車掌さんからDrakeへ提供するビートメイカーへConductor Williams—20年間乗務員を続けながらビートメイカーとして大勢するまで
Westside Gunn • Termanology • Drake • J Cole • Wiz Khalifa • Tyler, The Creatorなどの作品にクレジットされる BeatmakerのConductor Williamsのキャリアが面白かったので記事にしてみました。
ループが始まった瞬間、空気が変わる。重く、遅く、しかし確実にグルーヴする。Westside GunnがKansas City出身のビートメイカー、Conductor Williamsのトラックに乗るとき、サウンドはまるで蒸気機関のように前進する——止まれない力で、止まれない速さで。その男が20年間乗務員として列車を走らせながら、深夜に一人でRoland SP-606を叩き続けていたという事実は、音楽そのものの重さと見事に一致している。
Kansas Cityから世界のビートシーンへConductor Williamsがキャリアを積んだのは音楽業界ではなく、鉄道だ。鉄道会社で約20年間、車掌として勤め上げた。12時間勤務、変則的なシフト、深夜の乗務。そのすべてを終えた後、帰宅してRoland SP-606を起動する。
決断——鉄道を降りる日
20年間という数字を、軽く見てはいけない。Conductor Williamsにとってそれは単なる職歴ではなく、組合員として守られた安定そのものだった。「先輩格だったから、1,500人が解雇されるまで自分はクビにならなかった」と彼は語る。それでも彼は降りた。
決め手は家族だった。不規則な夜勤と長距離移動が続くなか、健康が蝕まれ、息子のサッカーの試合に36時間不眠のまま座っていた——「そこにいたけど、本当にはいなかった」。妻の言葉が刺さった。「あなたが必要なのよ」。その言葉と、音楽への確信が重なったとき、彼はついに決断した。「音楽は自分がするものじゃない、自分そのものだ。鉄道は覚えて身につけたことだが、音楽は生まれついてのものだ」。
今、彼は朝4時に起き、子どもたちが学校に行く前にビートを作り、夕食後にまたスタジオに入る。「今の方が絶対にハードワークだ。でもこれは自分がやりたいことだ」と言い切る。
サウンドの核心——Roland SP-606という哲学
Conductor Williamsのビートを語るとき、機材の話は避けられない。彼が愛用するのはRoland SP-606だ(Wikipediaおよびインタビュー複数で確認)。MPC系のドラムマシンが主流のヒップホップビートメイクにおいて、SP-606を核に据えるのは一種の反骨だ。このマシンが持つ固有の音圧感とサンプリングの質感が、彼のサウンドに独特の"古さと鋭さが共存する"テクスチャーを与えている。
彼自身はサウンド哲学を「polarizing(二極化するもの)」と表現する。聴く者を引きつけることよりも、興味を抱かせることを目的とする——その姿勢が、Griseldaのラッパーたちが求める"隙間"を生み出す。ソウルとジャズのサンプルを重ね、あえてディソナンス(不協和音)を取り込む。美しくない音が、逆に正直に聴こえる瞬間を狙っている。
NPRのRodney Carmichaelは2021年に「Westside GunnとConductor Williamsはラップで最も洗練された美学を完成させつつある」と評した。その言葉は今も色あせない。
Griselda外への越境——DrakからGrammyまで
2023年、Conductor Williamsにとって転換点となる出来事が起きた。Drakeのシングルにビートが採用されたのだ。Kansas City出身のビートメイカーがバッファローのGriseldaと組み、さらにトロントの帝王のトラックにまで名を刻む——その越境は、彼のサウンドがローカルな文脈を超えて機能することを証明した。
さらに2024年、R&BシンガーLeon Thomasのアルバム『Mutt』にプロデューサーとして参加。同作は2026年2月の第68回グラミー賞でBest R&B Albumを受賞した。収録曲「Feelings on Silent」のプロデュースをConductor Williamsが手掛けたことが確認されており(Wikipedia Mutt記事のクレジットより)、彼のキャリアにとって初のグラミー受賞作への関与となった。ジャンルの壁を飛び越えた、静かなしかし確実な証明だった。
2025年、Rome StreetzとのコラボアルバムTrainspottingをMass Appeal Recordsからリリース。Rolling Stoneは同作を「ローマの鮮烈なストリートの語りとConductorの生々しく抽象的なビートが交差する傑作」と評し、年間ベストアルバムに選出した。
Heartbreakers——Kansas Cityから世界へ
Conductor Williamsは現在、Griseldaのハウスプロデューサー集団「The Heartbreakers」の一員でもある。Denny LaFlareとCamoflauge Monkとともに構成されたこのユニットは、Griseldaサウンドの屋台骨を支える。Buffalo産のラップと中西部産のビートが融合することで、ニューヨーク的でもなく南部的でもない、独自のアメリカン・アンダーグラウンドが生まれている。
彼がフルタイムのビートメイカーになってから、その創作への情熱は衰えていない。「今でも朝起きると興奮する。今日はどんいいレコードを見つけられるだろうって。これが自分のやるべきことだと知っている感覚を、みんなにも味わってほしい」。
鉄道の窓から見ていた風景が、今はビートの中で鳴っている。
【参考ソース】
・DJBooth「How Conductor Williams Left a 20-Year Career to Make Beats Full-Time」(2025年6月2日)https://djbooth.net/features/how-conductor-williams-left-a-20-year-career-to-make-beats-full-time-060225/
・Wikipedia「Conductor Williams」https://en.wikipedia.org/wiki/Conductor_Williams
・Wikipedia「Mutt (album)」https://en.wikipedia.org/wiki/Mutt_(album)
・Rolling Stone「Rome Streetz and Conductor Williams Got Inspired by 'Trainspotting' and Made a Masterpiece」(2025年5月30日)https://www.rollingstone.com/music/music-features/rome-streetz-conductor-williams-trainspotting-interview/
・Revolt TV「Westside Gunn liberates new visual for "BDP"」https://www.revolt.tv/article/westside-gunn-bdp-rome-streetz-stove-god-cooks-video
・Grammy.com 第68回グラミー賞 受賞者リスト https://www.grammy.com/grammys/awards/68th-annual-grammy-awards
のかわからない。でも毎日やっていた」と彼は語る。Kansas City出身ながら中西部全体を股にかけるそのキャリアは、音楽とは無縁に見えて、実はその後のサウンドの源泉となっていた。長距離列車のよ
うな持続するグルーヴ、
重い車輪が線路を叩くリズム感、それがそのままビートに転写された。Westside GunnやRome Streetz、Conway The Machineといった名だたるGriselda勢が彼のトラックを選ぶのは偶然ではない。
BDPを聴いて欲しい。Westside Gunn、Rome Streetz、Stove God Cooksが乗るこのトラックこそ、Conductor Williamsのサウンド哲学の核心だ。ソウルとジャズのサンプルを厚く重ね、MPC 2000xlで叩き出したビートは、生々しく、かつ余白がある。音に圧力をかけながらも、ラッパーが息をする空間を残す——それがGriseldaのリリシストたちを引きつける理由だ。彼のビートは「重さ」を武器にするが、ただ重いだけではない。揺れがある。呼吸がある。
