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年金、繰り下げるほど損!?  インフレで『最適解が逆転』する衝撃の真実(通説をくつがえすNISA・年金戦略⑨)

 65歳から受け取れる公的年金。

 60歳になると繰上げ受給できるが、年金は減額される。
 1年早めるごとに4.8%減り、60歳受給だと24%減。その状態が一生続く。

 逆に66歳以降に繰り下げると、年金は増額される。
 1年遅らせるごとに8.4%増え、75歳まで繰り下げれば84%増。その状態が一生続く。

 60歳時点の平均余命は約25年。仮に85歳まで生きた場合の年金総額を見てみよう。

 65歳で年200万円(21年間で総額4200万円)もらえる人をモデルに、受給開始時期を変えて計算。

 60歳受給なら
 200万円 ×(100%-24%)=152万円を26年間 → 合計3952万円。

 70歳受給なら
 200万円 ×(100%+42%)=284万円を16年間 → 合計4544万円。

 75歳受給なら
 200万円 ×(100%+84%)=368万円を11年間 → 合計4048万円。

 グラフにするとこんな感じ。

 つまり、4年繰り下げた69歳受給が最も有利に。

 ちょっと待てい!!


 世間ではこのような説明が多いが、

 今はインフレなのだ!



年金とインフレって、関係あるの?


 めちゃくちゃある。

 というか、年金生活者にとって最大の敵はインフレだ

 なのになぜか多くの記事がそこを無視して「繰下げ有利」と結論づけている。

 そこで今回は、インフレ時代において年金は繰上げと繰下げのどちらが有利かを考える。

 当記事は「数字で語る」がモットーなので、金融の基本である「現在価値(割引)」を使って検証していく。


難しい話は聞きたくないのだ ・ω・

 
 まあまあ、そう言わずに。
 できるだけ簡単に説明するので、少しだけ付き合ってほしい。

1.物価上昇で将来のお金は目減りする

 今、手元に100円あるとする。100円のポテチを買えば残金はゼロ。

 では、年2%のインフレが起きているとしよう。1年後、ポテチは102円になる。つまり同じ100円では買えない。

 言い換えれば、100円の価値が2円分下がったということだ。

2.インフレ時代には金利がある

 日本銀行の役割の一つにインフレの抑制がある。物価上昇を抑えるために金利を上げると、消費が抑えられ、物価は下がりやすくなる。

 2026年4月現在、インフレ率は2~3%、政策金利は0.75%。個人向け国債の利回りはおよそ年1.5%だ。

 つまり、国民は誰でもほぼリスクなしで、年1.5%の利回りを得られる

 例えば1万円で国債を買うと、1年で150円の利息(税引き前)がつく。100円あたりで考えると1.5円。つまり現在の100円と1年後の101.5円は同じ価値になる。

 金利のある世界では「お金は利子を生む」のが前提。その分、何もしないお金の価値は相対的に目減りしていく。

3.割引率という考え方

 将来のお金の価値は、物価上昇と金利のダブルパンチで目減する。

 正確な定義は教科書に譲るとして、本記事では次のように考える。

インフレ率 + 金利  ≒ 割引率
  2%  + 1.5% = 3.5% 

※ 本記事では分かりやすさ重視のモデルを使用

 この割合で、将来のお金の価値は毎年下がって行く。

 1年後には96.5%、2年後には93.4%、3年後には90.2%。

 100円は、5年後に約84円、10年後に約71円。20年後には約50円になる。


年金は物価上昇に応じて増える……はずだった

 
 年金額は毎年改定されて、物価上昇が反映される仕組みになっている。だが、少子高齢化で働き手が減る中、増額にはブレーキがかかる。

 それがマクロ経済スライドだ。

 ざっくり言うと、物価上昇率と賃金上昇率のうち低い方に合わせて年金は増えるが、そこからさらに調整分が差し引かれる。

 この調整幅がおおむね▲0.4~▲0.6%程度。ちなみに今年は、

(厚生労働省発表)
物価上昇率3.2%
賃金上昇率2.1%
マクロ経済スライド▲0.2%
 ⇒ 年金改定率:2.1%-0.2%=1.9%

 物価3.2%に対して年金1.9%。賃金が追いついてないのに、年金が追いつくはずがない。

 結論:インフレ時代、年金は確実に目減りする。



さあ、シミュレーションだ!


 厚生労働省の発表値(インフレ率3.2%)、個人向け国債の利回り1.5%、さらにマクロ経済スライドの過去10年平均(▲0.3%)を前提に、受給開始年齢ごとの年金総額を『現在価値』で計算してみた。

 その結果がこちら。

 ……やっぱり!

 なんと、60歳受給が最も有利という結果になってしまった。


でもこれ、肌感覚に合っているのか?

 
 60歳の会社員Aさん。
 65歳まで働くか、早めに退職して年金生活に入るかで悩んでいる。

65歳受給の場合

 物価上昇に加えて銀行預金にも金利が付くため、5年後に受け取る予定の200万円は20%以上目減りし、現在価値に換算すると約159万円にすぎない。

 翌年は名目上の年金額こそ増えるが、インフレには追いつかず、実質的な価値は約156万円まで下がる。

 実感としてはどうか。

 2021年からの5年間で、米や卵、鶏肉、マヨネーズなどの価格は大きく上がった。お菓子も価格据え置きのまま内容量が減る、いわゆるステルス値上げが続いている。

 電気・ガス・水道代や家賃の上昇は比較的緩やかだが、年金生活者にとって支出の多くを占める食料品の値上げは影響が大きい。

 さらに5年後の2031年にはどうなっているのか。想像するだけで不安を感じる水準だ。

 一方、老後の安定資産とされる債券投資は、過去20年の平均利回りがおよそ3%。

 仮に200万円を5年間運用すると、複利が効いて約232万円になるし、何もしないと32万円の機会損失となる。

 つまり5年後の200万円が現在の159万円の価値しかないというのは、肌感覚でも納得できるはず。


60歳受給の場合

 年金は200万円から152万円に減額される。物価上昇に合わせて受給額は徐々に増えるが、65歳時点でも約175万円と、元の200万円には届かない。

 それでも、5年前倒しで受け取る年金はインフレの影響がまだ小さい。その現在価値を合計すると、約734万円になる。

 65歳以降も受給額の少ない状態が一生続くが、『先にもらえる5年分』が効いて、トータルでは有利な結果となる。


70歳受給の場合

 繰下げ受給の効果が大きく、年金額は284万円まで増える。だが現在価値で見ると約179万円に過ぎず、10年分のインフレがかなり効いている。

 さらに、85歳まで受給期間は16年しかない。そのためトータルでは60歳はおろか65歳受給にも及ばない。

 となると、75歳まで繰り下げた場合は……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


インフレなんかすぐ治まるのでは?

 
 下図は1980年代以降のインフレ率の推移。

消費者物価指数前年比

 分かりにくいので、時期を3つに分けて平均を取ってみる。

                インフレ率     
日本躍進~バブル崩壊(~1991年)   2.2%
失われた30年(1992年~2021年)   0.3%
株価復活期(2022年~)        2.9%

 デフレ時代があまりに長かったため、日本人はインフレに慣れていない。

 だが世界的に見ればデフレの方が例外で、インフレこそが通常の状態。

 実際、日本銀行も物価上昇率2%を目標に金融政策を行っている。

 つまり、長期的に年2%程度のインフレを前提に考えるのは、決して非現実的ではない。


念のために、数字を変えて確認

1.インフレ率2%、金利1.5%の場合

 日本銀行の金融政策がうまく機能し、日本経済が安定したとしても、60歳受給の優位性は変わらない。


2.長生きリスクを考慮

 90歳まで生きるとしても、それでも60歳受給が有利という結果は同じ。ただし70歳受給との差はかなり縮まった。


3.運用する余裕がなく、年金を全部使う人の主張

会社員A「年金は全部使うし貯金なんかしない。つまり金利はゼロ。物価上昇分だけ考えればいいんじゃないか?」

筆者「……まあ、その前提でも見てみましょう」

会社員A「ほら、差が縮まったじゃないか。年金で運用なんて考え方自体がおかしいんだよ。うん、この方が肌感覚に近い!」

筆者「自分は運用しないという前提なら、その感覚は自然です。ただ現実には、世界のお金は増え続けています。自分が何もしなくても、お金の価値そのものが少しずつ薄まっていく。それがインフレです」

会社員A「そんなバカな……完全にとばっちりじゃないか!」

筆者「そう、とばっちり。でもそれが現実」

会社員A「くそう……!」


4.64歳までは公的年金等控除が少なかったはず

会社員A「そうだ! 公的年金等控除は」

筆者「64歳以下は60万円、65歳以上は110万円。ただし差額は50万円。税率5%なら年2.5万円程度です。今回の差(数百万円規模)をひっくり返すほどではありません」


結論

 最初に断っておきますが、年金は金融商品ではないため、現在価値だけで判断するのは適切ではありません

 繰下げ受給が有利とされているのも、実額ベースでみれば実際その通りですし、毎月の受給額を重視する人には繰上げ受給は向きません。

 また年金には、障害年金遺族年金など保険機能もあり、年下の配偶者がいる場合には加給年金もあります。本記事ではそれらすべてを織り込んでいるわけではありません。

 さらに、前提条件(インフレ率・金利・寿命)によって結論も変わるし、あくまで一例として参考にしてください。


――それでも。

 インフレ時代においては、「早く受け取る」という選択が、これまで以上に合理的になる可能性があります。

 年金は、『いつもらうか』で大きく価値が変わる制度です。

 だからこそ、世間の常識をそのまま信じるのではなく、自分の前提で一度考えてみることが重要です。


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