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蝉時雨と探偵と

古い型の白い軽バンの車内は朝からずっと蒸し風呂だった。
張り込み開始からすでに六時間。
探偵Aはペットボトルのぬるい水をあおりながら外から降り注ぐ蝉の声に顔をしかめた。


探偵A:「……なあ、蝉時雨ってさ、なんか降り注ぐって感じだよな?」  

探偵B:「比喩としてはそうだな、情緒の言葉だ」

探偵A:「でも俺らに降ってるのは蝉じゃなくて暑さと暇だけだよな」  

探偵B:「まあ、な」


探偵A:「蝉って一ヶ月くらい生きる説あるんだよな?」  

探偵B:「そうらしいな、蝉の寿命は意外と長い」  

探偵A:「じゃああいつら一ヶ月もジジジジジッッッ!!って叫び続けてんのか……根性あるな」  

探偵B:「繁殖のためだ、目的があると強いんだよ」

探偵A:「俺たちの目的は……暇つぶし?」  

探偵B:「……仕事だ」


探偵A:「でも蝉時雨って言葉は綺麗だよな、軽バンで汗だくの俺たちとは真逆の世界」  

探偵B:「ただの騒音だろ」  

探偵A:「……風情ねぇな」



探偵A:「……なあ」 

探偵B:「ん?」  

探偵A:「蝉時雨ってさ、こう……降り注ぐって感じじゃん?」  

探偵B:「さっき聞いた」  

探偵A:「じゃあさ」いつになく真剣な顔で語る。

探偵A:「俺たちにも依頼時雨とか降ってこねえかな、バラバラッ!って依頼が降ってきてさ」  

探偵B:「願望がうるさい」

探偵A:「いいだろ別に」


そのときだった。
古い型の白い軽バンの窓にバチンッと何かが激突した。  
二人の探偵が同時に振り向く。


探偵A:「……蝉?」  

探偵B:「だな」


次の瞬間
「ジジジジジジジジッッッ!!!!!」

蝉が窓の隙間から、まさかの車内へダイブしてきた。


探偵A:「ぎゃあああああああああああああ!!!」

探偵Aがシートの上で跳ね回り、蝉は車内で暴れ回る。
古い型の白い軽バンは小さな地獄絵図と化した。


探偵B:「落ち着けよ」

探偵A:「なんで入ってくんだよ!こえーよ!!」  

探偵B:「お前の声のほうがうるさいぞ」

探偵A:「うるせぇ!てか助けろ!!」

探偵Bはため息をつき、片手で蝉をひょいと掴んだ。  
慣れた手つきで窓の外へ放り出す。

蝉は元気に飛び去っていった。


探偵A:「……はぁ……死ぬかと思った……」  

探偵B:「蝉に殺される探偵なんて聞いたことがない」

探偵A:「いや、俺は今日その可能性を感じた」  

探偵B:「あ、そう」


その直後、対象者宅の玄関が開いた。
対象者は大きなボストンバッグを抱え
脇目も振らずに迎車タクシーへと乗り込んだ。

ガタピシと音を立てる軽バンのエンジンに火を入れ、探偵Aは追跡態勢に入る。



探偵A:「さっきの蝉さ、ひょっとしたらあいつが雇った刺客だったんじゃねえの?」

探偵B:「……ずいぶん虫のいい話だな」


蝉時雨の情緒は粉々に砕け散ったが
奇妙な暑さと終わらない日常だけは相変わらず車内に降り注いでいた。


終わり


探偵A、探偵Bの人物紹介

彼らのその他エピソード

The Two Detectives - Theme


不倫・浮気、独身偽装についての真面目なコラム


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