月2回の恋人たち
第5章 - より自然なコミュニケーション
木曜日の夕方6時。ゆめは健太のアパートのキッチンで、野菜炒めを作っていた。
由香との相談から5日が経っていた。その間、健太とは普通にデートして、普通に過ごしていた。特別な期待もプレッシャーもなく、自然な関係が戻ってきていた。
「お疲れさま」
健太がMELLOWから帰ってきた。いつもより少し早い時間だった。
「お疲れさま。今日は早いね」
「うん、今日は比較的暇だった。何作ってるの?」
「野菜炒め。冷蔵庫にあったもので」
健太がゆめの後ろに来て、肩に手を置いた。自然な動作だった。2週間前なら、こういう何気ないスキンシップも意識してしまったかもしれない。でも今は、普通に受け入れられた。
「ありがとう。俺もシャワー浴びてくる」
「うん」
一人になって、ゆめは今日の取引を振り返った。利益は8万円。安定している。ここ最近、恋愛と投資のバランスが取れてきた感じがしていた。
7時。二人で夕食を食べながら、今日あったことを話し合った。
「今日、面白い客が来てさ」
健太が話し始めた。
「おじいさんなんだけど、80歳でプログラミング始めたって」
「すごいね」
「ゆめの投資の話をしたら、すごく興味持ってくれて。『若い人は何でもチャレンジできていいなあ』って」
健太がゆめの投資を他の人に話してくれるのは嬉しかった。恥ずかしがったり、心配したりするんじゃなくて、誇りに思ってくれている。
「私の方は、今日はソフトバンクで大きく取れた」
「おお、さすが」
「でも午後は判断迷って、機会逃しちゃった」
「そういう日もあるよ」
こういう何気ない会話が、ゆめには心地よかった。お互いの日常を共有して、お互いの頑張りを認め合う。
8時。食器を片付けながら、健太が言った。
「今日は何する?」
自然な質問だった。プレッシャーもなく、期待も含まれていない。でも可能性は開かれている、という感じの聞き方。
「何しようか」
ゆめも自然に答えた。特別なことをしたいわけでもないし、しなければいけないわけでもない。でも、健太と一緒に過ごしたい気持ちはあった。
「映画でも見る?」
「いいね」
ソファに座って、健太のノートパソコンでNetflixを開く。何か軽いコメディを選んだ。
でも、映画が始まって10分もしないうちに、ゆめは健太の肩にもたれかかっていた。健太も、ゆめの髪を優しく撫でていた。
これも自然な流れだった。
映画の途中で、健太がゆめの顔を見た。
「ねえ」
「何?」
「今日のゆめ、なんかいつもと違う」
「え、どういう意味?」
「なんていうか、リラックスしてる」
確かに、ゆめ自身もそう感じていた。由香との相談で、色々なことが整理されて、変に意識しすぎることがなくなった。
「由香と話して、すっきりしたからかも」
「そうなんだ。何話したの?」
「色々。恋愛のこととか、セックスのこととか」
ゆめが素直に答えると、健太が少し赤くなった。
「女同士だと、そういう話もするんだ」
「うん。健太は男友達としないの?」
「いや、あんまり。なんか恥ずかしくて」
「そっか」
でも今日のゆめには、健太の恥ずかしがる様子も可愛く見えた。
「由香が言ってたんだけど」
ゆめが続けた。
「最初はみんな戸惑うものだって。私たちが特別変じゃないって」
「そう言ってくれたんだ」
「うん。あと、お互いのペースが大事だって」
健太が頷いた。
「俺もそう思う」
9時。映画はまだ続いていたけれど、二人ともあまり集中していなかった。
健太がゆめの顔をじっと見ていた。
「何?」
「なんでもない。今日のゆめが綺麗だなって思って」
「急に何よ」
でも嬉しかった。そして、健太に見つめられていることが、心地よかった。
健太がゆめの頬に手を置いた。
「キスしてもいい?」
聞いてくれるのが、健太らしかった。そして、聞かれることで、ゆめも自分の気持ちを確認できた。
「うん」
キスは優しくて、自然だった。最初の頃のような緊張はなかった。でも、特別な意味は変わらずにあった。
キスが終わって、しばらくお互いを見つめ合った。
「ねえ」
今度はゆめの方から言った。
「今日は、したい」
言葉にするのは恥ずかしかったけれど、素直に伝えたかった。健太に判断を委ねるんじゃなくて、自分の気持ちを表現したかった。
「本当に?」
健太が確認した。プレッシャーをかけているわけじゃないかと心配している。
「うん。変に意識しなくなったら、自然にそう思えるようになった」
健太が微笑んだ。
「俺も、ゆめがそう言ってくれて嬉しい」
ベッドルームに向かう足取りも、以前より自然だった。特別な儀式みたいじゃなくて、日常の延長という感じ。
10時。
前回、前々回と比べて、今回は最初から気持ちが楽だった。健太も、ゆめの反応を確認しながら、でも自然に進めてくれた。
「これは好き?」
「うん」
「痛くない?」
「大丈夫」
「ここは?」
「そこよりも、もうちょっと…」
会話も自然になっていた。恥ずかしさはあったけれど、お互いを思いやる気持ちが強かった。
ゆめも、前回より素直に反応できた。我慢する必要もないし、演技する必要もない。ただ、感じたままを表現すればいい。
健太の優しさも、前回より洗練されていた。ゆめの反応をちゃんと見て、理解して、それに応えてくれる。
そして何より、二人とも「完璧である必要はない」ということがわかっていた。失敗してもいいし、途中で止めてもいいし、笑ってしまってもいい。
実際、途中で健太が変な音を立ててしまって、二人で笑った。でもそれで雰囲気が壊れるわけでもなく、むしろ親密さが増した。
終わった後も、前回のような微妙な空気はなかった。
「ありがとう」
健太がそう言った時、ゆめは素直に答えられた。
「私こそ。今日は、本当に良かった」
「俺も。なんか、前回より自然だった」
「うん。変に意識しすぎてたのかもね、最初は」
「でも、それも普通のことなんだと思う」
健太がゆめを抱きしめながら言った。
「慣れていくものなんだろうね」
「そうだね」
11時。二人でシャワーを浴びた後、また映画の続きを見た。
でも今度は、本当に映画を楽しんでいた。セックスが終わったからといって、急に距離を置く必要もないし、特別扱いする必要もない。
ただ、自然に一緒にいる。それが一番心地よかった。
「ねえ」
映画が終わった頃、健太が言った。
「今度、泊まっていかない?」
「え?」
「いや、エッチな意味じゃなくて。ただ、朝まで一緒にいるのって、すごくいいなって」
健太の提案にゆめも迷った。でもなんとなく明日の取引のことが気になった。
「いいね。でも、明日は取引があるから」
「わかった。じゃあ送っていくよ」
「今度ね」
「うん」
12時。ゆめが帰る準備をしながら、今日という日を振り返った。
今日は、本当に自然だった。食事も、会話も、キスも、セックスも、すべてが日常の延長として感じられた。
特別なイベントじゃなくて、二人の関係の一部。そういう風に思えるようになったのが、大きな変化だった。
「また明日」
「うん、また明日」
別れ際も、いつものような自然さだった。でも、今日共有した時間の温かさは、しっかりと心に残っていた。
帰り道で、ゆめは今日のことを思い返した。
健太との関係が、また一段階成熟した気がした。お互いを理解し合って、お互いのペースを尊重し合って、そして自然に愛し合う。
これが、本当の恋愛なのかもしれない。
雑誌やドラマに出てくるような、劇的で完璧な恋愛じゃない。でも、確実で持続可能な、本物の関係。
1時。家に着いて、ベッドに入る前に、健太にメッセージを送った。
『今日はありがとう。とても自然で、気持ち良かった』
すぐに返事が来た。
『こちらこそ。ゆめが素直に表現してくれて、俺も嬉しかった』
『また今度、泊まりの件もお願いします』
『こちらこそ、楽しみにしてる』
スマホを置いて、ゆめは今日という日の満足感を噛みしめた。
投資も恋愛も、自分らしく。そして、健太との関係も、二人らしく。
そういう生き方が、だんだん身についてきた気がした。
明日もきっと、良い一日になるはず。
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