魚に生まれなくてよかった
重箱の隅をほじくるような思考回路というのは、ほんとにどうでもいいようなことにも興味を示す。よく言えば研究心が旺盛、別の言いかたをすれば好奇心が旺盛というだけのことだが。
私は長い間、魚類の繁殖方法に関心を持ってきた。具体的には「放卵・放精」についてだ。そのようすがテレビで放映されたこともあるし、すでに知識がある人は多いと思うが、メスが水中に卵を放出し、オスがそれに精子をかけるという繁殖(受精)方法だ。
私は「オスとメスが交わるどころか触れることもないなんて、つまらないやり方だな」と思っていた。魚と人間を較べるのは不条理だが、そんな方法では素っ気なくてなんだか変だ。
この方法は「体外受精」と称され、ほとんどの魚種が該当する。ニシンやイワシ、タイ、サンマなどもこれに当たる。
放卵は、卵が熟すことによって意思とは無関係に、生理的に行なわれるはずだが、放精は明らかに放卵とは異なる。
卵が放出されるのを見たオスが自分の意思で行なうのか、意思ではなく、放卵を感じ取って本能的・生理的、つまり意思とは関係なく自動的に放精するのか、それは私にはわからない。
人間の私は、物理的な刺激なしに、意思だけで出すなんていうことはできない。タヌキやウサギ、チョウやトンボだってきっとそうだろう。
魚類の放精に愛情や性的快感などはないだろうと思う。ついでに、昆虫でも快感が伴うか知りたかったが、そんなことは何を調べても出ていないだろうと思って調べなかった。
いろいろ調べていくうちに、放卵・放精方式ではなくて交尾する魚がいたり、産む形態にしても、卵生、卵胎生、胎生があることがわかった。
ちなみに、交尾するのはエイやサメ、一部の硬骨魚だ。クジラも交尾するが、クジラは哺乳類だ。
交尾での受精により、卵で産むのが卵生。メスの体内で卵が孵化し、稚魚として産み出されるのが卵胎生。受精卵が体内で成長し、胎盤を通じて母体から栄養を受け取り、稚魚として産み出されるのが胎生だ。これらをひっくるめて「体内受精」という。
あまり場所を選ばず放出する放卵・放精方式と異なり、水底や岩などに産みつけるのが「沈着卵」(沈性卵)方式だ。卵の比重が重いため、浮遊しないで沈んでいく。オスが精子をかけるのは同じだ。
これに該当するのはカジカ類やハゼ類、アンコウ、メダカなどだ。メダカは水草などに卵を一粒ずつ産みつける。水槽などで目にした人もいるのではないだろうか。
単純だと思っていた魚類の繁殖方法もけっこう複雑ではないか。縄張りや巣を作ったりするものもいるし、産み出された卵や孵化した稚魚を守る魚もいる。守り育てるのも、オスだったりメスだったり、あるいは両方が共同でやったりする種類もある。
体色を変化させたり特別な動きをしたりして求愛行動をする魚もいる。
ところで、マグロも放卵・放精方式だが、マグロは眠っていても泳いでいなければならない。まるで居眠り運転だが、それはさておき、マグロは泳ぐことで口から海水を積極的に取り込んで呼吸する「ラム換水」という方法で呼吸しているからだ。
マグロはそんな状態で放卵や放精を行なわなければならない。よくそれで受精できるものだと感心するが、詳しいことは未解明のようだ。
放卵・放精方式にしろ沈着卵方式にしろ、オスはただ義務的に、感動も快感もなく精子を出すだけに違いない。ああ、魚に生まれなくてよかった。
