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序章 白銀の翼<ハクギンノツバサ>

本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!


目次    前書き&注意点 


──石を月にささげよ。
──さすれば、わが一族は再び蘇らん。



街の南西に駅があった。
その駅からは、放射状に道が伸びている。

駅の西側に小さなタバコ屋があり、その中から男が通りに出てきて、大きく伸びをした。
身長は180cm近くあり、体格もがっしりしているが、顔だちにはまだあどけなさが残る。男になる前、少年から青年へ移行を始めた段階のようだった。
しかしその髪型は、頭の上から前方に丸く突き出した、なんとも奇妙な形に整えられていた。

少年は、手を上げたり下げたり体をくねらせたり、様々なポーズを取ってタバコ屋のガラスに自分を映し見ているようだった。
タバコ屋の中から、今度は女がでてきて、店の前に置いてある丸椅子に腰をかけた。
黒の長襦袢に、大きな梅の花をあしらった、鮮やかな青紫の袷を纏い、紅色の帯を締めた女だった。黒く染めた髪を後ろにまとめ、背筋をしゃんと伸ばしてはいたが、枯れ枝のように皺が刻まれた首や手首は、老女のそれだった。 

「着心地はどうだい、仗助?」老女がタバコを取り出しながら、少年に声をかけた。
「いやー最高っス!サンキューな、みさえ婆ちゃん!!」満面の笑みで少年が老婆に返すと、何故か老婆は渋い顔になって「ワタシはこんなでかい孫を持った覚えはないよ」とピシャリと返した。
「あーいや、みさえサン。アリガトウゴザイマシタ。」少年は頭をかきながら訂正した。

少年の服は、紺色の詰襟という男子学生の学校制服だったが、一般的に販売されているものとデザインがだいぶ異なっていた。詰襟の両脇には金色のハートと錨のマークが縫い付けられ、金ボタンで止められる襟の上半分はハート型にぱっくり開き、両脇にピースマークとハート型のアクセサリーがついていた。裾は長く、ウエスト部分は絞られていて、下のズボンはボテっと広がって足首でしまり、ビットローファーは紫色だ。
不良の改造服だった。

「苦労したさ、おまえさんの持ってきたデザインは、あやふやなところが多くってねえ」
「いやあ、お袋にも、も一回”あの人”の服装聞いたんだけどよお~、もう10年も前で雪だったし必死だったからあんま覚えてねえっつーんだよおー。」
「ああ、命の恩人だっけ? そんなハートだの錨だのついてたんかい?」
「いやーなんつーか、ハートはおれの見えないトレードマーク?っていうかさあ。」
「何わけのわかんないこと言ってんだい。」
みさえサン、とよばれた老婆は、タバコの煙を吐き出して、上から下まで少年の学生服を見直した。
「まあ、あんたにはその分、この店の品出しから販売、配達、掃除と、この1週間働いてもらったからね。それもどうせすぐにボロボロになるんだろうし、ボタンだのアクセサリーだの取れたら付け直してやるから持ってきな」
「あーそれは心配ない、大丈夫っつーか」
「だから、何わけのわかんないこと言ってんだい」
不機嫌そうな老婆に対し、新しい制服を着た少年はご機嫌だった。
「ともかく、ありがとなー みさえサン!」
「ああ、良平さんによろしく」
「いーやッ! じーちゃんとお袋にはまだ内緒だからッ!」
「んなの、すぐバレんだろうに」

立ち去る少年の背中に、「ああ、仗助」と老婆が声をかけた。
振り向いた少年に
「高校入学おめでとう」
といった。
少年は笑顔で手を振った。

そのまま不良制服少年は、並びのケーキ屋兼パン屋に入っていった。
中から「あらー仗助君お疲れ様ー」「今日も髪型決まってるわねー」「新しい制服できたのね、似合ってるじゃあない、すてきー」と黄色い歓声が飛び交い、「制服祝いにおまけしておくわねー」と牛乳にたまごサンドを持って出てきた。
「お姉さんたち、どうもー」と少年が店を出ながら慣れた様子で店内に挨拶し、歩きながら牛乳を飲み出し、たまごサンドをかじり始めた。

少年がパチンコ屋の前を通りかかると、中から3人の男がでてきて、最後の1人が少年とぶつかった。
「まてや、ボケェ!」
ぶつかったスキンヘッドの男が振り返って少年に凄んだ。金のネックレスにブレスレッド、黄色に赤の柄シャツというテカテカした外見の男だ。
「人にぶつかって、スミマセンもなしとは、どーゆう了見だあ?」
残り2人も、「何さらしとんじゃ、ワレエ!」「舐めとんのか、キサマアァ?」と少年を取り囲んで凄んだ。こちらは、パンチパーマに黒いシャツ白いジャケットと、オールバックにキラキラしたグリーンの上下だ。
「すみませんでした」
ペコリと少年が頭を下げたが、
「スミマセンですむと思うかあ? キサマの食ってた卵が服についちまったじゃあねえかよお、おー!」と、どこに着いたかわからない黄色い服の男が言い募り、「クリーニング代だせやあ、ボケェ」「弁償しろ、べんしょおお」残りの2人が同調した。
ちらっと服をみて「すみません、キレイにしますんで」と少年がいうと、チンピラたちはますます図にのったようだった。
「キレイするってなんだあ? てめー、あったらしそーなセーフクきやがってよお」
「しかもあちこちカイゾーしてやがるぜ、こんなんつけてよお」
グリーンが少年の制服のハート型のアクセサリーを引きちぎった。
少年は地面に転がるアクセサリーをみたが黙ったままだった。
「ナマイキなんだよー、今ドキこんなツッパリ頭しやがってよおおお」

「あああ~ん」
今まで低姿勢だった少年の目つきがかわった。
「テメー、今おれの頭のことなんつったーーーッ!!!」
突然ブチキレた少年の傍らに、人型の亡霊が現れた。筋肉質の男性のピンクの肉体に、水色の胸当てや肩当てのような防具が付き、マスクのてっぺんや肩当てはハート型の亡霊だった。
3人のチンピラは、亡霊に拳で殴り飛ばされて、口や鼻から血を吹き出しながら地面にたおれた。

倒れた3人にはその亡霊が見えていなかったようで、「な、ななんだあ?」と驚いている。
次に、驚いている3人の顔の傷が見る間に治っていく。しかし治りながら、眉が鼻が口が、前とは違う形に変形していった。
「お、お前鼻どうした?」「え?お前こそなんだその尖った耳い?」
混乱した様子で尻餅をついたまま互いに言い合うチンピラ3人に、怒りが収まらない様子の少年が近づき、
「おれの頭にケチつけといて! こんなもんじゃあすまねえぞーーッ!誰の頭が焼きすぎのハンバーグみてえだとお!!! もう一遍いってみろよッ!! おらあ!!」
ドカドカと転がる男たち足蹴にした。
「ヒ、ヒイイイイ」「逃げろお!」
と、蜘蛛の子を散らすようにチンピラたちは逃げていった。

逃げていく3人を、少年はふんっと鼻息荒く見送った。すると、亡霊が再度拳をふるう。今度はチンピラに引きちぎられた制服のアクセサリーが、地面からふわりと浮かび上がり、空中を漂って、少年の制服の元の位置におさまった。
胸元からコームを取り出してパチンコ店の入り口のガラスで髪を整え始めた少年は、ふと思い立ったようにパチンコ屋に入っていった。

チガウ。
コイツジャアナイ。


海岸近くの別荘リゾート地帯に古い和風の一軒家が建っていた。
古い武家の流れを汲むという家の造りは立派だったが、経年劣化に対し手入れが行き届いていないようだった。

吉良、と表札の掲げられた玄関から、スーツ姿の男性が出てきた。
真ん中分けの前髪の残りをバックに撫で付けた髪、整った顔立ち、ストライプの入った淡いグリーンのシャツの上の菫色のスーツはオーダーメイドらしく、美しいシルエットを見せていたが、首から下がる紺色のネクタイには奇妙な柄が刺繍されていた。
男は、左腕を上げて腕時計で時間を確認した後、玄関を閉めようと鞄から鍵を取り出したが、ふと思い直すと鍵を鞄にしまい直し、鞄の中から何かを取り出した。
”手”のようだった。
手首から先の”手”は、細い指に滑らかな皮膚の若い女の手のようだった。マネキンの作り物にしては妙にリアルで、男が手に持って動かすと指が曲がり動いた。
「今日は実穂さんに玄関を閉めてもらおうか……」
男は持っていた”手”を右手で持って鞄の中に入れ、その”手”に鍵を握らせた。外側から”手”の指を動かして鍵を摘ませると、玄関の引き戸の鍵をかけようとした。

その時、「吉影」と声がして、男は動きを止めた。

引き戸の隙間から、ひらりと紙のようなものが1枚舞い浮かび、男は鞄を地面に置いて、左手で飛んできた紙を持った。
紙は写真であり、頭部が禿げて耳の上だけ白髪になった、小柄な年老いた男性の顔が写っていた。
が、その写真の中に写っていた男は、写真にも関わらず、動いてしゃべりだし、目の前のスーツの男に話かけ始めたのだった。

「吉影、しばらく会社を休んではどうだ?」

「休む? なぜわたしが?」
写真が話し始めたのに驚く様子もなく、男は面倒そうに答えた。楽しみを中断されて不愉快な思いをしているようだ。
「昨夜聞いたじゃろう。この町に吸血鬼がやってくる。10年前は、身代わりの情報を渡して事なきを得たが、今度は……」
「なぜわたしが吸血鬼ごときのために、わたしの平穏な日常を変更しないとならないんだ? 昨日も言った通り勝手にすればいいじゃあないか。別に連中が、誰の血を吸おうが、誰を吸血鬼にしようが、わたしの知ったことじゃあない。好きにすればいい。わたしは協力もしなければ邪魔もしない。ただし……」

男の背後に、ピンク色の逞しい男性の肉体が浮かび上がる。猫のような耳に目、髑髏のようなマークがついた手甲にパンツを身につけたその姿は、人ではなく現実のものでもなく、男を守る背後霊か悪霊のようだった。

「わたしの生活に干渉してくるようなら排除する。このキラークイーンで。それだけだ。」

「……」
男が左手で写真を放ると、ひらひらと写真は引き戸の隙間から家の中に入っていった。
それを見届けると、男の背後の悪霊はスッと消えた。

男は笑顔になって「待たせたねえ、実穂さん。」と右手に持っていた”手”に声をかけ、頬擦りまですると、再度鍵を持たせて引き戸の鍵をかけさせた。
そして、
「今日のお昼はサンジェルマンのサンドイッチにしようか。あそこの出来立ては本当に美味しいからねえ。一緒に芝生で食べようじゃあないか。お昼が楽しみだ」
と”手”に話しかけながら、持ち上げた鞄の中に鍵と”手”をしまった。

男はくるりと家に背を向け、飛び石を渡って門から出て、道を歩いて行った。
何事もなかったように。

チガウ。
ココジャアナイ。


町の南西に位置する霊園。
その北隣に別区画の墓地があり、さらにその隣に広大な屋敷がひろがっていた。

瓦付きの塀が屋敷をぐるりと囲み、塀の内側に並んで桜の木が植えられている。
まだ寒さの残るこの地では、桜は冬の寒々しい姿となっており、蕾を蓄え花開くのはこれからのようだったが、満開となれば美しい桜並木から桜吹雪を周囲に届けることだろう。
塀の内側の敷地には、桜以外にも多くの木々が植えられている。梅の花は満開に咲きほこり芳しい香りを漂わせており、建物の倍以上背を伸ばす大きく太い常緑樹は何百年もこの地に根を張ってきたようだった。
木々の間から見える平屋の館は和洋折衷で、庭には離れがあり、奥には蔵も見えた。

塀をたどると、内側に奥まった部分に両脇に桜が植えられた数寄屋門が構えられていた。
門の引き戸がひかれ、中からスーツ姿の男性が出てきた。
きちっと整えられた白髪に、地味だが品の良い上質なスーツを纏った、スラリとした細身の長身の、50代と思しき紳士だった。
その後から、薄い水色の紬に身を包み、黒髪を後ろにまとめた同年代の女性が続き、男性に鞄と弁当包みを渡した。
「いってらっしゃいませ」
「ああ……あれ?」

二人が門の中を見ると、後からもう一人、若い娘が急いだ様子で出てきた。
茶色がかった前髪を一房長く伸ばし残りは後ろにまとめ、左耳にさくらんぼのイヤリングをぶら下げたスカート姿の娘が、慌てて門から出て男性にぴょんと頭をさげた。
「伯父様、いってらっしゃいませ」
「ああ、見送りありがとう、涼子ちゃん。昨夜、家に着いたの遅かったのだから、ゆっくりしていてよかったのに。せっかく来てもらったのに、今日は一緒にいてやれなくてすまないね、仕事が外せなくて」
「いえ、こちらこそお忙しい時期に泊めていただいて、ありがとうございます」
ピシッと背を伸ばして礼をする娘に、男性はなんともいえない顔をしてから、
「今日は遅くならないつもりだから、今夜は涼子ちゃんの短大合格祝いだ。明子の料理を楽しみにしていてくれ」とイタズラでもするような笑みを浮かべて続けた。
「そんなに期待されては緊張しますわ。涼子ちゃんは揚げ物は大丈夫だったわよね」と着物の女性も続けた。
「はい、大好きです、ありがとうございます」と先ほどと同じように礼をする娘に、
「この町も久しぶりだろう? 涼子ちゃんが前来た時にはなかった新しい建物も多いから、観光がてら散歩でもして過ごすといいよ」と男性は続けた。
「では、また夜に。いってくるよ」と男性は片手を上げて挨拶をして歩き始め、残った女性2人は軽く頭を下げた。


ミツケタ。
ココダ。


遠くで笛の音が聞こえた。


次の話(1-1-① 悪霊の街、スタンド使いの挨拶①)  
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