り、ディープスカイが圧勝)。
*
あとは、何といっても、「岡田繁幸と言えば」、コスモバルクですね。
2004年のクラシック戦線にホッカイドウ競馬所属のまま有力馬として参戦し、皐月賞2着などしたあと、古馬と戦いジャパンカップ2着、のち2006年にシンガポールで悲願のGⅠ制覇を果たすコスモバルクについては、その挑戦の背景(新制度の導入)の詳細含め、この本で最も読み応えある部分と言えるかもしれません。
ジャパンカップで、コスモバルクを御する、まだ若きルメール騎手の技術とパワーに、同じレースに乗っていた安藤勝己騎手が驚いた、というエピソードも印象的でした。
また、コスモバルク主戦の五十嵐冬樹騎手について調べていたら、娘さんは今競馬学校に在籍中なんですね。
本の中で、五十嵐騎手が中央競馬の騎手の環境に憧れている、という言葉が出てきて、そんなこともあって娘さんは中央競馬でのデビューを目指しているのかな、応援したいな、という気持ちにもなりました。
*
この話も、あの話もと紹介していたら、きりがないですね。
これぐらいにしておきます。
だいぶ前に、社台グループの総帥・吉田善哉さんの生涯を綴った本を読みましたが、岡田繁幸さんの本も同じぐらい読み応えがありました。
