「プロテア」を探せ!
熱心に、というほどでもないのですが、長年にわたってぼつぼつ集めているものがあります。
それというのは、「プロテア」についての情報・・・
彼は又、この「屋根裏の散歩」を、いやが上にも興深くするために、先ず、身支度からして、さも本物の犯罪人らしく装うことを忘れませんでした。ピッタリ身についた、濃い茶色の毛織のシャツ、同じズボン下――なろうことなら、昔活動写真で見た、女賊プロテアの様に、真黒なシャツを着たかったのですけれど、生憎そんなものは持合せていないので、まあ我慢することにして――足袋を穿き、手袋をはめ――天井裏は、皆荒削りの木材ばかりで、指紋の残る心配などは殆どないのですが――そして手にはピストルが……欲しくても、それもないので、懐中電燈を持つことにしました。
この奇怪な五十男のうしろに、ひとりの美しい女が、またをひろげて仁王立ちになっていた。三葉三四郎が編纂した『世界映画史』の口絵写真にある、今から四十年まえに大人気を博した女賊映画の主人公プロテアのような姿の美女であった。
乱歩の比喩によく出てくる「女賊プロテア」・・・
なんだか彼女のことが気になりまして。
そういった訳で、こつこつとインターネット等に散らばる「プロテア」の欠片を集めてきました。
それが結構たまってきたので、ここにメモしておこうと思います。
そもそも、「プロテア」というのは、昔々の映画のタイトルです。
古い映画のことならこの御方。
淀川長治さんのエッセイにも出てきます。
これは女賊が黒タイツひとつで暗躍。ちょいと見ると、女の裸体が動き回っているかに見えて、これが人気。
淀川さんによると、明治末から大正初にかけて、悪漢が主役の連続活劇が大流行したのだそうです。
始まりは、フランス・エクレール社による「ジゴマ」(1911~)、続けて「プロテア」(1913)、同系列でフランス・ゴーモン社の「ファントマ」(1913)。
いずれもワルモノ(怪盗、スパイ)が活躍する物語ということで、風紀の乱れを恐れた当局によって一時上演中止にされたといいます。
乱歩の二十面相は、「怪盗ジゴマ」に影響を受けて生まれたというのは有名な話。実際、青年期の乱歩は、これらのピカレスク活劇に夢中になっていたようです。
乱歩が「プロテア」のファンだったから比喩に使った、というか、比喩に使えるほど皆が知っているキャラだったんでしょうね。
それくらい、大人気だったらしい「プロテア」。
映画に関する情報については、<映画の郷>というWEBサイトにとても詳しい解説があったので、貼っておきます。
↑↑↑ (画像をご覧ください)フランス映画だけに、一つ一つのシーンが絵葉書のように綺麗です。
そして、このサイト中でも紹介されていますが、現存するネガを繋ぎ合わせてデジタル化した修復版(無料公開)がこちら ↓↓↓
なんと、おうちで観られます。
それにしても、プロテアさんの全身タイツ姿が、なんと思い切ったことよ。
今見てもウワッと感じるので、当時は(特に日本では)、大騒ぎだったことでしょう。
「ルパン三世」の峰不二子、「キャッツアイ」の三姉妹、「バットマン」のキャットウーマン、「ヤッターマン」のドロンジョ様・・・辺りに影響を与えているのかな。
で、これを演じるのは、フランスの俳優、ジョゼット・アンドリオさん。
「ジゴマ」シリーズにも出ている方です。
(ちなみに、「プロテア」も「ジゴマ」もヴィクトラン・ジャッセ監督)
他にあまり出演作がなく、無声映画時代の俳優ということで、人物に関する情報はごくわずか。
やっと見つけた英語版ウィキ ↓↓↓
これは、劇中、悪さしすぎて指名手配されているプロテアさん。
凛々しいですね。

クールビューティーでありながら、アクションだってバリバリこなす。
当時の日本人が魅了されたのもわかります。
ところで、「プロテア」とはなんぞや?
フランス人の女の人の名前としてあまり聞いたことがない語感です。
ウィキによると、ヤマモガシ目ヤマモガシ科の植物とのこと。
プロテアの名は、ギリシャ神話に登場する、自分の意志でその姿を自由に変えられる神プロテウスに由来する。
・・・なるほど。
変装の名人であるという特徴が、そのまま名前になっている訳ですね。
あ、変装の名人って、さらっと書きましたが、プロテアがどのような人物なのか、まだ何も説明していませんでした。
大雑把にいうと、スパイ。
女賊という肩書(?)がついていますが、賊というよりもスパイといった方がいいかもしれません。
以下にご紹介するのは、国立国会図書館デジタルコレクションで見つけた映画「プロテア」のノベライズ「探偵活劇プロテア」(1916年)です。
(古い原本をスキャンしたもの)
これは、前述の映画を小説に書き起こしたものですが、文体のリズムとか古い言い回しに味があって、まるで活弁士の語りのようで愉快です。
その内容はというと・・・
メツセニヤ帝国の外務大臣に依頼され、ケルチヤ国とスラボ二ヤ国のマル秘条約草案を盗む女スパイ・プロテアの冒険奇譚。
とにかく、変装につぐ変装。男装もあります。
それから、催眠術をかけたり、放火したり、ライオンをてなずけたり、燃える橋を自転車でジャンプして飛び越えたりと、強い!
プロテアにはイールという子分がいて、図体でかいんですが、お転婆なお姉ちゃんに従順な弟という感じで、なんだか微笑ましいコンビです。
元が無声映画ということで所々盛った感じで書かれているものの、だいたい映画と同じ内容。
でも一点、気になる所があって、小説版には殺人シーンが出てくるんです。
その人になりすますために、大使夫人を絞殺してしまう。
プロテアに対して義賊的なイメージを持っていた私、このシーンに大ショック。
いくらなんでも罪もない人を殺すなんて。
小説の方を先に読んだので、一瞬、プロテアのことを嫌いになりそうでしたが、その後、映画を観た所、殺していないことが判明して一安心。
首を絞めたんじゃなくて、さるぐつわをかませて転がしただけでした。生きてます。大丈夫。
こんな感じで、小説版には勝手な改変があったりもしますが(おおらかな時代ですね)、言葉で補足してもらえるので、映画だけよりも内容が頭に入ってきやすいです。
これで一通り、プロテアのことがわかったような気がする、と思っていたのですが・・・
他にも何話か製作されているとの噂。
まだまだ、知らないことがあるようです。
そんな訳で、この先もゆるく、プロテア探しは続くのであります。
