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第010話 NVIDIAは何を変えたのか


NVIDIAは何を変えたのか

もともとゲーム機やパソコン向けの画像処理部品を作っていた会社が、いつのまにか世界の時価総額ランキングの頂点近くに立っていた。2024年には時価総額で世界首位となり、2025年には世界で初めて5兆ドルを突破した企業も現れている。ゲーム用の部品メーカーが、なぜここまでの存在になったのか。

ゲームの部品だったGPU

GPUはもともと、画面に映像を描画するための専用部品として発達してきた。その処理の仕組みは、多数の計算を同時並行で行う「並列計算」に長けている。この性質が、たまたま、あるいは必然的に、AIの学習という別の用途に合致することになる。

CUDAという見えない堀

その転換点をつくったのが、2006年に発表された「CUDA」というソフトウェア環境である。これによって、研究者や技術者は、画像処理の枠組みを介さずに、GPUを一般的な計算処理に直接使えるようになった。発表当初、この取り組みに懐疑的な声も多かったと伝えられている。

転機が訪れたのは2012年である。ある大学の研究チームが、画像認識の国際大会で、通常のパソコン向けGPUをわずか2枚使っただけのニューラルネットワークを発表し、それまでの認識精度を大きく上回る結果を出した。このモデルは、CUDAという環境なしには実現しなかったとされている。ニューラルネットワーク、大規模なデータ、そしてGPUの計算力という三つの要素が、この瞬間に初めて噛み合ったと見ることができる。CUDAの発表から、この転機までにはおよそ6年の時間差があった。

エコシステムの重力

CUDAが持つ本当の強さは、ハードウェアの性能だけではない。研究論文も、開発者向けのライブラリも、大学での教育も、長年CUDAを前提に積み重ねられてきた。この蓄積があるために、たとえ他社のGPUが性能面で並んだとしても、開発環境ごと移行することは容易ではない。開発者を惹きつけているのは製品そのものというより、その製品を取り巻く環境全体である。

こうしてこの企業は、データセンター向けAI半導体の市場でおよそ8割から9割という圧倒的なシェアを握るに至った。ある調査会社の集計では、データセンター向けGPUの出荷台数のうち、この企業のシェアは98%に達するというデータもある。

一社集中のリスク

この一社集中は、需要側であるAI企業や各国政府から見ると、大きなリスクとして映る。供給が一社に偏っていれば、価格や供給量の決定権もその一社に集中する。この懸念から、AI企業のあいだでは、自社専用の半導体を開発する動きが広がっている。クラウド企業各社が独自チップの開発に踏み出しているのは、この一極集中への備えだと見ることができる。

開発者の側から見ると

開発者の側から見ると、この環境は便利な道具であると同時に、気づけば出られなくなっていた部屋でもある。CUDAを前提に書かれたコードや、蓄積された知識やノウハウは、簡単には別の環境に移し替えられない。便利さが、そのまま依存の深さに転じている。

最も強い製品とは、性能で選ばれる製品ではない。それなしでは仕事が始まらない製品である——次回は、この半導体の最先端の製造そのものを一手に担う、TSMCという企業を見ていく。


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