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帰宅ラッシュ時に見た「ある光景」

帰宅ラッシュのピークには、まだ少し早い時間帯。それでも、「異音による安全確認」の影響で、電車のダイヤは大幅に乱れていました。ホームも、車内も、ピーク時に近い混雑ぶり。押し合い圧(へ)し合いでモミクチャの中、イライラもピークに。「(い)ってーな!」「(な)んだ、この(やろー)!」。そこここで、小競り合いが起き、不穏な空気が漂います。

ある乗換駅のホームで、白杖を手にした女性が電車を待つ最前列に立っていました。どっと乗客が降りた後、乗り込むタイミングが分かるだろうか。後ろに続く乗客の一群に押し倒されないか。不安がよぎりました。

すると、隣にいたスーツ姿の男性が、すっと斜め後ろに立ち、語りかけます。それに、女性はうなずき、車内へ。男性も、後方の乗客の波を遮るように、女性に続きます。背後からの容赦ない「圧」が、女性に及ばないよう、上背のあるその体で「盾(たて)」となっていました。

女性が降りる際も、他の乗客をガードするように、いったんホームへ。そして、女性がホームの安全な場所に降り立ったのを見届けると、何ごともなかったように、また乗車しました。

一方、ホームでは、降り立った女性に、年配の女性が近づき、何か語りかけます。うなずいた女性の傍らに、年配女性は寄り添い、ホームを足早に行く一群とは少し距離を置き、ゆっくり歩みを進めました。

どんなやりとりがあったかは、想像の域を出ません。でも、白杖を手にした女性の表情に、戸惑いや困惑は感じられませんでした。ひとり勝手な想像で、ほっこりとしているだけなのかもしれませんが、それでも、満員ラッシュで殺伐とした中にあって、それぞれに、大切な何かを見失わないお二人の姿を、そして、偶然かもしれない「見事なリレー」を、感慨深く見つめていました。

国土交通省の調査によると、2023年度、ホームから転落した2293件のうち、視覚障害のある人のケースは57件。2020年度の調査では、回答した視覚障害者うち、36%が過去に転落経験を持っていたそうです。もちろん、これは「ラッシュ時」に限ったデータではありません。

危険なラッシュ時を避けて利用できないのか。そんな声も聞こえてきそうです。

でも、それを求めるのは、変な気もします。

ほかにも、車いす、ベビーカー、大きなスーツケース…。満員の車内で、迷惑だと感じる人がいる一方、さまざまな事情で、そのラッシュ時に乗り合わせざるを得なかった当事者の人たちは、「肩身の狭い思い」をしているのではないか。そう、心配になります。

こんな時の「肩身の狭い思い」って、なんか、変だな、と感じます。そして、息苦しさも。

ふだんは見えない「社会の壁」が、突然、姿を現した。そんな感じでしょうか。

でも、その壁を、いとも簡単に取り払う人たちもいる。あのお二人のように。そのことに、勇気をもらった気がします。

きょう11月15日、「東京2025デフリンピック」(11月26日まで)が開幕します。「聞こえない」「聞こえにくい」選手のための国際スポーツ大会(オリンピック)。1924年にフランスで夏季大会が始まり、現在は、ほぼ4年に一度、夏と冬に開催されています。夏季大会は今回が25回目。夏冬含め、日本での開催は初めてです。

ここにも、「聞こえない」「聞こえにくい」という「見えない壁」があります。でも、それは乗り越えられる。そのことを教えてくれます。

定期健康診断の聴力検査で「異常なし」とされても、大勢の集まる中での会話に「聞き取りにくさ」を感じることが少なくありません。ふだんは大きな声で談笑している人が、会議になると、か細い声になる。議事録を担当する際には、泣かされます。

自分も感じる「見えない壁」を、一緒に乗り越えるヒントをつかむため、会場に足を運んでみたい。そう思います。

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