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【エッセイ】服装がダサいと言われ絶望した話し

「前から思ってたけど、服装、ダサくない?」

僕は心の中に荒波が立つのを感じた。
視界が揺らぎ、言葉が脳内を揺さぶる。
その一言が、自分の存在を押し潰すようにのしかかった。

僕は人生で服装について否定されたことはなかった。
中学生の時は「お洒落だよね」と言われていたし、その頃から少し特別な気持ちで服選びをしていた。

高校生の時は男子校だったこともあり、誰も服装のことなど気にしていなかった。

大学にあがると、さまざまなファッションが校内で繰り広げられていた。
それはまさに「十人十色」という言葉を光らせるように、無言の主張が広がっていた。

僕も毎日、鏡の前に立ち、「これはどうかな?」「この組み合わせは?」と一人でファッションショーを繰り広げ、次の朝に着る服を選んでいた。

そんな時に言われた一言だった。
たまたま喫煙室で一緒になった、あまり話したことのない顔見知り程度の仲間からだった。

だからこそ余計に胸に響いた。
身近な仲間から言われるなら分かるが、近しくない相手に言われることで、他の人もそう思っているんじゃないかと勝手に思い込んでしまった。

その日は講義も頭に入らず、学食を食べていても、周りの人は「ダサい奴がいるな」と見ているんじゃないかという不安が付きまとった。
気持ちは正面に収まらず、横に揺さぶられているような感覚だった。

講義が終わり家に帰るときは、なるべく人に会わないように道路の端をコソコソ歩いた記憶がある。

疲れた気持ちで家に帰り、再び鏡を見る。
「ああ、俺ってダサいんだ。お洒落だと思って選んでいたものが、何てピエロみたいなんだ。ただの見せ物じゃないか。」

着ていた服を脱ぎ捨て、押し入れに押し込む。
視界に蓋をして、なかったことにする。
でも、あの言葉は消えなかった。

ファッションショーの開催は、その日以来、終わりになった。

何も考えず、体に合った服を着る。
また何か言われるんじゃないかと思うと、気が気じゃなかった。
服を着ないと外には出られないからだ。

だから砕かれた自信を衣服で隠すように、主張の弱い無地のTシャツなどで大学に向かうようになった。

誰も僕の服装について何も言わなかった。
言われたのは一度だけだったが、その一言が、まるでやり直しの効かない人生のように、僕を縛りつけた。

ある日、『プラダを着た悪魔』という映画を観た。
主人公はファッションを学んで変わっていく。
僕はその姿に気づかされた。「お洒落も練習なんだ」と。
練習しなければ、上手くなるわけがない。

そう考え、少しずつ自分とファッションに目を向けるようになった。

ファッション雑誌を買うようになった。
当時はインスタグラムなんてなかったので、流行や着こなしのトレンドは雑誌の中にあった。

買う時は少し恥ずかしかった。
「こんなダサい奴がファッション雑誌を買うのか」と思われていないか、後ろ向きな気持ちは消えなかった。

家に帰ってページをめくると、同じ大学生のお洒落なコーデ特集があり、自分との違いがはっきりした。

「ああ、こういうサイズ感で、こういう色の組み合わせをすれば整って見えるのか」と少しずつ納得していく。

そして雑誌のコーデに沿った服を買い、着ていく。

小っ恥ずかしかったが、形にはなっている気がした。
ドキドキしながら新しい服を着て大学に行くと、いつもの仲間が一言。

「何か変じゃね、服装」

ええっ、どこが? 何で?
僕は恥ずかしさを紛らわすように、「いや、お下がりで貰ってさ。たまたま着る服なかったから」と言った。

雑誌を見て、モデルと同じような服にしたのに。
それなのに、何で。
答えは分からなかった。
自分が常に全否定されているように感じた。

そんな時、当時付き合っていた子から誕生日に服をもらった。
最初は「俺がダサいから服にしたんだろうな」と捻くれていたが、そのシャツが僕のファッション人生を変える一着になった。

葉っぱのようなロゴ、特徴的な襟元、洗練されたシルエット。
「フレッドペリーのポロシャツ」だった。

あまりピンと来なかったが、受け取ったからには着ようと思い大学に着ていく。
すると仲間が「あっ、フレッドペリーだ、お洒落だね」と褒めてくれた。

大学で初めてファッションで褒められた。
それはフレッドペリーのおかげだった。

そこから僕のファッションはフレッドペリーで固められるようになった。
褒められることが嬉しくて、何着か買った。
大学生の自分には高い買い物だったが、自信をお金で買えるなら安いものだった。

フレッドペリーは、着ているだけでファッションに興味があることを周りに示してくれる優れたアイテムだった。
ハイブランドではないからいやらしさもなく、デザインはシンプルでオシャレ。
誰もが見たことのあるロゴ。
まとうだけでテンションが上がる、不思議な服だった。

僕自身のファッションセンスが良くなったわけではないが、フレッドペリーを着ることで、周囲から褒められることが増え、自信を持てるようになった。
道を歩く時も、少し胸を張って歩けるようになった。
たった、一つのロゴが、人生を軽くしてくれたのだ。
それは僕にとっては凄く大きな体験になった。

服を着る事が怖かった僕が、
一つのアイテムでファッションを再び
楽しめるようになった。

社会人となった今、服はもう5年間くらいユニクロでしか買っていない。
春は白か黒シャツ、夏はエアリズム、秋はセットアップ、冬は黒のコート。
全シーズン通しても、クローゼットは10着くらいしかない。

もはやブランドや他者の意識より、自分が欲するものの方が大切になった。
ノーブランドでも、今は機能性や着心地を最優先に選んでいる。

過去の自分には何をやっても自信がなかった。
だからなんとなく着飾ろうとしていたんだと思う。

でも、今でも、特別な日にはフレッドペリーを着てしまう。
時が経っても、あのロゴは見えない「勇気」を胸元に、今でも灯してくれている。

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