有名人に夢中な人は“知能が低い”|ハンガリーの研究が示した“崇拝”の代償
有名人を追いかけ、投稿をチェックし、コンサートやイベントに駆けつける。推し活は現代の文化の一部となった。だが、その「夢中」の裏側に、思いもよらぬ心理的・認知的な影響が潜んでいるという。
ハンガリーの研究チームが発表した論文によれば、著名人を強く崇拝する人ほど、語彙力や認知テストの成績がわずかに低い傾向を示したというのだ。生まれつき頭が良くても、“有名人への執着”が日常の集中力を奪い、結果として知的パフォーマンスを下げる可能性があるという。
では、人はなぜここまで“誰か”に夢中になるのか。崇拝と知性、その微妙なバランスをめぐる議論が、いま静かに広がっている。
▽おすすめ note
▼コカ・コーラ 1.5L PET ×6本
▼バルクオム ヘアオイル
▼バック・トゥ・ザ・フューチャー トリロジー 30thアニバーサリー・デラックス・エディション
「セレブ崇拝」はどこから来たのか
この研究を行ったのは、ハンガリー・ペーチ大学(University of Pécs)の心理学チームだ。彼らは「Celebrity Attitude Scale(セレブ態度尺度)」と呼ばれる国際的な質問紙を使い、1763人の成人を調査した。
質問は、どれほど有名人に感情移入しているか、彼らの成功を自分のように喜ぶか、さらには「その人のためなら何でもする」といった項目にまで及ぶ。そして同時に、語彙テストや数字記号置換テストといった認知能力の測定を行った。
結果、セレブ崇拝のスコアが高い人ほど、わずかではあるが認知テストの得点が低い傾向を示した。つまり、強い“推し”を持つ人ほど、頭の回転が鈍る傾向があるというのだ。
「相関」と「因果」は違う
ただし、この結果を「有名人が好き=頭が悪い」と短絡的に結論づけるのは間違いだ。研究チーム自身が強調しているのは、これは因果関係ではなく相関であるということだ。
セレブ崇拝が強い人は、もともと社会的刺激への感受性が高く、感情移入能力が豊かな可能性もある。そうした人々が、有名人に強く惹かれるのは自然な心理の流れでもある。
また、「知能テストで低かった」というのも、たった一回の短い語彙・記号テストの結果に過ぎない。知能という複雑な概念を測るには、あまりに粗い指標だ。
つまりこの研究が示したのは、「崇拝が知能を下げる」のではなく、「知的リソースを推しに振り分けすぎると、別の領域で集中力が落ちる」可能性である。恋や信仰と同じように、エネルギーの配分の問題なのだ。
なぜ人は“誰か”を崇拝するのか
有名人への憧れは、人類史のごく自然な行動でもある。古代ローマでは剣闘士が、ルネサンスでは芸術家が、20世紀には映画スターが“偶像”となった。
社会心理学者のダニエル・ボアスは「崇拝は模倣の延長にある」と語っている。人は自分の理想像を他者に投影し、その人を通じて“なりたい自分”を確認する。
問題は、その境界線が曖昧になるときだ。憧れが依存へ、尊敬が盲信へと変わると、自己の中心が他者に奪われる。研究が示した「軽度の知能低下」とは、まさにこの状態の反映かもしれない。
思考が“自分の軸”から離れ、外部の存在に吸い取られていくとき、人は知らず知らずに思考の自由を失う。
「推し文化」という現代の祝祭

2020年代の日本では、“推し活”という言葉が完全に市民権を得た。ライブ遠征、グッズ収集、SNSでの発信、どれも経済を動かす大きな力になっている。
だが同時に、現代の「推し文化」はかつてないほど過剰な情報刺激の中にある。リアルタイムで更新される投稿、炎上、アルゴリズムが増幅する熱狂。それはしばしば個人の認知資源を圧迫し、日常の思考を“推し”に占拠されるような状態を生む。
これは単なる娯楽ではなく、認知心理学的には「注意の奪い合い」である。誰を愛するか、何に熱中するかは自由だ。だが、その熱中が思考の空間すべてを支配し始めたとき、人は知らぬ間に“知的余白”を失っていく。
知性とは何か
知能とは、単なる点数ではない。観察する力、違和感を感じる力、他者を理解する力、それらもまた知性だ。
有名人を愛すること自体に罪はない。むしろ感動し、憧れ、涙するその心は、創造性の根でもある。だが、その感情に飲み込まれるとき、知性は感情の炎に溶けていく。
ハンガリーの研究が警告しているのは、「推しを持つな」ではなく、「推しに呑まれるな」ということだ。どれだけ心を動かされても、自分の判断と視点を手放さないこと。
崇拝と自我のあいだに一本の線を引けるかどうか。それこそが、現代人に問われている“知の成熟”なのだ。
Amazon広告を含みます。
いいなと思ったら応援しよう!
Beyond Timesの執筆活動は、すべて自主運営によって行っています。執筆の継続には、多くの時間と労力を要します。もし本記事に価値を感じていただけましたら、ご支援を賜れますと幸いです。いただいた応援は、今後の制作活動の糧として大切に活用させていただきます。