月2回の恋人たち
第8章 - 新しい日常リズム
金曜日の夜9時。ゆめは健太のアパートで、投資の勉強をしていた。
両親への報告から2週間が経って、二人の関係には新しいリズムが生まれていた。週に2回は健太のアパートに泊まり、週末は一緒に過ごす。それが自然なペースになっていた。
「お疲れさま」
健太がMELLOWから帰ってきた。最近は、ゆめが先にアパートに来て、健太の帰りを待つことが多くなった。
「お疲れさま。今日はどうだった?」
「忙しかったけど、楽しかった。新しいメニューが好評で」
健太が嬉しそうに話した。カフェでの仕事にやりがいを感じているのが伝わってきた。
「良かったね。私は今日、15万円の利益だった」
「すごいじゃん。何の銘柄?」
「トヨタとソフトバンク。チャートの読みが当たった」
健太がゆめの投資の話を自然に聞いてくれるのが嬉しかった。最初の頃は気を遣って聞いているような感じもあったけれど、今は本当に興味を持ってくれている。
「今月の利益、どのくらいになりそう?」
「順調にいけば、40万円くらいかな」
「俺の月給より多いじゃん」
健太が苦笑いした。でも、嫌味ではなく、純粋に驚いている感じだった。
「健太の仕事も大切だよ。お金だけじゃないでしょ」
「そうだね。でもゆめの稼ぎを見てると、俺ももっと頑張らないとって思う」
9時30分。二人で夕食を作りながら、今週のことを振り返った。
「そういえば、明日は由香の結婚式の最終打ち合わせだっけ?」
健太が思い出したように言った。
「うん。ついに来月挙式。早いなあ」
「ゆめも参列するんでしょ?」
「もちろん。健太も一緒に来る?」
「え、いいの?」
「由香が『彼氏さんも一緒にどうぞ』って言ってくれてるよ」
健太が嬉しそうな顔をした。
「ありがとう。ぜひ参列させてもらいたい」
「じゃあ、スーツの準備しておいてね」
「了解」
10時。夕食を食べながら、二人は将来の話をした。
「由香の結婚式に出ると、俺たちの将来も考えちゃうな」
健太が言った。
「そうだね。でも、まだ慌てることないよね」
「うん。でも、同棲とかはどう思う?具体的に」
同棲の話は前にも出たけれど、まだ具体的には決めていなかった。
「いいとは思うけど、タイミングかな」
「どのタイミングがいいと思う?」
「健太のカフェ開業の目処がついたら、とか?」
健太が頷いた。
「それがいいかも。俺も経済的に安定してから、ちゃんとした生活を始めたい」
「でも、それまでは今のペースで十分だよ」
「そうだね。急ぐ必要はない」
10時30分。ベッドに入る前に、ゆめは今日の投資記録をつけていた。
健太が歯を磨きながら、ゆめの作業を見ている。
「いつも丁寧に記録つけてるよね」
「うん。データがないと、改善できないから」
「俺も見習わないと。カフェの売上とか、もっと細かく分析した方がいいのかも」
「健太の几帳面さがあれば、できると思うよ」
「ゆめに教えてもらおうかな。エクセルの使い方とか」
「いいよ。今度一緒にやろう」
お互いの仕事に関心を持ち、お互いから学ぼうとする。そういう関係になっていた。
11時。ベッドで、ゆめは健太に寄り添っていた。
最近は、セックスをする日とそうでない日が自然に分かれていた。今日は疲れているし、ただ一緒にいるだけで十分だった。
「ねえ」
健太が言った。
「今度の土曜日、俺の実家に行かない?」
「え?」
ゆめは少し驚いた。健太の実家の話は聞いていたけれど、まだ行ったことはなかった。
「両親に紹介したいんだ。ゆめのこと、色々話してるから」
「緊張するな」
「大丈夫。俺の両親は優しいから」
ゆめは少し考えた。健太が両親に自分のことを話してくれているのは嬉しい。でも、実際に会うとなると緊張する。
「どんな話をしてるの?」
「投資で成功してることとか、真面目で頑張り屋だとか」
「変に期待されてないかな」
「そんなことない。ただ、息子の彼女に会いたいって言ってるだけ」
健太の言葉で、ゆめは少し安心した。
「じゃあ、お願いします」
「本当に?ありがとう」
健太が嬉しそうに抱きしめてくれた。
土曜日の朝10時。健太の車で群馬に向かった。
2時間のドライブ。途中で高速道路のSAに寄って、お土産を買った。
「何がいいかな」
「お母さんはお菓子好きだし、お父さんは日本酒好きだよ」
「じゃあ、これとこれで」
ゆめは地元の銘菓と日本酒を選んだ。初対面の印象は大切だった。
12時。健太の実家に到着した。
古い日本家屋で、庭には立派な木が植えてあった。田舎らしい、ゆったりとした雰囲気。
「お疲れさま」
健太の母親が玄関で迎えてくれた。思っていたより若く見える、優しそうな女性だった。
「初めまして、宮下ゆめです」
「こちらこそ、いつも健太がお世話になっております」
丁寧な挨拶を交わして、リビングに通された。
「お父さんは?」
「畑の仕事してるから、すぐ戻ってくると思います」
12時30分。健太の父親が帰ってきた。
日焼けした、がっしりとした体格の男性。農業をやっているとのことだった。
「初めまして」
「ああ、ゆめちゃんね。健太からよく聞いてるよ」
思っていたより気さくな人だった。
昼食を食べながら、色々な話をした。
「投資の仕事って、大変でしょう?」
健太の母親が聞いた。
「そうですね。でも、やりがいがあります」
「健太の話だと、すごく成功してるって」
「まだまだです。でも、少しずつ結果が出てきました」
「若いのに立派ね。うちの健太も見習わないと」
健太が恥ずかしそうに笑った。
1時30分。健太の父親と、カフェ開業の話になった。
「資金の準備、どのくらいできてるんだ?」
「あと190万円貯めれば、開業できます」
「そうか。頑張ってるな」
「ゆめさんに刺激をもらってます」
健太がそう言うと、父親がゆめを見た。
「お互いに良い影響を与え合ってるのね」
ゆめは嬉しかった。健太が自分との関係をポジティブに話してくれている。
2時30分。健太の部屋を見せてもらった。
中学・高校時代の写真や、サッカーのトロフィーが飾ってあった。
「サッカーやってたんだ」
「高校まで。そんなに上手くなかったけど」
健太の過去を知ることで、また少し親近感が湧いた。
3時。両親とお茶を飲みながら、ゆめは健太の家族の温かさを感じていた。
特別なもてなしをするわけでもなく、でも自然に受け入れてくれる。健太の人柄は、この家族環境で育まれたんだろうと思った。
「また今度、ゆっくり遊びに来てください」
健太の母親が言ってくれた。
「ありがとうございます。ぜひ」
「今度は、ゆめちゃんのご両親にもお会いしたいわね」
両家の顔合わせ。まだ先の話だと思っていたけれど、現実味を帯びてきた。
4時。帰り道の車の中で、ゆめは感想を話した。
「とても良いご両親だね」
「そう言ってもらえて良かった。両親もゆめを気に入ってたよ」
「本当に?」
「うん。お母さんが『しっかりした子ね』って言ってた」
「緊張したけど、楽しかった」
「ありがとう。俺も安心した」
6時。東京に戻って、健太のアパートで夕食を食べた。
「今日で、お互いの家族に会ったね」
健太が言った。
「そうだね。なんか、関係が深くなった気がする」
「俺も。より現実的になったっていうか」
「現実的?」
「将来のことが、より具体的に想像できるようになった」
ゆめも同感だった。家族に会うことで、結婚や将来設計がより身近に感じられた。
「でも、まだ急がなくていいよね」
「もちろん。でも、方向性は見えてきた」
「そうだね」
7時。ベッドで、ゆめは今日という日を振り返っていた。
健太の両親に会えて良かった。温かい家族で、自分を受け入れてくれた。
そして何より、健太が自分のことを家族に誇らしげに話してくれていることが嬉しかった。
こうやって、少しずつ関係が深くなっていく。急がず、でも着実に。
それが、ゆめたちのペースだった。
「ねえ」
健太が言った。
「今度、由香の結婚式で会うゆめの友達にも、俺のこと紹介して」
「もちろん。みんな健太に会いたがってるよ」
「緊張するな」
「大丈夫。みんな優しいから」
お互いの世界を共有していく。それも、関係を深める大切なプロセスだった。
8時。ゆめが自分の家に帰る前に、健太が言った。
「来週から、週3回泊まりにしない?」
「え?」
「いや、ゆめが大変じゃなければ。でも、もう少し一緒にいる時間が欲しくて」
ゆめは嬉しかった。健太も、関係を深めたいと思ってくれている。
「いいよ。私も、そうしたかった」
「本当に?」
「うん。でも、投資に影響しないよう気をつけないと」
「もちろん。ゆめの投資が最優先」
9時。家に帰って、ゆめは今日のことを両親に報告した。
「健太くんのご両親、どうだった?」
「とても良い方たちでした。温かく迎えてくれて」
「それは良かった。どんな話をしたの?」
「投資のことや、健太の将来の話とか」
「向こうのご両親も、ゆめちゃんを気に入ってくれたみたいね」
母親が嬉しそうに言った。
「そうみたいです。また来てくださいって言ってもらえました」
「良い関係を築けそうね」
10時。ベッドに入って、ゆめは今日という日の意味を考えていた。
健太の家族に会ったことで、二人の関係がより深くなった。そして、将来への道筋もより具体的に見えてきた。
週3回の宿泊。由香の結婚式への参列。お互いの友達との交流。
少しずつ、でも確実に、関係が深まっている。
急がず、でも着実に。お互いのペースで。
そんな関係を続けていけば、きっと素敵な未来が待っているはず。
明日からも、投資と恋愛、両方を大切にしていこう。
でも今は、健太との関係がより安定して、心に余裕ができた気がした。
そういう安心感が、投資にもプラスになるかもしれない。
すべてが、良い方向に向かっている。そんな気がした夜だった。
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