月2回の恋人たち
第6章 - SNS投稿論争とドライブデート
日曜日の午前10時。ゆめは健太のベッドで目を覚めた。
初めての宿泊だった。昨夜、健太のアパートで過ごして、そのまま朝まで一緒にいた。思っていたより、自然だった。朝起きた時の気まずさもなく、ただ隣に健太がいることが心地よかった。
「おはよう」
健太がまだ半分眠っている声で言った。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。ゆめは?」
「私も。意外と大丈夫だった」
実際、一人で寝るより安心して眠れた気がした。健太の体温と寝息が、心地よいBGMのようだった。
10時30分。二人でゆっくりと朝食を作った。
健太がコーヒーを淹れて、ゆめがトーストとサラダを準備する。何気ない共同作業だったけれど、新婚夫婦みたいで少し照れくさかった。
「今日はどうする?」
健太が聞いた。
「特に予定はないよ。健太は?」
「俺も。久しぶりに休みが合ったから、どこか行く?」
せっかくの休日。投資の勉強もしたかったけれど、健太との時間も大切にしたかった。
「ドライブとかどう?」
健太が提案した。
「いいね。どこに行く?」
「海とか見に行かない?江ノ島とか」
11時30分。健太の軽自動車で出発した。
助手席に座りながら、ゆめは久しぶりのドライブにわくわくしていた。普段は電車移動が多いから、車でのんびり移動するのは特別な感じがした。
「音楽何にする?」
健太がスマホを渡した。
「何でもいいよ。健太の好きなの」
「最近聴いてるプレイリストがある」
穏やかなポップスが流れ始めた。休日の朝にぴったりの、リラックスした音楽。
「この曲いいね」
「そう?最近よく聴いてる。ゆめと一緒にいる時に聴きたい曲を集めたプレイリスト」
ゆめの心が温かくなった。健太が自分のためにプレイリストを作ってくれている。そういう小さな気遣いが嬉しかった。
12時30分。江ノ島に到着。
休日だけあって、人は多かった。カップルや家族連れで賑わっている。
「写真撮ろうか」
健太がスマホを取り出した。
「え、撮る?」
「せっかくだし」
ゆめは少し迷った。写真を撮ること自体は嬉しいけれど、SNSに投稿するかどうかが問題だった。
健太がゆめの表情を見て、何かを察したようだった。
「投稿しなくてもいいよ。二人の記録として」
「ありがとう」
海をバックに、二人で写真を撮った。自然な笑顔で撮れた。
「いい写真だね」
健太が画面を見せてくれた。確かに、二人とも良い表情をしていた。
でも、健太の表情に少し複雑なものがあるのをゆめは感じ取った。
1時。海辺のカフェでランチを食べながら、健太が口を開いた。
「ゆめって、SNSに投稿しない派?」
やっぱり気になっていたんだ、とゆめは思った。
「そうかな。あんまり投稿しないかも」
「理由があるの?」
「うーん」
ゆめは正直に答えることにした。
「なんか、プライベートをさらすのが恥ずかしいっていうか。特に恋愛のことは」
「そっか」
健太の表情が少し曇った。
「健太は投稿したい派?」
「まあ、たまには。せっかく楽しい時間過ごしてるし、記録として残したいかなって」
二人の価値観の違いが表面化した瞬間だった。
「でも、ゆめが嫌なら全然大丈夫だよ」
健太が急いで付け加えた。
「嫌っていうわけじゃないんだけど」
ゆめも困った。健太の気持ちもわかるし、でも自分の価値観も曲げたくなかった。
「私の投資のこととか知ってる人に見られるのが、なんか複雑で」
「投資のこと?」
「うん。投資で稼いでるのに、彼氏とリア充してるみたいに思われるのが嫌っていうか」
健太が考え込んだ。
「でも、投資も恋愛も、どっちも大切でしょ?隠すようなことじゃないと思うけど」
「そうなんだけど、なんか違和感があるの」
しばらく沈黙があった。
2時。江ノ島を歩きながら、会話が続いた。
「俺の周りの友達は、結構投稿してるんだよね」
健太が説明した。
「カップルの写真とか、デートの写真とか。それが普通だと思ってた」
「健太の友達って、どんな感じの人?」
「大学の友達とか、前の職場の友達とか。みんな普通にサラリーマンしてる」
そこで、ゆめは二人の環境の違いを理解した。健太の周りは「普通の」社会人が多い。でもゆめの周りには、投資をしている人や、独立を目指している人が多い。そういう人たちは、プライベートを表に出すことに慎重だった。
「私の知り合いの投資家は、あんまりSNSに投稿しないの。狙われるリスクもあるし、余計な詮索もされたくないから」
「そういうものなの?」
「うん。特に、若い女性で投資やってるって知られると、色々言われるから」
健太が頷いた。
「それは考えたことなかった。ごめん」
「健太が悪いわけじゃないよ。ただ、価値観が違うんだと思う」
3時。展望台で休憩しながら、二人は価値観の違いについて話し合った。
「でも、健太が投稿したい気持ちもわかるよ」
ゆめが言った。
「せっかくの楽しい時間だもんね」
「でも、ゆめの立場も理解できる。確かに、投資のことを知ってる人に見られると、色々思われるかも」
お互いの立場を理解しようとしていた。でも、簡単に解決できる問題でもなかった。
「どうしようか」
健太が聞いた。
「うーん」
ゆめは考えた。完全に投稿を拒否するのも、健太に申し訳ない。でも、自分の価値観も大切にしたい。
「たまになら、いいかも。でも頻繁じゃなくて、特別な時だけ」
「本当に?無理しなくていいよ」
「無理じゃない。健太の気持ちも大切だから」
健太が安堵の表情を見せた。
「ありがとう。でも、ゆめが少しでも嫌だったら、遠慮なく言って」
「うん」
4時。帰り道の車の中で、ゆめは今日の出来事を振り返っていた。
SNS投稿について、最初は対立するような感じだったけれど、最終的にはお互いを理解し合えた。
完全に意見が一致したわけじゃない。でも、お互いの価値観を尊重して、妥協点を見つけることができた。
「今日の写真、投稿してもいい?」
健太が聞いた。
「うん。でも、私の顔はあんまりはっきり映らないようにしてもらえる?」
「もちろん。後ろ姿とか、遠目の写真にする」
「ありがとう」
健太がインスタグラムに写真を投稿した。海の写真と、二人の後ろ姿。キャプションは「江ノ島なう」とシンプルだった。
ゆめの顔ははっきり映っていないし、二人の関係も明示されていない。でも、健太の友達には伝わるだろう。
「これなら大丈夫?」
「うん、これくらいなら」
実際、そんなに嫌な気持ちはしなかった。健太が配慮してくれているのがわかったから。
5時。健太のアパートに戻った。
「今日はありがとう。楽しかった」
「俺も。でも、SNSのこと、話し合えて良かった」
「そうだね。価値観が違うのは当然だと思うから」
「お互いを理解し合うのが大事だよね」
健太の言葉に、ゆめは同感した。
恋愛って、すべてが一致する必要はない。むしろ、違いがあるのが自然で、その違いをどう乗り越えていくかが大切なんだと思った。
6時。夕食を作りながら、ゆめは今日という日を総括していた。
初めての宿泊、ドライブデート、そしてSNS投稿論争。
どれも新しい体験で、どれも二人の関係を深めてくれた。
特に、価値観の違いについて話し合えたのは良かった。お互いを理解して、妥協点を見つけて、それでも相手を尊重する。
そういう関係性が築けたと思った。
「ゆめ」
健太が料理をしながら言った。
「投資のことで、俺に気を遣わせちゃってるなら、ごめん」
「え?」
「今日の話を聞いて思ったんだけど、ゆめは投資家として見られることを気にしてる。でも、俺との関係でそういう制約があるのは申し訳ないかなって」
ゆめは健太の気遣いに感動した。
「そんなことない。制約じゃなくて、私の選択だから」
「でも」
「健太のせいじゃないよ。私が投資をやってる以上、色々考えることがあるのは当然だから」
「そうかな」
「うん。むしろ、健太が理解してくれるから、安心して投資に集中できる」
健太が微笑んだ。
「それなら良かった」
7時。夕食を食べながら、二人は将来の話をした。
「いつか、もっと堂々と投稿できるようになるのかな」
健太が言った。
「どうだろう。でも、今は今の関係で満足してるよ」
「俺も。無理して変える必要はないよね」
「うん。お互いのペースで」
いつもの結論に戻ってきた。お互いのペース、お互いの価値観を大切にする。
それが、ゆめたちの関係の基本だった。
8時。ゆめが帰る準備をしていると、健太が言った。
「今度は、ゆめの好きな場所に行こうか」
「私の好きな場所?」
「うん。今日は俺が提案したから、次回はゆめが決めて」
ゆめは嬉しかった。健太が自分の意見を聞いてくれる。価値観を尊重してくれる。
「ありがとう。考えておく」
「楽しみにしてる」
9時。帰り道で、ゆめは今日のことを整理していた。
SNSの投稿について、最初は価値観の違いに戸惑った。でも最終的には、お互いを理解して、妥協点を見つけることができた。
そして何より、お互いの価値観を尊重し合うことの大切さを再確認できた。
恋愛って、すべてが完璧に一致する必要はない。むしろ、違いがあるからこそ、お互いから学ぶことができる。
そして、その違いを乗り越えていく過程で、関係が深まっていく。
今日は、そんなことを学んだ一日だった。
10時。家に着いて、健太にメッセージを送った。
『今日はありがとう。色々話し合えて良かった。また今度、私の好きな場所に付き合ってもらうね』
すぐに返事が来た。
『こちらこそ、ありがとう。ゆめの価値観も理解できて良かった。次回楽しみにしてる』
『おやすみ』
『おやすみ』
ベッドに入って、ゆめは今日という日を振り返った。
初めての宿泊から始まって、ドライブデート、そしてSNS投稿論争まで。
盛りだくさんの一日だったけれど、すべてが二人の関係を深めてくれた。
特に、価値観の違いを乗り越えられたことが嬉しかった。
明日からまた、投資と恋愛の両立。
でも今日の出来事で、また少し自信がついた気がした。
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