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気性難のエピファネイア産駒に対する「距離短縮」が有効ではない理由

エピファネイア産駒にとって永遠の課題となっている気性難と「距離短縮」による成績悪化。
本来有効とされる気性課題克服のための方法論がエピファネイア産駒においてむしろ逆に作用することが多いのはなぜなのか。




古馬になるとエピファネイア産駒の出走平均距離が減少?

先日、X(エックス)で興味深いデータを目にしました。
キズナ産駒とエピファネイア産駒の年齢ごとの「出走平均距離(芝)」をまとめたものだったのですが、それを見ると近年は番組編成の変化などもあってか、2、3歳では両産駒共に出走平均距離が伸びている傾向にあります。

他方で、4歳以上のいわゆる古馬になってくると、キズナ産駒は2、3歳と同じく4歳以上でも出走平均距離が伸びる傾向なのに対して、エピファネイア産駒については出走平均距離があまり伸びず、逆に短くなる傾向さえ見て取れるのです。

このデータを上げておられた方(Mahmoud氏)はミオスタチン遺伝子から見ればキズナ(C/T型:中距離型)とエピファネイア(T/T型:長距離型)では本来は産駒の傾向が逆になるはずだが、気性的な問題からエピファネイア産駒は長めの距離への出走を断念せざるを得なくなっているのではないかと分析しておられます。

普段からシーザリオ系を多少はウォッチしている人間からすると、この見解は非常に的を射ており、エピファネイア産駒の古馬成績の不振にも関係する重要な指摘でもあると思います。
※専門家の方の意見に対して、妙に上から目線の物言いですみません。

これは興味深いデータです




エピファネイア産駒に「距離短縮メソッド」は効果が薄い?

このデータとMahmoudさんの説明を私なりに言い直してみると、「エピファネイア産駒は肉体的には長距離適性を秘めていても、気性的に長い距離では無理だと判断され、本来の適性より短い距離のレースに出走している」になります。

しかし、肉体の適性と出走するレースの距離が合致していないので、気性的には短い距離が合いそうに思えても、実際に短距離を試すと「体がついてこない」ということになります。

本来、レースでかかるタイプの気性難を抱える馬を短距離にシフトしていくやり方は正攻法であり、競馬関係者の間で「気性を考慮して距離を短くする」という対策は一般的なものだと思われます。

エピファネイア産駒の場合は母父ディープインパクトのような「長距離適性」配合も多いわけですが、こうしたタイプの馬でも気性の問題への対応策として短距離レースに出走することは珍しくありません。

しかし、そうなれば何が起こるかと言えば、自分の適性外の距離を走らされることになるのですから、成績が伸びるはずもなく、だんだんと成績が低迷し、それによって引退の時期が早まることにもつながります。

さらに、エピファネイア産駒において「距離短縮」という方法は「本来の適性」とのズレを生じさせるだけではなく、気性の問題を改善するよりも悪化させる場合が多いのではないかと思われます。

というのも、エピファネイア産駒の気性難は単にペースが遅くてかかるといよりもレース中にアクセルもブレーキもうまく利かなくなる「暴走モード」に入ってしまうタイプが多いからです。
※競走馬の操縦を「アクセル」や「ブレーキ」で説明するのは個人的にはあまり適切ではないかもと思うのですが、他の言い方も思いつきません。

「エピファネイア産駒で逃げてはいけない」ということがよく言われますが、その理由は逃げている状態が最も「暴走モード」に近い状態であり、逃げるという経験そのものも若いうちは特に馬自身に定着しやすい(癖になりやすい)からではないかと思われます。

したがって、競走生活の初期段階に逃げた経験があると、馬自身が勝手にアクセルを踏んで逃げる状況を作り出そうとし、騎手による修正を受け付けずに「暴走モード」に突入しやすくなってしまうのだと考えられます。

この「暴走」はペースが遅いことによって「かかる」という事象とは区別したほうがよいのではないかと思われ、要はアクセルを入れるタイミングやブレーキを騎乗者がコントロールできないのですから、距離を短縮しても「暴走」自体は続くことになります。

見た目上は周囲の馬が速いので「かかったり」、「暴走したり」はしていないように映りますが、おそらく実態としてはうまくスピードのコントロールができないまま長距離適性の馬が短い距離のペースに無理をしてついて行っているだけなので、当然いい着順を望むことはできません。

また、これも当然ながら短い距離では序盤からアクセルを意識的に踏んでいかなければ置いて行かれますので、騎手自身がそのレースで勝とうとすればするほど「暴走」を修正する機会自体も失われてしまうことになります。

このように、本来は気性の問題を改善する方法である「距離短縮メソッド」が、肉体的な「長距離適性」と齟齬をきたすため、また気性をかえって悪化させて「暴走」させてしまうため、エピファネイア産駒にとっては逆効果となる可能性が高いと考えられるのです。
※この記事内での「距離短縮メソッド」というワードは、単に前走より短い距離のレースに出走するということではなく、「気性改善を目的として主に1600以下のレースに距離短縮していくこと」だと思ってください。

「距離短縮メソッド」が使えない?




では「暴走」を防止するにはどうすればいいのか?

それでは、エピファネイア産駒が暴走しないように育成するにはどうすればいいのでしょうか?

もっともシンプルな方法はレースにおいてできるだけアクセルを踏むタイミングを遅らせて、前半は周りの馬のリズムに合わせることを覚えさせるというものでしょう。
※言うは易しでそのためにどうすればいいかという技術論に踏み込むだけの知識は筆者にはありません。

この方法の場合はスタートもゆっくり出す必要がありますし、いいポジションを取ることも諦めなければいけませんので、必然的にレースにおける「敗戦のリスク」は高まります。

しかし、もしこのやり方で「暴走のリスク」を回避しながら馬に競馬の作法を身に着けさせ、暴走の発生する頻度そのものを下げることができれば、取れる戦法や脚質の幅は次第に広がっていくと予想されます。

実際に現3歳のマテンロウゲイルは最初の2戦は周囲に合わせて馬の後ろで競馬をすることに徹したため「追い込むも届かず」で連敗を喫しましたが、その後は暴走の気配も見せず、4走目の京成杯では積極的に先行する競馬さえできるまでに成長を見せてました。

同じく現3歳世代のべレシートやアランカールに騎乗した北村友一騎手が批判を受けながらも後方に構える競馬に徹したことは、重要なレースで勝利を逃した原因にもなりましたが、この2頭にしっかり競馬の基礎を与えたという点も見逃してはいけないと思います。


さて、上記の現3歳馬たちは比較的長めの距離から競走生活を始めているのに対して、場合によっては前進気勢が強いなどの理由で最初から短い距離のレースへの出走を余儀なくされることもあるでしょうが、そのケースについては福永厩舎のケールハイムの育成過程が参考になります。

ケールハイムはこれまで「1200m→1400m→1200m」の順でレースに出走しており、これだけ見るとエピファネイア産駒においては肉体的な適性にそぐわないご法度なレース選択のように思えます。

しかし、この3戦でいずれもケールハイムはスタート直後にアクセルを強く踏み込むようなことはせず「馬なり」でポジションを取っており、レースペース自体が速いので逃げて暴走という事態にも至っておらず、2戦目で早くも勝利を挙げています。

3戦目ではすでに前進気勢(かかり具合)自体がましになってきており、騎手も馬自身もアクセルを踏まずにレース後半まで我慢する競馬ができているように見えます。

もしケールハイムが前進気勢の強い状態のまま中距離レースに使われていれば、周囲のペースに合わせられずにかかってしまい、騎手もやむなく暴走逃げを選択せざるを得ないというケースも十分想定できましたが、あえて短い距離のレースで競馬を教えることによってそのリスクを軽減したのはさすが福永厩舎と思えるポイントでした。

将来的にはさらに距離を伸ばしてマイル程度の距離には対応してくる可能性もあり、前進気勢の高いエピファネイア産駒を「距離を伸ばすために短距離に出走させる育成方法」として興味深い事例だと思われます。

その他に同様の育成法の成功例としては1200mデビューから古馬になってヴィクトリアマイルを制したテンハッピーローズが挙げられるでしょう。ヤンキーバローズフェルミスフィアなども前進気勢を短距離路線でうまくコントロールできた例と見てもいいと思われます。

これらの馬たちは走法や馬体面から必ずしも「長距離適性」を秘めたタイプではないようにも思われますので、むしろ短距離路線からスタートしたことがうまく肉体的適性とかみ合った例かもしれません。

ケールハイムも母父はディープインパクトですから長めの距離への適正を有する可能性もないとは言えませんが、今後どの程度まで距離を伸ばしていけるかについては興味が尽きないところです。

その結果によっては、エピファネイア産駒特有の気性の難しさと肉体面の適性を調整する場合に「長い距離から距離短縮」ではなく、あえて「短い距離から距離延長」という育成方法によって対処される場合が増えてくるかもしれません。

※もちろん各牧場や厩舎においては様々なアプローチがとられているはずで、私が今回書いている程度のことは実践済みだと思われますが、さらに改善される余地はあるのではないかと思います。

逆転の発想で短い距離から伸ばせばいいのか!




エピファネイア産駒の古馬の成績低迷は改善可能?

さて、ここまで見てきたように、エピファネイア産駒が古馬になって出走平均距離が短くなるのは「距離短縮メソッド」の影響が大きいのではないかと予想されますが、それが適切でない対処法だとすれば、エピファネイア産駒の古馬成績の低迷と相関していると考えてもおかしくありません。

逆に先日の阪神大賞典で2着になったアクアヴァーナルのように、牝馬でありながら1600m以下には目もくれず、長距離血統の適性に合わせたレース選択によって能力が開花してくるケースが増えれば古馬成績は持ち直すでしょうし、エピファネイア産駒への見方も変化して来ると思います。

また、もともと短距離向きの前進気勢の強さを持っている場合でも「短距離から始める」タイプの育成法で、短い距離で経験を積ませながら将来的に「距離延長」に移行できれば、古馬になってから「距離短縮」を行うよりも競走馬として長くレースに出続けられる可能性は高まるでしょう。

さらに言えば、エピファネイア産駒の早熟性は気性面での旺盛なファイティングスピリット(闘争心というよりは競争心)に支えられている面が大きく、肉体的には決して早期に完成されているわけではないと思われます。

実際に初期の産駒の段階でも古馬になって体が完成してから重賞勝利する馬が相当数見られましたし、2歳重賞での成績がそれほどよくないこともエピファネイア産駒の肉体面での完成度の低さによると考えることもできます。

エピファネイア産駒最初の3世代の古馬重賞勝利
アリストテレス    AJCC          (4歳)  
イズジョーノキセキ  アイルランド府中牝馬S  (5歳)  
ジャスティンカフェ  エプソムC        (5歳)  
テンハッピーローズ  ヴィクトリアマイル     (6歳)  
セルバーグ      中京記念          (4歳)
エピファニー     小倉大賞典         (5歳)
ブローザホーン    日経新春杯                         (5歳)
           宝塚記念          (5歳)

イズジョーノキセキの主戦騎手が岩田康誠騎手であり、ブローザホーンジャスティンカフェの能力開花時の騎手が同じく岩田騎手や横山典弘騎手であったことは古馬での重賞勝利と無関係ではないでしょう。もちろん横山典弘騎手はダノンデサイルとの関係も見逃せませんし、肉体面での充実と同様に騎手の導きによる競馬スタイルの確立がこうした重賞勝利の背景にあることは間違いないと思います。

この他、3歳重賞勝利をしていたデアリングタクトやエフフォーリアも古馬になってからの不振の原因はかなり明確に故障によるものであって、無事であれば4歳以降も一定の成績を残しただろうと考えられます。

問題なのは、逆にどれだけのエピファネイア産駒が古馬になるまでに気性的問題や適性外のレース選択で能力を発揮できずに終わったかですが、これに関してはやり直しができないので正確なところは分かりません。

ただ、近年エピファネイア産駒のデビュー距離が伸びる傾向にあったり、ダートデビューの数が減ったりしていることから、能力が発揮できなくなる事態を防ぐためにより早い育成の段階からこれまでとは違うアプローチがとられているのだと推測されます。
※この点については以前少し調べてみたことがあるので以下の記事もご参考までに。

※上記の記事を書いたころはエピファネイア産駒を短い距離から使い始める育成法についてはかなり否定的でした。

そういったエピファネイア産駒の育成過程の変化が結果となって現れて来るのはまだこれからかもしれませんので、現3歳、4歳世代の古馬成績を注視していきたいと思います。

しかし、アプローチが変わってきているということは、裏を返せば、これまではうまくいっていなかった面があったことを物語っており、残念ながら十分に能力を出せないまま引退していったエピファネイア産駒が少なからずいたということにもなります。

もちろん産駒の育成方法はどの種牡馬においても日々改良や工夫がなされているとは思いますが、エピファネイア産駒においてはそれによる改善効果がまだまだ期待できるような気がしています。


さて、また根拠薄弱な内容を長々と書いてしまいましたが、お付き合いいただいた方には感謝申し上げます。

何とかエピファネイア産駒がもっといい成績を上げられぬものかと考えてはみるものの、なかなかいい答えはすぐには見つかりそうもありません。

昨今のシーザリオ系の大活躍を見れば、望みすぎかもしれませんが、もっと期待させてほしい、という思いもすぐには捨てられそうにありません。

シーザリオ系にも春の訪れ



それでは今回はこの辺で。

よろしければまた次回の記事でお会いしましょう。


お読みいただきありがとうございました



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