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無人島転生 第12話        「四人家族の初めての大喧嘩」


島生活が一年近くになった頃、四人は朝の洗濯作業をしていた。
「ちょっと待って、その洗濯物の干し方はダメです」ユミがエリに注意した。
「え?何がダメなの?」エリが首をひねる。
いつもなら軽く済む小さな注意だった。でも、この日は違った。
「服のシワを伸ばさずに干すと、型崩れします」ユミが丁寧に説明する。
「別に誰も見てないし、シワくらい気にしなくてもいいじゃん」エリが軽く返す。
その瞬間、ユミの表情が変わった。
「誰も見てないって…」ユミの声が震える。「エリさん、それはあんまりです」
「え?」エリが困惑する。
「私たちがお互いを見てるじゃないですか。身だしなみを整えるのは、お互いへの敬意でもあるんです」
「そんな大げさな…」エリが苦笑いしかけた時、ユミが爆発した。
「大げさ?」ユミの目に涙が浮かぶ。「私がどれだけ皆さんの健康と清潔を気にかけてきたと思ってるんですか」
「ユミ…」エリが慌てる。
「でも、誰も私の努力を理解してくれない。『神経質』『うるさい』って思われてるだけ」
その場にいたタケシとアヤも、ユミの涙に動揺した。
「ユミ、そんなつもりじゃ…」アヤが仲裁しようとする。
しかし、ユミの感情は止まらなかった。
「アヤさんもです。いつも『皆さんで話し合いましょう』って言うだけで、自分では何も決めない」
「え?」アヤが青ざめる。
「責任から逃げて、いい人ぶってるだけじゃないですか」
「そんな…」アヤの目にも涙が浮かぶ。
エリも反撃に出た。
「ユミこそ、自分の価値観を押し付けてるだけじゃん。みんな疲れてるのよ、あなたの完璧主義に」
「完璧主義?」ユミが声を荒げる。「この環境で適当にやってたら、病気になったり怪我したりするんです」
「でも、そこまで神経質になる必要ないでしょ」
タケシが口を挟む。「まあまあ、そんなに…」
「タケシも黙ってて」エリが振り返る。「あなたも問題よ。男だからって、力仕事だけやってればいいと思ってるでしょ」
「え?」タケシが困惑。
「家事の細かいことは全部女子任せ。典型的な昭和脳」
「昭和って…」タケシがムッとする。「俺だって頑張ってるよ」
「頑張ってる?」ユミもタケシに矛先を向ける。「重いもの運ぶだけで頑張ってるっていうんですか?」
「他にも色々やってるだろ」
「例えば?」三人が同時に聞く。
タケシが言葉に詰まった瞬間、四人の間に重い沈黙が流れた。
そして、アヤが震え声で口を開いた。
「もう…やめませんか、こんなこと」
「何を?」エリが振り返る。
「みんなで一緒に住むの…」アヤの声は涙声だった。「私、みんなのお荷物なんでしょ?」
「アヤ、そんなことない」ユミが慌てる。
「でも、さっき言ったじゃないですか。いい人ぶってるって」
「それは…」ユミが言葉に詰まる。
「私も思ってた」エリが静かに言う。「ごめん、アヤ。でも、いつも当たり障りのないことしか言わないから…」
アヤの顔が蒼白になった。
「やっぱり…」
「俺も、正直そう思ってた」タケシが渋々認める。
アヤがその場に崩れ落ちそうになった。
「そうですか…私、ずっと邪魔だったんですね」
「邪魔じゃないよ」エリが慌てて否定する。
「でも、役に立ってないんでしょ?」アヤが涙を流しながら言う。「魔法も使えないし、特別なスキルもないし」
「そんなことない」ユミも必死にフォローする。
「嘘です」アヤが立ち上がる。「みんな、本当は私がいない方がいいと思ってるんでしょ」
そして、アヤが衝撃的な告白をした。
「実は私も…みんなといるの、辛い時があるんです」
三人が絶句する。
「えっと、それって…」エリが恐る恐る聞く。
「みんな、それぞれ得意なことがあって、キラキラして見えて…私だけ何もできなくて」アヤが泣きながら続ける。「いつも劣等感を感じてました」
「アヤ…」
「でも、それだけじゃありません」アヤの声が変わった。「みんなも、本当は島にいるの嫌なんじゃないですか?」
「え?」
「エリさんは、本当はゲームがしたいんでしょ? ユミは、ちゃんとした病院で働きたいんでしょ? タケシさんは、現代の道具で男らしく働きたいんでしょ?」
三人が動揺する。
「私たち、無理してませんか? 『島生活楽しい』『みんなで一緒がいい』って」
エリの顔が青くなった。確かに、夜中に一人でいる時、ゲームやアニメが恋しくて泣きそうになることがあった。
ユミも動揺していた。医療知識はあるのに、道具がなくて助けられることが限られている現実に、もどかしさを感じていた。
タケシも同じだった。男として家族を支えたいのに、この島では限界がある。
「やっぱり…」アヤが悲しそうに微笑む。「みんな、本当は現代に帰りたいんですよね」
重い沈黙が流れた。
そして、エリが爆発した。
「そうよ! 言ってやる!」エリが叫ぶ。「私、本当はゲームがしたい! アニメが見たい! コンビニでお菓子を買って、エアコンの効いた部屋でダラダラしたい!」
ユミも続いた。
「私も! ちゃんとした医療器具で、患者さんを助けたい! この島じゃ、知識があっても限界があるんです!」
タケシも声を荒げた。
「俺もだ! ちゃんとした仕事をして、給料をもらって、家族を養いたい! 男として責任を果たしたいんだ!」
四人が本音をぶつけ合った後、再び重い沈黙が流れた。
そして、アヤが静かに言った。
「じゃあ…別れましょう」
「え?」
「もう一緒にいても、お互い無理してるだけです。みんな、本当は違う場所に行きたいんでしょ?」
エリが慌てる。「でも、どうやって? ここは無人島だよ」
「それでも」アヤが決意を込めて言う。「せめて、一緒に住むのはやめましょう。お互いに気を遣わなくていいように」
「でも…」ユミが不安そうに言う。
「決まりです」アヤがきっぱり言った。「今日から、みんなバラバラに住みます」

その日の午後、四人は荷物をまとめて、それぞれ別々の場所に移った。
エリは海岸の大きな岩陰に毛布だけ持って移った。
「一人って…気楽かも」エリが強がって呟く。
誰にも文句を言われずに済む。ユミの衛生チェックもない。アヤの気遣いに応えなくてもいい。タケシの男臭さに我慢しなくてもいい。
でも、夜になると岩陰は想像以上に冷たく、風も当たって全然眠れない。
「寒い…」
いつもなら、みんなで焚き火を囲んで話している時間。一人だと何をしていいかわからない。
「ゲームがしたいって言ったけど…」エリが空を見上げる。「ゲーム機ないじゃん」
当たり前のことに今更気づく。島にはゲーム機もアニメも、欲しがったものは何もない。
「結局、現代に帰れないんだから、意味ないじゃん…」
ユミは洞窟の奥の小さな空間に移った。
「清潔で静かで、これで十分です」ユミが自分に言い聞かせる。
誰にも衛生管理について文句を言われない。自分のペースで生活できる。
でも、一人だと洞窟の音が響いて怖く、食事を一人で取ると味気ない。
「病院で働きたいって言ったけど…」ユミが手作りの医療道具を見つめる。「ここでも、みんなの怪我を治せたのに」
エリの指の怪我、タケシの腰痛、アヤの風邪。島でも、みんなの役に立てていた。
「むしろ、ここの方が必要とされてたかも…」
タケシは森の入り口の大きな木の根元に寝床を作った。
「男は一匹狼でいいんだ」タケシが強がる。
誰にも頼られなくていい。重い責任を感じなくてもいい。
でも、野生動物の気配におびえて一睡もできない。夜中に変な音がすると、いつもならみんながいる安心感があったのに、一人だと不安で仕方ない。
「男として家族を養いたいって言ったけど…」タケシが手作りの道具を見つめる。「あいつらも、俺の家族みたいなもんだったかも」
アヤ、ユミ、エリ。みんなを守りたい気持ちは、確かにあった。
「現代で働くより、ずっと大事な仕事してたのかもな…」
アヤは見晴らしの良い高台の岩場に、葉っぱを敷いただけの簡単な寝床を作った。
「一人の方が気を遣わなくていいですね」アヤが静かに呟く。
誰にも調整を求められない。みんなの意見をまとめなくてもいい。
でも、風が強くて葉っぱが飛ばされ、美しい夕日を見ても、一人だと感動を分かち合える人がいない。
「みんなのお荷物だったって言ったけど…」アヤが思い返す。「本当にそうだったのかな」
温泉作りの時、畑作りの時、みんなが諦めそうになった時に励ました。大喧嘩の時も、仲裁に入った。
「私なりに、役に立ってたのかも…」


一週間が過ぎた。
四人はそれぞれ、一人生活の現実に直面していた。
エリは魚を釣ろうとして針に自分の指を引っかけて怪我。血が止まらなくて泣きそうになった。
「ユミ…いつもなら、すぐに手当てしてくれるのに…」
岩陰は寒くて、毛布一枚では全然暖かくない。体調も崩しがちで、一人では不安で仕方ない。
「みんなで一緒に寝てた時は、こんなに寒くなかったのに…」
ユミは薬草を取りに行って道に迷いそうになった。いつもならタケシの方向感覚を頼りにできるのに、一人だと島の中で迷子になってしまう。
「タケシさん…いつも道案内してくれてたんだ…」
洞窟も一人だと音が反響して眠れない。誰かの寝息があるだけで、こんなに安心できていたなんて。
「みんなの健康を守るって言ってたけど、一人じゃ意味ないじゃない…」
タケシは火起こしに失敗して生魚を食べる羽目に。いつもならエリが美味しく料理してくれるのに、一人だと食事が悲惨。
「エリの料理…当たり前だと思ってたけど、すげぇありがたかったんだな…」
木の根元は虫だらけで、野生動物の気配に一晩中ビクビク。男として強がっていたが、実際には四人でいることで勇気をもらっていた。
「守るって言ってたけど、俺の方が守られてたのかも…」
アヤは夜中に雨に降られて、葉っぱの寝床がずぶ濡れ。いつもならみんなで協力して雨宿りできるのに、一人だと岩場で震えて過ごすしかない。
「お荷物だと思ってたけど…みんなも、私を必要としてくれてたのかな…」
四人とも、それぞれ「一人の限界」を痛感していた。


二週間目の朝、エリが最初に限界を迎えた。
指の怪我が化膿して、熱も出てきた。
「やばい…このままじゃ…」
朦朧とする意識の中で、エリは岩陰から這い出した。
「ユミさん…ユミさんに謝らなきゃ…」
フラフラになりながら、洞窟の方向へ歩いていく。途中で倒れそうになった時、ユミが現れた。
「エリさん!」ユミが駆け寄る。「大変!熱がすごい!」
「ユミさん…ごめん…」エリが涙を流す。「私、ひどいこと言って…」
「今はそんなこといいから」ユミが必死に手当てを始める。「化膿してます。すぐに処置しないと」
その時、タケシも現れた。
「エリ!どうした!」
「タケシさん!薬草を取ってきてください」ユミが指示する。
「わかった!」タケシが駆け出す。
そして、アヤも涙を流しながら現れた。
「エリさん…私のせいで…別れるなんて言ったから…」
「アヤ…」エリが弱々しく微笑む。「違うよ…私たちが悪かったの…」
ユミが手当てをしながら泣いていた。
「ごめんなさい、エリさん。私が神経質すぎたから…」
「違う」エリが首を振る。「ユミさんは正しかった。衛生管理、本当に大事だった。化膿したのも、ちゃんと手当てしなかったからで…」
タケシが薬草を持って戻ってきた。
「これでいいか?」
「はい、ありがとうございます」ユミが感謝する。
四人が集まって、エリの手当てをする。自然と、以前の協力体制に戻っていた。
手当てが終わって、エリの熱も下がった頃、四人は向き合って座った。
「みんな…ごめん」エリが先に謝った。「ひどいこと言って」
「私もです」ユミが続く。「みんなを責めてばかりで」
「俺もだ」タケシが頭を下げる。「協力してるつもりで、実は甘えてただけだった」
「私も…」アヤが泣きながら言う。「本音を言えなくて、みんなを混乱させて」
四人が抱き合って謝り合う。
「やっぱり、一人は無理だった」エリが泣きながら言う。
「私も、みんながいないと何もできませんでした」ユミも涙ぐむ。
「俺も、一人だと全然ダメだった」タケシも素直に認める。
「私たち、お互いを必要としてたんですね」アヤが微笑む。
「そうだよ」エリが立ち上がる。「現代に帰りたいって言ったけど、本当に大切なのは場所じゃない」
「みんなと一緒にいることですね」ユミが同意。
「場所はどこでも、みんなでいれば乗り越えられる」タケシも納得。
「私たち、家族ですから」アヤが温かく言う。
四人が再び抱き合った時、今度は誰も魔法を使おうとはしなかった。
自然と手を取り合って、元の洞窟に戻っていく四人。
「やっぱり、みんなで一緒がいい」エリが言う。
「はい、ずっと一緒です」ユミが答える。
「もう離れねぇ」タケシが決意する。
「私たちの絆は、もう何があっても壊れませんね」アヤがまとめる。
夕日が島を染める中、四人は本当の家族のような絆を確認した。喧嘩も、別れも、すべて含めて大切な成長の過程だった。
現代世界への憧れよりも、お互いへの愛情の方が強いことを、身をもって学んだ四人。
これからどんな困難が待っていても、四人でいれば乗り越えられる。そんな確信を胸に、新しい明日へ向かって歩いていく。
「今度喧嘩しても、絶対に離れないからね」エリが誓う。
「はい、何があってもみんなで解決します」ユミが約束。
「家族ってのは、そういうもんだよな」タケシが実感。
「永遠に、四人家族です」アヤが微笑む。
星空の下、四人は手を取り合って洞窟に帰っていく。本当の絆とは何かを知った、特別な夜だった。

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