【開催報告】ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会 No.1437「つかめない退職理由 ― 新人に対する丁寧な観察とキャリア展望の把握」
「河童の目線で人世を読み解く」市井カッパ(仮名)です。
「すべての組織と人間関係の悩みを祓い癒し、自然態で生きる人を増やす」をミッションに社会学的視点から文章を書いております。
御覧いただき、ありがとうございます。
さて、今回は、主催・運営:株式会社コーチングバンク、協賛:株式会社キャリアクリエイツ、で毎月2回、オンラインで開催させていただいております「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」の開催報告になります。
この研究会で利用させていただいている、株式会社キャリアクリエイツのケーススタディ「LDノートライブラリ」はこちら。毎回、最新ケースを利用させていただいています。
今回のケースは、ケースNo.1437「つかめない退職理由 ― 新人に対する丁寧な観察とキャリア展望の把握」でした。
ケースの概要は「職場に新人が配属される。明るく元気な新人のおかげで職場もなんとなく明るい雰囲気に。指導役は、フォローも兼ねて新人と定期的に飲む約束をする。その後、同期会の席上、新人は退職を宣言。突然、退職代行業者から電話がくる。」というもの。
LDノートライブラリのケーススタディは、こうしたどこの会社でもどこかで起こっている問題を取材して切り出し、A4用紙2枚にまとめてあります。そして、そのケースの後に、登場するマネジメント者の対応のどこに問題があったのか、どのような改善行動が必要かを考える教材になっており、目的は、マネジメントする立場にある方が現場でのマネジメント能力を思考実験によって鍛える、というものです。
ただし、この「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」では、さらにこれを発展させ、このケースに登場するマネジメント者にコーチングする場合には、どのようなコーチング戦略で臨みますか、ということを、対話しながら考えていく、というプロフェッショナルなビジネスコーチングを身に着けたい方のためのトレーニングの場となっています。
さて、今回のケースを見ていきましょう。
このケースの舞台は大手菓子メーカーの北関東にある工場です。10年ぶりの新人が補充配属され、課長主任以下、浮足立つも、明るく元気な人当りのよい女性でほっと安心したものの、その後、先輩社員である主任がマンツーマンでついて毎週、飲みにも誘っていたところ、3ヶ月で同期に不安を語り、半年後には有給を取り、退職代行を利用して退職連絡が来た、というケース。
ケースでも現実でも一緒だと思うのですが、読む、というのは、実は書かれていることや起こっている現象ではなく、その裏にある書かれていないことやその状況を引き起こしたものについて読まなければなりません。それが本当の「読む力」です。
今回のケースは参加者全員、どうしたらよかったのか、と頭を悩ませてしまいました。もちろん、問題はわかるのですが、その予兆をどのように察知できたのか。
退職した新人の同期への愚痴には、そのヒントが隠されています。10年間代わり映えしない組織。東京に本社のある大手菓子メーカーなのに、実家よりも田舎の配属先。毎週、飲みにも付き合わなければならない…。
しかし、課長や主任の目線から、その予兆が読み取れる可能性があったのか否か。その答えは、後ほどお伝えしようと思います。
課長と主任の新人指導にどのような問題があったのか
この問いはLDノートのお決まりの問いですが、改めて課長と主任の対応について振り返ってみましょう。
主任は女性。話の中で、新卒配属からずっと10年間、異動していないことがわかります。その主任が新人指導に当たることになったのは、課長の任命でした。
任命はいいのですが、結局、「任せた」だけで何の指導もしていません。ですので、主任は自分の価値観で新人を振り回します。「一人暮らしだし、特にやることもない」「元々地方出身だからたくさん人がいる環境より落ち着いた今の環境のほうがいい」「毎週1回、飲む約束」…。これを読んで、極めて昭和の価値観を保ち続けている人だし、何か将来に向けたアクションもしていないのかな、と不安になってしまいます。
新人の彼女からしてみたら、それらの発言すべてがマウントに感じてしまったかもしれません。女性同士に任せて良いと思える幸せな課長さんには、是非、下記の記事を読んでいただきたいものです。
このケースでは、課長はそんなマイペースな主任に新人のフォローを放置。プライベートまでフォローせよ、とまで言っています。一緒に飲みの席には出ているようですし、もちろん、支払いもしているのでしょうが、何か観察して主任にフォードバックしているとも思えません。当の新人から言わせると「毎週飲みたくもないお酒を先輩社員と課長と一緒に飲まないといけない。上司の自慢話を聞くためにお酒を飲むくらいなら、大学時代の飲食店の方がお金をもらえるだけまし…」とのことでした。もちろん、本人たちには言っていないことですが…。
ここで、もし、主任が自分の価値観を押し付けるのではなく、新人をひとりの別の人間としてちゃんと注意深く接していたら、あることに気づいたのでは?という話を、会の中ではさせていただきました。
それは、最初の懇親会の際の、新人の下記の発言です。
「学生時代も毎日のように飲んでいました」
という発言です。
ちなみに下記のデータによると、20代女性の「毎日飲酒」率は2.6%となっていて、極めてレアであることがわかります。
ですので、この発言に対して、ちょっと「?」を感じるべきでした。ですが、おそらく自分の価値観に照らして主任は何も思わなかったのでしょう。貴重な機会をスルーしてしまいました。
ここから先は憶測ですが、先ほどの同期への愚痴の会話を思い返していただきたいと思います。彼女は、「上司の自慢話を聞くためにお酒を飲むくらいなら、大学時代の飲食店の方がお金をもらえるだけまし…」と言っていました。つまり、お酒を飲んでお金をもらえる仕事を学生時代にしていた、と考えられます。
それがどういう職種なのか、は敢えてここでは触れませんが、例えば、バーや個人経営の居酒屋のようなところかもしれません。それはさておき、彼女がそういうところで接客の仕事をしていたと考えると、彼女が抱えている問題も推察ができます。
このケースの中で、彼女はいつも明るく元気よく、上司や先輩がこう答えてくれたら嬉しいだろうな、という返答をしています。つまり、これは彼女にとって飲食店での接客なのです。給料をもらうために、上司や先輩たちに接客している。これが彼女の言動が完璧である理由なのではないか、と推察します。
毎年のように新人が入ってくるような職場であれば、こういう心を開いていない新人はいずれ辞めるな、と察する人も出てきそうですが、残念ながら10年ぶりの新人で、前の新人は主任本人となれば、配属ガチャでババを引いた、と彼女に思われても仕方がないかもしれません。
ちなみになぜ、彼女が半年で辞めたのかの理由もケースにはヒントが書かれていて、それは有給が取れるようになったから、だろうと思います。同期に、「引き止められるだろうし、なにか簡単に辞められる良い方法はないかな」と尋ねていて、面と向かって辞めます、というのは言いたくなかったのでしょう。そこで、初めての有給を取って、その日に退職代行に連絡してもらった、ということなのでしょう。真面目でロジカルで優秀な女性であることが、ここから推察できます。惜しい人を活かせず辞めさせてしまいました。それは人事のせいでもありますね。(私なら彼女を営業に配属します。)
退職代行の電話が来るまで、係長は自分が彼女のことをまったく理解できていなかったことに気づいていません。それ自体が問題であると思いますし、そんな彼女に任せきりにした課長のマネジメントにも責任があります。
課長と主任は今後、どのような改善行動をとるべきか
こちらも参加者が困惑した問いでしたが、まあ、いまさら今回の新人は戻っては来ないでしょう。退職代行が入っているので、会話すらなく去って行くことと思います。
研究会の中では、時間を巻き戻して、どういう対応をしていれば、こういうことにはならなかったのか、という話をしましたが、しかし、いずれにしても、ちょっとこの会社の人事はひどすぎるよね、という話が出ました。
どんな新人が来るのか、彼女のキャリアの希望は何か、そしてなぜ、この部署に配属になるのか、その意図は、といったことが全く共有されず、いきなり新人を配属する。こういうやり方が今でも主流なのでしょうか?
もっと言えば、世の中、これだけZ世代という言葉が注目されています。せめて、何らかの研修なり情報提供はなかったのかと、不安になってしまいます。
この会社の新人の退職率、高そうです。
まあ、人事がそんな感じであれば、課長は自ら積極的に人事に掛け合い、事前に配属される彼女のことを知っておくべく努力をすべきでした。そもそも主任も来年は自分が異動するとか思わないのでしょうか?
このケースにどんなコーチングを提供するのか?
「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」では、もともとLDのケースに掲載されている2つの問いかけに加えて、この3つ目のオリジナルの質問を用意しています。例えば、本人もしくは会社が課長レベルのマネジメント層にコーチをつけた、という設定。初回のセッションでこの話を聞かされたあなたは、どのようにこの課長をコーチングしますか、という問いです。
コーチング用語で、コーチとクライアントのほかに、スポンサーという概念があります。これは、コーチングを依頼する本人以外の人や会社のことを言います。個人の満足さえあればいいパーソナルコーチングと違い、ビジネスコーチングの難しさというか、独自性はここにあります。単にクライアントの話を聴いてクライアントに満足してもらえばそれでいい、というわけにはいかないのです。
ということで、クライアント本人の成長を促し、ビジネス上の成果も出しつつ、クライアントもスポンサーも満足のいく結果になることを支援することが、コーチの役割となります。
これはなかなか通常のセッションだけでは身につかない技術なので、そのシミュレーションの場として、この「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」があるのです。
コーチングについてあまり理解のない方は、ここで、問題を起こしている人物に対して何かティーチングしたりコンサルしたりということを考えてしまいます。これは私たちの思考の癖で、ついつい、教えれば人は学び、変わると考えがちですが、それがうまくいかないことは、誰しも実は体験していることです。
私はこのことを、よく下記の図を使って説明しています。

ティーチングは単なる情報の伝達です。ですので、そのゴールは情報が伝わったかどうかの確認で、「あなたの言っていることを理解しました」であり、それが行動変容につながるかどうかは保証されていません。
コーチングの場合には、できることを増やしていく、という考え方をしますので、どこまでもいっても行動です。
指示命令に、人は従うかもしれませんが、それは、その人が学んだからでも理解したからでもありません。それは従ったフリをしているだけで、問題は何度でも形を変えて再発します。
コーチングはその方法に生産性が無いと考えて、再発しない不可逆変化を起こすにはどうすればいいのかを考えます。その結果が、本人に考えてもらい、気づいてもらい、行動してもらう、というコーチングの大事な前提になるのです。
「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」では、こうしたコーチング的な問題解決志向を、身に着けてもらうために、毎回、今日もどこかの日本の職場で起こっていたケースを読み解きながら、対話を繰り返しています。
さて、今回のケースですが、実は先に挙げた課長に対するコーチングといっても、いつ、そのタイミングがあるでしょうね、という話が出ました。おそらく何も危機感のない状態であった場合、新人を迎えるとしても今回の問題のような話はクライアントから出てこないでしょう。
では、問題が起こった後なのか。しかし、その場合には、辞めていった新人は戻っては来ません。
この話はコーチングの問題解決の時間軸問題で、これだけでも議論するとかんりもりあがって面白いのですが、今回は、誰に、どんなコーチングを提供するのかは自由、ということで、プランを考えてもらいました。
すると、
・入社してきた新人に対するコーチング
・新人を迎える課長・主任への準備のためのコーチング
といった違うアイデアが出てきました。
私個人の意見としては、やはり、今回のいちばんの問題は「売り手市場」の中、せっかく採用できた優秀な人材を配属ミスによって失ってしまうこと、だと思いましたので、人事に対して、「新人を受け入れる課長に対する準備のためのコーチング」を、このケースを読んでもらってから行う、という提案をしたいと思いました。
この会社の課題は、人事と現場との情報連携の無さ、であると思いますので、その間を埋めるような立ち位置のコーチングサービスを提供して、「新人が配属先でお客様ではなく、主人公になるようにするための取り組み」を、それぞれの課長と考えてもらう、というのが良いのではないかな、と思いました。
今回、参加されている人事関係の方からは、既に様々な施策を行われていることもシェアされていたようです。こういう研究会に参加されるような人事の方の会社はきちんと考えられたことをやっているが、何もしていなくてトラブルが発生している会社の人事の方は、対応に忙しいのかこういう研究会には参加してくれない、というところが矛盾だよね、というコメントをさせていただきました。
さて、今回は以上です。
「ケーススタディ&ビジネスコーチング研究会」は、毎月2つのケースで開催しています。
ご興味あればこちらから、まずは、グループ登録いただければ、開催案内が届くかと思います。
ちなみに、次回のケースはこちらです。「クラウド型の人事評価システム」導入による混乱」のケースということで、次回も日本の現場のあちこちで起こっていそうなケースですね。
現場からは以上です。お読みいただき、ありがとうございました。面白かった、参考になった、という方は是非、高評価いただけると嬉しいです。フォローも大歓迎です。
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