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現代おビョーキ大全[地方症]

 田舎に対して激しい憧憬を示す病気で、ほとんどが都市部で発症する。 かつては中高年層に多発していたが、近年では若年層にもおよんでいる。
 特に1980年代以降は驚異的な猛威をふるい、2020年代以降も、環境汚染や地球温暖化などが進む社会背景にあって増加傾向にある。
 なお、本事典全般に共通することだが、この大全で言うところの病気とは「おビョーキ」のことである。

【症状】

 身体的な症状はなく、精神面に現れる。一般的には自然への憧れや回帰願望、文明非難などに関連する言動である。

 初期症状としては、ハイキング、キャンプ、釣り、林道ドライブ、山菜採りなど、自然に触れることのできるレジャーに興味を示すようになる。
 アウトドア、動植物、田舎などに関する本を読んだり、産地直送をうたった広告に興味を示したりし、日常の会話にも田舎や自然に関する言葉が多くなる。

 やや症状が進むとアウトドア用品を買うなどの行動が目立つようになる。休日は田舎へ出かけ、山歩きをしたり山菜採りをしたりする。その際、「空気が澄んでいておいしい」「水が冷たくて気持ちいい」などという言葉を発するようになる。これらは典型的な特徴である。
 ここまでの段階ではまだ仮性であり、ほとんどの患者はこれに該当する。

 これより進むと真性となる。症状は重くなり、地方に住みたいと思うようになる。パートナーを説得したり、候補地や古民家をさがし始めたりする。
 以上のような症状が代表例であるが、仮性・真性を問わず、地方症候群と呼んでいる。

 なお、地方に生まれ育ち、一度も都会に住んだことがない人のなかにも患者はいるが、その場合は先天性であると同時に、環境がもともと地方であるため、正常な人との区別がつけにくい。
 ただし、自然破壊はいやだとか、死ぬまでここに住みたいなどということを口にするので、日頃から言動をよく観察していれば発見は可能である。

【原因】

 急激に進歩する文明が根本的かつ最大の原因である。具体的には、自然への回帰願望、郷愁、憧れ、文明アレルギー、倦怠などである。
 したがって、喧噪猥雑な都会に住む人のうち、地方に住んだ経験のある人や、地味な性格の人などが比較的罹患しやすい。
 また、年配者ほど罹患する傾向が強い。

 「日本の田舎を真剣に保存する会」の会長土井中守氏が「地方症の急増はマクロの視野で見れば自然の摂理であり、文明の進歩が引き起こした反動である」と指摘し、関係者の間に波紋を広げた。

【治療】

 仮性患者は、田舎の短所や都会の長所を再認識させることにより、治療可能である。また、田舎に行って虫に刺されたり不便な思いをしたり、あるいはバーやキャバレーがないなどの理由から田舎が嫌いになり、結果的に自然治癒することも多い。
 真性の場合は治療法はない。

 原因療法であるが、この病気を誘発する原因である都市化や自然破壊を排除することは無理であるから、原因療法は不可能。
 せいぜい、田舎の短所や都会の長所を患者に対して並べ立て、田舎嫌いにさせるくらいしか方法はない。

 また、「地方症患者は地方に身を置くことによって充足感を得、心身両面で健康を維持できるわけであるから治療しない方がいい」(トロント地方症患者の会顧問弁護士、イナカッテ・イージャン氏)という見解や、「地方症は病気ではなく、人間としてこれが正常である」(東京都立知報病院、井中智方院長)という意見もある。

【感染】

 感染するが感染力は極めて弱い。患者と日頃から交流があり、主義主張や性格が似ている人は感染しやすい。
 また、報道、テレビのドラマや特集番組、映画などから感染することもある。これらは接触感染の一種であるが、正式には感化感染と呼ばれる。

【予防】

 感染経路を遮断することは不可能であり、今後も永久に予防法は確立されないというのが学界の観測である。
 日頃からこまめに、田舎の短所や都会の魅力をアピールするくらいしか手段はないが、これとて仮性患者にのみ有効であるだけで、真性患者にとってはかえって進行を早めることになるおそれがある。






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