🩺無惨様のパワハラ会議──胃腸外科編
地方の総合病院、朝の医局カンファレンス。
張り詰めた空気の中、今日も静かにその人が口を開いた。
「昨日、外来に受診した患者を“単なる便秘”と診断して下剤を処方し、帰宅させたのは誰だ?」
声の主は、胃腸外科の医局長。
通称「無惨局長」。
彼が名を呼ぶまでもなく、場の空気が一気に凍りつく。
新米医師
「あ、あの……数日便が出ていないとのことで、排ガスはあると申告されておりましたので……」
無惨局長
「本日その患者が急変し、緊急オペの結果――腸の癒着によるイレウスと判明した。」
「貴様、レントゲンの所見をどう読んだ?」
新米医師
「し、聴診ではグル音もあり、腹部の緊張も左程では……」
無惨局長
「で、単純レントゲンだけで帰宅させたと?」
「なぜMRを撮らん? なぜ血液検査をしない? 炎症値は既に上がっていたはずだ。」
新米医師
「そ、それは……」
無惨局長は静かにカルテを手に取る。
ページをめくる指が止まるたび、空気が重くなる。
無惨局長
「しかもだ。前日から嘔吐、一ヶ月前から癒着部位の鈍痛。
オペ外来の報告では“癌性癒着”の可能性が指摘されていた。」
「貴様のカルテ、なんだこの薄っぺらさは!」
「“便秘”と一行書いただけで診断した気になるな!!」
新米医師
「も、申し訳ありません……もっと検査をすべきでした!」
無惨局長
「しかも、癒着部位に高圧浣腸の指示?!」
「腹腔内に腸液が漏れている症例に、浣腸を??」
新米医師
「看護師が“排便あり”と報告を受けたので……」
無惨局長
「では貴様、自分の目で確認したのか?」
新米医師
「そ、それは……」
無惨局長
「排泄物の色、血性の有無、臭気、確認したのか?」
新米医師
「い、いえ……申し訳ございません……」
無惨局長は、カルテを机に静かに置いた。
その表情は怒りでもなく、諦めでもなく、ただ冷たい。
無惨局長
「見てもいないのに“改善”と書くとは……」
「貴様のカルテは文学か? 希望的観測の詩でも詠んでいるのか?」
(医局、沈黙)
無惨局長(トーンを変えて)
「──で、本日の緊急オペのせいで、私は午後に行く予定だった“新規オープンのカフェ”のパフェを逃した。」
新米医師
「も、申し訳ございません! 局長のお好きなスタバのフラペチーノ・クリーム増し増しを、すぐにっ……!」
無惨局長
「……よかろう。だが、豆乳変更だ。胃がもたれる。」
新米医師
「はいっ!豆乳増々、承知しましたぁぁぁぁ!!!」
(医局に土下座音が響く)
☕️後日談
その日の夕方。
スタバにて、局長はフラペチーノを啜りながらぽつりと呟いた。
「……あの新人、ようやく“腸の奥”を見る目がついてきたな。」
