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2-4 スタンド越しの抱擁

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(2-3 予言と預言)


花京院邸の洋館部分の側の庭木の枝に、白い鸚鵡が止まっている。
洋館の窓ガラスは割れ、そこから覗く客間は、ソファーにテーブルが蹴り倒され、カーテンが引きちぎられ、荒らされ果てていた。

ベージュの着崩したスーツにペイズリー柄のシャツの男が、床に倒れ込んだ花京院龍典の胸ぐらをつかみ、乱暴に揺さぶっていた。
「おい、おっさん、おっさんよオッ。教えてもらいてえことがあるんだよ、起きろよお。美人のカミさん襲っちまうぞ、コラ」
しかし、龍典は額から血を流し、目を閉じてぐったりしており、完全に気を失ってる様子だ。

「おい、どうすんだよテメエ、起きねえじゃあねえかよお~ こんな広い家の家探しなんて何日かかんだよお」
黒の上下に虎がらのシャツの別の男が、あちこち蹴飛ばしながら怒鳴り散らしていた。

花京院明子は部屋の角に座りこみ、俯いたまま意識を失っているようだった。
玄関から上がった廊下には、頭から血を流したホル・ホースがうつ伏せに倒れている。

(どうなってるの……どうしよう……)

花京院涼子は、鸚鵡の止まった木の下で、傍に茂るツツジの影に隠れていた。

肉体の一部を、鸚鵡のペット・サウンズに食わせると、その人間はペット・サウンズと”同期”する。
それにより、ペット・サウンズを自由に動かし、その感覚を共有することができるだけでなく、スタンドのイシス女神の能力も行使できた。
髪の毛を食われた花京院涼子も、その仕組みを使って、先程ホル・ホースにイシス女神の能力をくらわせた。
ペット・サウンズはスタンドの影響で夜目がきき、涼子は今、鸚鵡の視覚を共有して母家の様子を”見て”いた。

しかし涼子はまだ、鸚鵡を自由自在に動かすとまではいかなかった。集中がきれると”同期”が途切れてしまう。”同期”して、自分でない存在の感覚が入ってきて、自分の感覚を一緒になると混乱した。スタンドを出して動かすとなると、なおさらだった。

花京院典明の部屋にホル・ホースを入れ、イシス女神で攻撃をしかけた途中、母屋から悲鳴が聞こえ、涼子の注意はそちらに向いた。
女の高い悲鳴の後に、男の言い争うような声がして、ガラスの割れる音がし、母屋で何か起こったようだった。
涼子の集中が途切れたことでスタンドは消え、ホル・ホースは頭を振りながら立ち上がった。

身構えた涼子に、ホル・ホースは静かに言った。
──別に怒っちゃあいねえよ、嬢ちゃん。オレがあいつの敵だったのも、殺そうとしたのも事実だからな。
──ただ、今は違う。10年も経って、DIOは消え、オレはあいつとは関係ねえ。
──それに、あいつの親御さん、やばそうだぜ。泥棒か、強盗か……
──こういう荒事はオレの専門だ。ここで待ってな。
──うまい飯の分は働いてやるよ。
そして、右手に銃を現した。
──今度は見えるのか。鸚鵡の力ってやつかね。こいつがオレのスタンド・エンペラーさ。
銃を構えながら、涼子を残して部屋を出ていった。

涼子は典明の部屋で少し待っていたが、不安でたまらなくなり、鸚鵡と共に庭に回って母屋の様子を見にきた。

予想通り侵入者がいた。
しかもホル・ホースは廊下に倒れている。
動けるのは自分しかいない。

(どうしよう……さっきみたいにこの子の、鸚鵡のスタンドで……でも、伯母様や伯父様が起きていて声を聞いたら、スタンド能力の攻撃が伯母様たちにも……)

鸚鵡と”同期”した涼子には、鸚鵡が今まで生きた11年以上の記憶へのアクセスが可能になった。
この10年の鸚鵡の生活は、エジプトの片隅で年老いた女性と、穏やかに暮らす日々だった。
スタンド能力に使う適切な記憶を探すには記憶の量が多く、適切な記憶へのアクセスが困難だった。

さらに、鸚鵡の声を聞かせてスタンド能力を発動させるのも、ハードルが高かった。
鳥籠に布を被せられて連れてこられた鸚鵡は、時々食事を差し入れられて移動して、この杜王町で仮頼宿一樹に渡された。仮頼宿が耳のカケラを食わせて”同期”し、その後清原幸司とも”同期”した。
その2人は鸚鵡の操作に、それぞれしばらく練習を重ねていた。
鸚鵡の声を複数の人間に聞かせ、そのうちの一部の人間にだけ能力の効果を与える。それには、練習の繰り返しが必要だった。

伯父伯母を巻き込まないように、スタンド能力の対象を侵入者だけに絞るのか?
それともそこまで強力でない記憶を選んで、スタンド能力を全員に与えるのか?

どちらにしても、まだ一度しか鸚鵡のスタンド能力を使っていない涼子には、ハードルが高かった。

(でも、でも……このままじゃあ、伯父様も伯母様も……私一人で男2人をなんとかするにはスタンド能力を使うしか……)

涼子の頭上を、流れ星のように、緑の光が煌いた。

「ドラッ!」

東方仗助は、掛け声と共に、花京院邸の洋式部分の屋根の一部を吹っ飛ばした。
屋根に開いた穴から、再度制服を身にまといいつものリーゼントにした仗助に、ハイエロファントグリーンの触手を伸ばした花京院典明が、客間の床に降り立った。
「何だあッ、てめ……」
言い終える前に、仗助のピンクのスタンドが、侵入者の2人の男をふっ飛ばしていた。

花京院典明は、俯き倒れている自分の父と母を認めると、
「父さん!母さん!」
と母に手を伸ばしたが、
その手は母をすり抜けた。
「ッ!」
花京院典明は、母をすり抜けた自分の手を引いて、立ち尽くした。
俯いて床に座り込んだままうごかない母を見下ろし、次に血を流して倒れている父に目を向け、自分の手を見て拳を握りしめ、唇を噛み締めて俯むいた。

そんな花京院典明を横目に見ながら、仗助は、自分のスタンドで壊した屋根を治し、花京院の父母を治しそれぞれソファーに座らせた。
そして、廊下に倒れていたホル・ホースも、傷を治して部屋に連れてきた。
「兄貴、大丈夫っスか?」
「あ……ああ、仗助か? すまねえ、助かったぜ。油断した……」

「……典明お兄……ちゃん……?」
3人が振り向くと、部屋のドアを開けて、花京院涼子が立っていた。

「涼子ちゃ……」
「典明お兄ちゃん!典明お兄ちゃんッ!!」
涼子は走ってきて、典明に抱きついたが、抱きつけずにすり抜けて床に倒れ込んだ。
「……先輩も……平気っスか?」
床に転んだ涼子に仗助が手を伸ばして起こし、立ち上がった涼子は目の前の典明を目を見開いて見つめた。
「典明お兄ちゃん?」
典明は涼子を悲しそうに見下ろして答えた。
「すまない、涼子ちゃん。僕は……僕は幽霊のようなものなんだ。こうして姿を見せて話もできるが、肉体はなく触れられない……」
「典明お兄ちゃん……」
涼子の丸く大きな瞳に涙が浮かび、頬を次々とこぼれ落ちていった。涼子の横で仗助は溢れる涙を見ていた。
「僕は……死んでいるから……10年前に」
典明は自分に言い聞かせるように付け足した。

「花京院に嬢ちゃんよ、カンドーの再会を邪魔して悪いが、まだ終わってねえぜ」
ホル・ホースがテンガロンハットを被り直しながら、3人に向かって歩いてきた。
「どういうことっスか、兄貴?」
「オレは廊下まで来て、少し空いてるドアの隙間から部屋をのぞいた。そんで、そっちの伸びてる連中2人を見てエンペラーを構えた。その時に後ろからガツンとやられたんだ。面目ねえことだが、直前まで気配も何も感じなかった。」
「ハイエロファントグリーン」
すぐさま花京院典明が自分の緑のスタンドを出現させた。
ハイエロファントグリーンは一度人の形をとったが、足元から紐状に崩れて行って、全身が多数の緑の触手となった。何本もの緑の触手がさっと床を這い、部屋の外へと延びていった。
涼子は、部屋の外へ延びていく緑の触手を目で追っていた。それを見た仗助は、涼子もスタンドを見ることができるようになったと気づいた。

多くの触手のうちの2本が、父と母に向かい、そっと体に巻きついた。
母は花京院典明にそっくりな顔をしており、父は体格がよく似ていた。この2人から彼が生まれたのは明らかだった。

仗助と鸚鵡のスタンドの能力によって現れたこの典明は、本人の言うとおり幽霊のような存在だった。ものに触れることはできず、人の体もすり抜けてしまう。
だが、彼のスタンド・ハイエロファントグリーンは違った。
スタンドは精神の具現であり、物体や人間に触れ、スタンド使いと感覚も共有できる。
今の花京院典明は生前と同じように、スタンドを発現させることが出来た。
幽霊となった典明は、スタンド越しに両親を抱擁しているのだ。10年ぶりに。

父母はまだ意識を取り戻しておらず目を閉じたままだ。
二人を見て心配そうな表情をした典明に、仗助は声をかけた。
「親父さんとお袋さん、だろ。もう治したぜ、今の怪我はよお」

「すまない、仗助君……今の?」
仗助を振り返って礼を言おうとした典明は、引っかかったように聞き返した。

仗助は余計なことを言ったと少し後悔したが、頭をかきながら典明の母に近づくと、そっと彼女の左手を持ち上げて見せた。
左手首にスパッと横切る古い傷があった。
「な……」
典明は切れ長の目を見開いて絶句した。

「あの後の夏、典明お兄ちゃんの誕生日に、伯母様……」涼子が続けた。
「……こんなことになったのは、私が典明をわかってあげられなかったからだって……自分を責められて、それで……」
「そ、そんなッ!違うッ!」
花京院典明は、涼子を見て母を見て、首を振って声を荒げた。
「母さんのせいじゃあないッ!僕は……僕が……ッ」
自分の死を静かに受け入れ、その後も黙って仗助についてきた典明だったが、こいつもこんなふうに動揺するのか、と仗助は思った。

「あの……あのDIOが、典明お兄ちゃんを操って連れて行ったんでしょうッ!」
涼子が典明を遮った。
「そして、典明お兄ちゃんをッ……許さない……許さないッ!絶対に許さない……」
涼子は両手を握り体を震わせて俯いた。
悲しみと憎しみが目からこぼれ落ちた。
涼子も聞いたか、あの恐ろしいDIOという男が花京院典明を殺したと。聞いてしまったのか。

返って典明は冷静さを取り戻してきたようだった。静かだが悲しげな表情で涼子を見つめた。

典明は涼子に手を伸ばし、途中でやめた。
代わりに彼女の前に立って正面から見つめ声をかけた。
「……涼子ちゃん。悲しい思いをさせてしまって本当に申し訳なかった。君も、父さん母さんも。」
涼子は涙に濡れた顔をあげて典明を見た。

「確かに僕は一時DIOに操られてしまっていた。
許せなかった……僕を操ったDIOも……操られてしまった自分自身も。
だから僕は奴を倒そうとエジプトに向かった。
戦い敗れてしまったことは残念だが、奴は僕の仲間が倒してくれた。
僕は自分の力の限りを尽くした。後悔はしていない。」
典明の言葉を聞いた涼子の表情は、歪んでいった。

「あの時……エジプトで私が迷って迎えにきてくれた時、DIOに何かされて操られてしまった……そして、その後、それが解けた……」
「そうだ。DIOの肉の芽というのを植え込まれて支配されていた。僕の仲間がそれを抜いてくれて……」
「典明お兄ちゃんは、ずっと前からスタンド使いだったのね」
「……ああ、多分生まれた時からずっと……」
「じゃあ、どうして?」
涼子は典明を見上げ、典明は不思議そうに見返した。

「どうして言ってくれなかったの、スタンド使いだって!
肉の芽とか支配から解放されたなら、どうして戻ってきてくれなかったの!!
典明お兄ちゃんの家はここでしょう?この杜王町でしょう?
ずっとずっと探してた、ずっと待ってたのよ、私も伯父様も伯母様も、ずっとずっとッ!
どうしてよ、どうして私たちのところに戻ってきてくれなかったのッ!」
涼子は典明を見つめて捲し立て、
「どうして……どうして……」
涙をこぼして顔を覆った。

典明は困惑した表情で黙って涼子を見つめ返した。
なんと言ったらわからないようだった。

息つまる空気に困った仗助がホル・ホースを見ると、ホル・ホースは男2人を見ていた。
家主より先に目を冷まし始めた侵入者は、そっと床を這って部屋の出口に向かっていた。
銃を向けたホル・ホースを制して、仗助は自分のスタンドを発現すると、両手で男二人の首根っこをふん捕まえて空中に持ち上げた。
「お早いお目覚めっすねーおっさんたちよおー」
「な、なんだこのガキどもは?」
「お、おい、何しやがんだてめえ……おろしやがれ」

仗助と男たちの声に涼子と典明が振り返った。
「色々言いてえことがあるのはわかるが、嬢ちゃんよお。まだここん家にはゴウトーの仲間が潜んでやがる。しかもこいつらより上手のやつだ。早めに見つけて叩いた方がいいぜ」
ホル・ホースは涼子にいい、典明を見て続けた。
「なんか探し物をしているようだったぜ、こいつら。日本語がよく聞き取れなかったんだが、宝石だか石だか言ってた」
典明は男2人に視線を向けた。先ほどまでとは異なり敵意のこもった冷たい視線だった。
「ハイエロファントグリーンを母屋に這わせたが、誰か隠れている様子はない。すると離れか、蔵だろう」
「「くら?」」
仗助とホル・ホースが聞き返した。

「ああ、うちは古い家系でね。先祖から代々伝わった古い書物や宝物が多くあるんだ。蔵にまとめてしまってある。それを狙った泥棒なら、そっちへ向かった可能性がある」
と言いながら、ハイエロファントグリーンの触手を男二人に巻きつけ、口まで塞いでしまった。
「ちょうどいい。蔵に行って残りの賊を探しつつ、こちらのお二人に何を探しにいらっしゃたのか伺うことにしよう。……うちの蔵の壁は厚いからね」
丁寧だがゾッとする言い方で典明は男たちにいい、ホル・ホースと仗助を見た。
「仗助、一緒に行ってやれや。嬢ちゃんと親父さんとお袋さんは任せろ。今度は油断しねえよ」と仗助にしゃくりながらホル・ホースは答え、スタンドを消して男2人を離した仗助は「へーい」と両手を頭の後ろに回して答えた。

「典明お兄ちゃん!」
涼子が典明に声をかけ、典明は涼子を見返した。
「……僕のスタンド、ハイエロファントグリーンの触手を1本残していく。何かあったら呼んでくれ。すまないが父さんと母さんを頼む」
涼子が少し不安そうにうなづくと、典明はくるりと背を向けて空いたドアから出ていった。その後からハイエロファントグリーンの触手でぐるぐる巻きにされた男二人が、ずるずると床を引きずられていく。
続けて部屋から出ようとした仗助にホル・ホースが声をかけ、「面倒だから殺させんなよ」と続けた。
うなづいた仗助は、両手を頭の後ろに回したまま、花京院典明の後について客間を出て行った。

入れ替わりに鸚鵡が飛んで部屋に入って来て、涼子の肩にとまった。
鸚鵡は、「ク?」と小さく鳴いて首をかしげ、涼子の顔を見つめた。
涼子はそっと鸚鵡を撫でた。

オウムの入ってきたドアから、人影が伸びた。



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