月2回の恋人たち
第12章 - 新居での成熟した関係性
6ヶ月後。春の午後3時30分。
ゆめは新しいアパートのリビングで、投資の画面を見つめていた。今日の利益は5万円。小さな金額だけれど、確実な利益だった。
あの大失敗から半年。ゆめは少しずつ、投資への信頼を取り戻していた。
「お疲れさま」
健太がカフェから帰ってきた。3ヶ月前にオープンした自分の店、「MELLOW PLUS」の営業を終えての帰宅だった。
「お疲れさま。今日はどうだった?」
「今日も満席だった。常連さんも増えてきて」
健太の表情は充実していた。小さな店だけれど、着実に軌道に乗せることができていた。
「良かったね。私も今日は5万円のプラス」
「順調だね」
健太がゆめの肩に手を置いた。投資の話をする時の健太の表情は、以前とは変わっていた。心配そうな顔ではなく、純粋に応援している顔だった。
3時30分。二人で夕食の準備をしながら、今日という日を振り返った。
同棲を始めて3ヶ月。二人の生活には、自然なリズムが生まれていた。
朝は8時に起きて、一緒に朝食を取る。ゆめは9時から投資に集中し、健太は10時にカフェへ向かう。午後3時30分にゆめが取引を終え、健太が5時に帰宅する。
シンプルだけれど、お互いを尊重し合える生活パターンだった。
「そういえば、来月で交際2年だね」
健太が野菜を切りながら言った。
「そうだね。長いような、短いような」
「色々あったよね」
ゆめも振り返った。最初の戸惑い、セックスへの不安、価値観の違い、投資の大失敗。でも、すべてを乗り越えてここにいる。
「でも、どれも必要な経験だったと思う」
「俺も。特に、ゆめの失敗の時は、お互いのことをより深く知れた気がする」
あの時の健太の支えがなかったら、ゆめは立ち直れなかっただろう。3週間のセックスレス期間も、健太は文句ひとつ言わずに待ってくれた。
4時。夕食を食べながら、二人は最近の変化について話した。
「投資への向き合い方、変わったよね」
健太が言った。
「うん。以前は利益を追い求めすぎてた。今は、まず損失を避けることを考えてる」
「それが良いと思う。無理しないのが一番」
ゆめの投資スタイルは、失敗を経て確実に成熟していた。大きな利益は狙わないけれど、安定した収益を確保できるようになった。
「健太のカフェも、無理しない範囲で成長してるよね」
「そうだね。最初は急成長を目指してたけど、今は地域に根ざした店作りを心がけてる」
健太も、自分のペースを見つけていた。
5時。リビングのソファで、ゆめは健太に寄り添っていた。
「ねえ」
ゆめが言った。
「今度、由香夫婦と4人で食事しない?」
「いいね。由香さん、最近どう?」
「新婚生活満喫してるみたい。でも、たまには昔の友達とも会いたいって」
「俺も田中さんと話してみたい。同じく自営業だし」
お互いの友人関係も、自然に広がっていた。
5時30分。健太が意外な提案をした。
「今日は、久しぶりにセックスしない?」
ゆめは少し驚いた。最近は月2回のペースが自然になっていたけれど、健太の方から提案することは珍しかった。
「今日は特別な日だっけ?」
「特別な日じゃないからこそ。月2回の私たちらしいセックス」
健太の言葉に、ゆめは微笑んだ。確かに、最近の二人のセックスは「普通」になっていた。特別な意味を持たせすぎることもなく、でも大切なコミュニケーションの一つとして。
「いいね」
6時。ベッドルームで、二人はゆっくりと愛し合った。
最初の頃のような緊張はなかった。失敗を恐れることもなかった。ただ、お互いを思いやりながら、自然に身体を重ねた。
「気持ちいい?」
「うん。健太は?」
「とても」
会話も自然だった。お互いの反応を確認し合いながら、でも自意識過剰になることもなく。
途中で笑い合う場面もあった。でもそれで雰囲気が壊れることはなく、むしろ二人の親密さを深めてくれた。
7時。シャワーを浴びた後、二人は再びリビングに戻った。
「なんか、すごく自然だったね」
ゆめが言った。
「そうだね。最初の頃とは全然違う」
「月2回っていうペースも、今の私たちにちょうどいい」
「そう思う。量より質っていうか」
健太の言葉に、ゆめは同感した。頻度を競う必要はない。SNSで見る他のカップルと比べる必要もない。ただ、お互いを大切に思う気持ちがあれば十分。
8時。夕食の後片付けをしながら、健太が将来の話を切り出した。
「そろそろ、結婚のこと考えてもいいのかな」
ゆめの手が少し止まった。結婚。以前はまだ実感の湧かない話だったけれど、今は自然に考えられるようになっていた。
「私も、そう思ってた」
「本当に?」
「うん。健太となら、きっと幸せな家庭を築けると思う」
健太が嬉しそうな顔をした。
「俺も。ゆめと結婚したい」
「いつ頃がいいかな」
「来年の春とか?カフェも軌道に乗ったし、ゆめの投資も安定してるし」
「いいね。桜の季節に」
具体的な時期まで話し合えて、ゆめは幸せな気持ちになった。
8時30分。結婚後の生活についても話し合った。
「子供は、どうする?」
健太が聞いた。
「欲しいとは思うけど、まだ具体的には考えてないかな」
「俺も。でも、いつかは」
「うん。でも、投資の仕事は続けたい」
「もちろん。俺も、ゆめに働き続けてほしい」
健太の理解ある姿勢に、ゆめは安心した。
「家事とか育児とか、分担できるかな」
「絶対にできる。俺も料理得意だし」
「頼もしい」
9時。ベッドに入る前に、ゆめは今日という日を振り返っていた。
普通の一日だった。特別なことは何もなかった。でも、それが幸せだった。
健太のカフェの成功を喜び、自分の投資の成果を分かち合い、将来について語り合い、月2回のペースで自然に愛し合う。
それが、二人の理想的な関係だった。
「ねえ」
健太が言った。
「俺たち、良いカップルになったよね」
「そうかな」
「そうだよ。お互いのことを理解し合って、支え合って、尊重し合って」
ゆめも同感だった。
「最初は色々戸惑うことが多かったけどね」
「でも、それも含めて成長できた」
「そうだね」
9時30分。電気を消す前に、健太が最後に言った。
「ゆめと出会えて、本当に良かった」
「私も。健太と一緒にいると、自分らしくいられる」
「それが一番大切なことだよね」
「うん」
暗闇の中で、ゆめは健太の温かさを感じていた。
2年間の交際、様々な困難、そして今の安定した関係。すべてが必然だったような気がした。
健太となら、どんな困難も乗り越えられる。お互いを支え合い、お互いの夢を応援し合い、一緒に成長していける。
それが、愛なのかもしれない。
劇的な恋愛じゃない。完璧な関係でもない。でも、確実で、持続可能で、深い愛情に基づいた関係。
明日も、平凡で幸せな一日が待っている。
投資と健太のカフェ、二人の仕事。夕食作りと片付け、二人の生活。そして月2回のセックス、二人の愛情表現。
すべてが二人らしい日常の一部。
でも、その日常こそが、二人にとって最も大切なものだった。
10時。ゆめは健太の腕の中で、静かに眠りについた。
明日からも、二人の日常が続いていく。
平凡で、でも確実に幸せな日々が。
これが、宮下ゆめと田中健太の恋愛の結論だった。
頻度を競わない。他人と比較しない。月2回という、二人にとって最適なペース。
現代らしい、現実的で成熟した恋愛の形。
そして、二人はこれからも、お互いのペースで、お互いを大切にしながら、一緒に歩んでいく。
「月2回の恋人たち」として、確かな愛を育みながら。
(終)
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