もしあなたが堀場製作所の役員だったら検討したM&A候補25選
堀場製作所(HORIBA)は、自動車計測機器や環境測定機器、医療診断装置、半導体関連機器などを手がける総合計測機器メーカーです。特に自動車用エンジン排ガス測定装置で世界シェア約80%を占めるなど、ニッチ分野で圧倒的な地位を築いてきました。しかし近年、自動車業界では電気自動車(EV)へのシフトが進み、内燃機関向け排ガス計測需要の先行きに不透明感も生じています。一方で、社会全体の持続可能性への関心の高まりやデジタル化の進展により、新たな技術革新分野での計測ニーズも増大しています。こうした環境変化を踏まえ、堀場製作所は2024年2月に発表した中長期経営計画「MLMAP2028」においてエネルギー・環境、バイオ・ヘルスケア、先端材料・半導体の3つを注力分野に定め、事業戦略の方向性を明確化しました。本稿ではまず堀場製作所の最新の戦略とノンコア事業を整理し、次に過去のM&A実績と世界の競合他社の動向を確認します。その上で、競合比較から堀場製作所に不足している機能・領域を洗い出し、プライベートエクイティファンド傘下にある企業の中から同社の強化に資する買収候補20社、およびベンチャーキャピタルが出資するスタートアップ企業5社を選定・紹介します。さらに、堀場製作所のノンコア事業の概要と、その事業に関心を持ち得ると考えられる企業3社についても提案します。経営陣の皆様におかれましては、本稿の分析と提案が中期成長戦略検討の一助となれば幸いです。
堀場製作所の注力分野とノンコア事業の分析
注力分野(コア事業)の戦略:堀場製作所は「MLMAP2028」において、今後成長が期待できる3分野に経営資源を集中する方針を示しています。第1はエネルギー・環境分野です。脱炭素社会の実現に向け、エネルギー分野での技術開発や環境規制への対応が重要となる中、同社は排出ガス計測や燃料電池・電池評価などのソリューション提供で顧客課題を解決し、「持続可能な地球環境を実現する真のパートナー」になることを目指しています。第2はバイオ・ヘルスケア分野で、健康寿命の延伸や精密医療ニーズに対応するため、独自技術を活かした検体検査機器やPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスト)の開発を強化しています。従来から強みを持つ血球計数装置に加え、近年は生化学検査や免疫検査領域にも進出し、ヘルスケア領域の「患者ジャーニー」を革新するソリューション創出を掲げています。第3は先端材料・半導体分野で、AI・IoT時代を支える半導体や新素材の分野において、高度化・複雑化する製造プロセス全体を計測・分析で支援し、「革新的ソリューションで市場を形成する」ことをビジョンとしています。これら3分野横断で、堀場製作所はグローバルな開発・サービス・生産・販売体制を強化し、グループ総力でソリューション提供力を高めるとしています。
ノンコア事業の検討:上記のように、同社の主要事業領域は自動車、環境、医療、半導体と多岐にわたりますが、中長期計画で優先度の高い成長分野が明示されたことで、相対的に「ノンコア」と位置付けられる事業領域も見えてきます。その代表例として考えられるのが従来型の自動車計測関連事業です。堀場製作所は長年、「排ガス測定のHORIBA」と称されるほど自動車エンジン排出ガス計測装置で名声を築いてきました。エンジンの開発・認証に必要な排ガス測定器で世界の自動車メーカーや官公庁に採用され、業界標準となっています。また、エンジンや駆動系、ブレーキの試験装置から風洞試験設備まで、自動車開発プロセスを網羅する試験設備を提供し、自動車分野全体で高い技術力と実績を有します。しかし、EV化の進展によって将来的に内燃機関車両が減少すれば、排ガス測定装置の市場は縮小していく可能性があります。堀場製作所自身、近年はそうした危機感から電動車向け試験技術への対応を加速しており、燃料電池試験装置やバッテリー評価システムをグループ内に取り込むM&Aを積極化させています。それでもなお、内燃機関関連の計測機器事業は将来的な成長期待が相対的に低く、中長期計画で掲げる重点分野にも直接は含まれていません。従って、この領域は「ノンコア事業」として整理・再編の対象となり得るでしょう。具体的には、排ガス分析計やエンジン試験装置、ドライブトレイン/ブレーキ試験装置などの事業ユニットが該当します。
堀場製作所のノンコア事業を整理することで、経営資源を重点分野へ一層集中できるメリットがある一方、ノンコア領域にも依然として収益源としての価値は残ります。同社の自動車計測部門は2019年に売上のピークを迎えた後も一定の規模を維持しており、EV時代に向けた展開次第では安定的なキャッシュ創出が期待できる分野です。したがって簡易に切り離せるわけではありませんが、仮に外部への売却や事業提携を検討する場合、そのノンコア事業に価値を見出す企業がどこかという観点も重要です。後述するように、自動車試験機器分野で補完関係やシナジーを得られる海外企業などがその候補となり得ます。
以上、堀場製作所は中核事業として3つの重点分野を据え、非重点の伝統事業については選択と集中の観点から今後再編の余地があります。次章では、同社が過去に実施してきたM&Aの歩みと、世界の競合企業の投資動向を確認し、堀場製作所の戦略に沿った買収候補の検討材料とします。
堀場製作所の過去のM&A実績
堀場製作所は創業以来、独自の「おもしろおかしく」という社是の下で技術革新を続けてきましたが、1990年代半ば以降は積極的な海外企業の買収によって事業ポートフォリオを拡充してきました。初期の主なM&Aとして、1996年にフランスのABX社(血球計数装置メーカー)を買収して医療分野に参入し、1997年には同じくフランスのJobin Yvon社(分析用分光器メーカー)を買収して科学分析分野を強化しました。これらの買収により、自動車排ガス計測中心だった事業構造に医療と科学計測という新たな柱が加わり、経済環境の変動に強いバランス経営を実現しています。その後も2005年にはドイツのSchwarz System社(エンジン計測)を、2015年にはイギリスのMIRA社(自動車開発エンジニアリング企業)を買収するなど、自動車計測事業のグローバル展開と技術高度化を進めてきました。
近年の主なM&Aを見ると、直近5年間ほどで重要な案件がいくつかあります。2021年2月には米国MedTest Holdings社(MedTest DxおよびPointe Scientific等を傘下に持つIVD機器・試薬メーカー)を買収し、同社の生化学・免疫検査分野の技術とFDA承認ノウハウを取り込んで医療事業の競争力強化を図りました。この買収により、堀場製作所の医療セグメントは血球計数だけでなく臨床化学検査領域にも製品ラインを拡大し、総合診断ソリューションプロバイダーへの布石を打ちました。また2021年7月にはドイツのBeXema GmbH(電源装置メーカー)をグループ会社経由で買収しています。BeXemaの高性能直流電源技術を取り込むことで、電気自動車用バッテリーや電動モーターの試験装置に不可欠な電源ソリューションを内製化し、電動車開発ニーズへの対応力を高めました。さらに直近では、2023年10月に米国Process Instruments社(プロセス用ラマン分光分析装置メーカー)の買収を発表し、プロセス分析領域の製品ラインナップ拡充と北米市場での展開力強化を進めています。極めつけとして、2025年4月には韓国EtaMax社(化合物半導体ウェハ欠陥検査装置メーカー)の買収を実施しました。EtaMaxが持つ最先端の半導体ウェハ検査ソフトウェア技術と、堀場製作所が得意とする分光技術を融合することで、半導体製造向け検査ソリューションの品ぞろえ強化と提案力向上を図る狙いです。
以上のように、堀場製作所のM&A戦略は「自社のコア技術とのシナジーが見込める相手」に絞った選択的な投資が特徴です。医療・環境・半導体といった既存事業で不足している技術や市場チャネルを補完する企業を取り込み、事業領域の拡大と技術力の強化を同時に追求してきました。この結果、堀場製作所は現在5つの事業セグメント(自動車、プロセス・環境、医用、半導体、科学)それぞれでグローバルな事業基盤を築いており、中長期的な競争優位性を高めています。一方で、M&A件数そのものは決して多くなく、むしろ厳選された案件に投資している印象です。これは同社が無秩序な多角化ではなく、「はかる」という軸からぶれない範囲で企業価値向上に資する買収を行ってきたことを示しています。
世界の競合企業のM&A・投資動向
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