いい人、いいワイン。 #5 岡田岳樹さん(フォリウム)
人には、多かれ少なかれ「他人がやらないことをやりたい」という欲求がある。 その根には、冒険心や反骨心みたいなものが潜んでいるのだろうと思う。
興味深いのは、その欲求がしばしば本人の思惑を超えて、ジャンル全体の魅力に貢献してしまう点である。 同じことをしていては目立たず、大手に勝てるはずもない。だからこそ小さな挑戦者は、「自分は違うことをやろう」と決断する。
そうした冒険者の一歩が、結果的にそのジャンル全体を「単調さ」から救い出すのだ。 人と違うことをしたいという衝動は、ときに多様性と深みをもたらす大切な原動力になる。
さて、本題に入ろう。 今日紹介したいのは、まさにこの「人と違うことをやらずにいられない」タイプの人物。ニュージーランドで活躍する日本人ワインメーカー、岡田岳樹さんである。
名前からして“オルタナティブ”
岡田さんのワイナリーは「フォリウム」。
場所はNZ最大の産地マールボロだ。 日本人醸造家の多くは自分の名前を冠するのに、岡田さんはあえてラテン語で「葉」を意味する FOLIUM を選んだ。
「俺が」ではなく「自然と土地が主役」。しかも英語もフランス語でもなく、それらをさかのぼったラテン語でつけた。この時点で、すでに少し変わり者の香りが漂っている。
キャリアもまた“普通じゃない”
岡田さんが最初に虜になったワインは、フランスワイン。北海道大学農学部在学中のことだ。卒業後、カリフォルニア大学デービス校でワイン造りを学び、ニュージーランドへと渡った。 フランス資本の名門クロ・アンリで経験を積み、その後独立してフォリウムを設立したのである。
やはり“普通じゃない”オルタナ感がある。
もともとフランスワインが大好きなのに、フランスには行かなかった。 UCデービスという新世界のトップ校で学び、新世界の中でも群を抜いて歴史の浅いNZでつくりながらも、心の中でお手本としているのはフランスのワイン。
いわば、「フランス愛 × 新世界精神」という一見矛盾した組み合わせから生まれたのが、フォリウムなのである。 そこにこそ、このワイナリーならではの面白さがある。
最大のこだわりは「水」
マールボロといえば乾燥地帯。ネルソンの緑豊かな景色から車で入ると、いきなりハゲ山が広がる。降水量が少ないため、多くの生産者が灌漑をしてブドウに水を与える。やらなければ枯れてしまうのだから当然だ。
しかし岡田さんは無灌漑。
「いやいや、無茶でしょ」と他の生産者は口を揃えて言ったそうだが、現在、フォリウムの畑ではブドウは驚くほど元気に育っている。
なぜ、水やりをしないのか。その理由は明快だ。
「小さな造り手が価値を持つには、大手と同じことをやってはいけない。」
その考えのもと行き着いた答えは、ロワールのようなスタイル。あちらでは灌漑は禁止が基本だ。
調べると、マールボロの降雨量はロワールより15〜20%少ない程度。岡田さんが「これなら勝負できる」と考え、クロ・アンリ時代に試験的に一部の畑の水やりをやめてみた。
そして、「行けるぞ」と踏んで、独立後は自分の畑を無灌漑にしたのだった。
自分軸のワイン造り
岡田さんはこう語る。
「栽培や醸造の技術が上がって、世界のワインの味が似通ってきていると思う」
「だからこそ、自分が本当に美味しいと思うスタイルを追求したい」
彼にとってそれは典型的なニュージーランドのスタイルではなく、最初に感動したサンセールをはじめとするロワールの味わい。その哲学をマールボロで貫けば、唯一無二のワインになると信じているのだ。
そして、その信念は結果として実を結んだ。今年、ニュージーランド最大紙 NZ Herald の「VIVA magazine」が選ぶ Top 50 Wineries にフォリウムがランクインし、ベスト・ソーヴィニヨン・ブランを受賞したのだ。
ワインの印象
マールボロの多くのソーヴィニヨン・ブランは、パッと広がるグレープフルーツやパッションフルーツ、青草の香りが売りだ。しかしフォリウムはあえてそういった「チオール系」の香りを控えめにしている。
柑橘やハーブが静かに寄り添う香り。口に含むと旨みと果実感、しっかりとしたミネラルが広がり、酸が余韻まで伸びていく。上品で余白のある味わいだ。
シャルドネは「個性がないという個性」を逆手に取り、ストーンフルーツやローストアーモンドの柔らかさを素直に引き出している。香りも味わいもじんわり広がる。余韻にはやはりミネラルが光る。
ピノ・ノワールも同様にエレガントで、果実と土のニュアンスが絶妙に調和する。ロワールのピノを思わせる、控えめながら芯のある美しさを湛えている。
マールボロの典型は、明るいトーンで鳴り響き、誰もが口ずさめるポップソングのような存在だ。それに対しフォリウムは、複雑なマイナーコードを静かに奏でるオルタナな曲。派手さはないが、耳を澄ませるほどに深みが現れ、聴き込むほどに心に沁みてくる。そんなイメージだ。
単調さから救う存在
大手のマールボロワインは確かに美味しい。派手でわかりやすく、それが世界に通用する個性となり、1980年代に一気にブレイクした。
しかし、成功から40年。同じようなスタイルばかりと批判されることも増えてきた。
だからこそ、あえて大手と違うことをやろうとする小さな挑戦者――フォリウムのような存在が、いまのマールボロを「単調さ」から救っている。
その異端の挑戦こそが、この産地に新しい深みと面白さを与えていると、僕は思う。

