見出し画像

人の心は戻らない

母親の家出騒動から一夜明けた今日、俺は密かに心配をしていた。

朝起きたら、母親と父親が住んでる家で血まみれの事件が起こってるかも知れないとの心配だ。

最近ニュースで見たんだよ、息子からの長年に渡る家庭内暴力に耐えかねて、ついに息子を殺してしまった父親の事件を。普通の殺人事件なら犯人を擁護するようなコメントは皆無なのだが、父親が手錠をはめられて警察に連行されてる映像を見たら、犯人である父親の目の辺りが真っ黒なアザになって腫れていたのだ。これを見るだけでも、普段からの息子の暴力の激しさが分かり、そのニュース動画のコメント欄は父親を擁護するコメントで溢れていた。

家族と言えども、突発的な怒りに任せて家族を傷つけてしまう事は誰にでも起こりうる事だと思う。

だから母親も怒りに任せて事件になるような事をしてるかも?と、俺は心配しながら二人が住んでる家の方に行ってみたんだ。

すると……

リビングからはテレビの音は聞こえては来てるが、毎朝のように聞こえる二人の楽しそうな会話が今日は聞こえて来ない。しかし、 今日は応接間からもテレビの音が聞こえてくる。

朝の応接間には誰もいないはずなのに……

俺がバイオハザードの主人公のごとく、恐る恐る応接間に行ってみると…

なな、なんと!父親が一人でNHK朝ドラ「あんぱん」を見ているではないか!

そして母親もリビングで同じ朝ドラを見ている。

それは夫婦である二人が別々の部屋で同じ朝ドラを見ているという摩訶不思議な光景だった。

俺は思ったね。

「これはアカン……喧嘩から一夜明けても二人の仲が完全に修復していない証拠だ……」と。

しかし、救いなのは応接間に父親が来ているという事だ。普段の力関係から言うと、父親がリビングでテレビを見て、母親がリビングから追い出されて応接間でテレビを見てるのが我が家の力関係だ。

父親に「どうして別の部屋で同じ番組を見てるの?」と聞いてみたら、

「母ちゃんが、いつまでもしつこく怒るからオラがこっちで見てるんや…」

そう言って、父親は笑っていた。

なるほど、今日になっても母親の怒りは収まらず、父親の方が気を使っているわけか…

なのでこれは逆に、これ以上は二人の関係は酷くはならないと安心はした。母親の状態が昨日のまま父親が普段通りに怒り続けたとしたら、母親の心は本当にどうなるか分からないからだ。


父親は母親の心を甘く見過ぎていた。


俺には長年我慢し続けた母親の気持ちが痛いほどよく分かる。俺も長年、人からの暴言に耐えに耐え続けるという人生を送っていたから。

親しい間柄だと思って「これぐらいでいいか…」と雑な対応をしていると、その人との関係が二度と修復出来なくなる可能性がある。

今のギリギリに追い詰められた母親の心が父親にも少しは感じる事が出来るから、今日の朝は自分から応接間に移動して、母親を刺激しないように同じ番組を別々の部屋で見ていたのだろう。

でも、俺が感じた限りでは母親の声がいつもと違って暗く落ち込んでいるから、まだまだ安心は出来ない。

母親に今まで家出をした事があるのかを聞いてみたら、今まで家出は一度もした事がないと言っていたから、昨日は本当に積もりに積もった父親への不満が一気に爆発したのだろう。

父親は昨日もいつも通りに下らない理由で母親を怒ったのだと思う。その証拠に今日の朝も父親は不思議がっていた。


「なんであれぐらいで……」と。


人の心の扱いを「あれぐらいで」と軽く済ませてはいけない。

昨日の母親の怒り方は、我慢に我慢を重ねた上での火山の噴火のような怒り方だった。

父親にしたら普段と変わらない夫婦喧嘩だと思っていたのかも知れないが、母親にとったら爆発のスイッチの最後の一押しを押されてしまったような喧嘩だった。だから、溜まりに溜まった不満のマグマを一気に放出してしまったのだ。

俺には母親の気持ちが手に取るように分かるんだよ。

なぜなら俺は付き合っていた女性から10年以上にも渡り激しいモラハラを受けていた人間だからだ。

当時の俺は彼女と彼女の子供の生活をなんとか支えようと、本当にそれだけを思って毎日を過ごしていた。だかしかし、彼女は自分の機嫌次第で俺に対する態度をコロコロと変え、毎日のように俺に怒りを表し、そして人前でも平気で俺の事を罵倒していた 。

俺は人の目を気にするタイプなので、なんとか人前で怒られるのだけは止めてもうえるように、彼女には平身低頭でペコペコと謝る毎日を続けていた。

そんなある日、彼女はいつものように俺に怒りを向けだした。それは彼女にとってはいつもと変わらない大した事のない言葉だったのだろう。

彼女は俺に対して、


「アンタは本当に何も役に立たん!!」


そう平然と言ったのだ。

今思えば、もっとキツい言葉を普段から言われていたのに、俺はこの言葉を聞いて初めて彼女にキレてしまった。この言葉を聞いた俺は次の瞬間、自分の携帯を地面に叩きつけ、その場から足早に車で立ち去った。

これが、俺が彼女に対しての初めての「反抗」であり、家出だった。

この時はよく覚えている。俺は車に乗って知らない街をフラフラと彷徨った。携帯を壊してしまったので彼女からの連絡もなく、何日間も、ビジネスホテルを泊まり歩いた。

当時の彼女から受けた言葉としては、本当に大したことのない言葉だったと思う。当時の俺はもっとキツい言葉を毎日のように言われていたのだから……

彼女からのキツい言葉とは、人前で「土下座しろ」や「今から電車に飛び込んで死ね!」などという言葉だ。これは暴言どころではなく強要罪や自殺教唆という犯罪行為だ。

しかし、数々の暴言に耐えに耐え続けていた俺の怒りの導火線に火を付けた言葉は、

「アンタは本当に何も役に立たん!」という言葉だった。

俺は雪見だいふくのようはフワフワの愛情で、毎日のように彼女と彼女の子供の生活を心配して湯水のようにお金を貢いでいたんだ……

「ジョージよ!自分を善人に見せようと噓ばかり書くなよ?」

ここを見てる人の中には、そう思う人もいるかも知れないが、これは当時の俺の本当に気持ちだ。

なぜなら、この文章を書いてるこの場所は家族にも言えない俺の本当の心を書く場所として作ったのだ。だからこの場所で噓の気持ちを書くのは意味がない。俺が文章を書き始めた動機は、誰かに俺の本当の気持ちを知ってもらいたかったからだ。

だから、当時の俺の気持ちは彼女の生活を助けたいという一心だった。その為に貯めていたお金も彼女の為に後悔なく使ってたし、毎日、どうすれば俺のこのピュアハートを理解してもらえるかを考え悩んでいた。

だから、その時の俺に対する彼女の言葉は、俺の思いの全てを踏み躙る言葉だった。

 
「アンタは本当に何も役に立たん!」


彼女からのこの言葉を聞いて、俺の心の中の阿蘇山が大噴火をした。

母ちゃん……昨日は昔の俺と同じように、母ちゃんの心の中の桜島が大噴火をしたんだよね?

母ちゃんはこうも言っていた。


「いつもお父さんの為に良かれと思って動いているのに……もういい…」と。


母ちゃん……俺には分かるよ……母ちゃんの毎日の頑張り、そして母ちゃんの思いを………

誰がどう見たって、父ちゃんが100%悪い。母ちゃんが大人しいからといって、父ちゃんは調子に乗りすぎた。

これを書いてる今もまだ、母ちゃんが俺を呼ぶ声に元気が無い。まだ母ちゃんの心が元に戻ってない証拠だ。

母ちゃんは石屋の娘であり、お金持ちの娘だった。そんな生活に苦労してない若い娘がこんな山奥の貧乏な家に嫁いで来て、長い時間父ちゃんの為に尽くして生きてきたのだ。

そんな母ちゃんの長年の想いを踏み躙るような怒り方は絶対にしてはいけない。

今も母ちゃんの心が心配だ。

でも、母ちゃんに救いがあるとしたら、父ちゃんは母ちゃんの事を間違いなく大事に思っているという事だ。

父ちゃんは母ちゃんがいない時に俺に向かって、


「母ちゃんを大事にしてやってくれよ」


父ちゃんは何度も俺にそう言っている。

母ちゃんが居ない時に言ってる父ちゃんの言葉だ。だから、父ちゃんの本心なのは間違いない。

そして俺も母ちゃんに対する思いを母ちゃんが絶対に見ないこの場所に書いている。これは間違いなく俺の本心だ。


大事な人との関係が順調な時こそ気を付けるんだ!


もしかしたら、自分に対して何か不満を隠して我慢してる事があるんじゃないかと常に気にかけるんだ!


人の心は砂の城。


一度壊れたら、二度と元には戻らないのだから。

いいなと思ったら応援しよう!