5G「爆速」の幻影と現実
2020年春。日本で5Gの商用サービスが開始された際、メディアは一斉に「通信革命」の到来を報じた。
「2時間の映画がわずか3秒でダウンロードできる」という魔法のようなフレーズが街を踊り、人々の期待は最高潮に達していた。
4Gが動画視聴を日常のものにしたように、5Gは自動運転や遠隔手術、仮想現実が溶け合うSFのような未来を瞬時に手繰り寄せると信じられていたのである。
しかし、サービス開始から6年が経過した2026年現在、私たちの手元にあるスマートフォンに表示される「5G」の文字は、あの時夢見た興奮を呼び起こすにはあまりに静かである。
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ヘッダー:https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/
【1】「本物の5G」を阻んだ物理の壁

5Gが「爆速」を実現するための最大の鍵は「ミリ波」と呼ばれる28GHz帯の超高周波数帯にあった。この帯域は圧倒的な情報量を一度に運ぶことができる。
しかし、物理の法則は非情であった。
ミリ波は直進性が極めて強く、建物や街路樹、さらには雨粒にすら遮られ、電波が減衰してしまうという弱点を持っていた。基地局の目と鼻の先でなければその真価を発揮できず、通信エリアを広げるには膨大な数の基地局を街中に埋め尽くす必要があった。
コストと設置場所の確保という現実的な壁が、理想の5Gを都市部の限定的なエリアへと押し込めてしまったのである。
【2】「パケ止まり」という想定外の伏兵

普及の過程で、ユーザーを最も悩ませたのは速度の遅さよりも、むしろ「通信の切断」であった。
4Gの周波数を転用した「なんちゃって5G」が広がるにつれ、スマホが不安定な5Gの電波を優先的に掴もうとする挙動が頻発した。その結果、アンテナは立っているのにデータが流れない「パケ止まり」が都市部で常態化したのである。
通信キャリアはエリア拡大を急ぐあまり、実効速度を伴わない5Gロゴの表示を優先させたとの批判を免れない。
2025年に入り、ようやく各社はSA方式への移行を本格化させたが、初期の混乱はユーザーの5Gに対する信頼を少なからず損なう結果となった。
【3】2026年の現在地

現在、私たちの生活圏における5Gの実測値は、概ね100Mbpsから300Mbps程度で落ち着いている。理論上の最高速度である20Gbpsには程遠いが、4G時代の数十Mbpsと比較すれば、確かに通信環境は底上げされた。
動画の読み込み待ちはほぼ解消され、大容量のゲームデータの更新もストレスなく行えるようになっている。
10Gbpsという「怪物級」の速度は、もはや個人がスマートフォンで消費するコンテンツの域を超え、工場内でのロボット制御やスタジアムでの多視点ライブ配信といった産業・法人向けの領域へとその主戦場を移している。
参考文献
総務省「通信利用動向調査」各年度版
通信キャリア各社 5Gサービスロードマップ資料
電子情報通信学会誌 5G/6G特集号
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